「あしたのまち・くらしづくり2006」掲載
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

地域の個性ある歴史や伝統・生活文化を活かしたまちづくり―スクラップ・アンド・ビルドからストック・アンド・クリエイトへ―
群馬県前橋市 特定非営利活動法人街・建築・文化再生集団
特定非営利活動法人 街・建築・文化再生集団(略称RAC)設立の趣旨

 私たちは、個人やグループで歴史的建造物を中心に調査、研究を行なってきた。しかしこのことは、同時に、それらが調査の最中に消えていくのを目の当たりにすることでもあった。調査・研究は、歴史的建造物を残すために必要不可欠であっても、本物を残すための直接的な行為ではない。私たちは、力の限界を感じるとともに、いかにしたら伝統的文化、祖先の知恵の結晶である歴史的建造物等を次の世代へ望ましい形で残し継承できるかを思い悩んでいた。この状況の中で特定非営利活動促進法の成立をみた。

 私たちの住んでいる街や村は、重要伝統的建造物群保存地区と違って、歴史的建造物が集合して景観を形作っているわけではなく、現代の街並や田畑を開発した分譲地の中に辛うじて点在している状態である。このまま放って置くと、近い将来私たちの廻りから歴史的景観や建造物は全て失ってしまう。壊してしまえば、二度と再現できないものばかりである。

 私たちが考えている歴史的建造物や景観とは、文化財に指定されるような建造物だけではなく長屋、戦後のバラックや戦災復興住宅、ガキ大将が飛び回っている路地裏など昭和30年代の市民の生活文化が染みついているものまで含まれている。言い換えれば市民の身近にある生活文化そのものである。地域の伝統文化や祖先の知恵、隣近所の付き合いや時には喧噪の中に、現代の私たちが捨て去った大事なものが埋め込まれていると考えている。

 近年、重要伝統的建造物群保存地区やその他の地区で、行政と市民、あるいは市民主体の歴史的景観や建造物の保存・活用の事例、街の活性化の拠点として歴史的建造物を再生し、取り入れる例も見受けられるようになってきた。また、循環型社会や高齢社会を目の当たりにして、スクラップ・アンド・ビルドを基本とした都市計画や土地区画整理事業が生み出す、全国均質で画一的なまちづくりを見直し、行政主体のまちづくりから住民主体の地域の歴史や伝統・個性を生かしたまちづくりが叫ばれるようになってきた。

 私たち(以降RAC)は、新たに芽生えてきた市民の視点で歴史建造物や景観等の保存、再生及び活用の提案を通じて、市民にやさしく、住みやすい新たなまちづくりの運動を展開するとともに、次の世代に、祖先の残した文化を正確に引き継ぐ役割を担うことを決意し、平成11年4月、特定非営利活動法人を設立するに至った。RACの活動は、その地域コミュニティを市民の力で再生することを目指している。

 NPOの使命は、市民による政策提言を行なうことだと認識している。RACの活動は、拠点を中心として、活動・情報発信をしていくことでなく、様々な地域の住民とその地域固有のまちづくりを展開していくことにある。あくまでも主役は、地域住民であり、RACの存在理由は、いかに地域のまちづくりに協力できるか、地域住民とともに作り上げた提言を市民や行政に提示し、新しい市民主体のまちづくりを推進する力になれるか、にあると考える。

 RACの特定非営利活動に係る主な事業として、
①街並・集落・建物等の調査、保全及び活用計画等の作成
②登録文化財の国、県及び市町村への推薦
③文化財建造物等の調査、復元、再生及び活用計画等の立案
④建築における伝統技法の研究
⑤史跡等の保存整備及び活用計画の立案
⑥高齢者や障害者に優しいまちづくりや環境整備の提案
⑦グループホームや福祉施設等の研究、施設計画立案
⑧研究成果の刊行
⑨研究会、公開シンポジウム等の開催、研修会及び旅行の実施
⑩文献、資料の収集
⑪文化財建造物等の所有者に対する再生、活用等の相談窓口の開設
⑫農山村の衣食住や生産活動における伝統文化の体験学習
⑬まちの中から欠陥建物をなくす運動
⑭災害時における建築物等の応急危険度判定調査への派遣
⑮会報の発行
⑯特定非営利活動を行なう団体の運営または活動に関する助言または援助の活動
 等がある。これらの活動の積み重ねが市民によるまちづくりの実践であり、市民社会形成のための足がかりと考えている。


活動の経緯

 RAC設立と同時に、いくつかの解体される建物の調査や活用提案、町並み調査や登録文化財調査と持ち主に代わって市町村への申請等の活動を始める。6月には日本ナショナルトラストの米山淳一氏、日本NPOセンターの山岡義典氏をお招きして設立記念集会を開催し私たちの目指す方向をアピールした。平成11年末には高崎市都市計画課景観係に提案していた歴史的景観重要建築物(築後50年以上経過した建物)の悉皆調査が委託事業(平成12年度終了、約1万棟の確認調査をした)として発注された。以降この事業は、倉賀野地区等の市民主体のまちづくり活動として、RACの自主事業の一環で続けられた。平成12年度は高崎市とともに伊勢崎市からも「例幣使街道歴史のまちづくり事業」が、また、年度末には黒羽根内科医院旧館移築に関する調査(委託事業名・黒羽根内科医院移転物件調査業務委託)委託が発注された。黒羽根医院旧館は、その後の平成14年度市民による曳き家移転イベントに繋がった。


活動の内容と成果

(1)まちづくりの活用に資する建造物等の基礎データ収集のための調査
委託事業

・高崎市「歴史的景観重要建築物等調査」高崎市全域の悉皆調査 平成11年度~16年度
・伊勢崎市「例幣使街道歴史のまちづくり事業」 平成12年~13年
・玉村町「玉村町歴史資産基礎調査委託」 平成14年
・昭和村「社寺調査」 平成14年~15年
自主事業
・松井田町・南牧村他10市町村 平成11年~14年
・歴史的建造物をコレクティブハウス等に再生・利活用するための資産分布調査

(2)地域のまちづくり提案作成
委託事業

・高崎市倉賀野町・常盤町・歌川町・赤坂町・本町 平成12年~16年

(3)まちづくりの拠点としての歴史的建造物の調査・活用計画・修復工事実施設計
委託事業

・群馬県「旧秋元別邸補修計画策定及び実施設計・設計監理」 平成12年~15年
・高崎市「上豊岡の茶屋本陣活用基本計画策定業務」 平成12年~14年
・高崎市「景観重要建築物調査委託」10棟 平成12年~16年
・伊勢崎市「黒羽根内科医院旧館建物詳細調査委託」他 平成12年~14年
自主事業
・登録文化財調査及び申請書類作成 群馬県32件、栃木県1件 平成11年~17年

(4)まちづくりの啓発活動(シンポジウム・報告会・座談会・研修会・講座等)
委託事業

・群馬県「群馬県地域環境学習推進事業」 県内20か所 平成12年~16年
・群馬県「地域づくりオープンカレッジ事業」 平成14年
自主事業
・街角探検隊(県内市町村約30か所)・見学会 平成11年~17年
・研究集会(松井田町・高崎市・吉井町・前橋市・南牧村・下仁田町) 平成11年~17年
・会報「レスタウロ」の発行 平成11年~17年
・茶話会の開催 平成13年~14年
・清水襄写真展の開催 平成11年~14年

(5)研究助成事業
・大成建設自然・歴史環境基金「埋もれた伝統的建造物や町並みを調査。再生・活用により地域の独自性を備えたまちづくりの提案の基礎を構築」 平成11年
・大成建設自然・歴史環境基金「伊勢崎市黒羽根内科医院旧館の市民参加による移転・改修」 平成14年
・H&C財団「住まいとコミュニティづくり活動」 平成15年
・H&C財団「住まい・まちづくり活動団体の実践的な取組みの支援・倉賀野」 平成16年
・トヨタ財団「近代化とくらしの再発見―昭和村」 平成16年~17年

(6)その他
・旧井上房一郎邸の保存基金の設立 平成14年
・高崎市やるベンチャーウィーク(倉賀野中学校他) 平成12年~16年


これからのRAC

 RACのフィールドの中心は群馬県であるが、活動を県内に限定しているわけではない。会員は、九州から東北まで分布している。将来は、地域に根ざしたまちづくり活動と地域を越えた研究やサポート活動の分野に分かれる方向を考えている。また、トラスト活動による拠点の自主運営、さらには市民による政策提言をしていきたい。まだまだRACは、歩き始めたばかりである。英国のシビックトラストを目指して、先は長い遙か彼方である。