「あしたのまち・くらしづくり2012」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

アイデアと協力し合いでやさしい地域をめざす
岩手県北上市 江釣子6区自治会
 平成19年3月18日、この日は日曜日でしたが、私は仕事で出勤し、夕方に帰宅したら、前自治会長から電話がありました。
「進さん、会長おめでとう」
 私は一瞬『なんの会長だろう?』と思いましたが、つづけて「自治会長に決まったよ」との話で、『えっ!?』と一瞬絶句状態でした。
 しかし、役員人選がかなり難航しただろうことは、前自治会長が役員探しで苦労していることを感じていましたので、『なんで俺が』という言葉はグッと飲み込みました。逆に2、3秒の短い時間に頭に浮かんだのが『自治会長ということは、この地区(300世帯800人)のトップだ。自分の思うようにやれるチャンスだ』ということでした。
 そのあと夕食時に家族にこのことを話したら「いいんじゃない」程度で、特に関心はなかったようでした。小学1年生の孫と風呂に入っているとき、「じじ。じじ会長になったの?」と聞かれ、「(じじ会長ではなくて、じち会長なんだけど)そうだよ。じじ会長だから、じじたちってお前たち孫を守る役目だろう。その会長なんだから、よろしくたのむよ」と会話したのを、今でもおぼえています。

 私は、『公民館』にいい感じを持っていませんでした。それは子どもの頃に、公民館に集まるわけですが、大人や上級生から命令されるのがいやでしたし、また大人になってからも、公民館のゲートボール場の道具を使って子どもたちと遊んでいると、管理人から「勝手に道具を使って遊ぶな!」と怒鳴られたりして気分のよくない思いをしてきたので、もし自分が地区の長(自治会長は公民館長も兼ねている)になったら、子どもたちを自由に遊ばせてやるんだ、公民館の障子が破れようが、ガラスが壊れようが、子どもたちの心が壊れなきゃいいじゃん。それがやっとこの地区で実現できるチャンスだ! と思い自治会長を引き受けたのでありました。

 まず、最初にしたことは、自治会長として宣言することでした。会議や地区の行事の際にあいさつがあります。そのときに必ず「私は地区のお年寄りと子どもたちを主人公にするために自治会長を引き受けました。よろしくお願いします」ということを言い続けてきました。不思議なもので、そういう意思を話すと、役員の皆さんも同じ気持ちになってくれるものですね。いろんな地区の行事のやり方を決めるにも『年寄りと子ども』というキーワードがありますから、物事がすんなり決まるわけです。われわれ中間層は『子どもと年寄り』のために楽しく汗を流せばいいだけなので、面倒がないわけです。目的が決まればあとは手段だけですから簡単です。
 さて、次からは具体的な取り組みの紹介です。
 Aさん「おらぁ、80歳過ぎたバァさまだけど、今とっても楽しい」
 『ふれあいディサービス』活動です。活動の母体となる福祉委員会ですが、区長を福祉委員長にして、自治会長を副委員長にしました。自治会の私たちが直接携わることで、お年寄りの方々の気持ちを察することができるし、地区へのいろんな意見を伺うこともできます。また民生委員も一緒に属していますので、介護や福祉の件でも民生委員と自治会とで協力して個別事象に対応することができます。
 「まんつ、まんまけっ(まず、ご飯食べて)」と、我々が子ども時代は、親戚に行っても、隣近所で遊んでいても、お年寄りに言われたもんです。あの頃、子どもたちはいつも腹を空かしていたので、ご飯がいちばんごちそうでした。「まんつ、まんまけっ」というのが最高のもてなしでした。それを『ふれあいディサービス』で実践したのです。福祉委員会には協力員として女性の方々も6、7人入ってもらっています。この方々が、毎回(ふれディは月1回)手作りのおいしいお昼ご飯を作ってくれるのです。お年寄りのいる家庭も、ふれディに行く日は必ずお昼を食べてくるので、家族の方々も快く外出させてくれます。
 ふれディの活動内容も、いろいろ工夫して取り組んでいます。登録講師による『手品』や『紙芝居』、『健康の話』。映画を観たり、ビデオで笑ったり。バスで小旅行に出かけたり。河原で川魚を焼いて食べたり。楽しくやっていますと、協力してくれる人たちが増えてきます。なんと地区でバスを持っている人がいまして、ふれディの活動に、いつでも運転手つきで協力してくれるのです。またカメラ得意なひとは、毎回撮影に来てくれていますし、焼き鳥を焼きにきてくれる人もいます。
 お年寄りたちの情報網の速さと広がりは重要でありまして、いいことも悪いこともすぐ地区に広まります。自治会としてこの情報網を味方につけることが、地区行事を運営する上でいかにスムーズに働くかは想像に難くないでしょう。
 この活動では、福祉委員会の方々が毎月65歳以上の世帯全戸を『お知らせ』を持って回ります。ふれディに参加できない人でもお元気かどうかが全員把握できますので、何か異変がありますと民生委員とも相談して対応することができています。これとは別に行政班長さんも月に2回配布活動を担っており、やはり見守り役を行なっています。

 Bくん「ねぇ 公民館に行こうよ」
 お花見会、公民館花壇の花植え、盆踊り、運動会、世代をつなぐ会などの行事の際、必ず子どもたちの遊びを企画して楽しんで遊ばせています。なぜこれが大事かというと、大人と子どもが一緒の場合、どうしても大人は酒のみのペースや空間でいたいし、子どもいたちは飽きてしまうしで、最後まで大人と子どもたちがいい関係でいるというためには、お互いがそれぞれ楽しめることがあるということが必要だと考えるからです。子どもたちが興味を示すものを準備しておくと、最初のセレモニーは大人と一緒でも、あとは勝手に大人の世界、子どもの世界で楽しんでいますので、盛り上がる訳です。子どもたちが集まる場によく使うのは『射的』『玉入れ』『綱引き』『お手玉』『かるた』『野球道具』『ビンゴ』『ドッジボール』『豆つかみセット』『あみだクジ』『お絵かきセット』『大抽選会』など。いずれ公民館に行くのが楽しい環境を作っておくといいのです。『子どもが来ると親も来る』効果でイベントの参加者が増える訳です。

 Cさん「俺は役員だが、大して負担を感じないぞ。かえって楽しいぞ」
 「役員のなり手がいない」と他の自治会も悩んでいますが「役員は忙しくてたいへんだ」とか「誰も協力してくれない」ということがあるからではないでしょか。そこでうちの地区はどうしているかというと『来ても拍手。来なくても拍手』という考え方の浸透です。たとえば役員会。今は60歳を過ぎても皆さん仕事をしています。役員会を開いても出席できないときがあります。そのときに「なぜ来ないんだ」という空気を一切なくしたことです。行事があります。なかなか人が集まりません。そのときにがっかりするのではなく「いいんだ地区の皆さんはそれぞれ予定があって元気に過ごしているんだから。来れない人たちにはすまないけれど、来た人たちで行事を楽しもう。貴重な自治会費を使わせていただこう。『来ても拍手。来なくても拍手』でいこう!」主義です。集まった人たちで充実してやっていくと、だんだんそれが広まって、逆に集まる人が増えてくるのです。いつでも休んでいいんだ。たまにはサボっていいんだ。という雰囲気だと、しばらく行ってないが今度は行ってみよう。行ったら楽しかった。じゃあ次も行こう。となるんですね。
 あともうひとつコツがあります。それはいろんな行事を1日でやることです。行政は縦割りです。福祉は福祉。防災は防災。スポーツはスポーツ。地域づくりは地域づくり。老人は老人。しかし、地区の人は横のつながりで暮しています。ですから例えば、『公民館の花植え』があります。その日に自治会はいろんな行事をぶっつけます。『炊出し訓練』『ふれあいディサービス』『老人クラブ地区清掃活動』『子供会ドッジボール練習』『避難訓練』『防災訓練』等々です。一日を順を追って表しますと、朝子どもたちとお父さんお母さん方が集まって、自治会講師の花植えの勉強会をします→PTAや班長が集まって炊出し訓練のごはん支度とカレーづくりをはじめます→公民館の花壇に花植えがはじまります→ふれあいディサービスの方々が別の部屋に集まり映画鑑賞をしています→老人クラブの人たちが草取りボランティアをしています→花植えが終わり、小学高学年はカレーライスづくりに参加→低学年はドッジボール練習→幼児は玉入れ遊び→消防署から来て避難訓練を始めます(このときは、ふれディも老人クラブもPTAも子どもたちもみんな参加します)→消火器訓練を行ないます→お昼は全員(150人ほど)で炊出し訓練のおいしいカレーライスをいただきます。
 この例でなにがいいかといいますと、まず消防署から「防災訓練でこんなにいろんな年代の人がたくさん集まる自治会なんてみたことがない」と喜ばれるし、地区の人たちは家族総出でお昼を無料でごちそうなるし、自治会役員は数回参加しなければならない行事をたった1回で済ませられるし、とにかくいいことづくめなんです。ただ、行政への報告は別々にしなければ、縦割りでこりかたまっている方々から、自治会長が注意される一点だけは除きますが(笑い)。

 Dさん「俺も手伝うぞ」
 市所有の建物を管理委託して公民館などに使っている地区が多いのですが、屋根などのメンテナンスに市が予算を付けられず、老朽劣化をだまってみている状態でした。そこで地区には定年になっている人で各方面の技術を持っている方が結構いることに気付きました。その方々にボランティアをしてもらい、役員は手伝い、終わったら飲みにケーション。
 成果はいっぱいありましたね。公民館の屋根塗装は、若い頃に漆の塗り師をしたことのある先輩にやってもらいました。市からは塗料代のみをいただきました。大工さんの仲間は、公民館の物置に立派な棚を作ってくれましたし、水道屋さんはトイレ改修の際の取り壊し撤去をしてもらい数十万円かかるところを皆でやって0円で済ませました。また専業農家の方には大型トラクターで除雪ボランティアをしてもらっています。
 昔は行政に頼んでやってもらうやり方。今は自分たちでやるから行政も出来ることを支援して頂戴。という住民主導のやり方がいいのではないでしょうか。

 Eさん「これからもお互い交流し合いましょう」
 昨年の3月11日の東日本大震災では、沿岸の仲間が未曾有の大被害を受けました。内陸の私たちの地区は直接の被害は受けませんでしたが、親戚や兄弟姉妹、同級生や先輩後輩、会社の同僚など誰一人としてつながりのない人はいませんでした。そんな中4月3日に自治会の総会が行なわれ、「避難所にいる沿岸の仲間に“もちつき”に行きませんか」と声をかけたところ、急にもかかわらず13名が集結しまして4月10日、大船渡市の峯岸公民館に行きました。臼と杵2セット、ガス・ふかしセット三つ、もち米12キログラム、くるみ、あんこ、ごま、きなこ、おつゆもち、大根おろしもちなどをふるまって大変喜んでもらいました。その後もお互い2回ほど行き来してまして「年に2回はそれぞれにおじゃまして交流を深めて、元気を分かち合いましょう」と誓い合っているところです。

 Fさん「やっぱり自転車だべ」
 自治会や福祉委員会から地区の方々へ文書をくばる機会が結構多いです。そのときに車を使わないで自転車で配って歩きます。なぜかといいますと、道々で地区の子どもたちやお年寄りの方々と会います。そのとき自転車だと停めてゆっくりお話ができます。そんな立ち話のときにいろんな話題が出ます。わざわざ役員会を開かなくても地域の出来事や要望がわかるのです。これで大切な情報が把握できて自治会活動に役立てられるんです。
「自治会の仕事は自転車で」
 これをモットーにペダルを踏む続けている毎日です。