「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載 |
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣官房長官賞 |
渡良瀬川源流の森づくりを推進しよう |
栃木県日光市 特定非営利活動法人足尾に緑を育てる会 |
利根川の一大支流である渡良瀬川の源流に位置する足尾町松木地区は、長年にわたる足尾銅山の煙害、大量の木の伐採、大火などの原因により、広大な山地が荒廃裸地化し、大雨の度に大量の土砂を流失して、下流域に被害を与えてきた。このような状況から国や県などの関係機関による土砂防止対策や緑化事業が進められてきた。しかしながら、ひとたび破壊された自然の回復には様々な困難がある。 こうしたなかで、渡良瀬川上流と下流の市民グループが集まり、1996年5月、足尾の山に緑を取り戻そうと、「足尾に緑を育てる会」を結成し、松木地区の国土交通省渡良瀬川工事事務所管理地の「大畑砂防ゾーン」において植樹活動を開始した。 森づくり ●市民ボランティアによる植樹 首都圏の重要な水源地である足尾に緑を取り戻す活動は「100万本の木を植えよう」のスローガンを掲げ、日本全国に呼びかけ、大きな広がりを見せている。荒廃した山腹斜面を緑化する活動は、第1回は160人が集い、100本の苗木を植えたが、以来今年、2007年で第12回を迎えた。毎年4月には、「春の植樹デー」を開催しているが、年々参加者も増え、2005年、第10回には参加者が1000人を超えた。今年は2日に分けて植樹を行ない、1350人が参加し4600本の苗木を植えた。これまで開始以来「春の植樹デー」に延べ8400人が3万6000本あまりの苗木を植え、緑化活動に大きく貢献している。足尾町春恒例のイベントヘと成長し、現在過疎化が進む足尾町にとって多くの人が集まる一大イベントになっている。また、今年度から場所をさらに奥に移動し緑化活動を展開している。 「春の植樹デー」の他にも、年間を通して、様々な活動を行なっている。「夏の草刈りデー」には、植樹した樹木の育成を妨げる草刈りを行ない、苗木の成長が活発になるようにしている。また、シカ除けフェンスなどの補修作業も行なっている。 秋には「観察デー」を開催し、植樹地の観察などを実施、春植えた苗木が順調に育っているか観察を定期的に行ない、植樹後の管理も行なっている。 「毎月の作業デー」は植樹地が拡大するに伴い、日常的な作業が欠かせないことから、毎月第4日曜日に、会員の他にボランティアを募り、草刈り作業、仮植地の整備、日除け小屋の建設、ドングリ植えなどの各種作業を実施している。 ●体験植樹の実施 2002年より育てる会がNPO法人となったのを機に国土交通省からの委託支援活動として、学校の体験植樹を年間100団体以上受け入れており、児童・生徒による体験植樹の実施も増えてきた。近年環境問題に対する関心の深まりで、日光方面への修学旅行にくる首都圏の小学6年生が、環境学習をかねて「体験植樹」に足尾を訪れている。 5月になると毎日のように小学生の元気な声が響いている。この各種団体の植樹指導、助言、協力の対応には、地元足尾住民で定年退職した方々がスタッフとして連日対応している。また、子どもたちだけではなく、労働組合や教育委員会、ハイキングクラブなど、当会と連携して植樹活動をする団体も増えてきた。 ●公的機関との協力 国や県による土砂流失防止対策や緑化事業は100年の歴史があり、国土交通省、林野庁関東森林管理局、日光治山事務所が現在これらを行なっている。平成8年より民間団体として、はじめて「足尾に緑を育てる会」が緑化事業への取り組みを行なってきた。組織的・継続的に行なっている公共機関に民間団体が関わることは、歴史上初めてのことである。これらに対し、社会的な評価を受け、全国から注目を集めている。 普及啓発活動 ●足尾グリーンフォーラムを開催 2000年から毎年8月に「足尾グリーンフォーラム」を開催。植樹地近くの「銅親水公園」にて開催している。この公園には、荒廃した山から流失する土砂を止める足尾砂防堰堤、松木渓谷の壮大な景観が望める展望台、足尾銅山の歴史を知るとともに、自然の大切さと環境問題を学べる足尾環境学習センターがあり、環境体感学習ができる拠点となっている。 この場所において、講演会・シンポジウム・パネル展を行ない、様々な課題を検討するとともに、環境のことを楽しく学べる各種イベント、その他、模擬店など大人から子どもまで楽しめるイベントで賑わいをみせ、参加者の交流も深めている。 ●ホームページ他 ホームページhttp://www.ahio-midori.comで活動内容を紹介し、広く理解を求めている。また、2001年には、これまでの経緯と主張をまとめたブックレット「よみがえれ、足尾の緑」を、2003年には会誌「足尾の緑」を発行し、PRと宣伝に活用している。 現在までの成果 ●環境の健全化 松木地区は、関東平野を流れる利根川の一大支流、渡良瀬川の最上部に位置し、渡良瀬川の水源地である。ここを学習の場として水循環を中心に、地球環境の問題に取り組んでいる。 荒廃裸地化した砂塵まじりの急斜面にボランティアの手で植えた木は、将来いつの日か林となり、森となっていく。森は自然のダムとなり、安定した水量・良質な水が渡良瀬川を流れ下っていく。さらに、急斜面には樹木の根が張り、土壌を安定させることにより土石流の流失を防ぎ、災害防止の効果をあげる。また、一人一人の手で苗木を植えていくことは、自然を蘇らせることへの大変さ・重要性・必要性を実感させ、環境問題への関心が高まる。 足尾の山に木を植える森づくり運動は、地球にとっても、植物や動物、そして人間にとっても環境の健全化の大切さを実感させる活動である。 ●地域社会の伸展に貢献 当活動は自然再生運動として展開されているが、植樹活動を通して大変多くの方が、足尾を訪れ、地域の活性化、環境の町づくりなどに貢献している。 ●環境学習の拠点 21世紀を担う子どもたちに環境問題の重要さを啓発する上で、本活動は特に有効である。自然の回復力はすばらしく、9割以上の苗木が無事育ち、初年度に植えた苗木は3メートル以上にもなっている。また、シカ、サル、クマなども見られるようになり、食物連鎖の頂点に立つ大型猛禽類の生息も確認され、自然の回復の兆しを見せている。 荒廃地をのぞみながら緑化活動に取り組むことで、一度破壊された自然を蘇らせることの困難さを実感させ、参加する人々の環境問題への関心をさらに高めている。 ●環境問題を考える拠点づくり 松木地区は、植樹体験を通し環境問題を考える場所として機能するだけでなく、足尾の歴史や緑化の取り組みを学べる足尾環境学習センターがある。植樹や環境について学べる総合的な環境学習の一大拠点となっており、今年度より管理を委託されている。 ●官民協働の好事例 国や県による土砂流失防止対策や緑化事業に民間団体が加わり、協働で緑化事業への取り組みを行ない、円滑に事業が推進されている好事例として全国から注目を集めている。 |