「あしたのまち・くらしづくり2006」掲載 |
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
地域高齢者の力を活かしたまちづくり |
栃木県那須塩原市 特定非営利活動法人ゆいの里街中サロンなじみ庵 |
ゆいの里活動経過 1996年3月 在宅介護支援や地域福祉、地域コミュニティづくりを目的に活動開始。ゆいの里のゆいは「結」。このまちにあったお互い様の助け合いを形にと、各種ボランティア、研修会や映画会等開催。 1998年8月 街の真ん中の普通の民家を借りて、認知症や障害のある方、子どもたちが安心していられる日中の居場所「デイホームホットスペースゆい」開所。在宅支援の小規模で家庭的な多機能サービス(デイホーム、ヘルプ、移送) 2000年3月 任意のボランティア団体から、県の認証を受け、NPO法人ゆいの里となる。同年4月より、従来からの自主事業を継続しながら、介護保険の小規模デイサービス(通所介護)、居宅介護支援(ケアマネ)事業所となる。 2002年7月 街中の空き店舗を利用した地域の縁側「あったかいごや」自主事業開始。街の縁側として、時に駆込み寺として、気軽に来られるお茶飲み場。介護や福祉の相談、情報提供・発信の場として機能。2006年3月閉店。 2006年11月 地域高齢者の生きがいづくり、介護予防、商店街の活性化を目的に「街中サロン“なじみ庵”」開所。ゆいの里初めての市・県との協働事業。地域高齢者の力を活かした支えあいのひとづくり、まちづくりの拠点に。 なじみ庵を始めた理由と目的は? ゆいの里は1996年創設以来、地域福祉の活性化、地域コミュニティづくりを目的に活動しています。一方2000年以降、介護保険事業を行なう中で、障害や認知症があっても住み慣れた地域で暮らし続けていくために、介護保険等の制度やフォーマルサービスだけでない、地域の人たちの理解やお互いに支えあえる仕組みや場が必要と感じていました。本人や家族が気軽に相談できる場や閉じこもりから気軽に出かけられる場があれば、早めの介護予防の手立てやより良い支援ができたのではないかと思うことも度々でした。 そんな気づきから、相談機能を持つ街の中のお茶飲み場「あったかいごや」は4年間活動しました。必要性と手ごたえを感じながら、自主事業は運営が厳しく、2006年3月閉店。 今回の「街中サロンなじみ庵」は地域高齢者の介護予防、生きがいづくり、地域高齢者の力を活かしたまちづくりという目的をゆいの里と行政が共有した初の協働事業です。 ゆいの里の10年間の活動を基に、地域の皆さんとともに支えあうまちづくり、ひとづくりをできるところから手づくりしていきたいと考えたことがきっかけです。 “なじみ庵”の会員は? 概ね65歳以上の那須塩原市在住の方が希望し、会費等を払えばなじみ庵の会員となります。会費は100円/月、ボランティア保険加入保険料300円/年。会員特典は、なんとランチ500円が300円。レンタルボックス利用料金は半額となります。 地域高齢者=会員が主役のなじみ庵です。なじみ庵を積極的に人それぞれに利用し活用する。ランチを食べに来るだけも良し、講習会や介護予防の教室に参加する方、ボランティアとして、個人の興味や関心、時間、体力気力に合わせ、なじみ庵の様々な活動や運営(食事づくり、お茶入れ、店番、送迎、介助、伝習会や自主グループの講師、コンピューター入力・指導、掃除、イベント手伝い、雑用一般、等)に自主的に関わる方など、なじみ庵は活動を行なう会員が支えています。 “なじみ庵”の主な活動内容―オープン1年半の成果― ☆レストラン:*日替わりおふくろの味ランチ(月~金)コーヒー付500円(会員300円)/*郷土名物・開拓なベランチセット(5のつく日)/*土曜のブランチ・パンセット(毎土曜日)/*手づくりケーキ(豆腐チーズケーキ、シフォンケーキなど)100円/*珈琲・紅茶200円/*ケーキセット300円 ☆レンタルボックス:レンタルボックスを借り、地域の皆さんが手づくり品の展示販売。 ☆なじみ庵教室:「からだ生き活き教室」「物忘れ知らず教室」「転ばぬ先の知恵教室」「年金相談」「介護・介護予防相談」など ☆各種講演会:「栃木の方言」「白鳥からのメッセージ」など ☆コンサート:「手話ダンス」「オカリナコンサート」等 ☆伝習会:高齢者の知恵や技を伝える伝習会。「釜のふたまんじゅうつくり」「おはぎつくり」「ほたる寵編み」等 ☆自主グループ:なじみ庵に集った人たちが自主的に仲間を募り活動しています。「ハーモニカ教室」「おどりの会」「キーボード教室」「男の料理教室」「般若心経の勉強会」などがあります。その他には、夏休みには子どもたちとともに楽しむ実験教室やお祭りに夜店を出したり、ガールスカウトと地域高齢者の交流会、外国人の方々や子どもたちに高齢者が盆踊りの講習会を開くなど活動は広がっています。 “なじみ庵”のレンタルボックスや駄菓子屋スペース レンタルボックスは、地域の人たちの手づくり作品を展示・販売しています。それを見に来る人、買いに来る人が来庵することで人の流れを作ることがひとつの目的です。会員は、ボックスのレンタル料が半額となっています。手づくり品を大勢の人に見てもらう、そして、作ったものが売れるという二重の楽しみがあります。 駄菓子の販売も行なっています。当初、お年寄りと子どもたちの世代間交流の場を意識しましたが、結果的には子どもだけでなく、若者たちが懐かしいとやって来たり、おじいちゃんやおばあちゃんがお孫さんとおやつを買いに来たり、塾帰りや部活帰りの小中学生の待ち合わせ場所や土曜日の溜まり場になったりと、世代間交流の場となっています。 なじみ庵レストランが持っている意味 街の中の気軽なお茶のみ場・休憩所として利用していただいています。平成18年6月から、割烹着の似合う地域のおばあちゃんたちが中心となって「おふくろの味・日替わりランチ」が定番メニューになりました(ランチはすべて飲み物コーヒー付500円、会員300円)。地産地消・旬産旬食の日替わりランチは地域高齢者の皆さんはもちろん、近隣にお住まい、お勤めの方々にご利用いただき好評です。 介護保険の介護予防でも食事や栄養バランスは大切なテーマ。個食より会食。「家にこもってひとりで食べるより、ここでみんなとおしゃべりして、食べるお昼はおいしいねぇ」といつの間にか常連さんができました。「ここに食べにやってくるようになって、元気になった」という日中独居のおばあちゃん。「な~んでこう、うめぇ~んだべ、なじみ庵になじんだら、やめらんねぇ!おふくろの味、こてぇ~らんねよ、なっ?」と一人暮らし80代男性からメッセージ。 土曜日はブランチとして「パン・スープセットランチ」、伝習会でふるさとの伝統料理「開拓なべ」を地元婦人会の会員さんから習ったボランティアさんにより、毎月5のつく日は「開拓なベランチセット」が昨年秋から始まりました。 なじみ庵特製「豆腐チーズケーキ」や季節感あふれる「シフォンケーキ」も人気があります。子どもに手づくりおやつを食べさせたいとやってくるお母さん。希望者でケーキ作り講習会も度々行なっています。ランチを作るボランティアおばあちゃんたちは「ここに来ることが楽しい」「一人で家にいるより、ここで私たちがつくったランチを『おいしい』と言ってもらえることが元気の素」と、ボランティアを始めてからとても活き活きしています。膝や腰の痛さをかばいつつも、確かに生きがいが生まれています。 なじみ庵を運営する上で心がけていること ①“なじみ庵”の主役は地域のみなさん、高齢者のみなさん ②地域で支えあうひとづくり、まちづくりの地域福祉の創造の場に なじみ庵のスタッフ、コーディネーターは基本的にソーシャルケアワーカー。コミュニティーケアワーカー、地域の人と人をつなぐ「つなぎ手」です。目標に近づくように、会員の皆さんの主体性と自己決定を尊重しながら、なじみの関係をつくり、安心できる居場所となる「場づくり」が望まれます。「いい止まり木ができたよ」「ここに来るとほっとする」「自分でできることをして活動したい」「何かお役に立ちたい」そんな地域のニーズを拾う、社会資源を探す、出会う、引き出す、そして自主的に自立した活動ができるようになるためのお手伝いと運営の裏方を行政との協働で担っていくことが大切と考えています。 これからの展望は? これからの地域福祉はそこに暮らす私たち一人ひとりが、自ら考えて発言し、行動に移して作り出していく時代だと思います。安心してともに暮らしていくための支えあえる地域づくりが協働の課題です。なじみ庵はそれらの支えあう人たちが集ったり、学んだり、仲間をつくったり、社会資源を捜し、育てていく場所なのかもしれません。 開設1年半が経過し、地域の人たちの力で動き始めた“なじみ庵”がこれからどう成長していくのかはまだ未知数です。でも、多くの可能性を秘めています。 地域の力で、なじみ庵が世代間交流の場として賑わい、地域高齢者の生きがいの場となり、支えあうまちづくりの拠点となる。少子超高齢時代の地域福祉の担い手や理解者がここで育っていったらいいなあと思います。認知症の方が安心して散歩ができる街が夢です。認知症の方々を地域で受けとめていけたらいいですね。 ~育てよう地域の底力~ |