「あしたのまち・くらしづくり2009」掲載 |
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞 |
食育と伝統食 |
埼玉県和光市 和光市食文化研究会 |
「先人たちの知恵に支えられた郷土の食文化の豊かさ・すばらしさを学び、日々の食卓に生かして後の世代に伝えよう」という目的で発足したのが約10年前。現在、会員は男性18名、女性19名の37名です。 和光市では、昔から荒川の流域に人々が暮らし、そこには塩屋が建ち、下新倉に集中して甘酒屋、麹屋、味噌屋、沢庵屋、油屋、こんにゃく屋、菓子屋、素麺屋、豆腐屋、餅屋、魚屋、すし屋、だんご屋といった食に関する屋号を持つ家が軒を連ねていました。「100%自給自足」という背景に、素晴らしい食文化が展開されていたのです。そのような歴史と風土に育まれた、かけがえのない食の文化遺産を次の世代に伝承し、食を通して先人の知恵と豊かさを学び、もっともっと故郷を深く知って欲しいと願って活動しています。その活動を順に紹介致します。 聞き取り調査 研究会の第一歩は、和光市の農家の年配者を対象に、食に関する聞き取り調査をすることから始まりました。和光市の伝統食を模索し、記録をとり、レシピを作成し、テキストを作りました。これらの伝統食シリーズは、味噌、麺、沢庵、こんにゃく、醤油、甘酒、豆腐、梅干し、らっきょう漬け、手打ち蕎麦、手打ちうどん、冷汁、酢、七夕まんじゅう、常備菜などで、その他を合わせると20冊を超えます。また、伝統食がどのような点で身体に良いものかもテキストに記載しました。解らないところは、東京農業大学を訪ねて教えていただくなど研究を重ねてきました。また和光市白子宿の明治から昭和初期頃の様子を東京都江戸東京博物館の北原進館長指導のもと、模造紙大の絵地図に作成しました。湧水が豊かで天然氷もでき、日本で最初にマスの養殖をしていたことも一目でわかります。この絵地図は、市の全公民館に掲示されています。 伝承活動 毎年和光市の市民祭、農業祭、公民館祭、その他諸行事に参加し、伝統食を紹介しています。味噌、甘酒、醤油、糠床セット、漬物類、おこわ、ちらし寿司、手打ち蕎麦、手打ちうどん、冷汗、梅干し、和菓子、洋菓子などどれも化学調味料や人口甘味料等を一切使用せず昔のままを追求した本物ばかりです。特に蕎麦は和光の畑で栽培・収穫し、石臼で挽きたての新蕎麦。いつも大人気でお客様の長蛇の列ができます。 公民館通学合宿で食育 和光市教育委員会の主催による中央公民館通学合宿で5年連続して食育を実践してきました。昔ながらの「かまど」でご飯を炊き、味噌から醤油、梅干し、らっきょう漬け、切り干し大根、沢庵、手打ちうどん、お菓子、ジャムに至るまで、全て手づくりの伝統食中心の料理を整えて子どもたちとともに味わい楽しみました。 まず大人が子どもたちのために「食」にふれる場を設け、料理し、食卓を調え、食事を楽しむことで味覚だけではなく心の満足をもたらしてあげることが大切です。みんなが自主的に力を合わせ、手づくり料理を楽しみ、子どもたちもその感動を存分に味わってくれました。食を含め、本物の出逢いがもたらす感動の場こそが、教育の原点なのだと確信します。また5回目に初めて「小学生のテーブルマナー」を試みましたがこれも大成功でした。普段は殺風景な公民館の一室ですが、テーブルクロスに秋の花々が飾られ、夢のような一大レストランに変身しました。ここで子どもたちは、自分たちで作る手づくりのフランス料理のフルコースを頂きました。マナーを指導するのは、食文化研究会会員の元ドイツ大使などを歴任した大使夫人の高島愛子さんです。長い海外生活の中で身につけた実践的なテーブルマナーは子どもたちにとって解りやすかったようです。お手伝いくださったお母様方にとっても大変勉強になったということです。 食育講座の誕生 公民館通学合宿に参加した子どもたちが家に帰り「合宿のご飯おいしかったよ。お母さんも食文化研究会で料理を教えてもらったら?」と言ったのでしょう。入会の申し込みが殺到しました。しかしながら、食文化研究会は会員が多すぎて、調理室にこれ以上は入れません。そこで和光市中央公民館の主催で「食育講座」を開くことになりました。 ・第1回 手づくり味噌 ・第2回 マーマレード ・第3回 梅干しと梅料理 ・第4回 手づくり豆腐 ・第5回 沢庵漬け ・第6回 手づくり麹・甘酒・味噌 ・第7回 2DKでできる手打ちうどん ・第8回 常備菜 手間の要らない便利さ、見かけだけの美しさが日常生活のいたるところで人々を惑わせている中、健康に生きていくのに欠かせない「安心・安全な食事」を家族のために整えるには、一体どんな食材を知り、選び出し、食卓に並べたらよいか、毎日の食事がいかに大切か、食育講座でその意義を見出し実践していく動きが形作られました。お母様方に伝統食がスムーズにそして次々と伝承されていきました。 NPO法人わこう子育てネットワークとのコラボレーション 子ども(0歳児から)とお母さんが一緒に講座に参加し、一緒に感動できる地域ならではの食育講座を目指しています。キャンセル待ちの人気講座です。マンションにお住まいの若いお母様方が多いので、伝統食を2DKでも作れるようにテキストを改良しまた。 ・第1回 2DKで出来る味噌づくりと味噌懐石 ・第2回 お庭の夏みかんでマーマレード作り ・第3回 2DKで出来る梅干しと梅のご馳走 ・第4回 春薫る草餅づくり 若いお母様方には、どれもこれも初めての経験でしたが、意外と簡単なことにびっくりしていました。草摘みを一緒にして私が驚いたことは、誰も「よもぎ」を知らなかったのです。子どもたちはよもぎの香りを胸いっぱい吸い込んで「ワァー、いい匂い!!」と感動していました。「この感性こそが大切なのだ」と直感しました。このような体験をたくさんの子どもたちにしてもらいたいと考え、この講座では地元の農家のご協力を頂いて、畑に植えられている梅を子どもたちがもぐところから梅干づくりの勉強をしてもらいます。フワフワの畑の上の感触に、子どもたちは大喜びです。恐る恐るジャンプしてみる子どももいます。土を知ることから食育が始まるのですから。地元和光の自然に育まれた食材での料理と伝統を伝える活動は、食文化研究会の主旨に賛同し、協賛して下さる地元の農家の方々のご協力なしでは実現しません。地域の暖かいみなさんに支えられ、親子で楽しみながら伝統食を作る心豊かな食育講座がまた生まれました。伝承の輸がまた増えました。 和光市の休耕地を利用して農作 地域の失われた特産品である蕎麦、大豆、小麦、キビ、ゴマ等を自分たちで育てて収穫し、地域の皆様に提供しています。地元の農家の方が6反近くの畑を無償で貸して下さるので、昨年は3反に大豆を作り、630キロ収穫しました。天日干しの手造り大豆は甘く、買ったものとは比較になりません。日本では需要の5%しか大豆は作られていません。95%は輸入で、その中には遺伝子組み換え大豆も含まれています。食文化研究会の大豆はおいしいうえに付加価値がありますので、みるみる捌けていきました。 小学校総合学習で食育指導 昨年12月、和光市立第3小学校の2年生・3年生の総合授業で「沢庵漬け」と「手づくり味噌」の食育実習を指導しました。材料の大豆はもちろん食文化研究から、その他麹の原料となるお米、練馬大根など、全て和光市域の有志の方々が丹精込めて作ったものを提供して下さいました。父兄の方も大勢がお手伝い下さり「地域ぐるみで食育」が実現できました。子どもたちが畑で大根を引き、洗い、校舎のバルコニーに干し、2週間後に噂に漬け込みました。約1か月後に漬け上がり子どもたちが大喜びで食べました。調味液に漬けただけの紛い物の沢庵に馴らされていた子どもたちが発酵した本物の沢庵を食べた驚きと喜びの顔が目に浮かびます。本物の味は一生忘れることはありません。味噌づくりは、まず子どもたちに茄でた大豆の味を覚えてもらいました。「甘い! 栗みたい! おいしい」の連発でした。小さな手がこの大豆をつぶし、塩と麹を混ぜました。丸めて空気が入らないように樽に入れておしまいです。約1年後に、あの豆たちがお味噌になっている姿を見て、どんなにびっくりすることでしょう。その他にも幼稚園、保育園、小学校の地域子ども教室で食育指導を行ない、会長を初め、会員がそれぞれの得意分野の講師として活躍しています。 彩の国鍋合戦に参加 全国自慢の鍋軍団が和光市に集まる日本最大級の鍋料理コンテストです。来場者がそれぞれの鍋を食べて、一番美味しかった鍋に投票するイベントです。そこで、化学調味料や添加物を一切使わず、だしはもちろんのこと自家製手作り醤油等を使用し600食分の鍋を作り、正真正銘の食文化を紹介しました。第1回鍋合戦では、「牛肉のワイン鍋」で優勝、第2回鍋合戦では、「鴨肉のうどんすき」で準優勝、第3回鍋合戦では、「ふくふく鍋」で優秀賞など常に優秀な成績を収めています。 その他の活動 朝日・毎日・読売の3大新聞及びスマイル読売、スマイルFM、地元の和光新聞、和光市民新報などで食文化研究会が注目され掲載して頂きました。なお和光市民新報には「食育と伝統食」と題し2年に渡って執筆し連載されています。 今後の活動ビジョン 和光市民の食べるものは、主として和光の畑で自ら作り食卓に並べることが望ましいと思います。和光市の休耕地で大豆が立派に育つことが食文化研究会により証明されました。厨房さえ整えば和光市民の食べる味噌、醤油、納豆、豆腐を作ることはすぐにでも可能です。市、商工会、農協と食文化研究会とのコラボレーションが始まりました。実現に向けて現在進行中です。理化学研究所から「世界に誇る日本の伝統食を歴史ある和光市から世界に発信しよう」とコラボレーションのお誘いがありました。現在検討中ですが伝承活動がグローバルにもなりそうです。そして何よりもうれしいことは、食文化研究会の全員の皆さんがほんとうに生き生きと誇りを持って活動を続けていること、様々な企画、イベントに協力、参加して下さる地域の皆さん、そして子どもたちが輝くような表情を見せて喜んでくれることです。後々まで、この活動と成果を伝えていきたいと心から実感する思いです。 |