「あした通信」194号掲載 |
ル ポ |
子ども、青年、壮年が中心になって活動をリードする |
静岡県沼津市 大岡コミュニティ推進委員会 |
自治会・町内会では、中学生、高校生、そして会社勤めの30代、40代の大人たちが地域の行事、活動に参加しないという話はよく聞かれるが、ここ静岡県沼津市にある大岡コミュニティ推進委員会(委員長・渡邉孝一さん)では、中・高校生の自主的グループを立ち上げたり、地域のイベントを開催するときに子どもに役割を持たせたり、さらには、地域活動に参加して欲しい青・壮年層の人たちの勤務先に地域活動に参加できるよう要請文を出すなど、きめこまかな工夫を凝らすなかで、地域活動への豊富な人材育成をはかっている。 予算書を作らなくちゃ 「予算書を出さないといけないの。ゆいちゃんたちは今度の日曜日に倉庫を掘りかえして在庫を確認して、わたしたちは会場の下見をしたあと合流するから」と高校生の山下さんが言い、テキパキとことが進んでいく。これは、大岡コミュニティ推進委員会が進めている大岡子どもリーダースクラブ(通称:OKLC)の定例会でのヒトコマである。 OKLCは大岡地区に住む中学生や高校生が中心メンバーとなって、子どもたちの自由な発想のもと活動しているグループ。平成6年に生まれた。活動としては、小学生の参加を得てのサマーキャンプやクリスマス会の開催などを行なっている。同委員会では、OKLCの地域での活動体験を通して、子どもたちの自主性が育まれ、最近少なくなっている異年齢間の交流が深まっていくことを期待している。そうしたことから、活動は子どもたちの自主性にまかせている。そして、地区センターの一角に、OKLC専用の倉庫を作るとか、この活動が学校のクラブ活動の一つとして認められるよう学校側に働きかけるなどの側面的な支援をしている。OKLCの運営は、メンバーである中・高校生が予算書づくりから、各種行事のプログラムづくりなどすべてを取り仕切っている。冒頭に紹介した定例会でも子どもたちだけで、今年の8月開催する予定のサマーキャンプの打ち合わせをし、キャンプ当日が晴れた場合のプログラム(ハレプロ)と雨の場合のプログラム(アメプロ)の二つについて話し合っていた。 OKLCのメンバーだけでなく、同委員会では、同委員会が主催する校区祭、月見ハイク、成人式などに中・高校生がその司会を務めるなど運営に積極的に関われるように仕向けている。さらに大岡地区は17の単位自治会で構成されているが、単位自治会では、防災訓練にも中・高校生の参加を得て、可搬ポンプの操作や救急介護の訓練をするなど、子どもたたちを単にお客様扱いするのではなく、役割を持たせ、地域の行事、活動に巻き込んでいる。 このように地域全体で子どもを育んでいくという姿勢、さらに言えば、地域活動の有力な構成メンバーとして、このような自主的な子どもたちの組織活動が活躍している背景には、子どもの問題に取り組んで20年にわたる大岡地区の活動の積み重ねがある。 教師、PTA、そして地域住民の3者で家庭訪問 この地区にコミュニティ推進委員会が立ち上がったのは昭和58年、今年で20周年を迎えるが、この発足のきっかけも子どもの健全育成が大きなねらいとしてあった。当時、大岡地区にある中学校・高校もご多分に漏れず荒れたという。そんな状態のとき、学校と家庭だけにまかせるのではなく、地域の住民が、学校、PTAと一緒になって子どもとともに積極的にかかわっていった。非行防止のキャンペーンや夜間のパトロールはもちろんのこと、問題児といわれる子どもに対しては、PTA、担任教師、それに地域の人が一緒になって家庭訪問をし、親や子どもたちを説得していった。こういった活動を数年続けるなかで、子どもは家庭、学校、地域が育てるという意識が醸成されていったという。そんななか、子どもたちのなかから「活動をしたい」という声が自然発生的にあがり、このOKLCの動きが自然発生的に生まれてきた。 人材確保のため企業に文書で依頼 前述したように大岡地区は、現在17の単位自治会が集まって大岡地区連合自治会を組織している。連合自治会の構成としては、会長と各単位自治会の会長だけの組織で、実質的な活動ができる組織にはなっていない。そこで、コミュニティ推進委員会が大岡地区のコミュニティ活動の実働部隊(同委員会事務局長の高橋秀則さんの言)の役割を担っている。そして、現在、消防防災部、環境美化部など10部の構成で活動を行なっているが、この活動の中心は、30代、40代の青・壮年層が担っている。地域の活動に青・壮年層が参加しないという悩みは多くの地域で聞かれること。この原因として、参加したくても仕事が忙しく参加できないという現実があるだろう。あわせてわざわざ会社を休んでまで「地域活動」に参加することが憚られる風潮があることもまた事実であろう。同委員会では、地域活動に参加したい人、あるいは同委員会が地域の人材として地域活動に引っ張り込みたい人がいる場合、その人の勤め先の所属長に文書で、あるいは、直接勤め先に出向き、その人が地域の行事などに参加することを依頼する。この方法は、会社の正規なルートに案外効果があるという。現在、同委員会の会長代行を務める田村洋祥さんは、「人材を得るためには、こういった心遣い、気配りが必要」と話す。 コミュニティ委員会が主催する校区成人式 もう一つ、面白い試みがこの地区では続いている。それはこのコミュニティ推進委員会が主催する成人式。成人式というと、市町村が主催するのが一般的だが、沼津市では各校区ごとに成人式が行なわれている。この校区成人式を最初にはじめたのが大岡地区。大岡地区のこの動きが市全域に広がり、校区ごとの成人式が沼津市では、平成元年から行なわれ定着している。 大岡地区の成人式の会場は大岡中学校の体育館、式典やアトラクションとともに、中学卒業時の担任教師も参加してクラスごとに記念撮影を行なう。開催日は、毎年日曜日ではなく土曜日と決まっている。これは、東京などに下宿している新成人も数多く、クラスメイトと十分旧交を温める時間的な余裕を与えようという主催者側の心遣い、気配りといえよう。そんなことから成人式の出席率は毎年、80〜90%の高率を示すという。 田村さんは「僕の仕事は、こういった対外的な交渉ごとや裏方の仕事が大半ですよ」と笑いながら言い、続けて「地域づくりには気配り、そして工夫が必要」と強調とする。大岡地区では、子ども、青・壮年の参加を得て、たしかなあゆみを続けている。 |