「あしたのまち・くらしづくり2008」掲載
<子育て支援活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

地域に広げよう子育ての輪―子どもを核とした地域再編をめざして―
岐阜県大垣市 NPO法人くすくす
自分たちのほしいサービスを自分たちの手で(大垣の子育てを考える会)

 「子育てを支援する」という発想が社会にまだまだ根付いていなかった10年前、私たち子育て中の親は地域で互いに支え合う場もなく、行政が開催する子育て講座に出てみても「お母さん頑張って」と励まされるばかりで、ますます落ち込んでしまい、孤独な子育てに途方に暮れていた。そんな仲間が出会い、「行政に頼らなくても自分たちでほしいサービスを作り出せばいいのではないか」と気づいて、「まず、自分たちの聞きたい講座を、自分たちの力で開催してみよう」と補助金を申請し、『大垣の子育てを考える会』としての小さな一歩を踏み出した。


NPOの立ち上げ(NPO法人くすくす)

 自分たちのほしいサービスを自分たちの手で作ることに手応えを感じたことで、さらにそれを広げていきたいと願い、『大垣の子育てを考える会』のメンバーに、男女共同参画の視点でまちづくりを目指していた県内の仲間を加えて、2002年2月に「NPO法人くすくす」を設立。
 都市化が進み、地域の人間関係の希薄化、子育て家族の孤立化などが懸念される状況の中で、安心して子どもを産み育てられる家庭・地域社会の実現に向けて、男女共同参画の視点から子育て支援を展開し、人材育成、ネットワーク支援、調査、政策提案等の活動を行ないながら、「自らの生活を主体的に決定する市民自治によるまちづくり」と「男女共同参画社会形成の増進に寄与すること」を目的として活動を開始した。


つどいの場を開く(大垣市子育て交流プラザ)

 社会に子育ての輪を広げようという私たちの願いと、行政が子育て支援を「専門性の高いNPO」に委託したいという意向と相まって、大垣市より「行政と協働」という形で、2002年6月から『つどいの広場:子育て交流プラザ』の運営を受託することになった。
 開館は火曜日~日曜日の10時~17時。キャッチフレーズは「屋根のある公園/スタッフ付き」で、その時間内ならいつ来ても、いつ帰ってもOK。「いろいろな大人といろいろな子どもとの出会いの場を作ること」を目的とし、スタッフは「応援と承認」を原則として、母親への指導や評価はしないことを申し合わせた。お母さんたちからは「ここに来るとほっとする」という声が高く、利用者は年間1万人を超える。
 またこのプラザでは、子育て中のママのエンパワメントとして「ママスタッフ制」を導入した。サービスの受け手が次の提供者になっていける「当事者性を生かした循環型支援」を根付かせるために、利用者からスタッフへというシステムも作った。さらに子育て中の親たちの多様なニーズに対応するため、予約無しの一時預かりも実施した。


よりよいサービスをめざして(大垣市子育て支援者養成講座・子育て講座・産褥ヘルパー養成講座)

 社会に子育ての輪を広げるためには、より多くの人たちが子育て支援にかかわっていける状況を作ることが必要である。しかし子育て中の親に対して、「今どきの親は…」とか「親ならこうするべき…」という発想で向き合ったら、それはかえって、親たちを追い詰めるだけとなる。今の親たちが置かれている現状を理解し、親たちの「ほしい形の応援」をするのでなければ意味はない。そのために、子育て支援者を養成する講座の必要性を痛感し、大垣市より講座の企画・運営を受託した。
 「支援者養成講座」は次第に各市町でも実施され始めたが、私たちは「ひろば」や「託児」を実際に行なっている団体として、講座の中に「実習・実践」を位置づけることの重要性を身を持って感じてきたので、一連の講座には必ず「個別の実習」という機会を設定した。その一連の講座は、受講生から「実践の場で役に立つ講座である」と評価され、「支援者養成講座」の企画は、大垣市だけではなく、他の市町からの要請が増えていった。
 さらに、ヘルパーの資格を持っている人を対象に「産褥ヘルパー養成講座」も始めた。親元が遠かったり、妊婦の親もまだ現役で働いていたりする事情で、里帰り出産の難しい家庭が増えた現在、新生児のケアを含めた家事支援は歓迎され、派遣要請は多くなってきている。


子育てに父親の参加を(お父さんになるために、お父さんであるために)

 最近やっと、男女共同参画プランにも「ワークライフバランス」という視点が盛り込まれるようになったが、それでもまだまだ父親の子育て参加はわずかな時間でしかない。しかし、あっという間に過ぎ去っていく《育児期》を、お父さんが「仕事が忙しい」「子育ては母親の仕事」などと言って妻に任せてしまうのは、子どものためばかりでなく、お父さん自身の人生にとっても、もったいない。それで、「子どものため、家庭のため、そして、あなた自身のために、この時間を充実させませんか。」というメッセージをこめた父子手帳を発行したいと、県の協働事業に提案した。
 その時、県からは「父子手帳の発行は市町村の所管であるから、県では作成できないが、母子手帳と一緒に配布しているリーフレットに、父親へのメッセージ(心構え、妻への気遣い、子どもの遊び方など)のページを増やすことは可能である」という返答をいただき、2005年版よりその執筆を担当できることになった。その枠のタイトルを「お父さんになるために、お父さんであるために」と決めた。執筆は無償の仕事であったが、私たちの願いを広く伝える機会を得られたことは、大きな収穫であった。


自分たちのほしいサービスをより広く(ぎふ子育て応援ステーション)

 「子育て交流プラザ」も大垣市からの委託業務(2005年からは指定管理者としての受託)であったが、行政と手をつなぐ事業を実施する中で、自分たちだけで実施するよりは広く広報できたり、外部からの信頼を得ることができる利点を実感してきた。行政と協働するときに必ず留意しなければならないことは、あくまで「対等な立場での協働」である。NPOが行政の下請け的な立場になってはならない。民間と行政の「互いの強み」を生かした対等な協働ができれば、活動の効果は大きい。その体験から、現在の「市」との協働を、「県」との協働事業へと広げていった。
 今、子育て中の親たちが必要としているのは、子育て支援の一本化である。現在、行政の子育て支援は文部科学省系列と厚生労働省系列の大きく二つにわけられていて、それぞれが単独で子育て支援事業を企画・運営しているため、受益者である親たちが一括して情報を得られていないのが実情である。民間で個々に企画されている子育て支援の情報は、それよりもっと得る機会がない。だからこそ、それらを統合したコンシェルジェ機能を有する「子育て総合相談窓口」が必要である。それを県に提案したことで、2003年4月、岐阜県より『子育て総合相談窓口:ぎふ子育て応援ステーション』の運営を受託することになった。
 さらに、「地域でのつながり」が極端に少なくなってきた今、気軽に子育てについての話や相談ができる場所が求められているため、「情報提供と相談のできる場所」を各地に作っていくことが急務である。『子育て相談総合窓口:子育て応援ステーション』は、その場所作りのスタートとしての試みでもある。ここでも、県と協働することで、県内各地への浸透と信頼を得ることができ、運営を円滑に行なうことができた。
 『子育て応援ステーション』は、年中休みなしの9時~19時のオープンで、「ちょっと知りたいこと・聞きたいことへの情報提供」「不安に思っていること・悩んでいることへの対応と、専門機関への適切なナビゲート」「子育て支援に関わっている人や団体へのサポート」を実施しているが、年間およそ7000件の相談に対応している。


よりよいサービスをより広く(地域に広げよう 子育ての輪)

 子育ての背景は年々多様化し、ニーズも刻々と変わってきている。そんな中で、親たちのニーズに対応できる「よりよいサービス」を浸透させるために、昨年度から、県が認証する『子育てマイスター』の人材バンクとスキルアップ研修も実施している。
 さらに、より広く「子育ての輪」を広げるために、これまで『NPO法人くすくす』が積み重ねてきた実践やノウハウをまとめて、2007年に『今日から役立つ子育て応援ガイドブック(118ページ)』を作成し、県内で子育て応援に関わっている人たちに配布した。
 そして、子育ての輪に、企業を巻きこむことも視野に入れた。現在は企業と協働して、「乳幼児の健診・予防注射情報の携帯メール配信サービス(大垣市)」を行なったり、大型ショッピングセンターからコミュニティホールを提供してもらって「親子ひろば」「ママたちのおしゃべり会(転入ママ・多胎児ママ・三世代同居ママ・2人目プレママ・育休中ママ・新米ママなど)」「各種講座」などを開催したりしている。
 お母さんの立場に立った「お母さん向けの講座」も好評で、「くすくす・すくすく講座(育児のために)」や「くすくす・のびのび講座(育自のために)」には毎年、大勢の受講者がある。同時に、お母さんたちのエンパワメントを目指して、小さな起業支援(一芸支援)の場を設定したり、「資格がなくても働きたいママのチャレンジ支援」の場として県図書館利用者のための託児業務を獲得したりしている。
 その他、行政や学校、保育園、幼稚園等の講座へ講師の派遣をしたり、大学や看護大学からの実習生や、中・高校生のボランティアを受け入れを行なうことで、子育て応援の裾野を広げている。
 また、小さい子どもがいると外出がままならないお母さんのために始めた、携帯メール(ミニマグ発信)を使っての子育て情報の提供はとても喜ばれている。HPでの発信も大切にしていて、HPは14年度岐阜県子育て支援事業コンクール奨励賞を受賞した。
 子育て応援は、日常的に行なうものでなくてはならないが、家族が揃って参加できる季節ごとのイベントも好評で、『012運動会』や『ハロウィンパレード』などには、毎年多くの申し込みがあり、お父さんに子育てのメッセージを伝える機会ともなっている。また、昨年度から始めた『孫育てサロン』は、元気なおじいちゃんおばあちゃんに参加してもらえるだけでなく、その中から「自分の孫だけでなく地域の子どもたちにも何かしたい」という声があがり始め、子育ての輪が地域に広がりつつあることを実感している。