「あしたのまち・くらしづくり2008」掲載 |
<まち・くらしづくり活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
市民・事業者・行政のパートナーシップで環境活動 |
青森県弘前市 ひろさき環境パートナーシップ21 |
HEP21の活動の経緯など 弘前市では、平成11・12年度の2ケ年をかけ、市民参画に重点を置きながら、市の環境行政の指針となる環境基本計画の策定作業を進め、平成13年3月に「弘前市環境基本計画(市町村合併により失効中)」が策定となりました。その際、少子高齢化社会や経済の低成長時代を迎え、社会の担い手として、市民・事業者・市(行政)のいずれか一つへの依存はできない状況になってきていたことから、市民・事業者・市それぞれが役割を分担し自ら考え行動する、パートナーシップ(協働)に基づく成熟した参加型社会をめざすこととし、その仕組みづくりをすることとしました。そのためには、市民一人ひとりや行政が、環境の保全に対する責任と役割を果たしながら、ともに助け合い、学び合い、理解し合うパートナーとしての関係を築くことが求められました。 市民・事業者・市は、パートナーシップのあり方について、9か月余りにわたり協議を重ねた結果、将来的に法人化も可能な市民・事業者主体の自立的な任意組織と市が、環境パートナーシップ協定を締結し、環境基本計画に盛り込まれた各種施策を協働して推進する方法を選択しました。 平成14年2月、環境基本計画を策定した検討委員会の市民委員の方々が中心となって、市民・事業者主体の市民組織「HEP21」が設立され、同3月、弘前市との間で、役割分担やパートナーシップ(協働)の原則を明記した「環境パートナーシップ協定」を締結し、様々な環境活動をスタートさせました。環境基本計画策定段階での協定締結は他にも例がありましたが、環境基本計画推進段階での環境パートナーシップ協定締結は、当時は全国で初めてと聞いております。ただ、現状では、パートナーシップはまだ成熟しているとは言えないので、市民・事業者・行政のパートナーシップの醸成を第一目的とし、合意形成を図りながら、協働や信頼関係を積み重ねる場としています。 HEP21は環境の保全や創造に関する取り組みを自主的、主体的に行なっていただける方なら、市民、事業者、各団体等誰でも会員になることができます。自然環境・地球環境・生活環境・快適文化環境・農業環境の5グループがあり、それぞれテーマを持って、パートナーシップを基本に、様々な環境活動を行なっています。 自然環境グループの活動と成果 自然環境の復元をテーマとし、市内里山地域にある休耕田(約5500平方メートル)を活用した「弘前だんぶり(とんぼ)池」づくりや、自然観察会(野鳥・植物・溜池等)の開催のほか、寺社林観察会、ホタル観察会の開催やホタルマップづくり、また、「湧き水探検隊」や自然体験として宿泊体験会の開催(白神山地など)、だんぶり池調査やホタル調査等のまとめとして自然学習会などを開催しています。 特にだんぶり池づくりでは、協定締結後すぐに環境基本計画の重点施策である「自然環境の復元」を具体化するため、貴重なトンボ等が残っていた休耕田を対象に、ビオトープ(生物生息空間・トンボ池)づくりを始めました。その中で、HEP21の自然環境グループを中心とする市民・事業者は、トンボ池のデザインや実際の整備作業を担当し、市は休耕田の購入手続きや、整備に必要な材料や道具類を準備するなど、お互いの得意な分野を役割分担し、協働して作業を進めることとしました。 平成14年5月には、休耕田のヤナギ抜き作業に取りかかり、平成15年10月には半分ほど整備が進んだため開所式を開催して、正式に「弘前だんぶり池」と呼ばれるようになりました。その後も木道や通路の整備を進め、平成16年9月にはほぼ全体が完成しています。現在は、補修作業や草刈作業等の維持管理を行なうとともに、ホタル観察会や地元小中学校の自然学習の場などとして活用しています。 弘前だんぶり池では、青森県のレッドデータブックで絶滅危惧種に指定された「ハラビロトンボ」や「ハッチョウトンボ」をはじめ、40種のトンボが確認されたほか、ゲンジボタルやヘイケボタルなど多くの昆虫類、里山に自生する様々な植物、また、カエルやサンショウウオなどの両生類、希少となったメダカも確認されており、多様な生物が生息する貴重な空間となっています。 弘前だんぶり池は、市民・事業者と市が協働して事業を行ないましたが、行政のみの事業とした場合は、何倍もの事業費を要したことでしょう。また、完成後の維持管理費も相当要したものと思われます。市民・事業者が自らデザインし、自ら整備作業を行なったことにより愛着もわき、完成後の維持管理まで行なっています。このように市民力を活かすことにより、経費削減とともに、市民が本当に望むものができていくのが市民参画・パートナーシップと言えます。 地球環境グループの活動と成果 地球環境の保全と環境教育をテーマとし、HEP21こどもエコクラブ(酸性雨研究・自然観察など)の開催や、過剰包装にかかる教室や各種環境講座の開催、地球温暖化防止のための啓発活動とか、また、環境関連資格(環境カウンセラー・公害防止管理者等)試験対策講座の開催や、省エネラベル普及活動、青森版環境マネジメントシステム(AES)の普及や、エコアクション21説明会開催などを行なっています。 特に、AESの普及に関しては、当初、地球環境グループが、京都のKES(京都版環境マネジメントシステム:全国2200社認証済)をそのまま導入し、主に、県内の中小企業を対象に、環境に配慮した企業活動を進めてもらうために認証組織を立ち上げました。国際規格のISO14001は認証取得に多大な経費を要するため、中小企業への普及は困難でした。そこで、安い経費で(ISO14001の10分の1程度)環境マネジメントシステムを構築する方法として、京都で開発されたKESを、県内に普及しようという事業です。現在は、HEP21から独立させ「青森環境マネジメント・フォーラム」として事業を行なっています。県内18社ほどを認証済みです。このような事業も、行政主体ではなかなかできない事業ですが、市民が立ち上げて、行政が支援する形であれば、実現が早くなる事例です 生活環境グループの活動と成果 ライフスタイルの変更をテーマとし、資源循環型社会の構築に向けて、環境講座や古紙学習会、裂織教室や廃油リサイクル等体験教室、牛乳パックを活用した紙漉きなども行なっています。また、グリーンコンシューマーや食の安全・安心に関して、環境講座やエコクッキング教室、また農業グループと連携した有機農業の実践を行なったりしています。また、環境美化のため「まちかど広場クリーン大作戦」を開催し、実際にごみを拾ったりする活動も行なっています。クリーン大作戦では年々参加者が増えています。 快適文化環境グループの活動と成果 歴史・文化・街並みの保全をテーマとし、残したい歴史的文化遺産の調査や、活用方法の検討などを行なっています。また、快適・文化環境の形成に係るシンポジウムやフォーラムの開催、文化環境の観察を目的として「弘前城跡巡り」等を開催したり、意識調査のため、各種アンケートを実施したりしています。さらに、弘前市内で開催された「奈良美智展」の応援なども手がけ、文化環境の向上にも寄与しています。 農業環境グループの活動と成果 環境保全型農業の推進をテーマとし、有機農法(健康栽培)実践講座の開催や、食の安全・安心に係るシンポジウムや健康料理講座の開催、環境マネジメントシステムの農業版の検討などを行なっており、農業と環境の関わりを追求しています。 その他の活動 環境問題啓発のため、各グループ合同でエコフェスティバル(展示等)を開催したり、HEP21の活動状況や、環境情報を載せた環境広報紙の発行も行なっています。また、啓発のため地元コミュニティFMアップルウェーブでの放送(毎週「環境ゼミナール」)や、「岩木川鮭を見る会」と合同で岩木川への鮭稚魚放流を行なったりもしています。さらに、地元弘前大学と連携し、各種生物調査や水質調査、また、学生環境サークルとの連携により、不用品活用事業や省エネラベル普及活動を行なったり、弘前地区環境整備事務組合と連携し、環境整備センタープラザ棟で各種展示・環境講座等を開催したりもしています。 活動を通じて得たその他の成果 環境に関しては、直接上記のように成果がありましたが、市民・事業者・行政のパートナーシップで協働してきたことにより、パートナーシップの原則に対する理解の進展が見られました。ひとつは、対等性の原則(市民・事業者・市民団体・行政は対等な立場でつきあうということ)であり、二つ目は、情報の共有と公開の原則(お互いの持っている情報を、隠し立てせずきちんと提供するということ)です。三つ目は、参加の原則(各主体の違いを認め、生かすということ、不一致になるともうだめというオールオアナッシングではなく、合意できる点では行動する、一致できる点で協力する、大きいビジョンでは一致するというふうに)です。パートナーというからには、理解し合い、支援(サポート)し合う関係です。これまでの、市民と行政との関係は、ともすると一方通行的な関係や、良好とは言い難い部分もあったわけですが、21世紀は協働しキャッチボールをするような、双方向の関係が求められてきています。 市民・事業者・行政が「パートナーシップ協定」を締結して協働するという、このようなやり方は、今日の様々な問題を解決するツールとして、「環境」という枠組みにとらわれず、「教育」や「福祉」など様々な分野に応用可能ではないでしょうか。 |