「あしたのまち・くらしづくり2006」掲載
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

劇団『木ごころ一座』と町づくり
福井県福井市 美山木ごころ一座
木ごころ文化ホールの建設と劇団結成

 平成9年、人口5000人余の小さな山の町美山町に、キャパ510人の文化ホールができた。そのこけら落としに町民劇団を作って、芝居をやろうということが話し合われ、できたのが、『木ごころ一座』である。
 私は若いころから民話の収集をしていたので、「美山生まれの民話劇を、美山の劇場で、美山の劇団が」というキャッチフレーズで民話劇を上演することに決定した。団員をどう集めるかが話し合われ、私が手書きの広報紙『木ごころ』を毎週発行し(第1号は5月20日発行)、全世帯に配布し町民に呼びかけたところ、7月15日の初顔合わせまでに67名もの応募があった。小学生25名、中学生4名、高校生2名、一般36名である。そのうち親子組みが11組もあった。


演出家の思想

 演出家として、東京で20年間俳優修行をして、福井に帰郷し文化活動をしている今成友見氏、舞台監督に福井テレビの矢納正人氏をお願いし、さらに、今成氏の友人で、テレビ「まんが日本昔話」で活躍中の俳優常田富士男氏に特別出演してもらうことも決まった。
 初顔合わせの席上、子どもたちは「主役をやりたい、長いセリフのある役をやりたい、面白い役をやりたい、かわいい役をやりたい」等々様々な思いを出した。今成さんは「主役とは自分に与えられた役になりきること、お芝居づくりは、団員が力をあわせ、自分の長所も短所もすべてを出し切って、一緒に汗をかき、苦労し、笑って頂上に行き着く登山と同じです」と説明した。
 演出家今成氏の指導は単なる演技指導ではなく、人間開放であった。今を生きる大切さを教えた。全身全霊で立ち向かうことが、自分の主役になることだと指導した。真剣な演技には失敗がない。たとえ失敗しても、一生懸命の結果だから失敗ではない。子どもたちは安心して自分を出し切った。


子どもたちの変容

 こけら落とし公演の演目は「木ごころチャチャチャ」。美山の民話三つをつなぎ、美山の四季を織り込んだ楽しく温かみのある舞台になった。フィナーレーは客席と舞台が混然一体となって、オリジナルの木ごころ一座音頭「木ごころチャチャチャ」をキャスト・スタッフ70余名とともに歌い踊った。(この木ごころ一座音頭は毎年の公演の最後を飾る定例行事として定着している)510席の定員をはるかにオーバーして630余人の観客の盛大な拍手と花束のラッシュにカーテンコールは涙、涙の連続。かつて経験したことのない大きな感動と胸の高鳴りを覚えた。木ごころ一座の活動は、マスコミ各社も大きく取り上げ、町内外に強烈なインパクトを与え、団員ばかりか美山町民にも大きな自信になった。
 旗揚げ公演を成功させた子どもたちは、大きく変容した。それは、学校でも家庭でも味わえない心の琴線に触れる素敵な感動体験だったのだ。のびのびと自分の個性や力を発揮できる場であった。子どもたちは生き生きとして、学校や家庭での姿とは一変した。5、6人いた団員の教師たちも、あの子があんなに素晴らしいとはと驚き、両親たちもうちの子にこんな力があったかと、わが子の舞台に瞠目したのである。子どもたちが変わった。いや、変わったというより子どもたちが本来あるべき姿を取り戻したというべきかも知れない。


木ごころ一座の遊び心

 町づくりも芝居も基本的には楽しくなければならない。遊び心が底流に流れていることが必要だ。私たちの遊び心が端的に出ているのが、チケット(入場券)である。これまで、檜のチケット・天然記念物のタロヨウの葉を使ったチケット・シルクに草木染したもの・牛乳パックで紙漉きしたもの・透明なチケット・刺繍したもの等々、苦労し時間をかけながらも、楽しみながら続けてきた。


木ごころ一座10年の歩み

 本年、一座は10周年を迎える。現在10周年記念文集の発行と第10回記念公演の脚本作りに取り組んでいる。私たちは第5回公演から、座員が脚本も演出も担当できるようになり、民話劇を中心に公演を続けてきた。しかし、第1回公演の今成氏の演出方針や子どもの見方は今も生かされている。本年は福井市に合併して初めての公演でもあるので、さらに10年先を目指してがんばりたいと誓い合っている。


遊び心が高じて町づくりへ

 劇団の遊び心が高じて、様々な町づくりのグループやイベントが誕生した。その中心は木ごころ一座のスタッフで、それぞれのグループには3~5人の劇団以外の人たちが加わっていった。

★劇団「ババーズ」
 平均年齢72歳の老人劇団。蔵作という48軒の小さな山の集落に平成14年に結成された。団員は17名(結成当時は22名)。毎年民話を題材に30分程度の喜劇を演じ、引っ張りだこの盛況である。蔵作は平成16年8月の福井豪雨で甚大な被害を受けたが、どん底から立ち上がり、公演を続けている。平成17年には愛・地球博福井県の日の出演を初め、県外4回、県内では30回に及ぶ公演をこなしている。アドリブがどんどん飛び出す演技で笑いを誘い観客に喜ばれているが、団員自身も元気をもらい、5年前と比べて、声が大きくなり、記憶力もよくなり、病気が治ってきた団員もいる。

★豊田三郎画伯と美山ふるさとスケッチ大賞
 98歳の現役の画家豊田三郎は、美山の宝である。50数か国の様々の海外展覧会に出品して各種の大賞を受賞しているこの画家を、私たちは美山の文化の核として、「黎明会」というファンクラブを作り、画伯を支えている。そのひとつが「美山ふるさとスケッチ大賞」で県下各地から美山町へ写生に来てもらい、画伯の指導を受けながら、美山の美しい風景を作品化し、大展覧会を開催している。今年はもう7回目になり、今は行政が主管するようになった。さらに、画伯の「折々放談」という随筆集や「豊田三郎画集」、名作絵葉書も製作発行している。また、地元の温泉「みらくる亭」で何回も画伯の個展も開催し観光客の誘致にも寄与している。

★地酒「黎明」づくり
 4年前になるが、スタッフの新年会で話題になり、もうその4月には酒米の籾種を注文し、田植えをして翌年2月には新酒を作ってしまった。酒米の銘柄も「美山錦」。これを美山の山間部で作り、水は足羽川の源流の霊水を大きなタンクで福井市にある酒造会社に持って行き醸造する。その名も豊田画伯の出世作「黎明」の絵柄をラベルにして「美山の地酒 黎明」という純米酒を作った。町民からも美山の特産品を作ってくれたと評判が高い。さらに、酒を造るだけでなく、これを利用した各種のイベントも実行している。「初絞りの儀」「福井の奥座敷 川床 杉床」等である。後者は京都研修旅行で体験した鴨川の川床を真似たものであるが、美山の独自性を発揮できた。

★伊自良祭り
 岐阜県伊自良村から渡ってきた豪族の遺跡が美山町にある。室町前期のころ。その歴史を生かした上味見地区のイベントが伊自良祭りである。もう6回目を迎える。伊自良氏の各人物を生かした寸劇があり、地区の名産赤かぶ・そば・焼芋・そばクッキー・牡丹鍋等の食も生かした楽しいイベントになっている。

★美山まちづくりNPO
 NPOが法人化されてまだ1年程度だが、それ以前は「みやま未来塾」と銘打って5年前からまちづくりの勉強会を続けてきた。今まで、美山町の宝であるおろしそば・車屋太鼓道場・豊田三郎ギャラリー・美山の名産の赤かぶ、そばクッキー、パールマッシュ・地酒黎明・劇団ババーズ等がネットワークされていなかった。今年はこれら宝が連携し、地元の森林温泉みらくる亭と結びつけた観光バスツアーを計画してはどうか、ということになり、NPOがその中心になっている。ついに、9月10日「美山わくわく体験バスツアー」と銘打って実現させた。50人乗りの観光バスが満杯で、終了後のアンケートで、参加者たちの満足した様子がよく分かった。私たちは、美山のよさを存分に味わってもらうため、さらに来年は飛躍した計画を実施しようと張り切っている。

★その他
 文芸誌「でんぼろ」、美山コカリナ隊「ピコ」、若者劇団「夢紡」等は省略。