「あしたのまち・くらしづくり2014」掲載 |
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
コミュニティ喫茶を地域の居場所に―助け合って地域で生きる― |
東京都稲城市 NPOふれあい広場ポーポーの木 |
1.はじめに 1998年1月初め、子育て時代に、地域に幼児教室を作って活動した仲間が新年会を兼ねて集まる。その中で「私たちも人生の折り返し地点を過ぎたから、後の半生をどう生きるか」ということが話題になる。 当時、皆子どもの手が離れ、常勤や非常勤で保育士、ホームヘルパー、老人介護施設での介護員など様々な仕事を持っていたが、共通していたのは、自分自身のこれからと、漠然とした将来への不安だった。「住み慣れた地域でお互いに助け合って暮らせたらいいね」「元気なうちに何かできることはないか?」と、その後、近所の新しい仲間も加わって「できるところから、始めよう」毎月例会を持った。 「お年寄りのことをもっと勉強しよう」と地域の特別養護老人施設での定期的なボランティア活動を開始。 「入所中の方々が買い物の楽しみを味わえるように」と毎月手作りのお菓子や小物などを持っての訪問販売(施設内に売店ができるきっかけになった)や、お化粧をして差し上げ、皆で歌う「交流ボランティア」・施設内の喫茶ボランティアなどの活動(現在も継続中)をしながら、例会を重ねる。 「元気なうちに助け合う仕組みを作ろう」と、翌年1999年4月に「ふれあい広場ポーポーの木」を発足。 当時は、私たちの子育て時代よりもっと、地域の交流が少なくなり、在宅で孤立して子育てをしている親も多い。高齢者だけでなく、乳幼児から、障がい児・者、高齢者とだれでも「困った時はお互いさま」と助け合いたいとの思いで会員同士の助け合い(在宅支援事業:利用する人の自立に向けての援助が基本)を開始。 その後、2000年には、介護保険制度が始まり、訪問介護事業所の指定を受け、公益事業に参入する。助け合い事業収入は、会費と利用料だけなので、収入のほとんどが活動会員(ヘルパー)の報酬としての出費のため、他の経費まで廻らない。介護保険事業などの、公益事業で全体の経費を賄っている。 当時、稲城市平尾地区にある都の住宅供給公社の平尾住宅でも多摩ニュータウン開発から30数年が経過し、少子高齢化が進む。商店街もスーパーマーケットと他に13店舗の個人商店があり、そのうち4店舗が空き店舗になっていた。丁度、当会の事務所も民間アパートの一室で、賃貸契約更新時期に当たり、「地域で歩いて行ける範囲に、活動できる拠点があったら」と探していたところ、団地の中心にある商店街の一店舗を借りることができた。開店資金については、経済産業省の「少子高齢化地域活性化事業」に応募し、改装などの準備資金の半分は助成金を利用し、開店した。 2.コミュニティ喫茶のはじまり 2006年10月コミュニティ喫茶ポーポーの木開店。他市のコミュニティ喫茶の見学、工事の見積もり、店舗の改装、事務所移転、喫茶のテーブルなどの備品調達などの準備などに駆け回り、7か月後に開店に漕ぎ着ける。 1階の店舗は、コミュニティ喫茶と子どもたちの駄菓子屋、喫茶の壁面を住民の趣味の展示の場として地域の人に作品で参加してもらう。 2階は事務所と、地域のボランティア講師による生きがい活動の場。開店当初から、(2006年11月発行通信)いつまでも元気で生き生きと暮らすことができるようにと、コミュニティ喫茶として、ランチやお茶の提供だけでなく、生きがい活動の場として、ボランティア講師による、クラブ活動や教室を開催し、地域の人が持てる力を発揮できる場としても位置付けている。 3.コミュニティ喫茶の役割と成果 稲城市の高齢者保健福祉計画の基本的な考え方に「高齢者の誰もが、健康でいきいきと活動し、心豊かにいつまでも、安心して住み続けられるまちづくり」とある。それは、私たち市民の願いでもある。 特に喫茶のある、平尾地区は、稲城市の中でも一番高齢化率が高く、平成21年度の実績では、27.1%で、27年度の推定予測では、33.1%となっている。(団地に限定すると34%)その上、高齢者のみの世帯や一人暮らしも増えている。 「食事の支度が大変になったので」と毎日、ランチを食べに来店し、「栄養のあるお昼をここで食べて、夕飯はうどんとか、あっさりすませているのよ」というご夫婦。知り合いのいない団地での子育てに出口を求めて、幼児と赤ちゃんを連れて食事をする若いおかあさん、子どもがぐずると、近くに座っている年配者があやしたり、母親も気兼ねなく、ゆったりと食事ができる。商店街の買い物ついでに立ち寄る人など、地域の居場所として定着している。 「一人での生活が難しくなった」「介護保険の認定は受けるほどではないけど、買い物の荷物を持って上がるのが辛い」などの相談に利用会員として登録してもらい、必要な時に援助に訪問したり、本人の了解のもとに地域包括支援センターに連絡し、地域のNPOなど、関係機関と連携をとって問題の解決をしている。 ①地域住民の健康を「食を通して支える」というねらいでバランスの取れたランチの提供。→保健所主催のグッドバランスメニューキャンペーンに2年前より応募し、2年連続、金賞受賞。(今年度も応募) ②住民同士が色々な人と知り合い、情報交換の場になっている→常連の人が来ないと安否確認に、近所に住む人が自主的に確認に行ったり、留守をする時に事前に知らせてくれるようになった。 ③駄菓子の販売を通して、小中学生たちの立ち寄り場のひとつになり、お金の使い方(1日100円まで)やマナーを教える場にもなっている。→中学生の夏休みの体験ボランティアの受け入れ。 ④地域サークルなどの会合の場:気軽に集まれる場所がなかったが、幼稚園の親たちが、2階を貸し切りで、食事やお茶会などの会合の場としても利用されている。 ⑤地域の障がい者の作業所のパンやクッキーを受託販売。→作業所への理解と応援から、「お土産に」と買いに来る人が増え、定着している。 ⑥生きがい活動の場の提供(ボランティア講師によるクラブ活動:水墨画・水彩画・絵手紙・折り紙クラブなど)→参加者だけでなく、講師自身の生きがいにもなっている。 ⑦介護予防のための健康教室(毎週1回、ボランティアの看護師・介護福祉士による体操やお話)→50代~80代の10数名が、毎回参加。大雪や大雨の時も「人と会えるのが楽しいから」と、たくさんの参加があった。 ⑧相談:困ったことがあったら、関係機関と連携し問題解決にあたる。→地域包括支援センターが(2011年4月から)2か月に1回、喫茶前で出張介護相談を開催。地域の人が買い物ついでに気軽に相談できる場になっている。 ⑨商店街・自治会と協働(節分の豆まき・七夕まつり・盆踊り大会・夕涼み会、フリーマーケット・クリスマス会・ミニコンサートなど)→地域の商店街の活性化。住民のボランティア意識の促進。 ⑩地域の人の特技を活かして講座の開催。→簡単なパンケーキ作り・クリスマスリース作り・ハーブ教室・版画教室などを開催し、年間を通してボランティア講師の発掘に努め、人から人へと輪が広がっている 4.今後の課題と願い 稲城市に限らず、今後少子高齢化はますます進むと予想される。 平成27年度には、介護保険制度も改正があり、「要支援」の利用者の支援は、市町村に任せられることになっている。税と社会保障の一体化の第1弾となる「地域医療・介護確保法案」の国会審議の中で、介護保険分野は給付減・負担増が目立つといわれている。法案の土台作りから関わった山崎泰彦氏(社会保障審議会介護保険部会長・神奈川県立保健福祉大の名誉教授)は、「改革は市町村への押しつけとの批判もある」との記者の質問に「要支援1、2」の軽度者向けの通所・訪問介護を平成27年度から3年程度かけて、全国一律のサービスから、市町村が地域の実情に応じて実施する地域支援事業に移行する。たとえば、コミュニティカフェなどと言われる地域の「通いの場」があるといい(中略)ボランティア、NPO、協同組合等など、多様な主体の参入を促し、元気な高齢者も担い手として関われば、生きがい作りにもつながっていくと思う。コミュニティカフェの7割には財政支援がなく、4割が赤字運営だそうで、今回の見直しでは、こうした多様な担い手に対して、設備・施設費の補助や一定の事業費が支払われるので、財政基盤が強化される。と述べている。(2014年5月21日、毎日新聞から抜粋) 私どものコミュニティ喫茶も例外ではなく、運営は厳しく赤字で、開店当初に揃えた中古の冷蔵庫などの設備を買い替えることもままならない。来店者は日によって違うため、スタッフは忙しいときは、勤務時間が過ぎても、ボランティアで残って、仕事をして支えている。改正により、実情に応じて、事業費の補助が出て、安定した運営ができるようにしたい。 地域での見守りは、ますます重要になり、また引きこもりや孤独死の現状も、課題となっている。しかし、経済が右肩上がりの時代と違い、全てを行政に頼るのではなく、市民もできることをして、地域の支え手の一人になっていかなくてはならない。だがそれも限度があり、市民ができることと、して良いこと。行政や専門的な知識や技能を持った者が対応しなければならないこと。と区別しなければ、安心・安全は保障されなくなってしまう。善意だけでは続かない。改革によって、地域でのこのような活動が持続できるような支援を願っている。 「ここに住んでいて良かった。最期までここに住み続けたい」「遠くの親戚より近くの他人って言うけど、いつも電話1本で、頼れるところがあって、安心して子育てを続けたい」と、今後も言われるように、地域で必要とされていることに応えられる団体として、また、だれもが気軽に集える居場所として、日々、学びながら、奮闘している。 |