平成19年度世代間交流シンポジウムの内容
パネルディスカッション
地域で育む『子供の生きる力』
(パネリスト)
 赤迫 康代(岡山県NPO法人子ども達の環境を考えるひこうせん代表理事)
 阿部 和生(山形県戸沢村教育委員会教育長)
 門脇 厚司(筑波学院大学学長)
 豊重 哲郎(鹿児島県鹿屋市柳谷自治公民館館長)
(コーディネーター)
 好本 惠(アナウンサー)
好本 今日は、地域で子どもと関わる様々な活動をしている方々と、今の子どもたちに、地域の私たち大人ができることは一体どんなことかを探っていきたい。


様々な「広場」の開催を通じて

赤迫 自分の子どもの頃と今の子どもたちが育っている環境の違いについて不安に思い、平成13年夏に、同じような思いを持つ親たちが集まりひこうせんを発足した。
 最初に始めたことは、公園の広場、放課後の広場、音楽を通しての広場、田んぼでの活動、科学工作の広場など様々な「広場」を開催すること。いろいろな人が交わるきっかけをつくることが活動の始まりだった。会員は100名ぐらいだが、参加する会員ではなく、一緒につくっていく会員。「私はこれが得意だからこういうことをみんなとやってみたい」という気持ちを活かしながら、今も広場を運営し続けている。
 平成19年から、古民家を拠点に、1年間で延べ6000人の乳幼児の親子が訪れている。ノンプログラムが中心だが、「今日はプレママさんがたくさん来てます」「今日は相談ができます」「今日は身体測定ができます」など様々なメニューをつくり、またそれにも携わることができる「広場」だ。
 平成16年頃から、ネットワークづくりにも取り組んでいる。社会を変えていこうと思ったとき、一つの団体だけではできなくてもネットワークがあればという意味で力を入れている。


地域ぐるみで子どもを育てる地域通学合宿のすすめ

阿部 戸沢村の一番の特徴は、地域ぐるみで子どもを育てるという点だ。「子どもの社会力」を教育目標に掲げ、その中心となるのが地域と学校づくりだ。
 社会力を育む一番効果的な取り組みが、地域通学合宿。2泊3日から4泊5日で行なっている。その間、親と子どもが離れるので、わが子を見直すきっかけになる。
 この合宿のメーンは「もらい湯」。子育てを終えた方、独居老人、子どもと縁のない家庭にお風呂をもらいに行き、湯上がりに団らんしてくるというもの。地域の方々からは、「何でうちに来ないんだ」とお叱りを受けるほど、非常に懇願されている。
 もらい湯は、学区によっては、子どもたちが直接交渉し、もらい湯が終わってから、お菓子を作りそのお家にお礼に行くなど、すごい波及効果がある。7年前から始め、今、村内全域16か所で行なっている。


感動と感謝の地域再生

豊重 うちの集落のテーマは三つ。
 まず、生きた老人福祉。この地に住んで良かったというのが一つ。二つ目は、感動と感謝の地域再生。キーワードは「子ども」。三つ目が、文化向上を語れる地域再生。10年後、20年後の将来ビジョンがないといけないと、このテーマでスタートした。
 最初に手がけたのが、子ども。高校生がカライモ、サツマイモを生産販売して、売り上げで東京に行って、オリックスのイチローの野球を見に行かんかと呼びかけた。行政・補助金に頼らない地域再生をやろうと、空いている畑を活用して、高齢者も参加して活動が始まった。
 二つ目の感動は、都会に出ている孫や子どもから、父の日、母の日、敬老の日に、メッセージを送ってもらい、高校生がメッセンジャーとして有線放送で感動の放送を続けている。
 三つ目は、学ぶ喜びを解決してやることが、向学心を持っていない子たちに、集落ができる手伝いではないか。先生を公民館に呼び、学びの入り口を発見してもらう寺子屋を12年間やってきた。
 財源確保で今、年間に7〜800万円の売り上げがある。税金も納めているが、それでも、住民全員に感動の1万円ボーナスをやり、自治公民館費も7000円から4000円に減額している。


リーダーと財源は不可欠

好本 どうして700万円もの収入が得られるようになったのか。

豊重 「豊重の頃は良かった、でも交代したら元に戻った」では、仕掛け人失格。後継者育成、リーダー不可欠。これを解決するには、まず財源を持たないといけない。
 高齢者に命令はできないので、どうこちらを振り向かせるかだった。土台づくりに2年かけ、あっちを向いている人に感動を与え、「ああ、そうなんだ」と少しずつ分かってもらっていった。
 高齢者が畑に出て、植え方から教えてくれる。高齢者という生き字引が畑のど真ん中にいて、教育的コミュニティができる。フルネームと顔が一致する300人の集落からが教育の原点ということから、イモ植えに入った。


人は人の中で育っていこう

好本 そういう活動を通して、実際に子どもたちの社会力はどうか。

赤迫 「親」が大切なキーワード。家にはゲーム、コンピュータ、テレビなどがあり、お母さんたちは家の中で過ごせてしまう。誰かと一緒に何かをしなくても過ごせてしまう時間が日常的にあると、一人で暮らしていけるという感覚に陥ってしまい、そういう家族の中で過ごしていると、子どもたちにもその感覚が身についてしまう。
 実際に、グループの中で子育てをしていくのが苦手、集団の中に入るのが怖いというお母さんも増えている。だから、私たちは、機械や物で子どもを育てるのではなく、人は人の中で育っていこうというメッセージを送り続けている。
 自分のこととしてしっかり分かれば、お母さんたちもいろいろなことが分かってきて、人と一緒に何かをしたり関わることは、自分にとってプラスだ、楽しいという気持ちがわいてくる。それで、広場に足が向く。すると、昨日出会わなかった人と今日出会い、また違った刺激を受ける。その繰り返しの中で、親として自信を持ってやっていけるようになっていく。その積み重ねの中で、今度は、地域の一人としての力もつけている。最初は受け身だった親子も、段々主体的に広場をつくる側に回ってくれ、違う活動を自分たちでつくり出すようになってくる。支えらる側から支える側にという循環が生まれ、親子が幸せに暮らせる場をつくる側が増えてきている。
 親が人と一緒に何かをつくっていく姿を楽しそうに見せることが、子どもたちにも良い影響を与えている。


大人の社会力を高めるには

好本 会場から「子どもの社会力は親の社会力と連動すると思う。家庭や地域社会の機能が低下している中で、親の社会力を高めるにはどうする」という質問がある。

門脇 何かやってあげる、教えてあげるなど考える必要はない。大人として子どもの前に姿を現すだけで、子どものほうが大人に寄ってくる。大人と様々なことをやることで、子どもは学ぶべきものは学ぶ。とにかくどんどん子どもと仲良くする。仲良くなるだけで十分立派な教育効果はある。

阿部 3年かけて、学年ごとに地域共育カリキュラム創造委員会というのをつくり、子どもと教師、保護者、地域集団の方などが一緒に集まり、どんなことをやりたいか話し合った。すると子どもから、ツリーハウスを作りたいと意見が出た。木の間に板を渡してツリーテラスを作った。2年目は屋根をかけ、宿泊場所にしようとツリーハウス作りをした。こうしたことで、自分の思いが伝わる。表現力がつく。親との関係が良くなる。間違いなく子どもは変わる。まず親がどう行動するかにかかってくるのではないか。


同じ方向を向いて歩いていく大人に

門脇 「同行者」ということを言いたい。同行者には、二つの意味を込めている。一つは、同じ方向を向いて歩いていく。同じ目的を持って何かやる。もう一つは、同じ場所で同じことを行なう。親と子ども、先生と生徒、地域の大人と地域の子どもたちが、対面で教えるのではなく、同じ方向を向いて、横で会話をする。
 この大人もこの先生も、自分と同じ方向でやろうとしているということが分かると、子どもは素直に受けとめてくれる。教えてあげるんだ、言うことを聞け、こうしないとこうなるなどということだと、今の若い人たちは反発する。とにかく一緒にやるのが一番重要なことだ。
 だから、力のある先生をどんどん育て、教える時間を増やせば良くなるという簡単なことではない。むしろ同行者というスタンスが、今こそ大人と子ども、親とわが子、先生と生徒の間に必要なことだ。


行政とどう関わるか

好本 行政との関わりはどうか。

赤迫 行政の力を借りるのは必要だし、そのことで行政に今こういうことが必要だと知ってもらうことにもなるが、自力で運営費を稼ぐことも必要だと分かる。ここがなくなったら困ると、バザーや廃品回収をして、何とかみんなで運営していくんだという気持ちになってもらう必要もあるので、両輪だと思っている。

阿部 黒子に徹するということだ。以前は、いかに良い企画をと思ったが、それは思い上がり。やはり主役は住民で、どう側面から支援するか。特に資金面では、さりげなくいろいろなところから集めるなど。

好本 豊重さんは、あえて行政に頼らない。

豊重 「行政に頼らない」は嘘。自分たちで解決できるものは最小限自分たちでやろうということだ。行政が種をまき、後ろから支援する繰り返しが必要。行政の中に、リーダーシップをとる人材をつくるために故郷創世塾というのもやっている。


始めることが今求められている

好本 最後に、子どもの生きる力を地域で育むために、私たちにできることとしてのメッセージを。

赤迫 得意なことや好きなことを、何でもいいので、「何か私にできることはありますか」とどこかにメッセージを出すことから何か始まると思う。

阿部 次代を担う子どもたちをどう育てるかは、大人の責任。一人一人がどう行動すればいいかを考え、実践に移してほしい。

豊重 何といってもリーダー不可欠。どうぞ皆さん、リーダーに推薦、自薦してほしい。

門脇 私たち大人が何をするかが最後の決め手だ。田舎、大都会、どこに住んでいようと、今こそ自分ができることを、できるときに、できるやり方で始めること。「何をやったらいいのか」の前に始めることが今求められている。

好本 私たちにできることを一つでも見つけて、やり始めたいと思った。「羽包む」と書いても「はぐくむ」と読む。たくさんの羽で温かく次世代の子どもたちを包んでやりたいと強く思った。