「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

地域で稼ぎ、地域で支える―「人交密度」日本一の地域を目指して。
岡山県鏡野町 特定非営利活動法人てっちりこ
 岡山県苫田郡鏡野町は人口1万3580人、高齢化率30.4%。岡山県の北部、鳥取県との県境に位置するいわゆる中山間地域と呼ばれるところです。現在の鏡野町は2005年の平成の大合併により、鏡野町、奥津町、富村、上斎原村の2町2村が合併してできた町で、他の中山間地域同様に人口減少、高齢化、耕作放棄地、買い物難民など様々な課題に直面しています。私たち特定非営利活動法人てっちりこ(以下、NPO法人てっちりこ)の拠点は、その中の旧奥津町にあります。
 旧奥津町は、苫田ダム建設により当時の人口の1/3が移転を余儀なくされた地域で、高齢化率も約43%と過疎高齢化が進んでいます。そうした状況の中、「自分たちの地域は自分たちで支えていくしかない」と、「NPO法人てっちりこ」を2004年に設立しました。
 団体名の由来である「てっちりこ」とは先端が丸くなった藁細工のことです。昔から元旦の綯初め(ないぞめ)に若年様の片足わらじ、牛の綱と共に「てっちりこ」を作ってお供えしました。この地方では、正月飾りを燃やす、とんどの時に降ろしてきて「てっちりこ」で若嫁さんの尻をたたいて「元気な子を産めぇよ」「子どもをたくさん産めぇよ」「元気に働けぇよ」などと声をかけ出産・子育てと若嫁の健康を祈りました。今は肩や腰の痛いところを叩いて健康になるようにとの願いでとんど祭に伝承されています。この文化にあやかり、高齢化・少子化社会に活力あるまちづくりができることを願って名付けました。
 私たちが最初にはじめた活動は、地域の名勝であり文化庁の全国100銘泉にも選ばれた「奥津渓」の清掃活動と、地元の日帰り温泉の運営でした。奥津町は県内では「奥津温泉」の名で知られる温泉地です。その中で、町営で運営していた日帰り温泉「大釣温泉」の指定管理をNPO法人てっちりこで引き受けたのです。運営を開始し、地域の様々な人が関わることで、これまでは赤字で運営されていた大釣温泉の経営も黒字になりました。
 そうしたある日、地域のおばあちゃんが道の駅に育てている唐辛子を持ってきました。珍しいと調べてみると、他の地域では見られない固有種であることがわかりました。そこで、これまでは地域で2軒だけ自給用に栽培されていたこの唐辛子「姫とうがらし」を活かして特産品を開発することになりました。
 「地域の特産品」として姫とうがらしを売り出していくには、地域の人にそれを認めてもらわなくてはいけません。地域の人が自慢できるものでないと、地域外の人が満足できるはずがないからです。そこで、6人の農家の方へ試験的に栽培をお願いして、加工品の唐辛子ドレッシングのサンプルをつくり、それを地域全戸に配ってアンケートを取りました。そうすると、「これは美味しい」「商品になる」との声がたくさん寄せられました。そうした地域の声を受けて、加工品のドレッシングを「辛美人」と名付け、販売に踏み切ることになりました。こうした開発工程から地域の方と一緒に取り組む体制づくりを意識してきたことが、地域の特産品として取り組みを続けてこられた大きなポイントだったかもしれません。
 唐辛子は、①比較的軽量で持ち運びに負担が少ない。②収穫時期が8月中旬~11月初旬までと長いので雨の日は休み、晴れの日のみ収穫ということもできる。③収穫は手作業のため設備投資がいらない。④中山間地特有のイノシシや鳥獣被害に遭わない。と栽培上の利点が多くあります。その利点のおかげで高齢者でも栽培しやすく、仕事づくり・生きがいづくりになっています。また、美容効果、ダイエット効果、発毛効果などの効果があるともいわれ、美容や体系維持に関心の高い若い女性から辛いものが好きな男性まで、幅広い世代に「辛美人」は愛されています。現在、姫とうがらしの栽培は32軒、約2町5反で行っており、栽培している方の平均年齢はなんと82歳です。しかも、一人あたり年間平均して50万円の収入になっており、年金暮らしの高齢者にとって貴重な収入源にもなっています。自分がやったことが収入になって返ってくることで、よりやりがいを感じやすくなり、また生活を支えるお金としても高齢者にとって非常によい仕事になっています。
 同様に、地域のいたるところにあるのに、これまで自給用にしか利用されていなかった山椒の木も特産品として商品化しました。また赤じそや青じそも植えておくだけでよく、栽培の手間もいらないことから、特産品化を進めました。現在では、「奥津の宝シリーズ」としていりごま・ゆかり・ゆず・青じそドレッシング・サンショウの葉・サンショウの実の7品目、塩シリーズとして山椒塩や柚子塩や焼きそば用・お茶漬用の商品化や梅干塩など、おばあちゃんの名人技を活用した商品を7品目開発しました。地域資源の代表格の山菜、ワラビ・山ふき・滝みずな(ウワバミソウ)の佃煮の販売に加え、今年度よりワラビやツクシ・さいじんこ(イタドリ)の酢漬の開発に取り組んでいます。さらに、梅の原種と言われている「スウメ」やクロモジの楊枝なども開発中です。
 「地産地消」という言葉が巷で言われていますが、そこから前進し、地域の資源・魅力を商いに変えて(=「地産地商」)、さらに都市部へと商売を拡大(=「地産都商」)することで、地域の人たちも笑顔になっていくこと(=「地産地笑」)を目指して取り組んでいます。
 NPO法人てっちりこでは、こうした特産品で得た収入を原資に、郵便配達や宅配便の配達代行、ごみ収集業務などの地域の生活を維持するための取り組みを行っています。旧奥津町では、平成の大合併や郵政民営化などの影響から、三つあった郵便局が一つになり、職員数も半分以下に減ってしまいました。中山間地域の広い範囲を配達するのに人手が足りず、本来のサービスである、2時間単位指定の宅配や速達サービスを受けることが困難になったためです。地域に同じサービスを受けられない人がいる。これではいけないと郵便配達を代行することになりました。同様に、宅配便のメール便の代行や、加えて、ごみ収集業務も行政から委託を受けて行っています。高齢の方にとってゴミ出しは大変な作業です。効率化によりゴミステーションの数が減少していく中で、これ以上、地域の人に不便な思いをさせてはいけないと、1回に3~4時間の作業を行っています。
 こうした配達やゴミ収集は、地域のインフラを支える役割であると同時に、地域の情報収集・声掛け・見守りの役割も果たしています。日常的に地域をまわることで、「洗濯物が干されてなかったけど、大丈夫かな?」「家財ゴミが出ているが、何かあったのかな?」など、情報がすぐに入るので課題への対策も早く立てられます。また、「あそこにも山椒の木があるな」「あそこのおばあちゃんは梅干しづくりが得意らしい」など資源の発掘にもなり、それがきっかけで、また新たな事業展開につながっています。NPO法人てっちりこでは、障がいを持たれる方が自立を目指すための作業所運営も行っています。現在の法律では、利用者が10人以上いないと、「障がい者作業所」として行政から認定されず、補助も受けられません。ところが、中山間地域はもともと人が少ないため、対象となる方が10人もいません。しかし、だからといって支援が行き届かないことではいけない。1人でも、2人でも、そうした障がいをもつ方が地域にいるならば、支えていこうと自己財源で運営しています。その作業所では、障がいをもつ方々が唐辛子の加工工程の一つを担っています。地域を支えている一員として、やりがいを持って取り組んでもらっています。
 このように、人と人とが交流しあうことが地域づくりには非常に重要です。NPO法人てっちりこでは、これを「人交密度」と名づけ、交わり密度をさらに高めることで、地域のヒトやモノをつなぎ、課題を解決していこうと考えています。中山間地域と都市部との格差が広がっています。サービスの低下も進んできています。しかし、地域には農作物、自然など様々な資源がたくさんあります。その「資源」を活かしたコミュニティビジネス・ソーシャルビジネスを、住民・民間・行政が協働で取り組んでいくことで、人「交」密度をあげ、これからも地域を維持し続けていきたいと思っています。