「あしたのまち・くらしづくり2010」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

支えられたり支えたり“はっぴいひろばとまとさん家”のまちづくり人づくり
岡山県井原市 NPO法人はっぴいひろば とまとさん家
 介護予防拠点施設としてスタートした「はっぴいひろば とまとさん家」がある井原市井原町は、かつて商店街を中心として発展してきた人口集中地区であった。
 商店街の背後には小田川が流れ、春には桜の名勝「井原堤の桜」として古くから大勢の観光客や宿泊客が訪れ、地域の飲食店・青果店や遊技場などには人が行き交い、賑わいのある地域であった。
 しかし、車社会の到来とともに、市民の生活圏が広がったことや商店街の外れに大型駐車場を持つ24時間営業の大型店舗が開店したことなどにより、商店街に対する市民のニーズも激変し、特にこの10年間でその数は半減し、商店街には閉店した店舗が目立つようになりました。
 後継者の問題などにより、地区内の住民も一人暮らしや高齢者のみの世帯が多く、井原市内でも33・4%という高い高齢化率となっているのが現状です。
 このような状況の中、何とか自分たちの「まち」に、少しでも賑わいを取り戻すため、地域住民による介護予防を目的とした毎日型サロンを立ち上げ、「一人でも多くの高齢者や地域住民の元気」と「井原に住んでよかった」と感じられる「もう一つの憩いの場」を作れないかと、地域住民が立ち上がりました。
 こうして、商店組合や行政・社協などさまざまな人たちとのネットワークを作りながら、「はっぴいひろば とまとさん家」はその第一歩を踏み出しました。
 その設立にあたっては、「人財」が一番大きな力であると感じました。法人格を取得する際の原動力となった男性の力。そして、ボランティアスタッフは地域の主婦50名の力が集結しました。
 そしてもうひとつの大きな力は、「これからの地域には必要。使われる人が思うように改装していいですよ」と、設立の趣旨を理解し、大変安価な家賃で場所を貸してくださっている大家さんです。
 そうした力が集結し、「はっぴいひろば とまとさん家」は、すべてがボランティアでまちづくりの、人の思いから活動へと進んでいきました。
 まず、安価でお借りした「場づくり」です。
 以前は銀行として使われていた場所ということもあり、大型金庫やキャッシュコーナーなど、各所に銀行ならではの名残がありましたが、キャッシュコーナーはユニバーサルトイレに、そして大型金庫のあった場所は台所へと変貌を遂げました。その一方で、そうした施設整備の資金繰りには頭を悩まされました。
 そうした中、人材が集まり、お金は何とかなるという強い思いが届いたのか、経済産業省の「平成19年度 少子高齢化等対応中小企業商業活性化事業」の改修費を、その資金として確保することができました。
 現在もその時の自己負担金分の借入金は、皆さんのお力添えのおかげで何とか返済をしています。そのことも活動する上での原動力のひとつになっているかもしれません。
 「街中サロン」の誕生です。外装と内装はでき、次は道具です。これまた降ってきました。ちょうど行政の高齢者施設が建替えとなり、食堂の机や椅子といった日用品をいただくことができたのです。なんというグッドタイミングかと思いました。
 現在のとまとさん家にあるもののほとんどが、その時いただいた家財と赤い羽根共同募金などその他の助成金を申請して購入したものなのです。
 また、今使っている食器も地域の人からのいただきもので、その昔旅館をしていたが廃業し、使わなくなった食器などをいただき再利用しているのです。これは、エコ活動にも繋がっているものと考えられます。
 こうして、「人」「物」「金」と揃ってきました。
 次に運営です。「はっぴいひろば とまとさん家」の運営は、年会費1000円・賛助会員3000円の会員制を採用しました。これはあくまでも資金支援の意味合いが強いので、会員にならなくても自由に利用できるし、雇用や収益目的の場ではないので、スタッフ全員が無償ボランティア。
 ゆえに、家賃と水道光熱費を捻出できれば「はっぴいひろば とまとさん家」の運営は成り立ちます。
 会費をお願いするときに、会員と賛助会員の違いをよく聞かれます。その時は『「思い」の重さの違いです』と答えています。
 現在の運営は安定しています。その要因は、開設当時はコーヒーと抹茶のお接待だけでしたが、現在はコミュニティレストランとして、営業日である月曜日から金曜日まで毎日趣向を凝らした定食を提供していることが挙げられます。その収入が運営資金に占める割合は、会員会費よりも大きなものとなっています。
 コミュニティレストランで大好評の定食は、ワンコインの500円です。メインの魚や肉を含め最低5品はある日替わり定食です。鰹や昆布で丁寧にダシをとった月曜日のうどん定食から金曜日のすし定食まで、1日限定20食を提供していますが、売り切れになることもあり、単品のうどんを食べていただくこともあります。
 また、ボランティアスタッフが1年ほど前から取り組んできたケーキを商品化することができたことは大きな活動になりました。
 ボランティアスタッフの平均年齢は約70歳。ほとんどの方が高齢者で、今までケーキを作るということが日常生活の中にはなかったように思います。
 しかし、自分たちで何とかとまとさん家のオリジナル商品を創ろうと、ケーキ作り教室を開催し、思考を重ね、地産地消の観点から井原市美星町産のおいしいとまとを使った「とまとシフォンケーキ」と、青野町産のぶどうを使った「ぶどうシフォン」を完成させました。『その味』も『やわらかさ』もさすが長年主婦で鍛え上げた技術といったところで、とても完成度の高い商品ができました。
 その噂は、岡山県のローカルテレビにも取り上げられ、タレントのエドはるみさんにも紹介していただきました。マスコミの宣伝効果はとても大きく、テレビ放映された後は大忙しでしたが、その忙しさもまた違う形で結束力を高めることとなりました。
 何とか一人でも多くのボランティアスタッフが、ケーキ作りの技術を身につけようと、新しいことにチャレンジしました。それは、介護予防の観点からもとても重要なことで、立ち上げの時には、高齢者の介護予防のことばかり考えていた私も、このケーキ作りを通して、ボランティアスタッフの方々が一番の介護予防の対象者だということに改めて気づかされました。
 また、その他の加工販売品には、ゆず味噌・ゴマ味噌・漬物・おからこんにゃくなどもあります。スタッフの年輪を生かしたその味のよさに今では固定客もついています。さすがに主婦の力です。
 その他の運営資金としては、月1回の資源回収です。
 この活動の売りは、一軒一軒、家の前まで回収に伺っていることです。事前にとまとさん家までご連絡いただいておくと当日回収に伺います。資金は市の活動助成金がほとんどです。資源そのものの価値は低いようですが、見守りを兼ねた活動として資源回収の価値はとても地域の方から喜ばれている活動です。汗を流しながらでも、回収に行ったお宅で喜びの声を聞くとまたひと頑張りできます。
 もうひとつの運営資金として各種講座の開催があります。
 会員加入をしていただくことで、1回の講座を200円で受講することができます。絵手紙・パソコン・ハーモニカ・編み物・押し花・折り紙・手工芸・フラワーアレンジメント・書道教室等さまざまな教室を組み込みながら、とまとさん家の場づくりのひとつとして、教室開催の大切さを考えています。
 利用者のご希望をお聞きしながら、新しい教室開催も考え、飽きのこない楽しい居場所にしていきたいと思います。
 また、男性の参加者をいかに巻き込んでいくのかも考えていかないといけません。
 男性参加型の取り組みのひとつとして、男性理事を中心とした商店街の土曜夜市への参加です。ふた夏ビールサーバーでの生ビールを美味しく飲みました。ウェーターはもちろん男性陣です。つまみは乾物と冷凍枝豆ですが、何より商店街に響く「笑い声」が一番のご馳走です。やはり企画がだと思いました。また、商店街にひとつ灯りが増えました。
 これからの活動は、まだまだ台本のないドラマが続くようにも思えます。台本がないから面白いのかもしれませんが、なにより面白いのは、この「はっぴいひろば とまとさん家」で出会った人たちです。このパワーあふれる人との関わりが、人と人とを繋いでいると思います。ワイワイガヤガヤで賑わいが生まれています。介護保険を納めても利用することがないように、少々のことは医者に行かなくてもすむようになればいいと思います。
 この高齢者の活動が、井原市の介護保険のポイントとして、介護支援ボランティア活動になり、社会参加や地域貢献としての仕組みを導入した地域支援事業になればと思います。ボランティア活動の実績が、これからの高齢者自身の健康増進も図っていく積極的な支援体制が整えられることを期待しています。
 また、さらなるネットワークで地元商店街とも連携し、地域支援事業としてショッピングなどにも利用できるようになれば、新しい地域活性化の仕組みづくりにもなるのではないかと考えています。
 こうした活動は一朝一夕で結果が出るとは考えられず、地道な活動しかありません。しかし、地道かつ誠実に活動を続けていけば、パッと花咲く時もあるとつくづく考えることもあります。
 地域は人材の宝庫だと思います。ネットワークを大切にして多くの人たちに協力してもらいながら、人に優しい「まち」を作っていけば「まち」も強くなるし、人の心を育てればまた「まち」も育っていくのではないでしょうか。
 「まちに居場所をつくりたい」そんな思いから始まった活動から、5年という月日があっという間に経過しました。そして、街中サロンとして「はっぴいひろば とまとさん家」ができて3年。今では井原町にはなくてはならない居場所となっていると言っても過言ではないと思います。
 これからも、さまざまな課題にむかって知恵を出し合い、井原にしかできない、私たちにしかできないアイデアを考えながら前へ進んでいきたいと思います。