「あしたのまち・くらしづくり2011」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

10年後も明るく、困った時に助け合える波多地区を目指して
島根県雲南市 波多コミュニティ協議会
1.島根県雲南市と雲南市波多地区の概要
 雲南市は平成16年11月1日に、周辺の6町村が合併して誕生しました。島根県東部に位置し、松江市や出雲市に隣接、南部は広島県に接し、総面積は553.4平方キロメートルと島根県の総面積の8.3%を占めていますが、その大半は林野であり、典型的な中山間地域です。雲南市掛合町波多地区は、市の南端に位置し、標高は300メートルから500メートルで、冬季には積雪も多く、寒さが厳しい地域です。
 雲南市には自治会を主要な構成団体として組織する「地域自主組織」というコミュニティが43あり、波多地区にも「波多コミュニティ協議会」という組織があります。世帯数165、人口400人、高齢化率49.25%(平成23年5月末日現在)、15自治会から成り立っており、このうち9自治会は、高齢化率50%以上で、世帯数が20未満の小規模高齢化集落(「限界集落」と表されることがある)であり、世帯数が10以下の極少数規模自治会も8自治会あります。
 戦前まで出雲大社参拝の宿場町として栄えた波多地区は、稲作を中心に、和牛肥育と木炭づくりを合わせた農林業を主体に生計が立てられ、集落を社会共同生活の単位として道路の補修、草刈り等の環境保全活動や伝統行事に取り組んできましたが、終戦後の社会構造の変化と経済発展の中で、木炭から化石燃料への燃料変革による地域経済の衰退に、昭和38年にこの地区を襲った豪雪が追い打ちをかけ、過疎化と高齢化が進みました。
 こうした中で、島根県は平成20年度からの3か年間、雲南市ほか県内4市町を中山間地域コミュニティ再生重点プロジェクト地域として指定した上で、重点的に支援することになり、雲南市は波多地区を対象地域として取り組むことになりました。

2.3年間の活動内容と成果
(1)平成20年度の主な活動内容
①地域マネージャーの配置…事業初年度は、大学卒業後に渡米した経験を持ち、平成20年7月に田舎暮らしを求めて波多地区にIターンした20歳代後半の女性を公募して採用し、8月から「地域マネージャー」として地域の拠点に配置し、公民館長や主事らと机を並べて業務にあたりました。
②波多彩プロジェクトの結成…事業に関連する活動の企画案を検討・提案、実践につなげることを目的に、公募及び委員による推薦により、『波多彩プロジェクト』(発足当初9名)を結成、地域マネージャーが事務局を担いました。
③地域を知る活動…8月と9月の2回、ワークショップを行ない、小学生から高齢者までの地区住民55名が参加しました。参加者は班に分かれて地区内を歩き、自らの目で見た波多地区の現状を基に語り合いました。9月上旬には、集落における日常生活に関するアンケート調査も実施、12月に地区住民への報告会を行ないました。

(2)平成21年度の主な活動内容
 21年度は、地域の実態に見合った事業を地域住民と一体となって実施することを期待して、波多公民館の主事を7年間勤めた方を新たに地域マネージャーに迎えるとともに、波多彩プロジェクト委員も20人に増員して体制を強化しました。活動内容を検討する「彩プロジェクト委員会」も年間13回行なわれ、毎回夜遅くまで地域おこし談議に花が咲きました。
①新しい住民意志の反映手法(自治会まわり)の確立…従来から行なわれていたコミュニティ協議会における協議や意見集約に加え、21年度は6月と1月の2回、彩プロジェクトのメンバーが、各自治会を回って意見交換するという、画期的な手法がとられました。参加状況が各自治会によって温度差があることが課題ですが、今後も継続したい活動です。
②防災対策マニュアルの作成…アンケート調査の結果、自然災害発生時に不安があるという意見が多くありました。波多地区でも昭和50年に大水害が発生、死者も出ました。こうした経験を教訓に、老若男女が安心して生活が送れるよう自然災害等、緊急事態時における地域の状況把握、連絡手段等を確立するため、彩プロジェクトメンバーが「自治会まわり」を行なって災害危険箇所や携帯電話不感地域等を聞き取り自治会ごとのハザードマップを作成、集会所に掲示しました。
③地元住民が運営する、地域内交通システムの検討・試行…地区内には近隣の市町を結ぶ公営路線バスや、ドアトゥードアでデマンド型の「だんだんタクシー」が走っており、交通空白地域とまでは言えませんが、停留所が遠くにあったり、運行本数が少ない上に、通院などを重視したダイヤ設定であるために、70~80歳代の高齢者を中心に、昼間に行なわれる会合や葬祭行事、地区内にある温泉への往来や買物など、日常生活に不便を感じているという実態が、アンケートからわかりました。
 こうした方々への支援を目的に、県内で先行実施されていた自治会輸送システムを試験的に導入しました。道路運送法に定義されている交通機関ではないため、乗客からは運行に要する実費しか徴収せず、また車の運転も協議会の会員が行なうなど、ボランティアで運営されているのが現状ですが、予約があればその都度来てくれるという便利さから、気軽な補完的交通手段として高齢者を中心に支持されています。
④自然体験型事業の実施…夏休みのイベントとして8月に「おなかいっぱい!リフレッシュ!!波多の自然を満喫するぞ!!!体験」と称し、波多地区の拠点施設(旧波多小学校、平成5年に建てられた施設で、現在波多交流センターとして活用)の活用手段として、また波多の自然の美しさ等を伝えるため、市内の小学3年生以上の児童を対象に2泊3日の日程で実施しました。募集定員20名に対して41名の応募があるなど大変好評でした。

(3)平成22年度の主な活動内容
 昨年度と同様、地域マネージャーを地域から選出し、拠点施設に配置しました。事業が進むにつれて、県内外からの注目度も高くなり、視察の要望が相次ぐようになりました。
①地区振興計画の策定
 20年度に地区住民を対象に行なったアンケートの結果や彩プロジェクトがこの事業で取り組んだ地域課題の解決策など、3年間の事業実績をまとめ、島根県中山間地域研究センターの協力を得て、波多地区振興計画の策定に取り組みました。
 また、平成23年の1月~2月にかけ、彩プロジェクトメンバーが作成した計画案(ダイジェスト版)を持って15自治会をまわり、内容について意見交換を行ない、今年3月末に完成、地域住民に配布されました。地元の自治会を直接訪問して意見交換を行ない、住民誰もが読みやすい計画づくりをモットーに大きい文字で少ないページにまとめられた計画書は大変好評で、雲南市の地域振興補助金制度活用報告会の場でもその策定経過などを発表しました。
②閉園した県有施設(旧島根県立ふれあいの里奥出雲公園)の運営試行
 昭和57年に開業した地元の県有観光施設が近年の利用者低迷により、21年度末で閉園となりました。この施設は、平成15年にリニューアルされており、ケビンやバンガローなどの施設はまだ十分に使用可能な状態にあったことから、県は企業などを中心に売却先を探しましたが、近年の不況で思うように進まなかったため、今回の事業を活用して地元が試行的に運営することになりました。
 集客が見込める夏休みを再オープンの期日に決めて急ピッチで準備を進めた結果、7月に「さえずりの森」として再オープンにさせることができました。オープン後は自然体験合宿の会場や大学生の研修場所などとして、大いに活用されました。この場で行なわれた炭焼き体験や押し花作りなどの体験プログラムの講師陣として、地元の高齢者が大活躍、波多地区が子どもたちの声で賑わいました。
 8月からは、この施設を地区住民の皆さんと共同で運営する人材として地域コーディネーターを配置(26歳男性、Iターン)。地区内の空き家に住んで活動を始めました。奮闘の結果、宿泊客の受け入れも概ね順調に行なわれ、きのこ狩りやバードウォッチングなどのイベントも実施できました。翌年1月には運営委員会が立ち上がり、23年度からの運営も順調に進んでいます。
③防災体制の整備…彩プロジェクトの防災班を中心に、緊急連絡網(電話、電子メール)、くらし安心カード(冷蔵庫に貼ることを想定した、A4サイズのマグネットシートで、緊急連絡先等の情報を記入する)の作成、自主防災組織の設立、防災計画の策定を行なったほか、波多地区の体育大会時に防災に関連する競技を取り入れ、地区住民の防災意識の醸成を図るなど、大きな成果をあげることができました。
④交通手段を持たない方への対応策(地域内交通システム)の検討・試行…昨年度から開始した、地域内の移動に不便を感じている方々への支援を目的に地域内交通システム(たすけ愛号)の試行を継続し、来年度以降の継続に目途をつけました。

3.今後の抱負
 地元にとって、3年間の事業は大きな成果であったと思いますが、同時に彩プロジェクトメンバーをはじめとする地元への負担も少なくありませんでした。高齢化が進み、地域づくりの担い手も少なくなりつつある中で、今回策定した地区振興計画に沿って、3年間に実施した事業を確実に継続させることが当面の目標であり、課題であると考えています。
 今回波多地区の皆さんが、中山間地域コミュニティ再生重点プロジェクト事業を完了し、大きな成果を挙げたことで、地元は自信をつけ、市内はもちろん県内外からも注目され、新たなプロジェクトも始まるなど、良い相乗効果も生まれています。他県のように、突出したリーダーがいるわけではありませんが、彩プロジェクトという地元の有志が集まって真剣に考え、行動し、県や市の職員もその会議に都度参加して、必要なアドバイスをしたり、共同で作業を行なえたことは、行政と地元の協働例として、全国へ発信できるものであると確信しています。