「あしたのまち・くらしづくり2011」掲載 |
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
日本の原風景・農村文化の棚田の保全・復活と、ヒトと生きものでにぎやかなむらづくり |
静岡県菊川市 NPO法人せんがまち棚田倶楽部 |
1.地区の概況 静岡県菊川市上倉沢地区は、約400年前から開田が始まり、昭和40年頃には約10ヘクタール、3000枚以上の棚田で耕作されていたが、農業をめぐる情勢や農家の高齢化等により耕作放棄が進み、平成10年頃には、50アール、100枚程度の棚田を残すのみとなっていた。 このような状況の中、先人が汗と涙で築いた貴重な財産・農村文化、美しい日本の原風景の棚田を我々の代で潰すわけにいかない、次の世代につなぐという熱い思いで、地元のお茶農家有志により、平成10年に任意団体「上倉沢棚田保全推進委員会」を設立し、棚田の現状維持に加え、耕作放棄地の解消による棚田の復活に取り組んできた。 棚田を復活してきたことと「冬期湛水」(冬に田に水を入れる)を行なってきたことにより、多種多様な生きものが集まり生息するようになり、県の絶滅危惧種に指定されているニホンアカガエルの一大繁殖地となっている。 また、「冬期湛水」により早春に棚田に水がためられていることから、梅の花や桜の花が鏡のような棚田の水面に映る等、他の棚田地区では見られないような美しい景観が醸し出されている。 当団体は、棚田の保全、復活の取り組みに加え、生態系保全、景観保全及びこのような貴重な地域資源の保全活動そのものを活用して域活性化にも取り組んでいる。 2.取り組み内容 (1)NPO法人化 できるだけ補助金や行政に頼らず、主体性をもって活動を長年に渡って継続させるためには、安定した労働力や資金及び将来の組織の担い手等の確保が重要である。このため、組織の社会的信用を高め、一方でメンバーの活動のモチベーションの向上をねらいとして、平成22年に任意団体からNPO法人「せんがまち棚田倶楽部」を発足した。 (2)「棚田オーナー事業」の実施 棚田オーナー事業は、①棚田の保全・復活ための安定した資金と労働力を確保すること、②多くの人に、景観の美しい棚田で農作業、収穫の喜びを体験してもらうとともに、自然や親子のふれあいの場を提供、さらに、農家との交流、祭りへの参加などによる第二のふるさとづくりに役立ててもらうこと、を目的として開始した。NPO法人となって初の主要事業として、平成22年度から、50組の棚田オーナーの参加を得て実施している。(平成23年度も、50組) 棚田オーナー募集当初は、参加者がなかなか集まらず、苦労したが、報道機関の協力により、結果、目標数30組を上回る50組が集まった。報道機関の広報力をあらためて認識した。 当初予定より参加数が増えたことから、20アールの棚田の復活を行なった。 棚田オーナーは、首都圏、静岡市、浜松市等の都市部の住民がほとんどであり、農業、農村の課題を理解してもらう良い機会になっている。首都圏から毎回農作業に新幹線を使って来るオーナー、三世代の家族、新婚カップル、シニア夫婦、友だち同士、会社の仲間等様々な人が参加している。 受け入れる地元農家側は、当初知らない多くの人の応対に不安感を持っていたが、ボランティアや大学生がサポートすることにより、積極的に対応できるようになってきた。 (3)「棚田市場」(農産物直売所)の開催 棚田のうるち米、もち米、古代米の販売、地元農産物の販売・PR、加工商品化(棚田ブランド化)、活動資金の確保、棚田保全活動のPR、地域活性化等を目的として、稲刈り時等にテントの中で棚田市場を開始している。 将来的には、常時開催の棚田市場を設置したいと考えている。 (4)静岡大学「棚田研究会」(サークル)の設立と連携 棚田の保全・復活のための安定した労働力の確保、各種活動の推進、地域を元気にするためには、若者の力が有効と考えた。そこで、NPO法人主導で、棚田保全活動を目的とした学生サークルを設立すべく、大学当局の許可をとり、掲示板にビラを張り、一般学生に呼び掛けた。平成21年12月に4名で設立、スタートし、その後急激に部員が増え、現在OBを含め20名となっている。 このサークルは、設立されたばかりであるが、上倉沢地区の棚田保全活動に多大な貢献をしている。農作業日には、部員だけではなく一般の学生にも声をかけて必要な人数を集めてくれる。棚田市場の元気な販売も担ってもらっている。また、地元農家にとって、日頃あまり縁がない学生たちと一緒に作業を行ない、話をすることなどが棚田保全活動のモチベーションの向上に役立っている。一方、座学中心の学生にとっても、農業農村体験、社会貢献、農家とのコミュニケーション等の人間形成の教育効果が大きいと考える。 (5)中学校の校外学習の受け入れ 農作業支援にあたっては、大学だけに限らず、高校、中学校にも幅広く要請したところ、地元の常葉学園菊川中学校の2年生、3年生が、授業のカリキュラムとして位置付け、田起こしや田植え作業を支援してくれている。 (6)大学のフィールド研究等の受け入れ 当地区の棚田において、生き物、植物、水循環、歴史、文化、地域振興等をテーマにして、静岡大学、静岡産業大学、富士常葉大学、東海大学、東京農業大学、静岡県農林技術研究所等数多くの研究者が研究を行なっている。当団体は、これらの研究機関に対してフィールドや情報の提供、資料収集、研究の手伝い等の協力を行なっている。 各研究者が学会、学会誌、シンポジウム等で研究成果を発表することにより、当地区の棚田の知名度、価値(貴重な生態系等)が上がる。 (7)生きもの教室(環境教育)の開催 本地区の生態系は、絶滅危惧種や貴重種もあり多種多様である。生態系保全の大切さを啓発するため、幼稚園生から大人までを対象に生きもの教室を開催している。 (8)イベントの取り組み しめ縄教室、ろうそく灯篭会等のイベントを行なっている。イベントは、参加者だけではなく、地元も満足できる、いわゆる地元には疲れとゴミだけが残ったというふうにならないような取り組みを行なうことが重要と考える。 3.活動の成果 棚田オーナー事業、棚田市場、イベント開催などにより都市・農村交流が進み、都市、消費者の立場である参加者から農業、農産物、農村地域に関する評価、意見、アイデアを聞きむらづくりの取り組みに役立てている。特に、大学生等若者が農作業やお祭り、イベント等で農村地域に入って来ることにより、地域がにぎやかになってきている。また、大学生等若者が尊敬の念を持って、農家に接するとともに、生態系、景観、棚田等地域の素晴らしさを称賛することにより、農家は農業や住んでいる農村地域に誇りをもつようになっている。高齢者も若者と積極的にコミュニケーションを図り、ますます元気になっている。農村地域では、若者の農業、農村への理解が進むことにより、嫁問題が解決されることを期待している。 4.今後の活動方向 (平成23年度取り組み予定) ①「棚田市民農園」の取り組み 農家の農作業の負担を増加せず、棚田の復活を進めるために、日常管理を含め農作業の全てをオーナーが行なう「棚田市民農園」について、試行として数区画の導入を行なう。 ②鳥獣害対策と小水力発電水車の設置 当地区においても、イノシシの作物被害がでており、その対策として電気柵を設置する。電源として、小水力発電水車により発生する電気を使用する。水車の設置及び発電は、美しい景観形成、地域資源(渓流水)の活用、石油を使用しない(C02を発生させない)エコ発電、鳥獣害対策(農産物・棚田保全)等の観点から非常に有効な方法(一石数鳥)と考える。 ③賛助会員及び寄付金の確保 各種活動を推進するために、安定的に労働力、資金面等で応援してもらう賛助会員や寄付金の確保に取り組む。 今後も「日本の原風景・農村文化、棚田の保全・復活と、ヒトと生きものがにぎわうむらづくり」を目標に、これまでの取り組みの充実に加え、新たな取り組みを、補助金や行政にできるだけ頼らず、地道に身の丈にあわせて行なっていきたい。 |