「あしたのまち・くらしづくり2008」掲載 |
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞 |
高校生が町をつくる、文化をつくる |
兵庫県たつの市 兵庫県立龍野実業高等学校デザイン科 |
活動概要 兵庫県立龍野実業高校デザイン科では、夏の「わくわくアート」、秋の「ファッションショー」、冬の「町ぢゅう美術館」という名称で、行政や地場産業と連携しながら、学校で学んでいるデザインを使って生徒が企画するイベントを町なかで実施している。平成14年から始めた生徒の活動は、産官学民の様々な団体や人の支援を受けながら、「ファッションショー」では2300人、「町ぢゅう美術館」では6000人の観客を迎える地域の大きなイベントに発展した。多様な連携は、「官」では地元のたつの市や兵庫県の関係各部署、また兵庫県立工業技術センターを中心とした皮革、繊維の同工業技術支援センター、「産」ではたつの市地場産業の皮革、西脇市地場産業「播州織」だけでなく川崎重工、アシックス、ワコールなどの大手企業、「学」では幼・小・高・専・大(兵庫教育大・神戸芸術工科大)と年々拡大し、地域では「龍野オータムフェスティバル」という地域住民の手による「町おこし」を生み出す契機にもなった。 発端と変化 発端 平成8年の校内文化祭の学科発表として、初めてデザイン科ファッションショーを実施した。「ふだんの学校生活で茶髪や化粧をする生徒は参加させない」というルールを決め、生徒の活動意欲が大きいファッションショーを生徒指導に生かすことからスタートしたが、20分間のステージのために2か月間準備をするため、校外でも実施したいという生徒の要望が年々強くなり、平成14年に校外で第1回目を開催した。当時は生徒の素行に対する学校への苦情も多く、相当の覚悟を持って会場探しを始める過程で、卒業生を介してたつの市が実施している景観形成地区の活性化事業や、まちづくり協議会の空き町家利用対策と出会い、小さな空きビルで初の校外ファッションショーが実現した。放課後の掃除から始め、学科生徒全員で作り上げた50人で満席になる会場で、生徒の保護者に来場を依頼して3回公演を実施した。幕を開けてみると、予想以上の地域住民の来場者数に驚き、高校生の町なかでの活動が支持されたことを実感した。また、このことが観客の少なさに悩んでいたデザイン科の制作展覧会を、空き町家を会場に「町ぢゅう美術館」と銘打って実施する契機となっただけでなく、ファッションショーが実現する過程で、たつの市の関係部署やまちづくり協議会を通して地域の活性化や地域振興が進んでいない現状を知ることになった。そして地元の高校として「自分たちにできること」を使って、「自分たちがしたいこと」をすることで、地域の活性化に貢献することを考え始めた。 変化 校外でファッションショーを始めて2年目の春、皮革業者から「捨てる皮革があるけれどいりませんか」という電話があった。ファッションショーは生徒の自主企画、自主運営を原則として実施しており、参加各生徒から500円を徴収して材料費に充当していた。服を作るための布等は各家庭で使用しなくなった衣服であったり、シーツを染料で染めたりして使用していたので、廃棄する皮革は私たちにとって宝の山だった。この出会いが、身近にあるにもかかわらず考えもつかなかった地場産業との連携を生み出し、産地祭りとしてのイベントとしてのファッションショーに発展する。お互いが連携の生み出すメリットの大きさに気づいた後、一気に行政、学校、企業との連携につながり、「町おこし」へ拡大していく。現在では、業界はもちろんのこと行政や地域からも地場産業の宣伝と活性化に対する貢献について高い評価をいただき、生徒が皮革組合に対してファッションショーで制作する服をプレゼンテーションしたり、別注材料を提供していただいたりしている。また、県内地場産業である西脇市の播州織りと連携してショーを実施している西脇高校と一緒に、たつの市でショーを実施したいという生徒の提案がきっかけで、「布」と「皮革」の「企業と地域」を巻き込んだ産地交流を生み出すなど、さらに大きな成果をあげる活動になった。平成20年度には、JR西日本と連携した列車内の路線マップ制作などのローカル線利用促進への協力、地域企業・県地域リハビリセンターと連携して制作した訓練用具の商品化など、取り組みの幅がさらに広がっている。 三つの取り組みと参加団体(平成19年度) ①わくわくアート(2年生が7月下旬の土日に実施) 地域商店のアーケード街で、住民と一緒に実施する公開野外制作展覧会。 参加団体:龍野ショッピングセンター、兵庫教育大学、神戸芸術工科大学、地域オープン講座受講生、地域住民、県立龍野実業高校デザイン科 ②ファッションショー(1~3年生の希望者80人が11月下旬の土日に実施) 「ひょうご皮革フェア」「たつの市皮革まつり」のイベントとして実施する地場産業の皮革を使ったファッションショー。 参加団体:たつの市、兵庫県産業労働部、県立工業技術センター、県立皮革工業技術支援センター、県立繊維工業技術支援センター、県皮革組合連合会、市皮革組合、川崎重工(株)、カワサキモータースジャパン、ホテルシーショア御津岬、龍野幼稚園、龍野・小宅・誉田の各小学校、神戸ファッション専門学校、上田安子服飾専門学校、県立西脇高校生活情報科、県立龍野実業高校デザイン科 ③町ぢゅう美術館(デザイン科全生徒が2月中旬の金土日3日間で実施) 3年生の卒業制作と1・2年生の年間制作の発表を兼ね、旧城下町全域(たつの市景観形成地区)を美術館に見立て、空き町家をギャラリーとして行なう地域ぐるみの展覧会。 参加団体:たつの市、たつの市高齢者生きがい創造センター、たつの市美術協会、揖龍文化協会、美術作家、美術大学生、龍野幼稚園、龍野・小宅の各小学校、地域オープン講座受講生、県立龍野実業高校デザイン科 組織 高校生が企画・立案・運営することを原則とし、各取り組みごとに行政が裏方として商店街・地場産業・まちづくり協議会などの大人や地域住民を組織し、活動を支えるという形態をとる。学びの場を地域へ拡大した活動とその組織化は、学校と地域が一体となって取り組む地域人材の育成に繋がり、町の活性化について地域で考え、世代を超えて皆で取り組むという地域住民の自立意識の萌芽を生み出した。 成果 活動当初は、「生徒の学習意欲をどうすれば喚起できるか」という教育の視点で活動を捉え、デザイン科生徒の特徴を生かしながら集団の中で個々の生徒が存在を確認できる場としてファッションショーを設定し、規律の遵守という生徒指導と同時に自主自立など人間形成の場として構築していくことを考えた。活動は、たくさん地域住民の支援をいただいたことで、考えもしなかった「町づくり」という視点を得ることになり、このことが「地域と高校のあり方」について考える契機となった。 本活動の「高校生が町をつくる、文化をつくる」という夢のようなタイトルは、教育の分野が地域の行政や産業界と協力し、「町づくりに必要な人材を地域の特徴を生かしながら地域全体で育成する」という方法を取ることで少しずつ可能になり始めた。地方の高校では、家庭の事情などで地元を離れることができない生徒は多い。将来の地域の行事や取り組みを継承する人材である生徒が、高校の時期から「白分ができることを使って、自分がしたいことに取り組む」という活動は、生徒にとって「地域のあり方を見直したり、地域にあるものを活かす作業につながり、その土地でしかできないことを発見する活動」に繋がっていく。 今年で活動は7年目を迎える。30年間、住民の出入りのなかった旧城下町商店街に若い世代が戻り始めた。高校生の活動は、一学科の生徒のイベントから地域ぐるみのイベントヘ発展し、地域の伝統や文化に新しい形を吹き込み、地域に夢を与え始めた。 まとめ ①高校は地域人材の供給という点で地域の中心であり、学校と地域住民が協力して地域の特色を生かした町づくり活動に取り組むことで、生徒の学習意欲の向上や地域教育力が回復するだけでなく、生徒も住民も学校と地域のあり方を見直すことにつながる。 ②地方の高校は、設立当初から地域の社会や経済を支える目的で設置され、多くの卒業生を地域に抱えている。都市と比べて人間関係が濃密な地方は、地域に住む卒業生という人的財産を教育と地域活動に同時に活かすことができ、その成果は大変大きい。 ③地元の高校生を活動の中心に据えた活動に地域住民が参加することは、自動的に学校教育への協力になる。また、活動内容が利益優先ではなく、地域の特徴を生かしたり人材の育成につながる内容であるため、参加する多くの団体や人の共感を呼ぶだけでなく、多様な世代の参加者が達成感や感動を共有したり、成果を実感することができる。 ④本校のような地方の高校でも、生徒の活動が「町おこし」の原動力になることが実証できれば、過疎化・少子高齢化に悩む地方で、地域経済や文化の担い手を地元で育成できるという希望が生まれる。 |