「あしたのまち・くらしづくり2008」掲載
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣総理大臣賞

都市と農村との共生型社会づくり
山梨県北杜市 NPO法人えがおつなげて
山梨県北杜市須玉町増富地域での都市と農村の交流事業の概要と成果

 当NPOの活動フィールドである、山梨県北杜市須玉町増富地域は、かつては農林業が盛んであったが、現在は担い手の減少や高齢化に歯止めがかからず、集落崩壊の危機が迫る地域である。1990年132戸であった農家戸数は、1995年に77戸、2000年には27戸に減少し、現在は、高齢化率62%、耕作放棄地62.3%、という、いわゆる限界集落となってしまった地域である。そんな状況の中、この増富地域において、2003年4月の構造改革特区認定のもと、多様な都市農村交流活動を展開することにより交流人口を増大させ、地域の活性化につなげようとする活動が始まった。この活動の開始から約5年経過した現在、活動に賛同した農村ボランティア等も含めて都市部から約8000人が訪れ、耕作放棄地3ヘクタールの復活、またその農地での新たな形での農業生産、またこれまでになかった農産物流通ルートの開拓等の成果も現れてきている。また、今までのこの活動の大きな成果として、当NPOが行なってきた都市農村交流活動の意義が地域住民の方々にも浸透し、今年2008年3月には、増富地域再生協議会が結成され、それ以来、増富地域一丸となった形で、都市と農村の交流による地域活性化活動が展開されている。


農村ボランテイアによる遊休農地開墾活動と成果

 当NPOがこの増富地域で最初に活動を実施したことは、遊休農地の開墾活動である。地域に広がる遊休農地を開墾する農村ボランティアを募ったところ、首都圏を中心とした都市部から、学生・フリーター等々の若者たちが、年間延べ約500人/日が集まり、その若者たちが朝から晩まで開墾を行なったところ、荒地はどんどん開墾されていった。その中の一部の農村ボランティアは今では、この地域に定住し、当NPOのスタッフとして働き、地域の新たな担い手となっている。こうして当初約3年をかけて行なった遊休農地の開墾活動は、約3ヘクタールまで開墾が達成し、現在は復活したこの農地を活用して、NPO農場「えがおファーム」の運営、またそのえがおファームをフィールドとした多様な都市農村交流の体験プログラムが展開されている。


都市農村交流体験プログラムの実施と成果

 約3ヘクタールの「えがおファーム」をフィールドとして多様な都市農村交流の体験プログラムを展開している。当NPOのグリーンツーリズムの特色としては、地域の昔からの農事暦や生活様式をイベント化し、この地域の自然や風土、生活する住民たちと触れ合いながらまた講師として招きながら、農村の生活技術を学べる機会を提供しているとことである。

・都市農村交流キャンプ(参加者総数約1200名/5年)
 7~8月に1泊2日で行なう農村体験キャンプ。親子連れが対象で、毎年4~5回開催している。農業体験をして収穫した野菜を料理したり、森林の中で木登りしたり、川遊びや星空観察で自然を満喫するなど、農村資源を活用したプログラムを実施。このプログラムの実施により、地元農林業者と都市部の子どもたちの交流が進み、さらに子どもたちが農村や農業を知るきっかけとなっている。

・各種農業体験メニュー(参加者総数約1200名/5年)
 年間10回連続農業体験プログラム「大豆をつくろう!」を開催など、4~11月まで各種農業体験を行なっている。「大豆をつくろう!」では、種まき(5月)、草取り(6月)、土寄せ(7月)、大豆収穫(10月)までを体験し、食べ物が育つ姿を観察し、収穫した大豆を使って味噌を作る「手前味噌仕込会」も開催し多くの参加者を得ている。この農業生産から伝統的な食品加工のプロセスを、地域の指導のもと、参加者が一体となって実施することによって、農村の伝統的な技術や知恵を現代に蘇らせている。

・森林体験メニュー(参加者総数約400名/4年)
 通年で間伐体験を行なっている他、間伐材を使っての「小屋作り体験」、8月に2泊3日で「夏休み大工・山仕事塾」、9月に1泊2日で「竹を使おう」「荒壁塗り」などを行なっている。これによって、地域の間伐を進め、さらに間伐材の新たな活用の仕組みを構築している。

・都会人のための「新・百姓塾」(2008年4月開始)
 「新・百姓塾」は、新規就農や半農半Xによる農的暮らしに関心のある都会人のための体験プログラムである。年間を通じた農業体験と地元住人との触れ合いを通して、農業スキル+農村でのコミュニケーションの仕方+保存食や暮らしの智恵を学ぶことを目的とする。都会人が、農的暮らしから生まれる昔ながらの智恵や豊かさを充分に味わいつつ、農的暮らしへのスムーズな移行を可能にするプログラムを提供中である。


企業との連携を通じた農村の仕事づくりと成果

 農村の最大の課題である農村の仕事づくりの活動を都市部の企業との連携によって実施している。当NPOにおいて企業の畑と呼んでいる制度のもと、都市のオーガニックスーパーが参加する協働農場運営(トウモロコシ1万本産直農場)、またその協働農場をフィールドにしたスーパーの消費者対象の共同グリーンツーリズム(はたけの学校)である。また、パティシェ(洋菓子屋)や和菓子屋の原料調達のための協働農場運営(大豆、かぼちゃ、さつまいも等)や、大手商事会社のCSR活動の一環として、社員の遊休農地開墾、開墾した農地での農業体験学習としての大豆の生産から味噌づくりを実施している。現在この企業の畑の仕組みで、実際に5社の企業がNPOとの協働によって農場の運営を行なっているが、これによって、地域に新たな農業の仕組みが構築され、農産物の新たな流通ルートも形成されてきた。また、企業にとっても以下のメリットがある。食品企業の職員が、農業の現場を経験することによって、農産物や農村への理解を深めることができ、また生産者の顔が確実に見える形で農産物を入手することによって、昨今の消費者の「安心・安全な食物」のニーズに応えている。これによって、農村と都市部企業の間でウィンウィンの関係が構築され、地域における持続的な農業の仕組みが構築されてきた。


大学との連携による知的資源の農村移転と成果

 東京農工大学との連携により、増富地域に賦存する水資源、森林資源などでエネルギーを地域自給していこうとする交流プログラムの中で小水力発電(3キロワット)導入プロジェクトを実施している。これによって、未活用の農村の自然エネルギー資源の活用方法を地域で具体化させた。また同校農学部学生サークル(黒森もりもり倶楽部)が、当NPOと連携して、耕作放棄地の開墾(40アール)、またその後の小麦生産といった一連の研修作業を行なっている。これらの事業は、持続可能な農村地域開発を進める上において今後必要とされる、知的資源の農村への移転や、新たな農村マネジメント人材の育成にも貢献している。


農村の文化資源を活用した食育活動 箱膳による食育事業

 箱膳とは、昭和初期まで伝わっていた日本の食文化で、自分専用の飯茶碗、小皿等の入った木箱であるが、箱膳の蓋を裏返しにして、その上に皿を並べ、土地の作物を使った料理を、食べる量のみよそっていただく箱膳のスタイルは、無駄のない食生活を自然と学ぶことができ、食を通じた礼儀作法も習得できる優れた食育ツールである。当NPOでは、食育活動の一環の中で、この箱膳による食育体験会を、山梨を中心として、東京、神奈川、名古屋、福島、山形等で実施してきた。この活動の価値が評価されたせいか、読売新聞等の全国新聞社、日本テレビ、NHK等の全国テレビ、J―WAVE等のFMラジオ等において取り上げられ、この活動の趣旨、すなわち地域伝統食を復活・継承するとともに、日本伝統の食事作法等の食文化を継承することが社会に徐々に普及してきた。


他地域の都市農村交流支援活動と成果

山梨県大月エコの里特区での支援事業を例として
 当NPOでは、都市と農村の交流による農村活性化のノウハウを使って他の農村地域の支援を行なってきた。山梨県大月市の遊休農林地10ヘクタールの活用を目的とした「大月エコの郷プロジェクト」では、当NPOが中心となり、県、市、大学、民間企業、地域住民等からなる協議会を発足させ、この協議会で事業内容等を検討し、その結果、地元住民を中心としたNPOを立ち上げ、このNPOが主体となって事業展開を行なうこととなった。遊休農地(約4ヘクタール)については、農業経営・市民農園・体験農園等に活用し、遊休林地(約6ヘクタール)については森林ボランティア事業等の活動に利用することとなった。現在では、国の構造改革特区の認定も受け、地域にNPOが設立され、この10ヘクタールの特区地域で活発な都市農村交流事業が行なわれている。


都市農村交流による地域社会づくりと、人材育成のための活動と今後の展望

関東ツーリズム大学
 都市農村交流による農村地域社会づくりと、その人材育成のための活動を「関東ツーリズム大学」という名称で今年2008年からスタートさせている。この事業においては、フィールドを山梨のみならず、首都圏を中心に1都10県の範囲で、都市と農村の交流による持続可能な地域活性化プログラムを展開している。またこの活動を通じて、これから必要とされる農村マネジメント人材を育成している。現在はオープンキャンパス期間として、山梨、茨城、長野、東京等で、体験学習・環境教育プログラム等を実施している。この活動を通じて、広く1都10県の都市と農村の間に、都市住民の第2のふるさととしての新たな関係、子どもたちの体験学習の場としての新たな関係、消費者と農業者の間における新たな関係、都市企業のCSRの場としての新たな関係等々、都市と農村の間における様々な新たな関係を築き上げながら、広域での都市と農村の交流のネットワークを拡大し、都市と農村の共生型社会を構築することを目指している。