「あしたのまち・くらしづくり2011」掲載 |
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
使用済み割り箸炭リサイクル事業で過疎地を活性化 |
広島県広島市安佐北区 NPO法人小河内Oプロジェクト |
1.初めに 広島市安佐北区安佐町小河内地区(以下、当地区と略す)は広島市中心部から約35キロメートル、車で1時間の最北部に位置する山間の小さな地区。約20平方キロメートルに264世帯、540人が暮らす。昭和30年、周辺の5ヶ村と合併、安佐町に、そして昭和46年広島市に編入した。 117万人を超える大都市の近郊にありながら、急峻な地形や交通不便等から時代の波に取り残され、市内130余の小学校区中、最も高齢化と過疎化が進んだ地区である。 現在年間約20人の自然減であるが、50歳以上が4分の3を占める人口構造は、近い将来さらなる人口減少を内在している。 わずかにいる若者は学校を卒業すると当然のように故郷を後にする。平成21年3月には市立保育園が入園児ゼロから廃園に、唯一の小学校も児童数(13人)の減少から、隣の小学校へ統合計画が発表されている。 2.小河内地区の現状と課題 戦後の経済成長に伴い、当地区の基幹産業であった農林業が大きく衰退し、2000人以上いた人口は、約4分の1に激減した。高齢率約49%、一人暮らし世帯が4割、夫婦の高齢者世帯を含めると7割強を占め、家事や通院、買い物難民が増え、日常生活にも困難な状況になっている。昭和40年以降、7集落が離村・統合で消滅、今日19集落中18集落が20世帯未満、その大半が集落機能の維持が困難な限界集落が顕在化、今や地区全体が存亡の危機的状況にある。若者が地区に魅力を感じない最大の理由は直接的には働く場がないことであるが、夢や希望、郷土への誇りが持てるような地区の将来像(ビジョン)がないためだ。 国民の食や農、環境への重要性や関心が年々深まる中、日本の中山間地の多くはこのように農地や山林の崩壊が進んでいる。過疎地の最先端地に住み、大いに矛盾を感じる。 3.Oプロジェクト立ち上げ このままでは人の住めない山になってしまう等の危機感から平成20年11月、当地区自治会や社会福祉協議会等10団体で構成するコミュニティ推進協議会の役員30名が地区再生を話し合う場を設置、「O(オー)プロジェクト」と命名した。ゆでカエルに気がついたのだ。 平成21年から22年にかけて、地区の現状分析、住民アンケートや聞き取り調査、自治会長会議や住民説明会等、度重なる会議を行ない、「地区の特性と資源」を整理し、それらを生かした再生プラン「O(オー)プロジェクト」を策定した。 当地区は、都市化に汚染されない豊かな自然や農村・農業、文化という財産があり、117万広島市民の基礎的生活の一端を担う場として、平成21年広島市は、農村の問題を横断的に支えるクロスセクション「里ライフ創造施策推進担当」部署を設置、当地区がそのモデル地区に指定された。過疎問題にあえぐ当地区を、職員や農村都市活性化コーディネーター(広島市が養成、登録した専門家)、公民館等と共に市を挙げて支援している。 4.NPO法人設立 平成23年4月、「O(オー)プロジェクト」で策定したプランの推進母体とし「特定非営利活動法人小河内Oプロジェクト」(以下、当法人と略す)を設立した。そのビジョンは、日本一の元気な田舎「源快集楽」(広島市の源となるまち、快い暮らしができるまち、人が集まるまち、楽しいまち)である。未来を先導する「日本一の元気な田舎」に人が集まり楽しいまち、が当法人の将来像のイメージである。 ゆでカエルや宝の持ち腐れに気づきようやく動き始めた、という感である。 農地・農業を地区全体で守る仕組みの構築や都市住民との交流(グリーンツーリズム等)、地区の資源と特性を生かした地場産業育成等多くのプランを策定、推進中であるが、成果が見えてきた「使用済み割り箸炭リサイクル事業」について説明する。 5.「使用済み割り箸炭リサイクル事業」 (1)事業の概要 わが国の割り箸の年間需要量は約250億膳(2005年)。飲食店やイベント会場等で大量に発生する使用済み割り箸は有効な活用策や回収コスト等から大半が1回限りでごみとして廃棄されている。「使用済み割り箸炭リサイクル事業」(以下、本事業と略す)はこれらの使用済み割り箸をO社のインターネットを利用した廃棄物の回収システム「みどりのポスト」で回収、当地区の炭焼き名人(炭焼きをしている達人を敬意も込めてこう呼ぶ)が雑木と共に炭焼き、地区山林にある枯杉葉と混ぜ、1袋にセット、バーベキューの着火材兼炭火として商品開発した。「みどりのポスト」による回収システムと田舎の炭焼き名人の技術の融合が本事業を可能にした。 自然の素材を生かし、環境と経済が両立し、(都市)割り箸排出地と(農村)過疎地を結び、社会(環境)のそれぞれが利益を享受するWIN―WIN事業である。 (2)事業の仕組み ①O社 「みどりのポスト」(段ボール製の回収リサイクル箱)制作と回収システム運用。発生現場(うどん店等)に「みどりのポストの回収リサイクル箱」を設置、ポストにいっぱいになればO社に連絡、提携した宅配業者が回収し炭焼き現場(当法人)へ運ぶ。 ②地区住民 地区住民は、炭焼き名人が雑木と共に炭焼き、住民が山林の枯杉葉を収集、老人会が枯杉葉(20g)、割り箸炭(80g)木炭(500g)を1袋にセット、検査、出荷専用段ボールケース(20袋入り)詰める。 高齢者に小遣い稼ぎや見守り等で安心感、居場所づくりを行なう。 ③当法人 原材料の管理(箸の回収、原木や枯杉葉の調達)、製品管理、在庫、受注、出荷、売上、営業等事業全般を管理、運営。 (3)これまでの経過と成果 ①平成21年、O社の廃棄物の回収システム「みどりのポスト」で使用済み割り箸を回収、これを当地区の炭焼き名人で炭焼き(炭化)、バーベキューの着火材として商品化できないか、検討、炭焼き名人に実験を依頼。 ②平成22年、ある工夫と技術で、割り箸の炭焼きは成功。これに木炭、枯杉葉を一定の割合で1袋にセット。試作品で実験を繰り返す、大手ホームセンターに売り込み(前向きの回答、改善点を指摘)、4月、実用新案登録(第3159621号)。商品名を、15世紀当地区を統治した殿之城主小河内弥太郎に因み、「弥太郎君」と命名。小河内弥太郎を祀る神社(殿之城霊神社)に報告と商売繁盛を祈願。牡蠣小屋から大量注文、広島市幹部職員がポケットマネーで大量に購入、支援。約2000袋出荷。マスコミで度々報道。 ③平成23年4月、大手ホームセンター(西日本を中心に約300店舗運営)が正式に採用を決定。6月1000袋出荷、広島県、山口県内の21店舗で販売開始。バーベキューシーズンを迎え、生産体制確立のため、助成金で炭焼き窯3窯建設計画。 (4)特徴 ①廃棄物処理費用のコスト削減・・・使用済み割り箸(ゴミ)を資源として無料で回収。(回収コスト等は企業等(スポンサー)の協賛金(「みどりのポスト」の広告代)で吸収) ②地球温暖化への貢献 ・循環型社会形成・・・廃棄物の回収システム(静脈産業)確立 ・C02削減・・・みどりのポスト1箱(約3000膳入り、12㎏) 12㎏×0.84(ゴミの排出係数)≒10㎏(「みどりのポスト」1箱の削減量) ③過疎地のまちづくり ・過疎地の特性と資源を生かした産業による雇用創出と経済的発展。 ・若者から高齢者までそれぞれ適した作業。 ・高齢者の生きがいと居場所づくり、見守り。若者に夢と希望。 ・全国の過疎地のまちづくりに転用可能(全国に拡大した場合、当NPO法人のみでは対応できなくなる。コラボレーションするか、各地に生産拠点を整備する必要性が生じる) ④環境問題解決と感謝の心 境問題解決には多くの国民が拘わる身近な問題から解決の糸口を見出すことが重要で、外食事等に使用する割り箸をリサイクルする本事業は、我が国の循環型社会形成と感謝の心を覚醒させる、と考える。 6.今後の抱負 (1)今後の見通し 夏場のバーベキューシーズンを迎え、大手ホームセンターが採用、販売開始したことから今後に期待している。また、市民の環境の高揚等から期待されると予想、生産体制を整備、年間生産量を6万袋(月産5000袋)と想定した。 これによる効果を下記の通り予測する。 ①CO2削減(年間) 「みどりのポスト」回収 1200箱×10㎏≒12トン ごみとして廃棄されている箸が資源として回収(720万本)され、付加価値を付け、商品としてリサイクルする仕組みを完成することで、循環型社会形成に貢献する。 ②経済効果 当法人の販売収入約15,000千円(卸売りと直販の割合を8:2で計算) 販売価格は1袋(600g)398円(税込) ③新規雇用創出効果 本事業に携わる年間の延べ人数は、炭焼き、袋詰め 箸回収等約1200人。 ④社会効果 ・地区の活性化、若者に希望、高齢者に生きがいと社会参加、見守りが期待される。 ・住民のコミュニティと環境意識の高揚が期待される。 ・本ビジネスモデルは全国各地に転用可能、上記効果が期待される。 (2)抱負 本事業は、地球温暖化対策(循環型社会形成、市民のもったいない心の覚醒)と全国多くの中山間地が抱える過疎地の再生ビジネスモデルになることを期待している。 広島市一番の過疎地を、「源快集楽」で未来を先導する「日本一の元気な田舎」に変えたい。 ※割り箸のCO2削減量及び計算根拠 ・「みどりのポスト」1箱 使用済割り箸 約6000本入り(12㎏) ・「弥太郎君」1袋(80g)に必要な割り箸 約120本(240g) 故に「みどりのポスト」1箱で製品1袋の生産量は、12000g÷240g≒50袋 ・6万袋に必要な「みどりのポスト」は、60000÷50≒1200箱 |