「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 内閣総理大臣賞

里山資源を活用した金沢市東原町の循環型地域づくり
石川県金沢市 特定非営利活動法人くくのち
1.活動の社会的背景
 NPO法人くくのちは、石川県金沢市東原町を活動拠点としている。東原町は富山県との県境にある中山間地域で、水芭蕉がシンボルとなっている日本中どこにでもあるようなごく普通の里山にある集落である。東原の水芭蕉は、標高約100メートルと低地にありかつ開花が早い自生地として珍しく、金沢市の天然記念物にも指定されている。しかしながら、人口減少(過去20年で4割減少)・高齢化(人口109人・65歳以上51人高齢化率47% 金沢市統計データより)が進み、深刻な担い手不足によって地域の活力が急速に失われつつある集落である。しかし、東原町の住民は、以前に近隣の集落が消滅していることもあって、集落存続への危機感は強く、集落に人を寄せることを目的として、地域住民による日曜朝市を開催している。
 平成23年に東原町会、東原町生産組合、朝市を運営している304水芭蕉会、集落の方が経営されているカフェ・レストラン樫、NPO法人くくのちによる東原町地域活性化実行委員会を設立した。この実行委員会では、農地や水、自然環境を考慮して、今後10年、20年と地域の世帯数が40世帯を維持した自然と共存する地域づくりを目標としている。そのためには、この集落に関わる人の母数を大きくする必要があり、地域住民とともに「農業体験」、「地域資源による商品開発」、「インターンシップ」、「買い物支援」など様々な角度から街の人を巻き込んだ地域づくりの活動を実施している。そのいくつかを紹介する。

(1)農産物でつなぐ里山と街
 荒廃農地の復旧活動を行い、市街地の方と集落の方が交流することを目的に当法人が体験農園を運営している。また、春はタケノコ掘りと農業体験、夏はキャンプ、秋は収穫体験などのイベントを催し、都市部の住民が里山にふれあう機会としている。
 このほか、より多くの人に東原町を知ってもらうことを目的に駅ナカや街ナカ、市街地のショッピングモールでマルシェを開催し、東原町の農産物、加工商品を販売しながら、地域のPRを行い、これまで里山に関心のなかった人たちにも里山を知ってもらう取り組みを行っている。

(2)地域資源を活用した循環型社会形成モデル構築プロジェクト
 集落内の森林整備で排出した竹チップと町内からでる食品残渣の堆肥化を実施している。できた堆肥は、地域の農産物の栽培に利用するほか、堆肥の製品化も進めており、これらによる地域の循環型社会形成モデルの構築を行っている。

(3)竹材の飼料としての利用に関する研究
 石川県立大学と竹材を飼料として活用することを目的として、処理加工した竹の飼料成分、反芻家畜(羊)での消化率、利用性の解明を行っている。大学では、竹の繊維質と県内の副産物からの飼料化を目指している。平成25年度には、東原の竹繊維を含め、県内産の飼料(副産物)で育った子羊が出荷され、カフェ・レストラン樫での試食会を実施した。また、平成25年度からは、石川県のブランド牛である「能登牛」の生産農家もこのプロジェクトに参加している。

(4)人工衛星による水稲の生育調査
 地域内のお米をお米のおいしさを左右する主な要因であるタンパク質の含有量を、人工衛星を利用して調査した。結果としては、日本のお米におけるタンパク含有量の平均値よりもかなり低いことが判明した。同時に栽培場所、栽培の管理方法よっても食味値が違うことがわかり、品質の指標としている。
 また、集落内のお米を、平成23年10月より「東原米」として販売している。消費者の反応も良好で、集落の生産者はもちろんだが、他の集落の生産者からの関心が高まっており、今後も生産者がやりがいをもって生産できる環境を整えることで、東原町のみならず近隣の集落を含めた取り組みに発展することが期待できる。

(5)里山資源のエネルギー活用
 景観を加味しながら耕作放棄地だった場所でヒマワリを栽培し、種から搾油してチェーンソーなどの機械に使う油として利用する研究を金沢工業大学と進めている。我々が里山の整備で使用しているチェーンソーは、機械油を大量に撒きちらしていることに、以前から自然環境に対して悪影響を及ぼしているのではないかと懸念しており、その環境に対する負荷を軽減するため、潤滑油に植物性の油を使用していくことを目的としている。
 下草刈り、薪や炭焼き用の材木の切り出し、しいたけ・なめこの植菌用の材木の切り出し、農作業での機械使用など農林業においても様々な機械を使うので、今後は、その燃料にバイオ燃料を活用していくことを目指している。

(6)地産地消型ダンボールコンポストで街と里山をつなぐ
 金沢市・地域住民・学術機関・企業との協働により、集落の農林廃材である籾殻と竹の薫炭を基材とする金沢産のダンボールコンポストの開発・作製・普及・販売を行っている。街の住民と中山間地域をつなぎ、都市生ごみのコンポスト化、焼却ごみの減量、荒廃竹林の整備、農家への土壌改良材提供、バイオマスを活用した環境保全型農産物の生産などを通して、人と資源の循環ネットワーク形成を目的として進めている。現在は、金沢市全域で地区(全62校下)ごとにダンボールコンポストの普及講座が開催され、市内の焼却ごみの減量化が進められている。

(7)東原ふれあいフェア
 平成22年度より交流人口の拡大と1年間の活動成果を確認するため、イベントのテーマを「里山を食す」としてナメコ汁、とろろ飯、コンニャク、新米塩おにぎり、焼き芋など地域の旬の食べ物の振る舞いや販売を行い、餅つき、自然薯掘り、サツマイモ掘り、里山体験など集落全体をイベント会場として体験型のプログラムを巡るイベントを地域住民とともに開催している。来場者数も1日で500人を超え、3世代での来場者が多い。当初地域住民は、この集落の持つ魅力に気づいていなかったが、このイベントによって多くの人が来場し、賑わう光景を見て住民自身が地域の魅力に自信を持つようにキッカケとなった。当初、このイベントは当法人が主体となって開催してきたが、平成25年度より町会が主体となって企画・運営を行っている。

(8)東原町里山インターンシップ
 この事業では、継続的に学生が地域に関わり、学生の発想力や専門性を活かして外部からの目線で評価し提案してもらい、地域住民の豊富な経験との融合によって、過疎高齢化の進む中山間地域の問題解決に挑戦していくことを目指している。
 平成24年度から、東原町に学生を受け入れているが、第1期生は、東原町の現状と問題点を把握し、魅力や地域資源を活かした持続可能な地域にしていくための方法を考え、里山の魅力を発信できる「地域MAP」を作成した。
 平成25年度は、第1期生がアドバイザーとインターンに参加し、第2期生のインターン生をサポートしながら、地域の農産物を利用した「ドライ野菜」の商品化に挑んだ。今年度は「空き家調査」をテーマにしたインターンを予定している。継続的にインターンを実施してきたことで、インターン生を媒介して他の学生もこの集落での活動を行うようになってきており、高齢化した集落に学生が自発的に関わる仕組みができてきた。
 学生には里山のリアルな生活の現状を目の当たりにしてもらい、地域住民とは違う目線で、柔軟な発想で町を持続させるためのきっかけや切り口を見出してもらうことを期待するとともに、「発想」を「形」にしてチャレンジする精神を養ってほしいと考えている

(9)マチオモイ
 急速に進む、過疎と高齢化により生じている住民の抱える「買い物」と「医療」への不安。そのひとつである「買い物」に対してのサポートを行っている。東原町にミニ店舗「マチオモイ」を開設して、以下のことに取り組んでいる。
@買い物支援
A見守り
Bコミュニティの形成
C地域人材確保・失われつつある公的な仕組みの確保
D地域間交流
 この事業では、住民の買い物に対する不安を早い段階から解消させるとともに、お年寄りの見守り、また集落に住んでいる子どもに買い物の楽しみを提供できているとともに地域のお年寄りと接する場としての役割も担っている。

(10)空き家の利活用
 これまでの取り組みの結果、現在2名が移住を希望している。これまで、所有者が集落外に居住を移し、空き家になっていた家はあったが、利用はされていなかった。町会としても空き家が増えることは望ましくなかったが、問題として棚上げされていた。そこへ、移住を宣言した若者が現れたことにより、空き家の所有者との話し合いが実現し、まず1名が、今夏より空き家に入居することが決まった。これをきっかけに他の空き家についても利用が求められる可能性があり、町会を主体とした「空き家の運用・管理」の仕組みづくりについて取り組んでいる。

2.今後の課題
 これまで、学校、企業、NPO、行政、社会人、学生など様々な立場の人が、お互いに目指す姿を語り合い、共通認識を高めていくことによって、協力し合える関係を築き、協働による継続的な活動を行ってきた。結果、多くの人が集落に関わり、そして地域住民も外部の者を受け入れる土壌が出来始めている。
 東原町での目標は、持続的に40世帯を保つことであり、そのためには、地域を担う町会、生産組合、304水芭蕉会の後継者の育成と新たな移住者、そして、地域での雇用と居住等の生活環境を整える必要がある。
 東原町では、今夏、移住者によってこの5年間で初めて人口増となる。これまで我々が先導して農産物を中心に資源の魅力を発信してきたことで、地域住民自身も集落の魅力に気づきはじめ、多くのよそ者が集落に関わる仕組みができてきた。しかし、今後移住から定住につなげていくためにも現代のニーズに応えることのできる魅力ある当地の資源を活用して、それを多様な主体による連携によって、「食」、「体験」、「学ぶ」、「買う」をテーマとする生業を創出し、地域住民が主役となる地域づくりに磨きをかけていく必要がある。
 東原町での活動はあくまでもモデル地区であり、この地域の活動で得た、様々なノウハウを活かして、他の集落の特性に合った方法で波及していくことを目指している。