「あしたのまち・くらしづくり2011」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

街角の小さな休憩・ふれあいスポット「おやすみ処」ネットワークモデルづくり
埼玉県戸田市 NPO法人まち研究工房
1.これまでの活動内容(活動の動機、取り組みの趣旨と現在の動向)
 国民の約3人にひとりが移動困難(制約)者と呼ばれる、足腰の弱った高齢者、乳児を抱いた人や幼児を連れた人、怪我を負った人などが、実際に辛そうに歩いている姿や地べたに座り込んでいる様子をどの街角でも頻繁に見かけることから、ノーマライゼーションのまちづくりの重要性を再認識し、声を大にしない(できない)高齢者等の切実なニーズを満足する身近なインフラの形成が緊要であると痛感し、「100メートル以上の距離を一度に歩けない」「日陰が欲しい」といった高齢者の声にきめ細かく応える地域に根ざした生活環境づくり、行政・民間企業のどちらも関わりにくい事業を、まちづくりNPOである弊団体が「新しい公共」を担う主体のひとつとして鋭意展開する必要があると考え、生活道路上や沿道に休憩スポットを数多く創出しネットワーク化することを自ら企画して実践することとしました。
 一方、街中には、沿道に散在する大小様々なデッドスペース(未利用地等)が、ゴミ溜めになるなど生活環境に悪影響を及ぼし、犯罪誘発等の問題も生じていますが、その空間は同時に、まちづくりに有効利用できる貴重な地域資源(=ポテンシャル)であり、都市計画的観点からその資源を前述の移動困難者の課題解決に活かせると考え、あらたな試みとして、街角(歩道の空きスペースや沿道)にたくさんの小さな休息&ふれあいスポットを創出する活動を2002年に始め、現在も継続しています。
 そのスポットを「おやすみ処」(愛称)と名付け、弊団体の活動拠点のある戸田市内を中心に自らJR高架下用地を借地し整備・管理するモデル施設をはじめ、戸田市行政のご理解・協力と民間の機関・事業主・市民の参加・協働により、公道(占用許可)、医療・福祉・文化・体育・教育関係の各施設、事業所・個人店舗、マンション等の敷地(沿道)に数多く設置され、NPO先導による民間主体・行政協力の公益事業として市外にも波及し始めています。
 また、移動困難者は同時に犯罪・災害・救急等の面でも非力であることや、まち全体の環境・景観の向上等の必要性を踏まえ、様々な社会的課題の解決に「おやすみ処」を活せるよう、工夫しながら取り組んでいます。

2.現在までの成果(取り組みの具体的効果、目標達成への着実な展開)
 現在、当取り組みの先導的なモデルエリア内の駅周辺道路、医療福祉施設、公益施設、個人店舗・事業所の敷地(沿道)に約50箇所の「おやすみ処」を設け、当団体が中心となり官民協働で管理運営することにより、交通基盤、防犯・防災、環境・景観形成等の多面的機能をもつ新たなコミュニティ・インフラのモデルのひとつとして形成し、周知にも努めています。

■改正道路法への反映及び、公益施設・大規模民間施設等における「おやすみ処」付置の誘導・義務化等の制度化・指針づくりへの取り組み
 19年に改正された道路法の中に、前年度に当候補団体が行なった全国都市再生モデル調査の成果と同様の「おやすみ処」の考え方・イメージが盛り込まれ、官民協働によるベンチ等の設置・管理手法として新制度に位置づけられたことから、各地の自治体・NPO等が活用できるようになりました。
 また、当候補団体はその成果を発展的に応用し、宅地整備やマンション建設等の民間開発における「おやすみ処」付置の誘導や義務化の方策の研究・検討及び提言を行なうなど、自治体のまちづくり条例・要綱等における指針づくりの実現を図っています。
 さらに、公園敷地の内部だけでなく沿道部分にも歩行者用ベンチを設置できるよう、指針づくりの重要性を提言しています。

■「おやすみ処」ネットワークの拡充の進展(ベンチ等の沿道50〜100メートル間隔での設置区間の延伸)
 病院等の公益施設をはじめ、大規模マンション周辺等の沿道にも「おやすみ処」が新設されて間隔距離が短くなるなど、そのネットワークが拡充していることから、高齢者等の行動範囲の拡大や外出機会の増大傾向が実際の利用者の声等から確認できています。

■「おやすみ処」のきめ細かい配置による、環境・景観形成と防犯のまちづくりへの寄与
 ベンチの設置と併せた緑化と周辺清掃等により街角の景観の改善や環境美化が進展するとともに、通学路周辺の「おやすみ処」に近所の市民が常に居ることにより、子どもたちを見守る防犯(監視性の向上)などにも寄与しているといえます。また、「おやすみ処」設置店舗の中にはこども110番に参加している事業者も多く、さらに参加を呼びかけ、ネットワーク全体でのこども110番の充足を図っています。

■「おやすみ処」のネットワークを活かした地域全体の防災・救急機能の向上(システム化)
 当団体が直接整備・管理運営している「おやすみ処」には、ハザードマップ、防災用具、救急救命手順を記したパネル、非常時兼用の雨水タンク等を設置しているほか、避難誘導標識や緊急用所在報知板の設置など警察・消防と連携したシステムづくりを視野に入れて活動を展開し始めています。また、協賛企業と連携し、「おやすみ処」の巡回時等にAED(自動体外式除細動器)を携行(車に搭載)しています。

■「おやすみ処」のネットワークを活かした賑わいの創出、生活利便性の向上、友好都市との交流
 「おやすみ処」の設置店舗等により、友好都市の安全で新鮮な野菜を地域通貨で買える「朝市」〈おやすみ処市〉等を行ない、街の賑わいづくりや高齢者等の生活利便性の向上、友好都市の農家等との交流が促進しています。

■市民・子どもたち・障がい者の社会参加・雇用創出の推進と「おやすみ処」の里親制度づくり
 「おやすみ処」の清掃活動等に障がい者等が既に参加し、若者や失業者・生活保護者等の雇用創出も目指して「おやすみ処」里親制度の創設を図っています(その資金でベンチや緑も増やしています)。

3.これからの活動の抱負
 下記のような方向性・テーマ性をもった活動を展開し、さらなる各地での現場での実践とともにその中から新たに見えてくる問題点・課題を解決しながら、様々な地域・分野の人たちとの交流・連携・協働により当該活動を発展的に継続させたいと考えています。

@今後の活動の展開方向・方針
 市民・個人事業者・企業等の民間主体が「おやすみ処」活動を通して公共事業への関心を高めると同時に官民相互の理解が深まり、「おやすみ処」の普及に合わせて地域貢献する関係者・参加者が増えながら、より多様なテーマのまちづくりにつながるよう付加価値を高めていきます。
 改正道路法における新制度創設の通達(19年10月)が国土交通省より地方自治体等に出されており、その後各地に周知されてきたため、全国的な官民協働の取り組みとして本事業の本格的展開を図ります。
 また、当該活動が本表彰制度のような公式な場での評価をいただき、より一層多くの市民・まちづくり団体・行政関係者の方々の目に止まることにより、全国各地に「おやすみ処」が普及し、移動困難者のより多くの解消に寄与するよう、発表・啓発・提言等の機会を増やしていきたいと思います。
 さらに、本活動の進展に伴い、福祉と他の分野との共同化・連携(災害弱者等に配慮したまちづくり等)により、公益的事業としての分野間の相乗効果も図ります。

A発展可能性(防災まちづくり等への反映、地域の連携・協働化)
 例えば、活動成果をより一層防災まちづくりなどに活用できると考え、具体的には、「おやすみ処」に街かどの避難誘導標識(歩行者の目線の高さの小型看板)をきめ細かく設置するほか、高台への避難路を含めた避難ルート上に高齢者等が避難しやすいよう、手すりを設けたり一旦休憩できる場所として「おやすみ処」の拡充を図るなど、このたびの東日本大震災の教訓を活かした身近でかつ地域全体の防災まちづくりにも反映できると考えています。
 また、東日本大震災の対策への応用として、弊団体が21年度に取り組んだ「新たな公」によるコミュニティ創生支援モデル事業の成果を活かし、「おやすみ処」ネットワーク参加店舗等と既存の青果店・関係団体との連携により、東北地方等の青果を友好都市の街角でPR・販売する地域連携・協働事業を商店街や有志市民等の協力を得て展開できる可能性があり、現在、関係者のご意見を伺いながら、事業計画の素案づくりを行なっています。

B活動の定着・拡がりと発展的継続の仕組みづくり
 本活動には、シルバー世代・団塊世代・中学生・高校生など年代を問わず集まってきており、活動の担い手が、世代・地域・立場を越えて限りなく拡がっていくと思われます。
 また今後は、「おやすみ処」ネットワークが県内のみならず全国各地に波及し、各地の市民生活に根ざした安全で快適なまちづくりにより一層寄与するよう、事業として継続的に運営するための企業の参画(CSR)と官民協働の仕組みづくりをNPO等がエリアマネジメントとして進め、市民・事業者・行政機関等の連携・協働体制を主体的に築いていきます。

(後記)
 「おやすみ処」活動に賛同し、ベンチ等を設置している店舗等のネットワーク母体を『「おやすみ処」ネットワークショップ』と呼び、弊団体が中心となって、「街かどミニ野菜市」(「おやすみ処市」)等の共同イベントの開催や、「おやすみ処」設置店舗同士によるお客さんや業者さんの相互紹介、広告宣伝チラシの相互頒布、各お店のタウン誌・商品雑誌等への共同掲載などを行なっています。また、「福祉の店宣言」や「こども110番」への加盟等も推進し、連帯感の醸成とともに、商店街の活性化や地域交流事業、扶助活動等、公益性・地域性のあるネットワークづくりを図っています。
 今後は、「おやすみ処」設置店舗等同士の連携や相互支援のより一層の促進とともに、弊団体が各店舗等の経営や運営の手助け(PR支援や人員サポート等)も行なうことができる体制と発展的・波及的仕組みをつくり上げたいと考えています。