「あしたのまち・くらしづくり2010」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

「高齢者の足」を確保し、「活動の見える化」を図った
岐阜県岐阜市 芥見東自治会連合会
当団体のあらまし

 当芥見東自治会連合会は、岐阜市の北東部に位置する県下最大級の住宅団地55自治会を統括し、約2500世帯/7800人から成る。自治会加入率は87%、高齢化率は28%超。一角には600年以上の歴史を持つ村落も擁している。
 地域には、保育・幼稚園、小中学校、総合病院や各種診療機関、大型商業施設から小売店などが存在・隣接し、住環境は一応整っている。ただ、地形的には、山を拓いて団地造成したことから、坂道が多く、また団地の奥から商業施設等へのアクセスは悪い。
 連合会は30有余年、地域住民の生活向上に尽してきたが、2006年に役員人事が一新され、活動のあり方も見直された。岐阜市役所幹部出身の新連合会長は、住民自治に意欲的で、地域でできることは地域で、をモットーに諸活動の先頭に立ってきた。筆者も共鳴し、副会長の一人として補佐した。
 ここでは、新たな連合会活動の目玉とした「公共交通の拡充」と「情報共有化の推進」の2点に絞って内容と成果を報告する。


問題(課題)の認識

 新たな連合会活動を進めるに当たり、以下の諸点に留意した。
(1)老いも若きも「誰もが住みよいまちづくり」を目指す。特に高齢者が安心・安全、快適に暮らせる道を探る。そうすれば、自ずと若者も希望を持ち、Uターンしてくれるはずである。
(2)最大かつ長年の問題は、坂道多く、病院・商業施設等へのアクセスも悪いことから、クルマがないと暮らせない。路線バスが地域と市中心部を結ぶが、域内をきめ細かく巡る交通機関はなく、高齢者の足としての公共交通の拡充は必須である。
(3)核家族化が進み、自治会を始め域内のつながりは弱く、諸行事・事業への参加率は低調で、いざ災害時の結束力も懸念される。そこで、域内情報の発信を強め、問題・課題の共有を図ってきずなを深めることが大事と捉え、自治会報による「見える化」を進める。
(4)官民協働を心がけ、行政の支援を得ながら住民主導で臨む。行政主導では、①住民目線に立てず、必ずしも民意を反映できない、②税金の余分な投入を招く、③動きが鈍くなる。


問題解決(課題実現)のために採った方策

(1)公共交通の拡充―コミュニティバスの導入
 これは一地域にとって容易な事業ではなく、社会福祉協議会、公民館、まちづくり関係団体や住民ボランティアとプロジェクト・チームを組み、岐阜市当局の助言も得て、調査研究、計画を進めた。
①その作業は、筆者がメーカー勤務時に培ったプロジェクト管理方式を採り入れ、より多くの住民・スタッフの共感を得やすい目的志向による効果的かつ効率的なやり方で進めるように努めた。
②まちづくりの目的を明確にし、それを達成する手段をブレークダウンした。「誰もが住みよいまち」を目指し、「交通が便利」、「環境が良い」、「買い物・通院が便利」、「触れ合いがある」、そして「安全」の5大要素から交通手段のあるべき姿を追い求めた。
③プロジェクト・チームとしての結論は、コミュニティバス(コミバス)を導入することであった。
④コミバス導入を前提に住民意識調査(アンケート)を行ない、70%の賛意と多くの意見・アイデアを得た。
⑤アンケート結果など、住民の諸意見を「目的-手段」の関係で分析・整理し、コミバス導入に際しての運行ルート、運行頻度、運賃体系、運行体制、付帯サービスなどを協議・案出した。
⑥同じ頃、岐阜市では交通総合政策の一環として、市内要所(現在11地区)にコミバス路線を導入し、運行経費を補助金として支援する計画をスタートさせていたので、これに便乗することとした。また、隣の芥見南地区も参入を決めた。
<備考>岐阜市のコミバス制度は、1地域にバス1台をバス事業会社に運行委託し、運行経費は年間850万円まで補助し、当地域の場合、経費総額約1300万円のうち差額約450万円を地元が運賃収入などで捻出し、2年間の試行運行の成果を見て本格運行に移行させるというものである。
⑦当地域では、運賃収入(基本運賃は100円)を確保し、まち活性化の引き金にするために、新発想であの手この手のコミバス利用拡大策を講じた。主なものは、
・常連客のために他地域にはない割安回数券(5000円で70回分、3000円で35回分)を設定した。
・割安回数券購入者を「交通サポーター」とし、路線バスも安く乗れたり、地元の協賛企業から回数券が戻るなどの特典を与えた。
・運行ルートを数十回となく試走し、運行計画の最適化を模索。経路上の安全策も講じた。
・高齢者や障害者を補佐するために、ボランティアによるヘルパー(車掌)制度を設けた。
・愛称などを募集し、みどりっこバスと地元アーティストによる可愛いキャラクタが誕生した。
・子ども向けキャラクタ・グッズの創作、児童によるポスターの制作・展示なども行なった。
⑧住民への浸透が第一と、住民集会や老人会などで直接、コミバス導入の趣旨理解と活用方を訴え、機関紙やホームページも立ち上げてPRに努めた。

(2)自治会報の内容刷新と月刊化
 今日、自治会活動において、「活動の見える化」は欠かせない。特に自治会報は、住民が活動を主体的に捉え、「想いを一つ」にして参加・協働してもらううえで重要である。そのために、「上から目線」の一方的なお報せ・お願いでなく、会員からの情報・意見も入れた双方向発信を心がける。
①従来、年に1、2回の発行だった自治会報を毎月発行にする。
②記事は年間計画を定め、自治会始め各種団体、一般住民のほか、行政や外部関係者にも書いてもらう。
③原稿打ち込み、編集から印刷、配布まですべて自前で行う。従来は打ち込みから印刷まで業者に委託していたが、経費がかかり、編集上痒いところに手が届かず、また時間的に融通が利かなかった。
④体裁は、A4判2ページ、自前の印刷機による白黒印刷を原則とし、カラー印刷にする場合も。
⑤年間経費は、用紙・インク代が主で、約15万円(月当たり約1万2000円)。従来は1回5万円要した。


成果と考察

(1)コミュニティバス「みどりっこバス」の導入に成功した
 プロジェクト・チームを核にして、岐阜市および公募で委託された運行会社も加わりコミバス運営協議会を立ち上げ、2008年6月から試行運行を開始。2010年1月には累計乗客数10万人に達するなど以下のような実績成果を経て事業採算性が認められ、2010年4月から本格運行に移行できた。
①1日当たり平均乗客数は、170人(2010年7月は200人)で、当初目標100人を大幅に上回った。
②運賃収入(回数券および現金)は当初の9ヶ月間で500万円を超え、その後も安定した。
③常連客とみなせる交通サポーターの数は450名に上った。
④「みどりっこヘルパー」40名が、毎日交代で運賃回収、乗降誘導、道案内、荷物持ちなどの車掌を務めてきた。特に高齢者や障害のある乗客から好評で、感謝されている。
 2010年の夏休みには地元中学生10名が「ヘルパー・ボランティア」を志願し、大人のヘルパーとともにバスに乗り込み、社会奉仕の貴重な勉強をし、乗客からも喜ばれた。(この様子は、新聞各紙で報道され、7月下旬、NHK岐阜放送局のTVニュースでも報じられた)
⑤運行会社の乗務員も親切で、住民の快適・安全な移動に貢献している。
⑥みどりっこバスは、単なる移動手段だけでなく、見知らぬ者同士の会話も生み、触れ合いの場としての効用は大きい。家に閉じこもっていたお年寄りが外に出るようになった。
⑦多くの利用者から高い評価を得ている。「団地の隅々まで回ってくれてありがたい」、「主人やクルマに頼っていたのから解放された」、「車内の会話が楽しい」、「孫と乗れて楽しい」、「乗務員やヘルパーが親切」、「車窓から季節の移り変りが楽しめる」、「バス停や車内からの眼が防犯に役立つ」など。

 以上の成功要因を考察すると、
①常に「誰もが住みよいまちを」というまちづくりの原点を忘れずシステム展開し、官民の能力・指導力の高さで、住民の意向に密接し、将来を見据えた施策を計画・実現できた。
②準備から計画、実行、点検、修正まで組織的かつ綿密に行ない、行政・運行会社さらには地元選出議員と組織横断的に協力支援体制を築き、調整・協議の場も定期的に持ち、ベクトルを合わせた。
③「見える化」を心がけ、あらゆる機会に住民に呼びかけ、導入意図の浸透と意見集約に努めた。

(2)自治会報の月刊化を達成した
 手作り月刊化して4年以上になり、通算53号を発刊(月刊化は全国的にも稀な取り組み)。
①事業・行事の予告・報告、各自治会、一般自治会員、まちづくり関係団体、そして行政・外部の方などからも寄稿してもらって、幅広い内容になった。
②多くの自治会員からは、「地域の情報源として毎月興味深く読んでいる、ぜひ続けて」と励まされている。コミバス導入に際し、住民の合意形成にも大きな役割を果たした。
③岐阜市の教育長や市民生活部長からも「これほど地域の様子が生き生きと読み取れる広報紙はない」、「地域の情報を共有できる広報紙の存在と、紙面にあふれる地域力・住民力に、芥見東の住民自治が輝いている」などと、本紙の意図する趣旨と実績が客観的にも評価されている。


今後の課題

 当連合会では、以上のほか、「ひやりハッとマップ」の制作、「青色灯防犯パトロール隊」の創設などを手がけ、最近は、地域の自然の恵みの再生を願って「里山づくり」も始めた。諸事業には多くの住民が参画してくれるようになり、「夏祭り」など伝統的な行事への参加も増えてきた。
 これからも、「何のため」、「誰のため」に自治会活動を行なうのか、考えて行動したい。活動は形骸化せず、目的・目標に向かって、多くの自治会員の共感と協働を得られて、やりがいも出てこよう。
 「みどりっこバス」や「自治会だより」も目的化させず、あくまでまちづくりの有力な手段としてもっともっと改善し、活用していく必要がある。
 なお、当自治会連合会の役員は、傘下の自治会会長などのピラミッド構造で構成されず、支部長歴任者などから一本釣りで選ばれてきている。これにより、任期さえ終わればヤレヤレという人は選ばれないので、前例にとらわれず、住民のための思い切った施策を考え、実行に移せるという大きなメリットがある。このメリットを活かせるような人事を継承していくことも大切である。