「あしたのまち・くらしづくり2007」掲載 |
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
住みごこちのよい都心界隈づくり |
京都府京都市中京区 姉小路界隈を考える会 |
姉小路界隈を考える会の設立 姉小路界隈は、京都の都心にあって、様々な業種を営む老舗と小さな商店と町家を含むごく普通の住宅が建ち並ぶ、やさしい落ち着いたまちです。低中層の町並みからはどことなくまちの人の生活の匂いを感じ取ることができ、昔から住のあたたかみと職の活気が響きあい、育みあって栄えてきた職住共存のまちです。 そんな界隈において、平成7年6月に11階建てのマンション建設計画が持ち上がりました。対象地は旧京都ガス発祥の地で所有者の好意で敷地の一部はひろばとして開放され、界隈の人に親しまれてきた場所でした。周辺町内会からは高さを低くしてほしいとの要望が出され、活発な反対運動に展開していきます。反対運動を契機に将来のまちづくりを見込んだ組織づくりと活動の展開についての学習会を重ね、姉小路通を中心に、南北は御池通と三条通、東西は河原町通と烏丸通間の住民により、7年10月に「姉小路界隈を考える会」が発足しました。 姉小路界隈を考える会の活動 活動は都心界隈の優れたまちの資源や様々な人のネットワークの再発見と再構築を基本に展開しています。 会の最初の活動は、界隈に点在する老舗に著名な書家による木彫の看板が掲げられて「まちの顔」となっていることに着目し、「看板の似合うまちづくり」に取り組みました。 この界隈には特色ある老舗とともに、非常に洗練された伝統技術を持つ職人の工房も数多く見受けられ、会では界隈に住む老舗の主人や職人の方にお話を伺い、紹介していく「姉小路にんげんマップ」シリーズを企画しました。これは大変好評を博し、活動の重要な柱の一つとなっています。また、会設立以来、「京のまちかど姉小路界隈より」と題して、活動内容を会報として発行しています(現在までに26号を発行)。 看板や町家のライトアップの企画を進める内に、昔町内を照らしていた辻行灯の話に広がり、界隈のお宅から古い行灯が見つかり、夏の夜の灯りをテーマとしたイベントに展開します。地蔵盆の夜、通りに手作りの行灯を並べ、ライトアップした看板や町家を見やりながら、子どもたちはペットボトルの提灯を持って通りを行き来する、「灯りでむすぶ姉小路界隈」と題したこの企画は、平成9年度から継続され今では都心界隈の夏の風物詩となっています。 界隈のみち空間についてのワークショップの取り組から、将来的には歩車共存道路の形態を目指したいが、まず道を花や緑で飾ることで、もてなしの心を表現しようとの思いが確認されました。界隈に似合う鉢植えづくりに取り組み、通りに並べて、もてなしの心を表現する「花と緑でもてなす姉小路界隈」は平成10年度から継続実施しています。 このように会では様々なイベントを企画し、まち全体で楽しんでいます。 地域共生の土地利用検討会 会の設立のきっかけとなったマンション建設計画は平成8年3月に白紙撤回されていましたが、その後「地元に受け入れられ、相互に享受しあえる施設建設を目指したい」として、地権者より(財)京都市景観・まちづくりセンターを通じて、地元との意見交換の申し入れがありました。これを受けて会が近隣町内会に呼びかけ協議、提案を受け入れることで合意し、平成11年1月に「地域共生の土地利用検討会」が発足しました。検討会は、全国に先駆けたパートナーシップ型まちづくりのモデルケースとして注目を集め、2年の歳月をかけ、平成12年12月に土地利用の基本計画をまとめ、平成14年8月末に「アーバネックス三条」として竣工しました。検討会の初期段階においては根底に「対立の構図」がありましたが、取り組みを継続する中の「対話を尽くす」プロセスを経て、「価値の共有」を目指す取り組みへの転換が図られました。 姉小路界隈町式目(平成版)策定 会では会設立の目的である「住みよい、安心して暮らせる環境づくり」の具体化に向け、江戸時代の自治管理体制の要となった町の法律「町式目」の勉強会を踏まえ、平成12年4月に「姉小路界隈町式目(平成版)」を策定、今後のまちづくりの基本方針としました。 『姉小路界隈町式目(平成版)』 ―姉小路界隈が大切に育んできた「居住」と「なりわい」と「文化性」のバランスそのバランスの維持を意識しながら発展するよう、地域の人が協力してまちを支えましょう。 ―姉小路界隈は住み続け、なりわいを表出するまちとして、その界隈性を守り育む「人」や「なりわい」を受け入れ、支えましょう。 ―姉小路界隈は、なりわいの活気と住むことの静けさが共存する、落ち着いた風情のまちです。この環境や風情を大切に、その維持に努めましょう。 ―生活やなりわいの身丈に合った、姉小路界隈の低中層の町並みを維持しましょう。 ―姉小路界隈は、まちへの気遣いと配慮を共有したまちです。周囲(まち)との調和を了解しながら、それぞれの個性を表現していきましょう。 ―姉小路界隈の通りは、地域の人に「もてなしの心」を表現する揚として認識され親しまれてきました。その思いを継承し、より心楽しい美しい通りになるよう努めましょう。 界隈式目から町式目へ 会では姉小路界隈町式目の具体化に向け、平成13年1月から建築協定締結に向けて活動を開始していた時に新たなマンション問題が発生、当初は会の活動の母体である姉菊屋町で進めていた建築協定の動きは一気に界隈13町内会も広がることとなります。結果、姉小路界隈地区と松長町地区の2地区の建築協定締結に至り、平成14年7月に発効しています。都心部で約100人の権利者で約2ヘクタールにも及ぶ広範囲な建築協定が完成します。 京町家再生事業への展開 姉小路界隈地区における様々な活動および建築協定の締結の成果を踏まえ、京都市から「街なみ環境整備事業」導入の提案が行なわれました。平成16年度に「姉小路界隈まちづくり協定」を策定、京都市の承認を得て、16年度に2件の京町家再生事業が完成し、現在までに5件の京町家再生事業が実現しています。 会の活動開始から約10年あまりを経て界隈では看板建築から京町家が再生され会設立の目的「誇りに思える町並みづくりを、まちの皆の手で実現する」ことができました。 特定非営利活動法人「都心界隈まちづくりネット」の設立 姉小路界隈を考える会のまちづくり活動と平行して、平成15年1月に特定非営利活動法人「都心界隈まちづくりネット」を設立しました。法人では設立以来、京都の都心部が蓄積してきた価値は国民の資産であり、次世代に引き継いでいくことを目的に、「美しい都市―京都」を基本に活動を展開しています。 市民活動がもたらした法改正 美しい都心界隈づくりに向けた連続的な会の活動がおおいに貢献して、京都の都心界隈では「美しい都市づくり」に向けて新しい建築ルールの導入が実現しています。 その第一としては平成15年4月に「職住共存地区での新しい建築ルール」が導入されました。さらには「時を超え光り輝く京都の景観づくり審議会」の最終答申を踏まえ、平成19年3月には歴史都市・京都の優れた景観の保全・再生に向けた新・景観政策が実現しました。会の活動の基本目標である『5階以下の低中層の街なみ方針』が法的に達成されました。 新・景観政策の高さ規制の概要 「時を超え光り輝く京都の景観づくり審議会 中間取りまとめ」の報告を受けて、京都市では市街化区域全域での建築物の高さ規制の見直し案を発表。 ●都心部の高さ規制の具体的な見直し 田の字地区 :45メートル → 31メートル 職住共存地区:31メートル → 15メートル ○職住共存地区の高さ案の根拠 “京都らしい歴史的な町並み景観”“都市における良好な居住環境”“都市としての活力”とが調和した「職住共存地区の中低層の市街地景観」の形成を目指し、その最高限度を5階程度に引き下げる。 ●実施時期 平成19年9月から施行されることが決定した。 住みごこちのよい都心界隈づくりを目指して 会はこの12年あまり、じっくりと、丁寧に、まちの人の語り合いの中から「住みごこちのよい都心界隈」を目指して取り組んでいます。「『美しい都市づくり』とは『住みごこちのよい都市づくり』」、を目標に、これからも「住みごこち」を大切に今後も活動を展開していきます。 |