「あしたのまち・くらしづくり2009」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

信州松代の歴史と文化を活かしたまちづくり
長野県長野市 NPO法人夢空間松代のまちと心を育てる会
松代(まつしろ)の概要

 長野市松代町は善光寺盆地の南端に位置し、上信越高速道長野インターより5分、人口は約1万9000人(長野市全体は約38万人)で真田10万石の城下町として栄えた町である。幕末期において開国を唱えた先覚者・佐久間象山や日本初の舞台女優・松井須磨子など時代を切り開いた先人たちを数多く輩出してきた。1967年長野市に合併し周辺地域となり特色を活かす機会がなく低迷してきた。


NPO法人夢空間松代のまちと心を育てる会の発足

(1)信州松代まるごと博物館構想の推進
 2000年に行政が住民の参画を得て、松代地区中心市街地活性化基本計画「信州松代まるごと博物館構想」を策定し、①城下町らしい町並みの整備、②観光商業の推進、③おもてなしの心の推進、④人にやさしい交通環境の整備を骨子に地域資源を活用し、町全体を博物館に見立てて中心市街地活性化を図る30事業を決定した。その計画を行政まかせにしないで住民参加で進めようと、2001年3月、計画策定に関わった有志で準備会を立ち上げ住民に呼びかけたところ100名が賛同し、6月に「夢空間松代のまちと心を育てる会」が発足した。(翌年6月NPO法人化、以下NPO夢空間・現在会員数150名)

(2)庭園都市松代の推進
 松代の旧武家屋敷地域には江戸時代から伝わる多くの日本庭園が残っている。会発足当初より旧武家屋敷地域の非公開だった個人の庭園を一日だけ公開していただく「武家屋敷のお庭拝見」を年数回開催し、現在までに30軒ほどが協力してくださるようになってきた。庭園の多くには池(泉水)がありお隣の池とは水路でつながっていている形態は全国でも貴重な文化遺産であり地域全体を庭園都市と呼ぶにふさわしい町であることが明らかになってきた。2008年には個人宅を含めて4庭園が国の登録記念物に指定されたのを受けて、NPO夢空間では庭園都市松代の保存再生を図るためにお庭所有者と支援者を組織化して2009年5月30日に信州松代お庭を愛する会を発足させた。

(3)町並み保存から歴史的建造物の保存活用を図る活動へ
 松代町には江戸時代の面影を残す武家屋敷や町家、寺社などの歴史的建造物が大変多く残っているが、その価値が知られないままに解体されてしまうものも多い。NPO夢空間による町並みウオッチングの継続的な開催により住民の町並み保存の機運を高め、行政による街並み環境整備事業導入に結びつけた。活動を進める過程で松代の歴史的建造物の調査を進めていた神奈川大学の西和夫教授と出会い「国の登録文化財制度」を知った。そこで国の登録有形文化財に登録する運動を通して、地域の人々に歴史的建造物を保存し活用していく機運を盛り上げ、本物を残し松代の町の質を高める取り組みを行なってきた。現在までに26か所51件が登録され、10か所ほどの申請を準備している。登録文化財の数が増えることによって点が線になり面として広がって「まるごと博物館」構想が一歩前進してきた。登録された所有者を中心に「松代登録文化財の会」を発足させて案内板の整備や見学会、「松代の建物36選」の発行、ギャラリー空間等として活用促進するなどの活動を行なってきている。2007年11月には松代の歴史的遺産をまちづくりに活かすために神奈川大学とNPO夢空間が提携し、「神奈川大学・松代町まちづくり研究所」を設立して調査研究やシンポジウムの開催などを行なっている。

(4)「まち歩きコース」開発と「まち歩きガイドブック」の発刊
 毎年10回程度、松代町内における各種散策会を開催し、潜在する地域資源を発掘して資料や写真の収集を積み重ねてきた。その資料や写真を基に点として存在する地域資源を「まち歩きコース」の開発によって線にし、さらには面にするために「まち歩きガイドブック」を発刊し、松代全体を博物館として活性化させていくため現在までに「信州松代夢空間めぐり」「寺めぐりスタンプ集印帳」「ゆったり町家めぐり」「のんびり武家門めぐり」「遊学・雑学・松代ウォーク」「山里めぐり西条」「山里めぐり東条」「城下町松代のお庭拝見」を発行。また、まち歩きを楽しくするために松代仏教会、松代高校美術部生徒の協力を得て32か寺で「寺めぐりスタンプ」を整備し寺めぐりを実施。中心商店街の一角にNPO夢空間事務局と併設して「まちかどギャラリー」と「まち歩きガイドセンター」を開設して、「まち歩き」を活発化させ町の活性化に取り組んでいる。

(5)「松代学講座」の開催から先人を顕彰する活動へ
 会発足当初から松代の歴史や風土、人物などを学ぶ「松代学講座」を毎年6回開催。江戸時代から伝わる町名(代官町、馬場町、紺屋町、肴町など)の由来を学び、昭和になって松代町松代に統一された住居表示の復活を図る機運を盛り上げてきた。また講座を通じて幕末から昭和にかけて各方面で活躍し社会に足跡を残した数多くの先人たちを発掘してきたのを受けて、2007年には松代町内20か所に先人を顕彰する案内看板を設置した。2008年には幕末から昭和にかけて活躍した人物を似顔絵にしてパネルで紹介する「近代日本に足跡を残したふるさと人物30人展」を商店街で開催し、併せて人物紹介パンフレットを作成して人物顕彰を進めている。将来「松代ふるさと人物館」を設置していきたいと考えている。


次代を担う子どもたちに

 NPO夢空間の取り組みは住民のまちづくり機運を高め、松代の人々自らが自分たちの町を住んで暮らしやすく訪れて心憩える町にしていこうと自分たちで出来ることを実践するようになっていった。最近では内外から松代に対する評価が大きく変わり、「このごろ松代がんばっているね」と町外の方々から言われることが多くなってきた。松代に生まれて良かった、松代に住んでいて良かったと誇りに思える町、次代を担う子どもたちにより良い環境を伝えていくのが今を生きる私たちの役割である。