「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 主催者賞

「世界遺産登録決定」は始まりで、活動を通して街の活性化を目指す
群馬県高崎市 特定非営利活動法人富岡製糸場を愛する会
 「富岡製糸場を愛する会」は、明治5年完成の「富岡製糸場」の操業停止を機にその普遍的価値を後世に残す目的で、昭和62年工場閉鎖の翌年、有志による取り組みが始まり、平成15年大きな住民組織に発展した。
 富岡製糸場は、今年で創建142年を迎え、官営から・三井・原・片倉工業へと引き継がれ、昭和62年3月までの115年間操業が続いた。操業停止後も片倉工業によって創建時のままに大切に保存され、平成17年に富岡市に寄附された。
 平成15年この富岡製糸場を中心に「富岡製糸場と絹産業遺産群」として養蚕と製糸に関する世界と日本の技術の交流と、技術革新による絹文化の世界的普及・発展に寄与した貴重な近代化遺産群として、「世界遺産に」という動きが始まった。
 本会は、製糸場のこれらの価値を後世に伝えると共に、これを軸に富岡市をはじめ郷土の活性化を願い、素晴らしい郷土を夢見て、力を入れて取り組んでいるボランティア団体である。
 昨年1月、文化庁より世界遺産登録に向けてユネスコ世界委員会に推薦書が正式に提出され、イコモスによる調査と評価を受け、4月26日には登録の勧告を受けた。夢が近付くにつれ、会員の気持ちにも弾みが出ての活動が続いた。
 本年平成26年6月21日、世界遺産登録が満場一致で可決された。富岡市民・群馬県人の悲願の成就に歓喜した。「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界文化遺産となった。富岡の資産が、世界の宝となったのだ。
 本会の会費納入会員は、現在1576名(5月23日現在)で、64名の正会員と十数名の監事理事と事務局で構成され、8の部会に分かれている。部会は各々目的のために活動し、かつ、他部会と連携し、また、会全体として年間を通し活発な活動を続けている。
 会として、製糸場内の清掃や清掃道具や折りたたみ椅子等の寄贈を通じて直接製糸場にかかわる部会、また、製糸場の価値や素晴らしさを体感して頂く製糸場内での活動として、「講演会」「ファッションショー」「コンサート」等を行う部会、製糸場創建の歴史を紙芝居にして各方面で演じ伝道する部会、学びパンフレットやDVDを作り、小中学生や各種団体に出前授業や講演を行う部会、会の広報グッズやキャラクター着ぐるみを作りそれを用いて広報活動、地元高校との連携で高校生を輪に加え活動する部会、施設見学等の研修を企画する部会、また、昨年度は1年間かけ、地域の絵手紙グループと連携を図り、「製糸場絵手紙かるた」を完成させた部会もあり、これを広く配布し、「かるた大会」等で小中学生への啓蒙を深め、技術革新と生産拡大を果たした製糸場の価値を未来に伝える活動も始まった。「製糸場絵手紙かるた」は、伝えたい歴史、関係する人物、建物の構造等会員の思いも全て込めて仕上げた。また、会として製糸場を活かした街づくりを考え提言、富岡製糸場創建の歴史小説の映画化や、さらには製糸場整備資金の募金活動にも取り組んでいる。
 今回の応募は、絹の部会としての活動を中心に以下にまとめてみた。
 絹の部会は女性会員現在9名で、必要に応じてその人脈から協力スタッフを得て活動している。主たる取り組みは、富岡製糸場の桜の時期に開催される観桜会へ参加し、絹つながり応援の「着物de花見ファッションショー」を行い、今年で6回目を迎えた。今年度の出場者は子どもを含め46名で、出場者も来場者も増え、眠っている着物を着るチャンスを作ることにつながってきた。絹への思いを紹介しながらのショーである。ショーの後、毎回絹に関係するイベントも入れている。今年度は、高崎より「狐の嫁入り」グループに来ていただき、男女合わせて60名近い市民が参加し製糸場から街中を行列し2時間余りを楽しんだ。見学者、カメラマンが大勢いて、行列はしばし中断した程であった。
 また、10月には繭倉庫の中で、原れい子・長谷川きよし・芦野宏・クミコ・加藤登紀子・佐々木秀美さん等のシャンソン歌手を招き、フランスつながりで「シャンソンシルクコンサート」を開催してきた。今年度は7回目となる。毎回市民以外にも県内外から大勢の人に来場して頂き、天井が高く音響効果のいい繭倉庫の中でのコンサートを楽しんでもらっている。
 製糸場が世界遺産となった今、お祝いを込め10月4日の製糸場の誕生日に合わせ、今までにない、これから継続実施可能な行事を企画すべく検討を続けている。
 また、3年程前から富岡製糸場正門近くに、「絹ごよみ」の店名で、夜には各部会の会議もでき、「富岡製糸場と絹産業遺産群」等の伝道をしているお休み処もオープンさせ、絹の部会が管理運営を任されている。DVDで富岡製糸場の案内や「富岡製糸場を愛する会」の活動のTV取材などの放映をし、観光客の休憩所として利用してもらい、会員の絹のリメイク服やブローチ等の手作り品の土産物を扱う「製糸場を愛する会」の店舗及び事務連絡所である。
 これらと並行した活動で、富岡街づくり推進協議会主催の「美食グルメ選手権」に絹の部会として参加し、「シルクパウダー入り焼きうどん」で準グランプリを、「シルクうどんじゃあじゃあ麺風」でグランプリを獲得し、富岡の名物づくりの活動を続けた。
 上州は粉の文化、群馬特産の小麦粉と繭からとったシルクパウダー入りのうどんと地元産の野菜・肉にこだわってメニューを考え、試食を繰り返しての参加である。
 グランプリを獲得したのを機に絹の部会を中心に、「富岡シルクうどん推進プロジェクト」を立ち上げた。「富岡製糸場」の世界遺産本登録となった今、富岡市の名物料理を早急に開発し、町のにぎわい、町おこし、地域活性化につなげたいという願いを込めた熱い思いのプロジェクトである。
 市民で賑わう「とみおか夏まつり」や「どんと祭り」にグランプリメニューで参加し、「シルクうどん」が富岡名物として定着していくための活動を続け、本年も7月・10月に予定されている。
 今後の活動として、市の観光課や商工会、富岡街づくり推進協議会と連携を図り、まずは二つのレシピを写真入で公開し、その店独自の「富岡シルクうどん」のメニューを考えて欲しいとの要望を伝えていく活動を具体化していく。深谷ほうとうの会とも交流し、「富岡シルクうどん」を生かした「シルクおきりこみ」にも挑戦を試行している。
 「富岡製糸場と絹遺産群」がユネスコ世界遺産本登録となった富岡の飲食店にその店独自の「シルクうどん」のメニューが並び、富岡の名物として市民や見学者に喜ばれて定着していくことが絹の部会員の熱い思いの活動である。
 「富岡製糸場を愛する会」の現在までの成果として大きく上げられることは、「富岡製糸場を愛する会」の活動に、市民や行政が目を向け始め、協力してくれるようになったことである。
 「富岡製糸場を世界遺産に」の話が始まった頃、富岡市民は本気ではなかったし、乗り気でもなかった。「あの片倉が世界遺産になるかな」と、半信半疑だった。
 富岡製糸場で生産された生糸は輸出目的であり、直接的に町民を潤してはいなかったのが原因か、また、世代交代の時期と重なりシャッターの下りる店舗が目立つ時期と重なり、町民が盛り上がらなかったのが原因かもしれない。
 本格的な活動が始まって10年、ユネスコ世界遺産決定の今、町には新店舗が連なり、1日8300名を超える観光客が来場した日もあるほどで、今日の盛り上がりは嬉しい限りである。
 遺産決定後の団体予約は年末まで満杯の状態である。雨の日には傘を差しての見学は大変である。絹ごよみでは、強い日差しや突然の雨に備え、傘の無料貸出を行っている。天候や見学者の人数にもよるが、解説を聞き、遺産としての価値を十分に理解し、満足して帰宅して欲しいと願っている。
 製糸場としての課題も多く、構成資産の早期全面公開、トイレ、休憩所などは喫緊の課題である。見学できる場所を拡張するためや繰糸機稼働等、早期の整備が望まれるので、本会では整備資金の基金活動にも力を入れている。
 認定NPO法人「富岡製糸場を愛する会」の今後の課題としては、富岡製糸場が世界遺産決定の今、見学者でにぎわう製糸場であるが、世界の遺産、国の宝、郷土の誇りとして後世に残すために、「一度見学したからもういいや」ではなく、「もう一度訪ねてみたい製糸場であり、街」であるための活動の継続である。
 富岡製糸場の普遍的な価値や歴史を子どもから大人までに伝え続けていくことである。
 それには、各部会の「今までの取り組みの成果と課題」を踏まえ、前向きな活動を続けること、それが、活動の基本である。
・教育啓発部会では、3か国語(日本語・英語・中国語)のパンフレットを新たに発行し、従来の学びパンフレットのリニューアル版を作成し、出前講座等で活用し地域・公民館・小中学校等の要望に合わせ、製糸場及び他の遺産群についても伝道していく活動を続けること。
・企画部会の課題は、会員及び構成資産を有する市民との交流も視野に入れ、より製糸場の普遍的価値を理解してもらう視察・研修・啓発活動を行うこと。
・紙芝居部会の今後の課題として、紙芝居「赤レンガ物語」を要望による継続上演と、世界遺産となった今、製糸場周辺市街地での常設上演を企画すること。
・絵手紙部会は、他の業種とのコラボを視野に、絵手紙かるたで製糸場の価値を広めると共に地域の活性化につなげること。
・なんでも部会は、軽くて活動しやすい着ぐるみシルキーちゃんUを県の補助を得て作成し広報活動に生かしていくこと。
・絹の部会としては、登録決定を機に、市民、見学者をも巻き込んで、第1回工女祭り「袴deシャンソン」仮題等、これから第2回、3回と続けていける行事を作り上げようとしている。

 世界遺産となった今、これから100万人を超える人たちが富岡を訪れることであろう。
 「富岡製糸場を愛する会」の活動は、「世界遺産登録決定」は始まりで、継続した活動を通して街の活性化を目指すことである。市民・県民としても、富岡製糸場に誇りを持ち、ここを軸として来訪者に喜ばれる街づくりをすることである。