「あしたのまち・くらしづくり2006」掲載
<子育て支援活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣官房長官賞

地域の子育て支援ネットワークづくり
愛知県名古屋市天白区 子どもが育つまち天白 天白子ネット
はじめに

 昨今は様々な子育て支援策が行政・民間問わず行なわれています。しかし子育ての当事者にとっては、いつ、どこで、誰が、何をやっているのか、誰に相談すればよいか、どこに行き場があるのか分からない、という状態が続いているようです。また支援者も、地域にどんな団体があるのかも分からない、あっても互いに顔を知らない、という状況です。行政機関も、親子へのきめ細かい対応をするには地域住民や市民団体の協力が不可欠と感じながらも、どこにどうやってアプローチすればよいか手探りのようです。「地域の子育て支援が重要」といっても地域内の横の連携がとれておらず、従って親子も断片的な情報しか入手できないという状態なのです。
 そのような問題意識から、子育て支援のネットワークを身近な地域で作る、行政も市民も協力していく、という考えが広がっています。天白子ネットも「地域のつながり」こそ子育て環境の向上のために必要だと思い、「つなぐ」ための様々な活動を5年前から行なっています。


活動の対象

 「天白子ネット」は名古屋市天白区内で、乳幼児とその親を主な対象にした活動を行なっているサークルや各種団体、個人、専門家らが集まって、行政機関とも結びつきを深め、子育てしやすいまちを目指して2001年より活動している市民のグループです。現在の会員数は約70、子育てサークル、幼児教室、子ども文庫、託児グループ、障害児団体などの市民グループ、さらに幼児教育等の専門家らが入っています。また区内の行政機関(保健所、区役所、児童館、生涯学習センター、図書館等)や社会福祉協議会、学区の主任児童委員とも結びつきを持っています。官も民も親子も誰でも手をつなごう、という目的で活動しているのです。


主な活動

(1)「伝える」情報発信
 地域の子育て情報を集め、発信しています。市民グループが行なうことにより、行政情報も民間の情報もまとめて発信することができます。
・子育て情報紙「PAKUっ子」 月刊、3300部発行、区内外180か所に無料配布
・冊子「天白区 子どもに関するグループ紹介」 年刊、150部発行、今年で第6版
・ホームページ 「PAKUっ子」「グループ紹介」も閲覧可能。モバイル対応型にして、いつどこで誰が何をやっているか、検索可能にしている
 月刊「天白子育て情報通信PAKUっ子」は表面に「子育てのヒント」「イベント情報」「グループの紹介」などを掲載しています。裏面には、その月のカレンダーを掲載し「この日、ここで、この人が、これをやっている・そこに行けば誰かに会える」という情報がひとめで分かるようにしています。創刊は2001年7月ですが、2年前から天白区社会福祉協議会と共同発行となりました。現在通算65号を発行中です。「PAKUっ子」が毎月の「フロー」の情報とすれば、「天白区 子どもに関するグループ紹介」冊子は、各団体の活動を紹介した「ストック」の情報です。今年で第6版となり、グループ82団体、行政関連20事業を掲載しています。これらの情報はホームページでも公開しており、問い合わせにも対応しています。

(2)「出会う」交流
 情報を発信するだけでは、親子と支援者がどうつながったかが分かりません。そこで実際の出会いの場をつくっています。天白区は転入者が多いので、初めての土地で子育てをする親子が、地域につながる最初のアクセスポイントを作ります。
・子育てサロン「にこにこ広場」 月1回、予約不要、無料、OKハウスにて
・イベント「天白おやこ子育て広場」年2回、社会福祉協議会と共催
 「にこにこ広場」は予約不要、登録不要、いつ来てもいつ帰ってもよい気軽な「たまり場」となっています。サークルや教室に入る前に、「最初にとりあえず行ってみる場所」として機能しています。子ネットスタッフが所有する「OKハウス」(集会所として地域のグループに貸している小屋)を会場にしています。
 親子は「にこにこ広場」に来て、様々な情報を入手し、次に自分にあった「次の居場所」を見つけます。この「次の居場所=団体やサークル」の活動を実際に紹介し、親子と支援者をつなげる機会として、イベント「天白おやこ子育て広場」を年2回開催しています。天白スポーツセンターの体育館を利用し、親子体操や歌のプログラムを楽しんだり、団体ブースの趣向を凝らした展示を楽しんだりします。2月に行った際は、450組もの親子が参加しました。

(3)「つなぐ」ネットワーク
 1、2であげたような活動を通じ、基本的な情報ネットワークができつつあります。
<親子と団体をつなぐ>
 親子がどのようにネットワークを利用しているかという実例を挙げてみます。
 転入手続きで区役所を訪れた際に「PAKUっ子」を入手します。「天白には子連れで出かけられるところがこんなにあるんだ」とこの土地で子育てしていくことへの安心感を得ます。次に「にこにこ広場」に参加し、同じような年ごろの親子に出会います。またグループ紹介冊子を見て、「自分の条件にあいそうなところ」を探します。「自然と触れ合える」とか「子どもだけの幼児教室」とか「◎◎町の辺りのサークル」という要望については、スタッフがいくつかのグループ等を紹介します。親子は次にはそこに見学に出かけ、自分たちの居場所を見つけるわけです。
 親子が最終的に自分の居場所と感じるのは各サークルなどです。その活動を子ネットの媒体で親子に伝えているのです。こんな活動がある、という選択肢を様々に示すことができるのが、天白のネットワークの強みだと思っています。
<団体同士をつなぐ>
 支援団体同士が情報交換する中で互いに課題を出し合い、それにどう対処していくのかを探るため、学習会や会議を持っています。顔を合わせ、互いの得意分野や知恵を出し合い、課題解決の糸口を見つけ、次に何をするか考えを共有していきます。
 昨年秋には、連続学習会「地域でささえあう子育て〜さまざまな子どもたちへの理解を深める〜」を実施しました。サークルや幼児教室等の2、3歳くらいの子どもの集団の中で、気になる子ども(発達障害のボーダー上にいると思われる子ども)に気づいた際にどのような支援をしたらよいのか、発達心理学の専門家や、区内の障害児の親の会、保育園園長、ボーダー上の子どもと親のサークルのリーダー、保健師らを講師に招き学習しました。障害という「診断」や「療育」は地域と離れた場所で行なわれることが多いです。しかし親子の生活圏はやはり「地域」です。地域のどのような活動につなげばよいのか、どういうサポートができるのかを話し合う機会となりました。
<行政機関とつながる>
 ネットワークを考える上で重要なのが、行政機関との連携です。昨年策定された名古屋市の次世代育成行動計画では「身近な地域でのネットワークづくり」が大きな柱となっています。天白での取り組みがどのような成果をあげているのか、様々な機会に話題提供をしています。また、天白区の「天白区子育て支援機関連絡会議」にも参加し、公的機関と定期的に意見交換をしています。
 ここまでの活動を表にまとめると、下記のようになります。

子ネットの活動 親子の対応 団体の対応 行政の対応
情報/PAKUっ子 情報入手(フロー) 情報掲載 情報掲載、配布協力
交流/にこにこ広場 他の親子との出会い
先輩ママとの出会い
生の情報交換
ちらし配布やポスター掲示 行政事業のちらし提供
イベント/天白おやこ子育て広場 活動体験
出会い
活動紹介 事業紹介
グループ紹介冊子 情報入手(ストック) 情報掲載(通年) 事業情報掲載(通年)
市民活動の把握
ホームページ アクセスポイント
個別問い合わせ可能
情報掲載 リンク
活動の効果 居場所を見つける 活動を続ける 親子に伝える
ネットワーク
情報がきちんと届く ネットワークになる 広く手を結ぶ


活動の担い手~子育て支援者として、地域住民として

 運営スタッフは、天白で実際に子育てしてきた、もしくは子育て真っ最中の母親たちです。それぞれが見知らぬ土地に転入して子どもを育てる苦労を経験しているので、情報の必要性や横の連携の重要性を身にしみて分かっています。また生活の中で、PTAや自治会等といった地域の組織にも関わったり、子ネット以外の活動も行なっています。スタッフそれぞれが地域に密着し、様々な分野に関わる「つながり」を持っています。この「地縁」「視野の広さ」がネットワークに奥行きを与えています。それぞれが、それぞれの地域でつながりを持ち、それを子育て支援の活動に反映させ、それをネットワークにも生かしていく。地域住民がネットワークを担うメリットが、ここにあると考えています。


まとめ

 「子どもが育つまち」を考えることは、地域全体の住み心地をよくしていく、地域のつながりを再生していく第一歩にもなります。天白子ネットは、情報発信/交流という具体的な活動をてがかりに「ネットワーク」を紡ぎだし「子育てしやすいまちづくり」を目指して、これからも様々な人と手をつなぎながら活動していきたいと考えています。ここで子育てをした親、ここで育った子どもたちが、それはとりもなおさず自分たち自身であり自分の子どもたちのことでもあるのですが、「天白で子育てできてよかった」「天白で過ごした子ども時代が楽しかった」と振り返り、ここを「ふるさと」と感じてくれたなら、それが何より嬉しいと思っています。