「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

小学生に未来志向型教育を行なう社会教育活動
埼玉県川越市 NPO法人子ども大学かわごえ
1.活動内容
1.活動の目的
 子どもたちが育ち、わが国社会を支えていく未来の世界は高度知識社会で、創造的知性が求められます。子どもは10歳ころから知性が急速に発達し、世の中のことや自然のことに「なぜ?」と素朴な疑問を抱きます。この子どもたちの好奇心に応え、知的な世界を開くため、大学の先生や専門家が、大学の教室で、分かりやすく授業する「新しい学びの場」が子ども大学かわごえです。子どもの時から大学の知性に触れ、新しい知的世界をのぞき見ることによって、学ぶことの楽しさを体験することは、子どもの夢とロマンを育み、知性を磨く貴重な機会となるはずです。
 子ども大学かわごえ(CUK)は、地元川越の3大学(東京国際大学、尚美学園大学、東洋大学)の教授たちと連携して平成20年12月に産声を上げました。

2.CUK教育の四つの特長
(1)未来志向型の考える教育
(2)わが国初の子ども大学
(3)市民が創った「市民立大学」&“地域の落とし子”
(4)教育の三本柱
①純粋科学的な課題と取り組む「はてな学」、②自分の生き方を考えるキャリア教育の「生き方学」、③地域の文化を学び地域活動の実践を行なう「ふるさと学」

3.組織
(1)在校生
平成21年3月 第1期学生 116名
平成21年9月 第2期学生 100名
平成22年6月 第3回学生 172名
平成23年6月 第4期学生 183名(定員180名)
平成24年6月 第5期学生 184名(同上)
平成25年6月 第6期学生 184名(同上)

(2)会員
 一般市民、大学教授、小学校教員、産業人、行政職員など地域の各分野から集まったボランティア会員。経営方針や授業計画策定、学生の募集、講師との折衝、大学教室の手配、授業感想文の回収、感想文の清書&編集等の事務作業を行なうと共に、資金的・経営的管理活動を行なう。理事9名、一般会員59名。平均年齢37歳。

4.教育活動
(1)正規授業
 月に1回土曜日の午後2~4時に前記3大学の教室を借りて行なう。この授業には学生180人と保護者約100人が参加する。年に10回程度実施。

(2)特別授業
 大教室における一方向型一斉授業を補完する意味で、少人数のグループによるゼミ、ワークショップ、フィールドワークや実技を伴う体験学習などの特別授業。この特別授業には地域の経験者や専門家が積極的に協力している。

5.事業部活動
 発足以来4年間にCUKの活動が多様化してきたので、平成24年4月から事業部制を導入して、それぞれの目標を定めて活動を開始した。
(1)基幹事業部
 従来の授業活動、すなわち正規授業と特別授業を実施して、相互に補完し合う。
 特別授業としての新しい取り組みに次のものがある。
①川越地域づくりへの参加
 川越の尚美学園大学と埼玉県立川越総合高等学校の連携事業、農(Farm)、食(Food)、祭り(Festa)の小江戸川越地域ブランドづくり活動に、「ふるさと学」の実践として参加する。
②CUK少年少女合唱団
 尚美学園大学の指導を受けて少年少女合唱団を編成、平成25年12月に同校川越キャンパスの里山音楽ホールで発表会を開催する。
③農業体験学習
 埼玉県立川越総合高校の農場の一角を借りて、農園の運営を通じて農業体験学習(「ふるさと学」実践)を行なう。

(2)「ミニかわごえ」地域協働事業部
 「ミニかわごえ」こどものまちプロジェクトは、川越市の補助金20万円を受けて3回実施した。こどものまちは、子どもたちが紙飛行機や看板制作などのものづくり体験を通して、労働の対価としておカネを稼ぎ、自分で稼いだおカネを使って食べ物を買ったり、ゲームセンターで遊ぶという生産・消費活動を体験学習する。こどものまちの市民は、小学校1年生から高校3年生までで、まち中では円貨は通用せず、コエドが流通している。
 CUKは3年間の活動を通して「ミニかわごえ」の地域協働モデルを完成した。今後は学校の学園祭ということでなく、川越全体の「子ども祭り」へと発展させることになる。とりあえず平成25年実施の「ミニかわごえ」は、学園祭から市民の祭りへ軟着陸させるための移行期間の取り組みとして、CUKと川越市役所が共同で開催することになった。

(3)通信教育事業部
 埼玉県東松山学童保育所の職員&CUKの会員が、保育所の子どもたちに本校の授業の様子を伝えると毎回大変興味深く聞いている。このため東松山学童保育所の中に通信教育事業部の「ひがしまつやま分室」を設立した。
 「ひがしまつやま分室」の子どもたちの熱意にこたえるため本校の授業の様子をインターネットで「ひがしまつやま分室」へ同時配信する遠隔授業(ディスタンスラーニング)を実施する計画を立て、1月の授業(専修大学今井雅和教授「世界と上手に付き合おう―TPPってなあに?」)を試験的に東松山へ配信したところ成功を納め、学童の子どもたちに大歓迎を受けた。
 さらに、授業内容のコンテンツ化をはかることになり、授業のコンテンツの一部は、森永エンゼル財団のご厚意により、森永エンゼルカレッジインターネット放送局から広く一般に配信していただくことになった。とくにこの授業コンテンツの配信には、CUK学生・保護者のみならず祖父母にも参加いただいて、三世代生涯学習をめざす。
(4)理科教育支援事業部
 平成23年度から米国ボーイング社からチャリティ基金を受託し、小中学校の理科教育の支援に協力することになった。それにともない25年度にCUK内に「川越サイエンスサポートセンター(KSC)」を設立、川越市内の大学&高校と支援ネットワークを構築、市内の小学校へ理科教育のための出張授業を実施することになった。KSCの主な役割は、出張授業によって発生する人伴費や材料費などの助成であるが、予算不足で悩んでいる川越市内の全小学校から大歓迎されている。

6.協力団体
後援:埼玉県、埼玉県教育委員会、川越市、川越市教育委員会、鶴ヶ島市教育委員会、川島町教育委員会、川越商工会議所
連携:東京国際大学、尚美学園大学、東洋大学、埼玉県立川越高等学校他、川越市立川越第1中学校他、川越市立川越小学校他、川越市教育センター、川越少年少女合唱団
協働:川越市自治会連合会霞北支会、川越市霞ヶ関北自治会、川越市南自治会、川越市伊勢原2丁目自治会、霞ヶ関青少年育成会
協力:川越市立全小学校、鶴ヶ島市立全小学校、川島町立全小学校、武州ガス(株)、昭和工業(株)、NPO法人川越子育てネットワーク、同川越蔵の会、川越市中央地区学校サポート委員会など。
支援:財団法人カメイ社会教育振興財団、生活協同組合さいたまコープ、米ボーイング社

2.活動の成果
1.子どもたちの学習成果
 授業の後で子どもだちと保護者全員に授業の感想を書いてもらっている。その子どもたちの感想文を読んでみると、
・学校では聞けない話がたくさん聞けて、とても楽しい。
・新しいことを一杯知った。
・もっといろいろな話を聞きたい。
・この世界は、不思議で一杯なんだなあ…。
・あたりまえのことはない!と思った。
・教室の雰囲気が大学らしくていい気分だった。
 ということで、保護者の感想は、
・授業を受けた結果、何事に対してもよく考え、質問するようになった。
・自分の興味のないことには関わろうとしなかったが、何事にも食いついてみるという姿勢が出てきた。
・テレビのニュースなども積極的に見るようになった。
・授業で一緒に聞いたことを後で親子で話し合うのが習慣になった。
 というように、子どもたらが大学教授の専門知識に触れて知的好奇心が触発され、視野が広がり、授業で学んだことで疑問を特つと自分でインターネットや参考書で調べる習慣が身についてきたと、子ども大学の授業を受けた結果、単に知識が増えたというだけでなく、学習態度が変わって、知識の移転が起こりつつあるという学習の成果を報告している。

2.多くの授業参加者
 月に1回開講する正規授業は第4期末までに34回を数え、学生(子ども)2849人、保護者1511人が参加した。同じく4期末までに実施した特別授業では、3回実施した“生徒が先生のもの「づくり教室」”では、延べ350人の子どもが参加し、学園祭“「ミニかわごえ」こどものまち”では延べ3160人の子どもと1000人近い大人が参加した。

3.親子共学
 保護者は正規授業や特別授業に参加している。保護者(大人)を授業へ参加させることは発足当時考慮に入ってなかったが、大学までの子どもたちの送迎を保護者の責任で実施してもらうことになり、自然発生的に時間のある保護者は教室の後ろで講義を聴くことになった。その結果、授業が終わって自宅へ帰ってから、今日学んだ授業について親子で意見を交換することになり、図らずも親子共学のメリットが出てきた。CUKの応募者数が年々増えている理由の一つに、保護者間の口コミもあるものと思われる。

4.講師陣の協力
 講師は地元の3大学の他各地の大学や企業の中から出講していただいている。そのお忙しい講師の先生方だが、無理を言ってボランティアベースで無償で出講していただいている。先生方は、大学生や社会人相手にたくさんの授業を実施している方々だが、小学生に話した経験のある方は池上彰氏を除いて皆無である。このためどの講師も子どもたちに少しでもわかるよう講義の内容を易しくするため苦心をされている。先生方にはこのご苦労をされ、無報酬で出講をしていただくという悪条件のため、私たちは大変恐縮しているが、逆に、先生方からはCUKの子どもたちは一生懸命に先生の話を聞き、質問をすると即座に返答が返ってくる、大変気持ちのよい授業をすることができた。またいつでも呼んでくださいという意見を、ほとんどの講師の先生方から聞くので、私たちスタッフは感謝している。

5.地域活動への参加
 「ものづくり教室」や学園祭「ミニかわごえ」などの催しは、学校外部の団体や個人と接触するので、子どもたちの恰好の体験学習の場となっている。また年齢の異なる人々との接触により異世代交流の成果が出ている。“生徒が先生の「ものづくり教室」”は学園祭における高校生と小学生の世代間交流がきっかけとなって実現した。

6.第三者からの評価
(1)埼玉県NPO大賞 優秀賞
 埼玉県では平成23年に埼玉県内にある1900のNPO団体の活動活性化を促すため埼玉県NPO大賞を設け、全団体から1次選考で30団体を選抜し、県民投票により上位8団体を選んで、2次選考を行なった。その結果、ときがわ山里文化研究所の大賞に続いて、CUKが優秀賞を受賞した。新参者のCUKが受賞できたのは幸運であった。

(2)博報財団 博報賞
 平成24年9月に公益財団法人博報児童教育振興会(博報財団)から博報賞(教育活性化部門)を受賞した。博報賞とは、児童・生徒の「豊かな人間性育成」には子どもたちと日々直接向き合う教育実践者の役割が非常に大きく、児童・生徒に対する日常の教育現場で貢献・努力されている、学校・団体・教育実践者を表彰する。

(3)平成24年度地域づくり総務大臣表彰
 全国各地で、それぞれの地域をより良くしようと頑張る団体、個人を表彰することが目的であるが、地域の複数の大学の教員や専門家と連携して小学生(4年生から6年生)を対象に創発的な授業を行なっている子ども大学かわごえは、子どもたちに新しい知的世界への目を開かせ、興味を喚起し、将来の夢を動機づけ・気づきを与え、知的好奇心を刺激することを目的としているという点を評価する。