「あしたのまち・くらしづくり2006」掲載 |
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
ならのまちやで育む子どもの豊かな心 |
奈良県奈良市 特定非営利活動法人宙塾 |
宙(おおぞら)塾は、奈良の子どもの居場所づくりを使命とする特定非営利活動法人です。地域力を生かして、情緒豊かな健全な人材の育成を目指しています。 子どもたちの笑顔の奥 NPO法人・宙塾に集まってくる子どもたちは小学生から大学生までいて、幅広い年代の子がそれぞれの持ち分を発揮して活動しています。この宙塾では、子どもが子どもらしく、のびのびと行動しています。しかし。一人ひとりに、学校に行かれなかった時期や転校して地域で疎外感を感じていた頃など、今の明るい表情からは想像できない苦難の日々があったことを聞かされています。宙塾の門戸は、誰でも入りやすいような温かい空気に包まれています、そして、子どもをできる存在として認め、一緒に行動する塾長の思いが、悩みを抱えながら入ってきた子どもたちに自信を復活させます。「悲しい」とか「寂しい」といった経験を乗り越えた分だけ、もっと周りを思いやれる人として成長できるのかと、大きくなって指導者として活動する大学生を見ると分かります。 保護者の不安を受け止める場 夕方になると「先生、ウノしよう」と下校してきた子どもたちが宙塾にやってきます。子どもの安心・安全が確保されない今の社会で、学校にいない時の子どもたちがいきいきと過ごせる場所は貴重です。宙塾では、大学生が小学生の読み書きをサポートする教室や読み聞かせを実施しています。この小学1・2年生のくったくのない笑顔は塾の宝物です。 そして、子どもたちの保護者もやってきて、子育ての悩みや日常の暮らしの中で感じた子どもの成長をおしゃべりします。その会話を聞いていると、一見元気なお母さんでも、実はたくさんの不安やストレスをかかえていることに驚きます。在日外国人の心の鬱積が吐き出されることもあり、塾長とボランティアスタッフで親との交流も大切にしています。いつでも塾の扉を開ければ、子どもも大人も受け止めてもらえる空間が広がっているように。 まちやは寒くて暑いけど千客万来 塾はならまちと呼ばれる奈良の町中にあって、ガラガラと戸を開けたら、家の中に土間が広がっています。老朽化で畳は抜けそうで、隙間風がピュウピュウ入ってきます。冬は外より寒く、夏は網戸がなくて虫が集まってきます。でも、人もどんどん寄ってきます。団塊の世代の人が自分の専門を生かして理科実験に関わったり、子どもと昔遊びをしたり、楽しそうに一役買ってくれるのも、この宙塾の特徴です。地域の人や他の団体との絆がひろがり、それぞれが協力の手を差し延べてくれます。この豊富な人材が宙塾を支えてくれています。普段、学校ではできない学びの場を提供してくれます。 その成果が、1年間を通して行なわれる森林ボランテイアや農作業、キャンプ、郷土料理、能楽・一刀彫りなどの体験教室です。その分野のプロが指導する「ほんもの」ならではの緊張感に、子どもたちもいつもとは違う空気を感じています。真摯に郷土の文化の奥深さを学んで、人と調和する心を体得します。和文化に触れ、自分で興味を抱いた道に入っていく子もいます。また、大人が発見することも多く、貴重な親子体験の機会です。 農作業で仲間がつながる 宙塾の活動で「私も呼んで」と地域の人に最も好評なのが、農作業です。田植え・菜の花や芋の苗植えでは、おおぞらの下で汗をかく気持ちよさを共有します。子どもは泥だらけに、保護者もいつの間にか幼時にかえっているのに気づきます。 お米づくりは、刈り取り、脱穀、そして餅つき、稲での注連縄づくりと続きます。無農薬のあいがも農法なので、鴨のお世話もします。開墾は大学生も参加し、多くの人が土から愛情をかけて耕します。自然に感謝し、人に感謝し、そして食べる、子どもにとっては一番の食育だと思います。どの子も米粒ひとつ、残さなくなります。 他にも菜の花を育てて油をとり、それを燃料にする循環型農業の学習にも取り組んでいます。先日は菜の花が満開になって、皆で花を天ぷらにして食べました。春を食べ、遊び、季節の移ろいを感じながら仲間との交流を深めました。最後、大学生の伴奏で歌った「おぼろ月夜」では、子どもより大人の方が熱唱し、「また来るね」と帰っていった笑顔が印象的でした。私たちも志を新たにして、また次の活動に取り組もうというやる気がでてきます。絆づくりが地域の活性化になると、確信できました。 天ぷら油の回収でリサイクル 宙塾に通ってくる子どもたちと、他の団体との連携も広がってきています。昨年度から、他団体との協働で障がいのある人と一緒に天ぷら油を回収して、環境にやさしい燃料に再生する活動を実施しています。障がいのある人とともに働く子どもの姿は、ノーマライゼーションの実践教育としても貴重です。奈良ではまだ実践されていない廃油リサイクルを宙塾で広めていって、障がいのある人の働く機会もどんどん増やしていきたいと思っています。 年間目標1500リットルを目指して、塾長も奈良市内を走り回り、また、毎月第1火曜日にはボランティアスタッフも協力して、宙塾での回収を実施しています。子どものためにという思いを伝えて、一人ひとりの協力を呼びかけていきたいです。環境教育の一環として、県下に広めていき、各家庭でできるリサイクルとして地域ぐるみで取り組まれるようになったらいい、と考えています。 こどもおん祭は発表の場 秋に宙塾主催で開催する子どもおん祭は、子どもが企画を考え、チラシを作り、地域に配布するお祭りです。生きた日本芸能史と言われている春日大社の若宮おん祭りを学び、餅つき、のっぺい汁を100人にふるまう賑やかな祭りです。2005年は1500人の来場があり、秋の催しとして地域にも馴染みのあるものに定着してきました。 この時、大学生はリサイクル品で作ったゲーム、子どもはバザー販売、受付などを担当します。日頃の活動を屋内に貼り出して発表する場もあり、子どもも大忙し。しかし、地域との関わりの中で、自分のできることを見出し、人の役に立つ喜びをみつける子どもも少なくありません。宙塾関係者が総出で作りあげていく祭は、準備も大変ですが、皆でやり遂げた達成感を共有できます。自信にあふれた子どもの顔に出会えるのも嬉しいです。 将来の福祉社会を支える人材育成 奈良の子どもたちが障がい、国籍など、すべての区別を取り払い、ひとつのフィールドで活動できる場を、これからも維持していきたいと思います。学校には行かれないけど宙塾では自分を出せる子どもたち、リーダーを任されて小さい子どもを思いやる養護学校の子、それを見守る大学生、この心の通い合う関係でひとつの活動をやりとげ感じる充足感・達成感の構築が、彼ら彼女たちの大きな成長につながると思います。未来の福祉社会を支える人材を宙塾で育んでいきたいと思っています。 ※平成17年度は以下の事業をしました(過去5年も同じ活動を実施) 日付 行事タイトル 内 容 備 考 4月23日(土) 環境講座 理科実験教室(風力発電機・エコクッキング) 理科教育研究所 5月22日(日) 大和の伝承料理 豆腐作り(おからクッキーおから入りハンバーグなど) 木下クッキング 木下喜美氏 6月19日(日) 田植え体験(あいがも農法) 手植え(どろんこ遊び・田んぼで縄跳び・リレー) 横井稲作研究所 7月17~18日 野外活動(野外活動センター・吐山) 昆虫採集・キャンプファイヤー・カレー作り・スイカ割り 夢づくり遊び屋 7月27~29日 一刀彫教室 干支作り(戌) 親子で体験 講師:奥田裕師 8月7日(日) 親子で楽しむデッサン能 「橋弁慶」・すり足体験など、お能に親しむ講座 奈良金剛会 シテ方植田恭三師 8月18日(木) 世界の昆虫画 コルクボードに描かれた昆虫画の鑑賞・絵画教室 講師:橋中初男氏 (コルクボード画家) 11月20日(日) 子どもおん祭 子どもたちによる手作りの祭・日頃の学習・活動発表展示 振る舞いのっぺい汁・餅つき・模擬店など 1月15日(日) 子どもの昔遊び 刺繍教室・正月遊び 講師:堀河賀壽子氏 2月19日(日) 国際交流音楽会 ファミリーコンサート 手作り楽器で共演 演奏:内海淳子氏とフローレス兄弟 ※10月16日(日)予定の稲刈り体験は天候不良のため中止 《その他の活動(土・日)》 ・森林ボランティア 7月9日、9月17日、10月29日 ・理科実験教室(環境講座) 6月25日 ・菜の花畑の看板作り・苗植え 9月3日、10月22日 ・芋ほり 10月 ・援農 年間4回 ・廃油回収(障がい者との協働) 年間3回
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