「あしたのまち・くらしづくり2009」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

みんなで子どもたちを守る住民ネットワークによるまちづくり
埼玉県和光市 和光市地域子ども防犯ネット
 和光市地域子ども防犯ネット(以下、防犯ネット)は、和光市内の小中学生保護者を中心に組織する市民団体である。和光市の子どもたちから犯罪の被害者も加害者も出さないことを願いとして、平成13年から活動している。狭義の防犯活動にとどまらず、人と人とのつながりやふれあいを通して、子どもがのびのびと安全に過ごすことのできるまちをつくっていくことをめざしている。
 現在では、全国的に多くの自主防犯団体が活動しているが、防犯ネットは①設立段階から現在まで完全に住民主体の組織として活動してきたこと、②市内各地域で活動する単位保護者会の活動を支援し、情報交換・交流の場をつくり、自治会等の地域団体や行政、関係機関とのネットワークをひとつずつ構築して、子どもたちを取り巻く地域の大人が連携していくことを、活動の主眼としていることを特徴とする。子どもの安全を守る活動を通して人と人との関係性をつなぐ地域づくりの活動である。
 少し迂遠に見えるかもしれないが、わが子を含めた地域の子どもたちに関心を持ち、目をかけ、社会や地域に伝わる知恵を伝え育ててくれる大人を増やしていくことが、わが子の安心安全につながる。自分自身がそのような大人として地域でできることをしていこうという思いを共有して、代々地域に住んできた住民と、和光市に転入してきた新たな住民が、一緒になって一から組織を作り上げ、思いを行動にして一歩ずつ活動を進めてきた。


主な活動

 私たちが取り組んでいる活動は、基本的にすべて自分たちが必要だと考えることを自分たちで計画し、活動に伴う事務局機能や作業をすべて自分たちで負っている活動である。市民主体の活動であることを大事にしながら、行政・関係機関や関係団体と連携して活動している。

(1)校区間連絡会議
 年間10回ほど開催し、市内全小中学校から保護者の代表数名ずつが出席している。登校区の防犯活動や地域の状況等の情報交換・意見交換、学習会・ワークショップ等を行なっている。全校区から保護者が集まる数少ない場として、貴重な保護者間の交流、連携の場となっている。

(2)市内全域一斉パトロール
 毎年7月と3月に、市民の防犯意識向上と防犯ネットの活動アピールを目的とする一斉パトロールを行なっている。各校区がそれぞれ校区の事情に合ったやり方で、同日一斉にパトロールを行ない、午後5時と9時には駅前に集まって、チラシや防犯グッズの配布、駅前交番から市内の近況報告などを行なう。この集会には、保護者をはじめ、学校教職員、和光市・朝霞警察署等の行政職員、自治会関係者、その他多くの団体から、様々な立場の人たちが参加し、連携確認の場ともなっている。毎回、駅前集会約300名、市内全域では延べ1000名の市民が、「みんなで子どもたちを守る」という意志を共有して動く。

(3)講演会・学習会
 毎年、保護者や市民が参加する講演会や学習会を開催している。防犯、非行防止、性教育、携帯・インターネット、思春期の心と体など、保護者や市民の関心のあるテーマで、毎回100名以上の参加者がある。
 また、地域のネットワークづくりや青少年との関わり方をテーマとするワークショップや学習会等を継続的に開催している。「私たちから子どもたちへ伝えていくもの」をテーマとする継続的なワークショップ、不登校を経験した子どもたちの声に耳を傾ける学習会などを行なった。

(4)情報発信
 市教育委員会から配信される不審者情報および県警のニュース等に基づき、登録されたアドレスに、防犯速報をメール配信している。現在登録数約850件となっている。近隣の事案や不審者情報を知っておきたいという保護者の強い要望を受けて、情報を共有することにより子どもたちに関心を持つ大人を増やしていくことを目的としている。

(5)防犯ツールの提供
 『みんなで子どもたちを守ります』という文言のラミネート加工したポスターを、申し込みがあった校区名、自治会名等を入れるオーダーメイド方式で、配布している。自治会との関係づくりと防犯効果の一挙両得をめざした事業。現在市内300か所程度掲示されている。また、自転車につける『防犯パトロール中』のステッカー等の提供も行なっている。

(6)キッズガーディアン
 地域で子どもたちへの声かけや見守りをお願いしているが、声をかけると逃げられてしまう、子どもと接するきっかけとなるような印がほしいという声を受けて、キッズガーディアン証を団体経由登録者に配布している(首から下げるタイプ)。各小中学校を通して、キッズガーディアンの図柄と、このカードをつけている人は、子どもたちを見守ってくれている人たちだという趣旨を伝える手紙を児童・生徒に配布している。キッズガーディアンをきっかけに、互いに顔見知りになることで登録証の悪用を防ぎ、子どもと地域の大人、とりわけ高齢者との交流が生まれることをねらいとしている。19年度は、学校の引き取り訓練等の機会を利用して、校区のキッズガーディアンと子どもたちの顔合わせを3小学校で行なった。

(7)子どもたちを犯罪から守るまちづくり活動
 防犯ネットでは、平成15年度から子どもたちが実際に危険な目にあった場所を調査し、犯罪危険地図を作って、危険地点を改善していく活動に取り組んでいる。(図1)
 調査の結果、和光市ではおよそ4人に1人が危険な目にあった経験があることがわかった。また、10月頃の急速に日が短くなる季節に被害件数が多く、時間帯としては、16時から17時の下校時、場所は道路上(登下校路)がもっとも多かった。
 校区の危険地図を作成したら、それに基づいて実地踏査(フィールドワーク)を行なう。このとき、地域の子どもたちを取り巻く様々な立場の人たちに、どれだけ参加してもらえるかが、成果を左右する鍵になる。保護者が子どもたちの行動するエリアを足で歩いて知ることは、それだけでも意味があるが、さらに地域の自治会、民生児童委員、学校の教職員、市や警察等々に広く声かけして参加してもらえると、改善案の実行に向けての連携ができるという点でも、大変効果的である。
 危険地点の改善案としては、行政への要望事項(公園樹木の管理、外灯の設置、公衆トイレの管理、看板の設置等)と、自治会や保護者など地域住民ができることに分け、緊急性の高いものから取り組んでいくことにしている。改善案は場所の物理的改善にとどまらず、住民の動線や目線を変えたり、新たなコミュニティの活動や地域の関係性を創出するなど、多様な発想で取り組まれている。また、この活動をきっかけとして保護者と自治会との連携ができたり、危険な場所を認識した保護者たちによる自主的な活動が始まったりという派生的な効果もあった。たとえば保護者が「子どもを守る家」一軒一軒に挨拶をしながら日頃のお礼と協力のお願いをして回ったり、改善策を盛り込んだ地域の手作りマップを配布するなどの活動である。
 活動を.通して実感したのは、子どもたちの声に耳を傾けることの必要性である。大人の思い込みではなく、子どもたちが発する声を真摯に受け止め、その期待にこたえていくことが、地域の大人と子どもの信頼関係をつくり、子どもたちの安心と安全を確保する地域の土壌を育てていくのだと思う。


成果~人とつながるネットワークづくり~

 防犯ネットの活動は何もないところから立ち上げた活動であり、設立当初は、市に防犯を扱う課も市民活動を扱う窓口もない状況だった。また、和光市にある3中学校、8小学校のうちPTA組織があるのは5校のみであり、保護者の活動の基盤となる組織を持たない学校もあるという状況でもあった。縦割り行政の枠にはまらず、市の関係すると思われるあらゆるセクションを回って一つずつつながりを作った。
 防犯ネットは、代々和光市に生み続けてきた住民と新たに移り住んできた住民が一緒に作った団体である。設立当初から地域とのつながりを大事にし、自治会との連携は欠かせないという認識を持っていた。新たにできた団体に対する抵抗感は大きかったが、こまめに活動のお知らせや報告を各自治会に送り、自治会の名前を入れたポスターを持って掲示のお願いに回り、地区懇談会で時間をもらって活動の説明や協力のお願いをしてきた。その結果、年々一斉パトロールや総会への参加自治会が増え、また活動ヘの賛助金拠出、ポスター掲示など、何らかの形で活動を支えてくれる自治会は、当初の数団体から40団体余りに増えた。(市内自治会は約100団体)
 その他、関係機関や保護司会、民生児童委員、非行防止ボランティアの方々、消防団、わんわんパトロール隊、高齢者団体、婦人会等様々な団体の協力を得て活動を行なっている。(図2)
 これらのネットワークは、活動を理解してもらうためにまめにコンタクトをとって、人と人との関係を築くことで作り上げてきたものだ。事務作業も効率優先より極力気持ちが伝わるやり方をとってきた。
 このような地域づくりの活動は、労力と気持ちを注いで一歩ずつ進めていく活動である。マンパワーも必要だし、活動を支えていくメンバーのモチベーションをどのように維持していくかはいつも最重要課題である。しかし、労力と時間を提供し続けて愚直に活動を継続していく活力源は、誰かが供給できるものではない。関わるメンバー一人一人が、自分の生き方、地域や社会とめ関わり方を考えていく中で生み出していく力を結集した活動であり、またメンバー同士の信頼関係や活動の楽しさに支えられていくものである。自分が住み子どもたちを育てている地域の人たちとのつながりが、少しずつ広がり深まっていく喜びに支えられた活動である。