「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載 |
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
地域産業の活性化に向けた付加価値製品の開発と普及を目指して |
岩手県滝沢村 岩手県立盛岡農業高等学校 |
本校食品科学科パン研究班の製パン研究は、今年で11年目を迎えた。特徴として、小麦は、県の奨励品種である「ゆきちから」、塩は、ミネラル豊富な三陸沿岸の「野田塩」、水は、石灰岩石で長い年月をかけて濾過された「龍泉洞水」を原料の3本柱として無添加にこだわり地産地消を推進した研究を実施している。活動のコンセプトは、地場産素材を活用し農業生産者や加工業者の活性化の支援を行なうことや、幅広い年齢層に受け入れられる卵・乳製品アレルギーでも食べられる独自製法でこだわったパンを開発することである。 規格外玄米を使ってのパンづくり 主な研究活動は、平成15年に学校農場で収穫された規格外玄米を発芽玄米パンに有効利用することで発芽玄米を52%も配合した付加価値のあるパンを完成させた。 平成16年には県内の水田転作として大豆栽培が奨励されており、その大豆を使って、きな粉入り食パンの開発に成功し市内のパン屋さんへ技術提供することで商品化された。 平成17年には、年間国民1人当たりの米消費量が60㎏を切っている現状を知り、米を手軽に摂れる方法の一つとして、本校産あきたこまちの規格外玄米20%をパンに混ぜることで手軽に米とパンを同時に摂取できる玄米入り食パンを開発した。この食パン1枚に含まれる米の量は6枚切りで8.3gであるため本校の生徒が週に3回食べることで1人当たり年間米消費量が1.3㎏増加の63.7㎏、増加率2.1%と消費拡大に繋げられるパンであることを証明し、各イベントで宣伝活動を実施した。 さらに平成17年7月にこのパンを製パン業者へ技術提供し「盛農パン」の定番商品として人気を集め、街のパン屋さんをはじめイオン盛岡マイカルサティや百貨店、JA産直、ネット販売などで毎日販売され、現在も安定した売上げを継続し米の消費拡大に貢献している。 「盛農パン」とは、平成17年9月4日に特許庁より商標登録の認可を受け、申請から15か月間を要して商標権を取得し本県の知的財産となった。これらの活動が認められ岩手県知事よりいわておもしろ地産地消大賞を受賞することができた。 平成18年には、本県の粟・稗・黍の生産量が全国一を誇っていることから、その雑穀を利用した特産品の開発としてパンをベースとし、雑穀生産者の意見や地域を反映したプロでも難しい、雑穀30%入りパンを開発させた。このパンも平成18年7月に製パン業者に技術提供し商品化に成功、今年4月まで期間限定としてイオンや百貨店、産直などで販売された。商品名は、雑穀と黒糖を使用したパンということでTHE穀糖パンと命名し、玄米入り食パンと同様に盛岡特産品の地域ブランドとして認証された。さらに、地場産品振興のパンフレットに掲載されたことで県内外の消費者に特産品のアピールとして広く利用されている。 この頃から地域は盛農パンに対して興味関心を持つ方が増え、雑穀・酪農生産者などの講習依頼も受けるようになり農業生産者の加工業参入の支援を製パン技術講習会という形で貢献することができた。その活動の基、生産者が研修した成果を経営に活かし産直で販売した事例もある。今年の3月も製パン技術講習会は第5回目を終え盛農パンの製法を各地域へ広げている。 フランスパンづくりにも挑戦 昨年4月から製パン技術の中で最も難しいとされ「パンの王道」とも言われるフランスパン作りに挑戦した。約9か月間の研究から製パン業や研究機関、地域の助言を頂きながら納得のいく地場産素材を使ったフランスパンを完成させた。このようなこだわった商品は、全国的にも例がない。フランスパンの多くは外国産小麦を使用したパンが主流である。 しかし、今年2月に岩手県農業研究センター主催で行なわれた「ゆきちから研究会」において、本校のフランスパンを試食して頂いた。研究会には小麦生産者から食品産業、行政、研究機関、大学などが集まった。岩手大学農学部の西澤教授からは、製パン部門で盛農パンは「一番美味しかった」と評価して頂いたり周囲の業者からも大好評であった。また、フランスパンの定評のある製パン業の店長に伺ったところ「県産小麦でここまで作れるのは凄い。外麦と引けを取らない」と大好評であった。 このことで自信をつけ、今年1月に静岡県で開催された第1回全国高校生パンコンテストに応募し1次審査の書類選考を経て研究班代表の畠山大二郎さんが、2次審査を突破した各代表と技術と味で競い合い初代王者に輝いたのである。全国で私たちの研究や技術が認められた瞬間である。 そして、さらに難易度の高い天然酵母パンの製品開発に目標を設定した。これらが新聞、テレビ、ラジオなど各報道機関で紹介されたり、盛岡市・滝沢村の広報に載るなど県民の皆さんにパン作りの魅力をアピールすることができた。 山葡萄生産者とも連携して これらの実績がきっかけとなり、昨年12月より県八幡平農業改良普及センターから八幡平市の特産である山葡萄の消費拡大をできないかという依頼を受けて、生産者から頂いた山葡萄で天然酵母をおこしその酵母の力だけでパンを膨らませる難易度が最高レベルなパンに挑戦することにした。 まずはじめに山葡萄酵母の試験区を、生・乾燥・冷凍に分けトーマ血球計数器により菌数調査をし酵母の活性度を測定した。結果100グラム中、生:378億、乾燥:1000億、冷凍:1430億の結果を得ることができた。ちなみに市販のパン酵母は100グラム中14,000億もいるためその難しさが分かる。パンが膨らむ条件として148億以上いることが研究から分かっている。そのためどの処理区も安定して発酵種を作ることができたが、特に乾燥区と冷凍区は生地の発酵力が顕著であった。比較対象としてりんご酵母では、115億以下では発酵が弱く膨らみが悪い。さらに山葡萄らしさを出すために、内相にほんのり山葡萄色素をつけようと考え、山葡萄の発酵した酵母液を5%、10%、20%と徐々に添加しながら色付けを行ない、風味や程よい酸味をパンに加えることに成功した。 この山葡萄フランスパンは、卵、乳製品、油脂、添加物などは一切使わず、天然の山葡萄の甘味と塩だけで素材の味を引き出している究極のパンに仕上がりつつある。 日清製粉研究開発本部副本部長であり製粉協会の所長をされている竹谷光司さんに食べて頂いたところ「とにかく美味しいパンです。程よく塩味が効いており、酸味もきつ過ぎず充分商品価値のあるパンです」という言葉を頂き確かな手応えを感じることができた。 県内でもこのようなパンは販売されておらず特産品への一歩をまた踏み出した。今後は、製パン業と協力して商品化の準備を進め、山葡萄天然酵母パンを通して山葡萄の消費拡大に努めていく計画である。 この製法の普及活動として、八幡平市の産直「松ちゃん市場」の経営者兼山葡萄生産者でもある「ふるさと山葡萄研究会」の6名が来校し山葡萄天然酵母の製法を講習した。 さらに、このパンで山葡萄生産に意欲を特ってもらえるように私たちは、実際に、先進の山葡萄生産者を訪問し、パンの試食をして頂き生産者の声の調査と山葡萄果樹園の現場見学会を実施した。その試食会では「美味しくて何も言うことはないです」「ちょうど良く山葡萄の香りがします」などの声を頂いた。その反面「生地に色が足りなく山葡萄らしさがない」と言う消費拡大につなげられる意見も頂いた。 この交流会後、実際に70アールで140本程の山葡萄を栽培している北口さんの果樹園を見学しに山深いところに入っていった。交流会で教えて頂いたとおり山葡萄の栽培条件に適している杉の木が沢山あり、川も流れ保水性に富んでいて生育環境が全て揃っているところに整然と並ぶ山葡萄棚が現れた。山葡萄1本の木から多数の枝が伸びており長い枝では21メートルにも及ぶ。山葡萄のことは全く知らずに天然酵母を作り研究をしていたが、実際現場にいくことで、山葡萄について沢山の知識や生産者の栽培に懸ける情熱や、やりがいと苦労などを肌で感じることができた。 また、八幡平市安代町の山葡萄生産量は日本一を誇り、その安代町の生産高3割を交流会に参加された10名の皆さんで作っている。それを県内のデパートに高級ジュースとして加工販売している。スペシャリストの皆さんから「山葡萄の消費拡大になるパンですので今後も研究活動を頑張って下さい」とパンを通して山葡萄の消費拡大を目指す気持ちを新たに植え付けられ更なる研究開発を進めている。 また、交流会の中で、地域の学校給食にも取り入れられればという声を山葡萄の普及活動の中心として動いている八幡平農業普及センターの久米さんから頂き、栄養士や行政、生産者、製パン業、そしてわれわれパン研究班と試食交流会をもちその実現に向けて県普及センターで計画をしている。 地域産業の軸をめざして その他の活動として、平成15年から村の保育園で親子合同パン作り教室を開き、研究員、園児、園児の両親とが一体となってパンを作り上げるイベントも毎年行なっている。パンを通して親子のコミュニケーションの場から親子の絆を強くする機会を作ることができた。さらに保育園2か所に160名分のパンを提供し、子どもたちの健康増進作りに貢献している。今年で9年目を迎えた活動である。さらに盛岡市や滝沢村のイベントでパンを販売したり、滝沢村で行なわれた「食と健康の集い」で約150名を前に地場産素材を活かした天然酵母パンの研究を発表し、試食もしていただきながら技術の改善に努めている。 これらの活動で、さらに地域産業の軸となれるように、パンをとおして地域、農業生産者、加工業者、行政と一体となって地場産業の振興に貢献していきたい。 |