「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載
<食育推進活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

地域特産「もち麦」を題材に食農教育の実践
兵庫県福崎町 もち麦生産組合
「もち麦の里」づくり

 兵庫県神崎郡福崎町では、大麦の一種である「もち麦」を栽培しており、町の特産物として位置付けています。また、各種団体や関係機関が連携を図り、それぞれの役割の中でもち麦のPRや消費拡大に取り組み、「もち麦の里 福崎町」を作り上げてきました。
 福崎町では、戦後しばらくの間はもち麦を栽培して食していました。しかしながら、食生活の変化に伴い、昭和30年代には栽培しなくなりました。その後、昭和58年より特産物づくりが検討されるようになり、町にゆかりのあるもち麦を栽培することになりました。


もち麦生産組合の設立

 昭和61年より、もち麦の試作栽培を始めるとともに、もち麦の活用方法を検討してきました。これらの取り組みを契機に、もち麦栽培技術の研究や情報収集、連絡調整機能を目的とする「もち麦生産組合」を平成3年に結成しました。
 現在、もち麦生産組合は、会員数600人の任意団体で、4戸の個人農家と、5営農組合、3加工グループで構成しています。


もち麦消費拡大への課題

 生産されたもち麦は、主に麺として消費しています。生産者は、もち麦をより多く生産したい思いがあります。しかしながら、製品の需要量が増加しないことから、生産量の拡大を図れないのが現状です。
 福崎町においてもち麦生産量を増加させるためには、今以上に、消費拡大を図ることが最大の課題であり、@新商品の開発、A既存商品(もち麦麺等)の消費拡大、B消費者ヘもち麦の食べ方提案、C町内外へのPRなどの取り組みが必要であると考えました。そこで、もち麦生産組合の活動の中に、もち麦の消費拡大に協力する取り組みやPR活動を加えることとしました。


もち麦消費拡大への取り組み

 その方法として、もち麦製品の消費拡大を図るため、もち麦生産組合主催で年1回、「もち麦祭り」を開催しています。また、各種イベントにも積極的に参加し、組合員自ら、もち麦麺を使ったかけ麺や焼きもち麦麺を消費者の目の前で実演調理したり、杵臼を使った演出でもち麦餅つきを行なったりする等、消費者の意向を把握しながらもち麦をPRする活動に取り組んでいます。
 さらに、加工グループが中心となり、もち麦の精麦・粉・麺などを使った様々な料理研究を行ない、消費者へもち麦の食べ方を提案しています。これら料理を普及させるために、福崎町が行なっている「町の先生」に登録し、希望者に対してもち麦を使った料理教室を開催するようにもなりました。


「もち麦授業」の開始

 「町の先生」への登録を契機に、小学校の授業でも、もち麦料理教室をして欲しいという要望がありました。
 簡単に作ることが出来るもち麦料理を子どもたちに指導し、出来た料理を一緒に食べるという内容で行ないましたが、子どもたちには好評だったようで、それ以来、10数年間、毎年この授業を行なうようになりました。当初は1校だけでの取り組みでしたが、今では、町内4小学校全てで、特定の学年を対象に、もち麦授業を行なっています。
 また、栽培ほ場の見学や収穫体験、もち麦に関する講話など、様々な形でもち麦生産についての授業も行なっています。


「もち麦授業」を効果的に

 もち麦授業は子どもたちや先生からの反応も良く、毎年の恒例行事として取り組んでいます。子どもたちから届く感想文の中には、「もち麦料理を家でも食べたい」「お母さんに話したら、家で作りたいと言っていた」という内容のものが多くあったことから、家庭料理としてもち麦を活用する方法が必要と考えました。
 ちょうどその頃、地域団体の活動に対する支援を行なっている兵庫県中播磨県民局が実施する「地域づくり活動応援事業」があることを知り、これに応募して事業費の一部を助成してもらうことになりました。この事業を活用し、授業に必要な冊子や資材の拡充を図り、新たなもち麦授業を行なうことにしました。


モデル校の設置

 新たなもち麦授業に取り組みたいという私たちの思いに、福崎町立田原小学校長が賛同して下さいました。
 そこで、授業については、これまで行なってきた生産に関する授業と料理教室に加え、子どもたちの手もとに残る冊子の配布、もち麦料理を囲んだ交流会、保護者を対象とした料理教室の開催などを盛り込んで実施することにしました。


「もち麦の里から」の作成

 これまでは子どもたちへの配布資料は特になく、口頭で説明を行なう程度でした。しかしながら、もち麦についてより理解を深めてもらうため、また、家庭でもち麦料理を調理してもらうためにも、手元に残る資料が必要と感じていました。そこで、もち麦に関する冊子「もち麦の里から」を作成し、子どもたちに配布することにしました。
 冊子については、@もち麦とはどのようなものか、A福崎町ともち麦の歴史、Bもち麦栽培の状況、Cもち麦を使った料理レシピ、Dもち麦生産組合の活動等をまとめ、もち麦の多くが分かる内容の冊子にしました。


「もち麦授業の日」の設定

 もち麦の生産から加工、消費までの一連の流れを子どもたちに理解してもらうため、昨年、「もち麦授業の日」を設定し、丸一日かけてもち麦授業を行ないました。
 もち麦生産に関する講話は、パワーポイントを使用して生産現場や加工品等の映像を写し、季節毎にどのような作業をするのか、生産されたもち麦はどのように使われているのかといった説明を行ない、授業を進めました。また、作成したもち麦冊子を子どもたちに配布し、活用してもらうように話しました。子どもたちからは次々に質問が出て、もち麦への関心や理解は高まったように感じています。
 もち麦を使った料理教室では、簡単に出来るもち麦料理(もち麦麺のバチサラダ、もち麦揚げきんちゃく、ケーキ、みたらし団子等)を組合員が指導し、子どもたちとともに料理作りに挑戦しました。もち麦でいろいろな料理が出来ることに子どもたちは大変驚いた様子でした。「また家でも作ろう」という声も聞くことが出来ました。
 さらに、この日は総括として、もち麦料理を囲んだ給食交流会を行ないました。子どもたち、もち麦生産組合、学校関係者とともに、地域住民(校区内の区長等)、福崎町長等が、もち麦給食を通して交流を図りました。小学校の体育館に子どもたちが作ったもち麦料理10品を並べ、バイキング形式で給食をいただきました。それに加え、業務用の機材を持ち込んで実演調理コーナーを設置し、組合員による焼きもち麦麺やもち麦だんご汁の提供も行ないました。また、もち麦に関するパネルを展示し、今日一日の内容を振り返るコーナーを設置する等、普段の給食では味わえない味、雰囲気を演出し、子どもにも大人にも、記憶に残る給食交流会となりました。


親を対象としたもち麦教室

 「子どもたちに対する食農教育を引き続き家庭で行なってほしい」という組合員の思いと、子どもたちから「もち麦を家でも食べたい」という意見もあり、家庭でもち麦を食べる習慣を普及させようと、昨年は、親を対象としたもち麦料理教室も開催しました。給食交流会で子どもたちが食べた料理を中心に指導したところ、評判は良く、今では、「家でよく作っている」という声を聞くようになりました。これを契機に、もち麦料理が家庭料理として普及していくことを期待しています。


もち麦食農教育に取り組んで

 子どもたちからは毎回、感想文をいただきます。みんな思い思いの感想を持ってくれているようで、地元特産物に関する関心が高まり、非常にうれしいと思います。もち麦冊子は、もらってない子どもたちが直接、欲しいと取りに来ることもあり、よい財産が出来たと思います。
 これまでの取り組みについて、テレビや各新聞社から取材を受け、また、平成18年度ひょうごの農とくらし研究活動コンクールにおいて兵庫県農業会議会長賞を受賞する等、もち麦生産組合の食農教育活動が広く知れ渡るようになりました。
 現在、モデル的な取り組みは1校のみで行なっており、他校では講話と料理教室だけを行なっていますが、今後はモデル的な取り組みを全小学校へ拡大していきたいと考えております。
 もともとは、もち麦の生産拡大を図るために行なってきた「町おこし」活動が、現在では「食農教育」活動へと展開してきました。「もち麦の里 福崎町」を私たちの手で、また次世代を担う子どもたちの手で守り続けていけるよう、今後もこの活動を続けていきたいと考えています。