「あしたのまち・くらしづくり2010」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

山村留学から生まれた交流を柱とした協働のまちづくり活動
山形県川西町 東沢地区協働のまちづくり推進会議
地域の概況

 山形県東置賜郡川西町東沢地区(旧玉庭村)は、なだらかな丘陵に囲まれた、戸数187、人口約670人が住む中山間地域である。面積は22・55平方キロメートル、内農地は14・5%で田は3・04平方キロメートルとなっている。


地域づくり推進協議会の設立と活動

 地域づくりのきっかけとなったのは、平成3年にスタートした「やんちゃ留学」と名付けた山村留学である。
 平成5年に自治省(当時)の「コミュニティ活動活性化推進事業」の指定(3ヵ年)を受け、やんちゃ留学同窓会の開催、炭焼き釜の建設、地域案内板の設置、町田市ひなた村祭りへの全校生参加等の事業を実施した。この事業を通し、「地域の歴史伝統文化を守り、都市と農村の交流によって地域活性化を図る」という、地域づくりのコンセプトが確立された。
 平成7年に「東沢みらい21委員会」を立ち上げ、1年間の議論を経て10ヵ年の目標を掲げた「東沢地域整備計画」を策定し、平成8年に各種団体からなる「東沢地域づくり推進協議会」を設立した。
 この地域整備計画に基づき、地域づくり事業を着実に進めてきた。


山村留学

 昭和62年に生まれた地域の子どもが2人だったことは、それまで毎年10人前後出生していただけに、地域にとって衝撃的であった。少子化傾向が顕著になったことに、坐して何もしないでいるわけにはいかないということになり、当時全国に広がっていた山村留学に着目した。昭和63年に検討委員会、平成元年に準備委員会を立ち上げ、平成3年に地域全戸加入の山村留学協力会を設立した。
(1)短期留学と長期留学
 やんちゃ留学には、夏休み期間中に4泊5日で実施される短期留学と、原則1年間(1学期以上)の長期留学がある。これまでの20年間に、短期留学生(4泊5日)661名・長期留学生(1年間を基本)41名を受入れ、都市と農村の交流を継続してきた。いずれも農家に寄宿するホームスティで行なっている。
(2)やんちゃ留学の特徴
@ダリアの花の縁で交流のあった東京都町田市の小学生を対象とした地域限定の募集とし、双方向の交流を目指した。
・同窓会の開催…町田市の家族を東沢地区の収穫感謝祭に招いている。(2年に1回開催)山形名物の芋煮会、新米の餅つき、秋の農産物の即売も行なわれる。平成21年11月第7回同窓会を開催
・ふるさと文化交流…これまで2回、東沢小学校全校生が町田市を訪問、ひなた村祭りへの参加(平成7年)、町田市国際版画美術館での版画展(平成12年)
・里親会の町田訪問…留学生の里親が町田市を訪問し交流を深めている。(4年に1回)、平成20年10月にシンポジュウム(循環型社会と農業について)を開催した。
A夏休みの短期留学経験者のみが、翌年の長期留学に応募できる。
 短期留学のスケジュールは、受入式、小学校1日体験入学、炭焼き体験、米沢牛バーベキュー、交流センター宿泊体験、語り部による民話、星空観察、ハッチョウトンボの自然学習園観察、稲つくりの講話、魚釣り、村祭りへの参加、キュウリ、ナス、ジャガイモ等農産物の収穫。
 長期留学は、地元の東沢小学校に通学し、地域行事に参加する等、地域の子どもと一緒に活動する。祖父母も含めた大家族の温かさを体験してもらうため、地域全戸加入の山村留学協力会を立上げた。
B里親方式によるホームスティとし、長期留学は最長1年間とする。
(3)山村留学から生まれた農産物の販売
 町田市との長年の交流から、留学生保護者を中心とする「まちだ夢里の会」が発足した。その会のメンバーに店舗開発コンサルタントがおられ、取引先であるおにぎり専門店「おむすび権米衛」を紹介されたことから、鞄倦米翔を設立し、平成19年から東沢産特別栽培米コシヒカリの取引がはじまり、まちだ夢里の会ヘの直販も実現した。
 現在首都圏に展開する30店舗中3店舗(霞ヶ関店、汐留店、舞浜店)に東沢産特別栽培米コシヒカリが全量納入されている。各店舗には山形県川西町産のお米を使用しているというイーゼルが展示されている。また山形県アンテナショップ「おいしい山形プラザ」のリーフレットに、パートナーショップとして『おむすび権米衛』が紹介されている。
 さらに、東沢夢工房の味噌漬がおむすびの具材として納入されている。


協働のまちづくり推進会議の設立

 川西町は平成16年まちづくり基本条例を定め、まちづくりの基本理念を「協働」とし、各地域に協働のまちづくりの推進母体をおくこととした。
 東沢地区では、他地域に先駆け平成18年に地域づくりの推進機関である「東沢地区協働のまちづくり推進会議」を設立し、前期計画(東沢地域整備計画)を検証評価したうえで、「農業の振興と所得の拡大」「安心、安全な暮らし」「人づくりと交流」の3つの柱を掲げた5ヵ年の「東沢地区計画」を策定し、活動を行なっている。
 同時に東沢地区の農業の振興、生産、販売企画を研究するシンクタンク「東沢夢里創造研究所」を設立し、推進会議と緊密な連携をとりながら活動している。
 この活動から農事組合法人夢里、農産物直売所フレッシュ&Fresh、株式会社東沢米翔、東沢夢工房等の生産組織が産声を上げている。
 推進会議では、毎年度当初、「主要事業の具体的取組み(実施計画)」を決め、年度末には1年間の事業内容を5段階による検証評価を行なって、次年度の「具体的取組み」を決めるというPDCAサイクルを実践している


協働のまちづくり推進会議5ヵ年の主な活動

@夢里創造研究所の設立
 東沢の生産企画、販売計画を総合プロデュースするシンクタンク夢里創造研究所を設立し、米をはじめとする農産物、加工品のブランド化、企画販売、H.Pの管理などを行なう。毎月「ゆめり通信」を発刊、全戸配布。
 子ども農山漁村交流プロジェクト受入体制整備のため、先進地視察(山形県西川町、戸沢村、福島県南会津町)を実施。
 現在、情報対策、地域対策、ヤングの3班体制で運営しているが、ヤング班は若者が自ら地域づくりに参画し、地域事業に積極的にかかわっている。
 また、「夢里」の商標登録を申請し、取得した。
A組織体制の整備
 役職の負担軽減を図るため、組織と会計を一元化して協働のまちづくり推進会議に統合し、7組織を5部会制とした。
 毎月定例の運営委員会を開催し、地域経営母体として事業を行なっている。
 地域事業を5事業に集約し、住民負担を軽減した。
・新春の集い…1月第4土曜日
・春祭り(早苗振)…6月第1土曜日
・納涼夏祭り…8月第3土曜日
・地区体育祭…9月第1日曜日(小学校の運動会を兼ねる)
・収穫感謝祭…11月第1日曜日(小学校の学芸会を兼ねる)
B自主防災会の設立
 長井西縁断層帯の地震災害を想定し、平成19年4月に設立した。19年8月に町と共催で「総合防災訓練」を実施。「地域防災計画」を策定して、防災マップを作成し、初動の2日間の災害に対応できるよう毎年総合訓練を実施している。
 毎年度はじめ要援護者リスト、支援者リストを作成している。また、浄水器、発電機、簡易トイレ等の機器整備を予定している。
Cマイバッグ運動の実施
 身近なところから環境を考えるため、平成19年8月地域全戸にマイバッグを配布した。ロゴはハッチョウトンボ。
D農業の振興と所得の拡大
 中山間地域総合整備事業(平成14年採択)により、農道、用排水路、暗渠による畑地化、活性化施設(活性化センター)が整備された。
 椛ゥ沢米翔、エコファーマーの認定、堆肥投入による土づくり、減化学肥料減農薬栽培を推進し、直接販売で所得を確保する。
 東沢夢工房による特産味噌漬や新商品の開発による漬物の生産販売。
 農事組合法人夢里による転作作業の受託、大豆、枝豆の生産、特産紅大豆のオーナー制。
 農産物直売所フレッシュ&Freshによる農産物、山菜の直売。寒中野菜(キャベツ)の生産販売。
 経済産業省での農商工連携事業の研修。
 平成22年に完成した「東沢活性化センター」を拠点に東沢の生産組織による「東沢まるごと感謝市」を開催し、地場産品の販売を行なった。
E都市・消費者との交流
 山村留学の継続と、2年に1度の同窓会を開催。
 おむすび権米衛社員、まちだ夢里の会の田植・稲刈体験、特産紅大豆のオーナー制により、農作業体験、収穫、加工体験、教育旅行の受入(宮城教育大付属中学校)
F食農教育
 毎月1回土曜日に小学生を対象にスマイルクラブを開設、地域内各団体が交替で担当。そば打ち、豆腐づくり、ゆべしづくり、しめ縄(正月飾り)づくり等を実施。
 短期留学時にキュウリ、ナス、ジャガイモ収穫体験、稲つくりのお話、宿泊体験時に子どもたちが自分で調理を行なう。
G環境整備
 黒川、逆沢川、山口沢川の河川内雑木伐採を平成5年から継続実施。桜の丘整備事業により、小学校周辺に約70本の桜を植栽、地域住民が管理。平成21年さくら咲く里公園にあずまや、水飲み場、遊歩道、街灯を整備した。
HNPO法人はーとサービス川西の設立
 交通弱者の足を確保するため、東北初の過疎地有償運送の認可を得て、平成18年4月から営業。平成19年9月から福祉有償運送を開始した。
I自然学習園の開設
 湿地特有の貴重な生物(ハッチョウトンボ、モウセンゴケ等)を観察できるように、塔ノ沢湿地に本道を整備した。森・みどり環境公募事業により周辺整備実施、自然学習園のリーフレット作成
E伝統文化の継承
 「東沢の昔の農作業と年中行事」発刊。(平成20年3月)
 史跡のサイン化、案内板の設置「夢里のさとめぐり」平成20年から地域内20か所を選定、順次整備。


活動の成果

(1)交流人口の拡大
 平成3年から継続しているやんちゃ留学や、留学生保護者の会であるまちだ夢里の会や米の取引先のおむすび権米衛社員の田植え稲刈り体験、紅大豆オーナー制による農業体験、宮城県中学生の教育旅行受入をはじめとする多彩な交流事業の実施により、交流人口が拡大し地域活性化に結びついている。
(2)農産物の販売拡大
 交流から生まれたおにぎり専門店への米の納入が行なわれたことや、女性パワーをいかした伝統の味噌漬、新たな醤油漬がスーパー、デパート、束京「おいしい山形プラザ」で売り上げを伸ばしている。また季節の農産物、山菜や寒中野菜の生産販売により着実に販売額を伸ばしている。
項目 17年 18年 19年 20年 21年
売 上 高
単位(千円)
920 1,046 27,287 41,182 47,207
東沢米翔、東沢夢工房、農産物直売所
交流人口
単位(人)
614 498 665 1,102 1,330
直売所、紅大豆オーナー、おにぎり専門店や町田市民との交流

(3)協働のまちづくりの推進
 近年、多くの市町村が進めている協働によるまちづくりが、地域づくりの主流となっている。
 東沢地区では、行政と住民の「協働」によるパートナーシップが定着し、組織体制の見直し整備、マイバッグ運動の推進、環境整備、NPOによる過疎地有償運送、福祉有償運送の実施、自然学習園の開設、伝統文化の継承等、充実した地域活動が行なわれている。
(4)夢里創造研究所によるシンクタンク機能と若者の活動
 地域のシンクタンク機能として設立された夢里創造研究所は、毎月1回定例の会議を開催し、農業の振興、地域特産物の開発、販売企画等を担っている。この活動から東沢米翔や東沢夢工房の設立につながり、地域農業の振興につながっている。
 またヤング班の活動は、若者の定着化を目指して活発に行なわれており、地域行事における主体的な役割を担っている。地域の農協青年部と共催で東京のおむすび権米衛を視察研修する等今後の活動に期待が寄せられる。
(5)食農教育
 東沢小学校の子どもたちを対象に毎月1回開催するスマイルクラブは、地域の各団体が持ち回りで開催しており、地域の先人から多くのことを学んでいる。
 また短期留学時には、自ら調理をすることや、野菜の収穫体験、稲のお話等を通して、食と命の大切さを学ばせている。
(6)各賞の受賞
 これらの活動が評価され次の各賞を受賞している。
・平成19年度 第38回博報賞(東沢小学校)
・平成20年度 2008農林水産省立ち上がる農山漁村に選定(東沢地区協働のまちづくり推進会議)
・平成20年度 第38回日本農業賞第5回食の架け橋賞優秀賞(東沢地区協働のまちづくり推進会議)
・平成21年度 第4回山村力コンクール林野庁長官賞(東沢山村留学協力会)
・平成22年度 農林水産省食と地域の『絆』づくり優良事例に選定(東沢地区協働のまちづくり推進会議)


今後の課題

 まちづくりに終わりはなく、新たな課題の克服に取り組まなければならない。東沢の地域課題を挙げれば次のようなことがあげられる。
 そのために平成23年4月からスタートする次期地区計画の策定を本年9月からスタートさせている。
(1)所得の拡大と持続できる地域社会
@所得の拡大
・米の直販、農産物加工、直売、特産品による所得の拡大を図る
A持続できる地域社会
・若者の定着―置賜地域の産業、雇用の拡大安定が欠かせない
・高齢化の克服―高齢化率31%
・集落機能の維持―保育所、小学校、郵便局
B施設の整備
・精米所
(2)交流の拡大
@都市と農村の交流
・山村留学の継続、教育旅行の受入
・まちだ夢里の会との交流
・おむすび権米衛社員の体験受入れ
・紅大豆オーナー制
A地域間交流
・直売所のリピーター
・感謝市の開催
B世代間の交流
・食育、食農教育
・「畑の先生」
・農協青年部、ヤング班の活動

 結びに、協働のまちづくり推進会議の設立時に地域標語を募集し、特選となったのが「自信あります東沢、食と自然とあたたかさ」である。東沢の資源といえる、食と自然を大切にするとともに、人の心の温かさを地域資源とし、今後とも交流をベースにまちづくりを推進していきたい。