「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載 |
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
大好きな小泉を子どもたちへ継ぐために―集団移転は未来への贈り物― |
宮城県気仙沼市 小泉地区の明日を考える会 |
震災からの復興、始まりは病弱な両親を一刻も早く家に入れたいとの思いからでした。集落を襲った20メートルを超える大津波、一欠片さえも残さず全て海へと呑み込んでいった現実を目の当たりにし、集落の誰一人として二度と同じところには住めないと直感したのです。震災後まもなく夜な夜な住居の再建のはなし、そこから一緒に造成して家を建てよう。どうせなら集落みんなで同じ場所に暮らせる何かいい手段がないものか模索する毎日でした。やがて隣町に電気や電話が繋がり、仲間の会社事務所を拠点として過去の事例を調べたら防災集団移転促進事業を知り一筋の光が見えたような気がしました。しかしながら、その採択条件は被災地集落に一軒でも再建する人がいてはならないなど大変厳しいものでした。被災している人たちの今後の生活を確認する必要があることから、防災集団移転促進事業の内容説明会の開催を市役所にお願いし、さらには9割以上の家屋が流失し、運営困難な自治会の代わりに「小泉地区の明日を考える会」という組織を立ち上げて被災住民の意向調査など地域復興の中心的な役割を担う組織として活動することにしました。直面している課題は、「住民合意」、被災した元の場所に再建しない確認と被災した世帯の過半数が防災集団移転に参加することの確認です。避難所の目の前には仮設住宅が建設中、避難所からバラバラに別れる前に確認のアンケート調査をする必要があり、時間が限られていました。震災からまだ2ヶ月、どうしたらいいのかわからない人が多数いましたが、わからない人は、とりあえず集団移転に入ってと説明し、9割以上の世帯が集団移転に参加、残りの世帯も被災場所には再建しないと答えてくれました。これをもとに小泉地区防災集団移転協議会を設立、気仙沼市長に要望書を提出しました。時に平成23年6月15日のことです。 このアンケート調査を進めながら、私たちは単なる個々の住宅再建ではなく、新しいまちを環境に優しく、暮らしやすい自慢できるまちを造ろうと考えました。しかし、どのように進めたらよいのかその手法がわかりません。私たちにあるのは、新しいまちを自分たちが造るというヤル気だけでした。人づてを頼って、やがて奥尻島の復興に携わった方々に巡り会うことができました。北海道大学の森傑先生と札幌の設計事務所、株式会社アトリエブンクの和田常務と石黒専務の二人、この方々の全面協力により私たちの防災集団移転促進事業が動き出しました。平成23年7月6日の集団移転事業のキックオフ、第1回復興フォーラムで森先生の講義「集団移転は未来への贈り物」と題して、この震災からの復興は、自己の家を建てることではなく新しいまちを造ることなんだと話してくださいました。震災がなくてもいずれ廃れていく過疎の町、私たちはそこから立ち上がるチャンスを与えられたのだと気持ちを切り替えることができました。未来への贈り物として新しいまちづくりに取り組む気構えができたのです。 平成25年3月11日で、あの日から2年が経ちました。まちづくりワークショップも数えれば25回、自分たちの震災前の暮らしを振り返って、地域のいいところや継承したいところ、生活様式、自治会組織、場所であったり、人であったり、自然だったりとひとりひとりが小泉という地域と向き合って見つめ直した最初の3ヶ月。早く家を、早く造成工事をと苦情を言われながらも進むべき道が明るく照らされているような気がしていました。9月末の台風の夜、遠く札幌から車で小泉地区の模型を持ってきてくださった石黒専務、以前家のあった場所へ自分の名前の入ったパーツをはめ込む作業、今でも涙する思い出深いワークショップでした。その日から住民の顔が明るくなったような気がします。それからのワークショップは、新しいまちへの基本的なコンセプトを十分話し合ってきたので順調に進めることができました。 小泉に似合う家とは、魅力のあるまちづくりやまちなみの維持管理や運営方法など参加されている住民からは積極的な意見や提案が出されるようになりました。加えて森先生からは、世界的に誇れるまちの事例を高齢者にも分かりやすく大学の講義のように解説してもらい、先進の住宅団地を視察した時にはお互いにクルドサックやラドバーンの言葉を説明し合う光景には驚きもしました。少しずつ少しずつ小泉地区のラドバーン(歩車分離)の防集団地が浸透し、自慢のまちの計画になってきました。 いろいろな方々の支援をいただきながら平成24年5月22日、大臣同意を得ることができ、やがて詳細測量に着手、この春には用地買収と造成工事の着工と足早に過ぎた日々でした。いろんな苦労やくじけそうな出来事も大好きな小泉を子どもたちへ継ぐために、もう一度小泉コミュニティを再生することが私たち小泉地区の明日を考える会と厳しい生活に耐えながら協力してくれる住民のみなさんとの集団移転であり未来の小泉の人たちへの贈り物なのです。完成までは、もう暫くありますが全員元気にその日を迎えられることと信じておりますとともにすべての方々に感謝いたします。ありがとうございます。 参 考 平成23年4月24日 小泉地区の明日を考える会結成 同6月5日 小泉地区集団移転協議会設立 同6月14日 気仙沼市長へ防災集団移転促進事業実施を求める要望書提出 同7月6日 第1回小泉地区震災復興フォーラムの開催 同7月20日 第1回まちづくりワークショップ実施 同12月9日 小泉町地区防災集団移転促進事業申込書提出 平成24年5月22日 国土交通省大臣同意となる |