「あしたのまち・くらしづくり2008」掲載
<企業の地域社会貢献活動部門>あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

歴史の薫るゆとりあるまちづくり事業―やさしさと安心であふれる商店街構築―
兵庫県神戸市須磨区 須磨寺前商友会(須磨寺前商店街)
 須磨寺前商友会(須磨寺前商店街、以下商店街)は、兵庫県神戸市の山陽本線・須磨寺駅に立地する商店街である。商店街は神戸市内唯一の門前町であり、その街路には須磨寺への参拝客をターゲットとした喫茶店や和菓子店、寿司屋等がある。店舗数は72店であり、空店舗はわずか1店となっている。
 毎月20日・21日には須磨寺で「弘法大師御影供(通称:お大師さん)」が開催され、その際には多くの人で賑わう。また、源平ゆかりの地として、平敦盛の青葉の笛や、敦盛首塚、義経腰掛の松など、多数の重宝や史跡があり、NHKで「義経」が放映された際には多くの観光客が訪れた。
 その一方で、商店街には生鮮食料品店が極めて少なく、毎日の買い物客に直結していない。主に生鮮食料を扱っていた須磨寺駅前の公設市場が2007年4月に閉鎖した影響も大きい。同時に、お大師さんの日の参拝客は年々高齢化し、その数が徐々に減ってきていることも見逃せない。つまり、お大師さんの日以外の参拝客や買い物客に如何にして商店街に訪れてもらうのか、という点が課題となっている。


まちづくりのきっかけと活動の始まり

 商店街がまちづくりに取り組むきっかけとなったのは、須磨区役所から拠出された、地域づくりのための助成金であった。これを元に商店街は下記で紹介する「ざっくばらんに語る会」を始め、コンサルタントの助言を受けながら、以下の活動を平成12年頃から開始した。

1.ざっくばらんに語る会
 須磨寺町自治会館にて「地域活性化」を目的として原則毎月1回開催している。現在、参加メンバーは須磨区役所、NPO法人須磨歴史倶楽部、NPO法人しゃらく、有限会社プランまちさと、自治会、老人会、婦人会、商店街会員などとなっている。平成12年4月より開始し、開催数は既に90回を超えている。

2.楽市
 商店街をメイン会場として、一般の出店者の参加を得て、フリーマーケットを年2回(春・秋)開催し、約70のブースに店が並ぶ。お客様は姫路や赤穂、茨木からも訪れている。平成12年10月より開始。

3.光の回廊
 12月31日の大晦日から1月1日の元旦にかけて、商店街にロウソクを使って、光の回廊を演出し、お大師広場では須磨寺への参拝者にお茶の接待をしている。平成12年より開始。

4.七夕まつり
 毎年七夕まつりを7月初旬に開催している。神戸女子大学の学生による子どもたちを対象にしたゲームや商店街有志による「夜店」を行なっている。平成13年より開始。

5.須磨・智慧の盆
 毎年8月9日に須磨寺の「灯明会」に合わせて、商店街を中心に光の回廊を作り、同時にその日は婦人会の協力で「智慧の盆踊り」を行なう。須磨寺近辺に住む家族連れなどで賑わう。平成14年より開始。

6.朝市
 毎月第1日曜日に神戸市西区の神出町の協力で、新鮮野菜の即売会を開催している。即売会は1時間かからずに売切れてしまうほどの盛況ぶりである。また、商店街有志や地域住民と共に毎年3度ほど神出町を訪問し、農作業体験などの交流を行なっている。平成16年より開始。

 このように商店街は区役所の助成金を元に、主に季節に合わせてイベントや行事を定期的に行ない、商店街近郊の住民との交流を広げ、活動を定着させてきた。その結果、地域に根差した商店街として認知され始めていたが、地域外からの参拝客等が増えているわけではなく、商店街としては地域内と共に地域外にも発信できる活動を必要としていた。
 同時に、行政の財源不足によって助成金が打ち切られ、活動を継続的に行なっていくための財源を確保する必要性も生じていた。


地域の歴史資源を活用したまちづくり

 商店街の会員にはNPO法人や市民団体間のネットワーキングを行なうNPO法人しゃらくがおり、これまでに幾度となく商店街とまちづくりについての話し合いが持たれた。その過程で、須磨の地元伝承文化の調査や来訪者の観光案内を行なうNPO法人須磨歴史倶楽部との協働が考えられ、商店街とNPO法人しゃらく、NPO法人須磨歴史倶楽部と三者の協力体制が構築されていった。もちろん、これまでの区役所や神戸女子大学等の団体との協力関係も続いている。
 そのため、従来の活動は季節的なイベントや行事が主であったが、商店街の歴史資源を活用する活動に移り変わり、「歴史の薫るゆとりあるまちづくり」という商店街のキャッチフレーズに表される活動を本格的に展開していくことになった。また、NPO法人しゃらくが行政とのネットワークを生かし、助成金の申請等の役割を担い、財源の確保の側面的な支援を行なっている。
 このような過程で展開された活動は以下のものである。

1.統一のベンチを休憩所として商店街に設置
 商店街を訪れる方の多くが高齢者であること、山陽本線・須磨寺駅から須磨寺までの参道がゆるやかながらも坂道になっていることから、休憩所の必要性が以前から訴えられていた。そこで、高齢者にやさしいまちづくりを進めようということで、「ざっくばらんに語る会」にてNPO法人しゃらくが提案。その購入に当たり、デザインを商店街の雰囲気にあわせ、和の雰囲気を感じられる木製のベンチを2基購入。また、商店街のプレートを作成し、ベンチのサイドに貼り付けた。子どもからお年寄りまでベンチで談笑する姿が頻繁に見られるようになった。

2.須磨百首かるたを印刷した灯篭看板作成・設置
 NPO法人須磨歴史倶楽部が再興した須磨百首かるたをアクリル板に印刷し、その中に電球を配した看板(灯篭)を40基作成した。灯篭の中に明かりを入れると、須磨百首かるたが印刷された部分が浮かび上がるようにし、商店街を夜に散策しても楽しんでもらえるようになった。その結果、商店街全体の雰囲気・イメージが統一化され、灯篭の写真撮影や模写を目的とした来街者が訪れるようになった。また、商店街でも須磨百首かるたを勉強し始める人も増えた。灯篭は神戸新聞や読売新聞で取り上げられた。

3.須磨百首かるた大会開催
 灯篭設置後、その認知度はアップしたが、須磨百首かるたそのものを見たことがなく、遊び方も分からないという人はまだ多かった。そこで、その普及啓発を目的としたミニかるた大会を開催、かるたの解説やワークショップを平成19年春に2回行なった。その年の秋には須磨寺本坊にて須磨百首かるた大会を開催した。参加者は130名と地域内外の住民、また神戸女子大学の学生など多様な参加があった。

4.地域ブランドはし袋「智慧の道」の開発
 オリジナルはし袋の製作グループ「KOBE娘」との協力により、地域ブランド「智慧の道」のはし袋を開発した。はし袋は上半分に須磨に関係した俳句等を毛筆で入れ、下半分には侍やお姫様などの人形を折り紙で貼り付けている。商店街は観光地でありながらも、今まで統一された土産物を準備していなかった。しかし、はし袋が地域ブランドとして認知されていく中で、結果的に商店街もブランドの必要性を再認識することになった。また、お大師さんの日には毎月新作を楽しみに商店街を訪れる人もいる。

5.商店街の取り組みを紹介するパンフレットの作成・配布
 今まで商店街の活動を紹介する宣伝ツールが存在しておらず、地域住民への告知もまだ十分とは言えなかった。パンフレットの仕様や内容等は「ざっくばらんに語る会」にて地域住民の声を取り入れながら作成された。現在は商店街の各店舗に展示され、商店街の取り組みに対する認知度及び集客アップに繋がっている。

6.さくらライトアップの実施
 灯篭の設置と共に、商店街では歴史と光のコラボレーションに力を入れている。そこで、須磨寺公園をライトアップし、まち全体の雰囲気・イメージ作りを進めている。桜が咲く3月下旬から4月中旬とし、18時から21時まで夜桜を鑑賞できるようにしている。

 以上のように、これらの活動は商店街の来訪者を増加させるという目的を持つ一方で、歴史資源を活用した地域づくりや地域ブランドの開発などトータルにまちづくりを行なう事業となっている。


現在の課題と今後の展望

 このように、商店街は区役所の助成金を得ることでまちづくりを始め、その打ち切りと共にNPO法人等と新たに連携し、まちづくり活動を進めてきた。また、NPO法人以外にも須磨区役所や神戸市西区の神出町、神戸女子大学、KOBE娘など様々な団体や地域と交流しながら活動している。
 これまでの活動と成果を踏まえ、現状では主に二つの課題がある。
1.歴史が薫るまちとしてのブランディング化である。商店街では季節的な行事から歴史資源を活用する活動とその内容を変化させてきた。だが、まだその取り組みは始まったばかりであり、今後も地域内外にその情報を継続的に発信していく必要がある。
2.まちづくりの意識をみんなでもっと高めていくことである。商店街で活動する人たちのほとんどは商店主であるため、自分たちの商売を優先させてしまうことがあり、そのような人たちにもっと活動をしてもらうようにすることが重要である。
 このような課題を踏まえ、今年度以降は以下の点に重点的に取り組むこととする。
1.子どもたちを主な対象とし、須磨百首かるたを普及啓発していく。今まで開催した須磨百首かるた大会では子どもの参加が非常に少なかった。その課題を踏まえ、子ども向けの解説書などを作成し、老若男女すべての住民が須磨百首かるたに親しみやすくする。
2.灯篭やさくらライトアップを今後も重点的に取り組み、歴史と光のコラボレーションを一層地域外に印象付ける。
 以上の取り組みから、今後は地域内外ともに地域づくりと歴史資源の活用を重点的にまちづくりに取り組んでいく。