「あしたのまち・くらしづくり2013」掲載 |
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
新たなコミュニティの創出と持続可能な地域を目指す―「クニ(村落集合体)」づくり― |
新潟県上越市 特定非営利活動法人 かみえちご山里ファン倶楽部 |
設立と経緯 NPO法人かみえちご山里ファン倶楽部(以下「かみえちご」)は、平成14年に法人設立して以降、新潟県上越市の西部中山間地域において、10年間にわたり活動してきた。設立に先立ち、地域の伝統的生存技能の全戸調査を行ない、それをレッドデータ化し、技能消滅の危機を具体的に提示した。この事実が「座して死をまつよりジタバタしてみよう」という地域の意識となり、地域の人々約80名が発起人となって法人設立がなされた。 以降、地域が主体となりながらも客観的な「ソトからの視点」をあわせ持ちながら、中山間地域の新しい価値付け「生産合理性ではなく生存合理性」による集落の存続と、それに至るための実践活動を行なっている。 「かみえちご」の活動の特徴は「総合性」であり、集落共同体で起こりうるすべての諸問題が活動対象となる。この意味でその活動内容としては、具体の事業実施の他に「つなぎ」としての役割、中間媒体としての役割が求められている。 現在の組織概要 活動対象地域/新潟県上越市西部中山間地(25集落、約2000人居住) 会員数334名/理事13名/専従スタッフ8名/年間予算約3800万円 行政受託事業2ヵ所/水源涵養森林公園・管理運営/環境教育拠点・管理運営 地域資源事業(農林水産品の販売・加工品販売・体験学習・その他) 活動の特徴 「かみえちご」の活動の特徴は、村落再生はそもそも、総合的なものであるという前提に立ち、範囲を絞らず「そこで起こる問題はすべて活動対象」という対応を行なっている点にある。したがって、村落に残る様々な技能の調査に始まり、棚田での米作りや畑作、それら農耕学校の運営、具体のムラを教材とした環境学習施設の運営、水源森林公園の運営管理、古民家改修学校、伝統民俗行事の復元、地域資源を活かした仕事起こしなど、活動項目は多岐に渡る。「地域振興を目的とするNPOは数多いが、「かみえちご」のように総合的活動を行なっている団体は稀有である」(結城登美雄氏)また、活動のひとつひとつは小さいながら具体的な現実問題に対応している。 また「かみえちご」は、村落の集合体を「クニ」と定義し(文末に簡略定義記載)、土地、人の生活の自給力を基盤とした上に成り立つ、自立的な自治の基礎単位構築を目指している。「自給の知恵=まかない」のとりもどしからの地域再生を目指しており、この考え方は、全国から注目を集めている。 さらに、地域の事象に繊細に反応しながらも、ウチ向きではなく、むしろ外との連携を広げていくことでの村落再生を行なっていることも特筆すべき点である。特にここ数年は、総務省が過疎地活性化の切り札として策定した「集落支援員制度」のモデル(小田切徳美氏)として「クローズアップ現代」にとりあげられたほか、10年間の活動や、そこに関わってきた内外の人々の中に起こった変化、行政や既存組織との関わりなど、地域づくりの組織論や手法などを総括、分析した書籍の編集と発行を行ない、全国の地方自治体や地域振興に携わる団体、各大学や研究機関からの講義依頼や資料請求の引き合いも多く、様々な分野に大きな影響を与えている。 そのほかにも、地域資源調査のまとめや学習媒体の作成、地域資源を活かした商品開発、行政のみに頼らない、地域が支えあう形での予防福祉への取り組みなど、地域が自らの資源を活かして生存持続していくための活動に力を入れている。 地域の自然、文化、産業を「守る・深める・創造する」という基本理念により、「かわいそうな農村に同情する活動」ではなく「近未来において最も価値のある場」として、先駆的かつ地道な取り組みを行ない、それによる新たな生存の基礎単位「クニ」の発生を模索している。 「かみえちご」の活動は、自治、農林業、環境、学校教育、産業等、様々な分野からの評価を得、視察はもとより、全国への講師派遣も行なわれている。また、地域とNPO連携の調査対象としてもたびたび取り上げられているほか、各方面で事例報告やパネリストとしての登壇も多い。 外部知見からの評価 ※かみえちごの活動概念の中心にある「クニ」のイメージの応用は都市においても中山間地域においても有効と考えている。「クニ」という概念を掘り下げ、今後の中山間地域と都市部の新たな関係の中から、日本の今後の社会(コミュニティ)のあり方のモデルを研究し、社会システムのもう一つの形を提案したい。(直田春夫・NPO政策研究所) ※ともすれば大所高所からの理屈で抽象的になりがちな村落振興ではあるが、彼らは具体から離れず目の前の問題をひとつずつ解決してゆく。さらに外との連携を広げていくことで村落振興を行なっている。地域の資源を使い、地域でつくるモノづくりを模索している。「かみえちご」の、常に生活者の視点からの活動は意義ある試みである。(島崎信・財団法人鼓童文化財団理事長/武蔵野美術大学名誉教授/日本フィンランドデザイン協会会長) ※限界集落を負の遺産ととらえず、次代を生きる若者たちの新しい暮らしの器としてとらえ直した時に、限界集落はその可能性がひらけてくるのではあるまいか。私はこの「かみえちご」の活動に「集落支援員」のあるべき姿を見る思いがしている。限界集落と都市からの若者との出会いと協働。そこにこの仕組みの可能性がひらかれるように思う。(結城登美雄・民俗研究家/「地元学」や「食の文化祭」の提唱・実践で2004年芸術選奨文部科学大臣賞受賞(芸術振興部門)) ※このNPOは、地域の持つ豊かな自然と、それらを活かし生きていく技術(伝統技術や文化、知恵)を「まかない」と呼び、それらが取り戻されることで持続可能な地域となることを目指している。またその「まかない」の余剰分を都市に向けた小型産業とし、コミュニティ自体での経済の自立を目指している。それはNPOが媒体となるコミュニティビジネスの形による産業化である。このような総合的な活動の中で、景観および自然エネルギーの自立と自給「まかない」は重要な目標であり、すでに古民家の復元や水車小屋の復元などを行なっている。彼らが行なうこのようなこの仕組みづくりは、日本の中山間地活性のため手本事例となりえる。(石塚正英・東京電機大学教授) ※こうした上越市の中山間地域を舞台とするコミュニティ組織とNPO、協同組合、行政の協働連携は、マルチパートナーシップ型の中山間地域再生における協働として、行政が主導するような中山間地域再生政策とも、民間企業に頼った開発に依存する中山間地域再生政策とも全く異なった、新たな地域再生の展望を切り開いている。(白石克孝・龍谷大学政策学部教授) ※一つの集落よりも大きく合併前の旧町村よりも小さい(明治期の小学校区ぐらいの)サイズを「クニ」と呼び、このクニをコミュニティの基本単位とすべきだとしている。広域合併が進む中で、暮らしや自治の単位をどのようなサイズで考えるかということは重要な問題だが、桑取谷の試みは一つのヒントになると感じる。(松井克浩・新潟大学人文学部教授) ※総務省の審議会、過疎問題懇談会では2008年4月に「集落支援員」という仕組みを政策提言しました。この集落支援員、当初想定された時には、役場や農協のOB・OG等を想定していたことは間違いありません。そういう方がいわば地域精通者として、地域の中に入って集落に元気を与える。あるいは集落が何か計画するときにはお手伝いをする。そういうことを念頭に置いたのですが、実はこの当時、農村部にかなり若者が入っている、NPOの中で若者が地域支援に乗り出しているという事態も、少しずつ掴んでおりました。例えば新潟県の上越のNPOかみえちご山里ファン倶楽部です。(小田切徳美・明治大学農学部教授/国土審議会政策部会特別委員/過疎問題懇談会委員など歴任) ※行政にできないこと、そして、利益を追求する企業だけでもできないこと、しかし「きっちりとやらなければならないこと」をおこなっていく組織が必要であるという認識がキーパーソンたちの中にあり、その形を模索した結果、かみえちごが地域の中から生み出されたのである。かみえちごは、新たな「共助」の姿をわれわれに見せてくれている。 それは、行政と市場・企業と共助がそれぞれに結びつきあい、循環しながら地域を持続可能なものにする仕組みである。この点で、桑取谷の事例はわれわれに重要な示唆を与えてくれているのである。(鴨井理紗・新潟市役所市民生活部) 今後の活動 「かみえちご」の活動の主軸をなすのは全国から集まった8名の若者である。出身地や専門分野を異にする常勤の若いスタッフがNPOに集まり、地域に深い敬意と愛着をもちながら熱心に活動していることや、その常勤雇用を継続していることもまた、各界から大きな注目を集め、このような中山間地域振興を担う若い世代の教育の場として期待が高まっている。 教育の実践としては、平成16年度からインターンシップの受け入れを始め、これまで70名以上の学生がこの地で学んでいる。研修カリキュラムは「自らの五感を取り戻し、自分の存在を実感として感じることができるようになる」ことに軸をおき組み立てられる。また、生存の学びの場、地域再生の実践の場として、国内の市民団体や関連施設はもとより、JICA「住民主体のコミュニティ開発」研修、経済産業省職員研修、農林水産省地域産業マネージャー研修などの受け入れも行なっており、そのノウハウを蓄積している。 また、本年度からは、地域再生の人材育成を目指す「仮称/地域再生カレッジ」の準備委員会を立ち上げ、過日、有識者による第1回の会議が開催された。その会議での主たる議題は、方法論としての各論ではなく、そもそも「地域づくりとは何か」ということであった。「誰による、誰のための、どのようなもの」が、地域「づくり」であるのかという、根本の問いの整理である。 また、近年では、合併により行政が引いた後の「地域の事務局」として、地域の既存組織の活動や事務機能面でのサポート体制を高めている。買い物弱者への自主的な取り組み、予防福祉への取り組みなども始めており、全国で今後ますます深刻になる過疎高齢化に向けて、本当の意味での地域主体の自治や支えあう福祉の提案と発信を行なっていく。 ※「クニ」とは、「かみえちご」による造語である。 「ある規模(300~500人)の村落集合体を、生存性と帰属性の中核とし、それによる共同性の場を核としながら、その周囲に第三者(都市住民)との共生の領域を持つもの。それ自体が生存の基礎単子となり得るもの。それら「クニ」は、各個が独立しながら平衡な相互関係性を持つ」(『クニとは何か』関原2011より) |