「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

福井駅前でつどう・つながる・たのしむ
福井県福井市 特定非営利活動法人きちづくり福井
「見捨てられた街」
 アーケード内の店舗はいたるところシャッターが降り、人通りもない。福井市の中心市街地・福井駅前にありながら、ここは完全に「見捨てられた街」。
 新栄商店街。戦災・震災からの復興で“新しく栄えてほしい”意味を込めて整備された街だった。当時はモータリゼーションが浸透しておらず、郊外型ショッピングモールもなく、買い物を含めた人が集積する場所として、福井駅前は唯一の存在だった。個人商店がひしめき合い、人が歩く隙間もなかったほどだったと記憶されている。
 しかし商業の郊外化の進展に伴い、人は徐々に離れていった。全国でも同じ現象が起こっているが、福井も御多分にもれず、駅前から人が消えていった。駅前通りの裏側に位置する新栄商店街はそれが顕著に表れ、戦後の整備以来手を加えられず、ただ古いだけのシャッター通りと化していった。
 時が経ち、日本の全土でスクラップアンドビルドが繰り返され、先進的な建物が立ち並ぶ通りが次々に生まれている。昭和時代を今も残している場所はなくなりつつある。新栄商店街も整備区画から外れたまま、当時の面影を残している。しかしそれが逆に価値を生み出しているのも事実である。昭和時代に生まれた人々が懐かしさを求め、訪れる場所になり始めている。「まちづくり」「リノベーション」という言葉が市民権を得た現在、全国の「見捨てられた街」に脚光が集まっている。
 そして福井でも、2012年に福井駅前のまちづくりを行っていこうという機運が生まれ、新栄商店街に任意団体「きちづくり福井会社」が誕生した。昔、子どものころ「僕らの秘密基地を作ろう」という純粋な思いがあったが、この思いを今も持ち続けている大人たちが「駅前に秘密基地を作ろう」という衝動となり、20人弱のメンバーで設立された。運営はこの運動に賛同する市民の志金のみでなされ、設立当初は50人を超える人々からの志金が集まった。
 「きちづくり福井会社」は“自分たちで福井駅前を盛り上げていこう”という思いだけでスタートし、事業内容はメンバーの話し合いで決定していく。これまでに手掛けた主な事業は以下の通りである。
●まちなか清掃
 自分たちが住む街、商売を営む街を純粋にきれいにしようと、メンバーがボランティアで早朝に駅前を清掃する。
●タビスル文庫、イスワル文庫
 協力店舗と提携してメンバーから集められた本を置いてもらい、店舗に訪れた人が本を借り、返すのは協力店舗のどこでもいいという、“本に旅をさせよう”というコンセプト。本を読む意識が生まれたほか、様々な場所に出かけるという行動が生まれた。この活動はNHKや民放のテレビ局で放映されたほか、福井県内にとどまらず、全国に協力店舗が点在している。
●まちなかランニングマップ
 ランニングの需要が高まった現在、福井駅前にもランニングコースを作り、歴史が見えるコースを設けた。また商店街のアーケードコースは、雨や雪の日でもランニングを楽しめると謳い、誘客を図っている。
●ベンチプロジェクト
 福井駅前には休憩する場所があまりなく、休憩地点としてベンチを設置し休んでもらおうという企画。製作を子どもから大人まで参加できるワークショップ形式で行った。市民参加型で製作されたベンチを街なかに設置することで、街に愛着を持ってもらい、来街の動機づけを狙った。
●キチバル
 月に1回、メンバーの親睦を深めようと人通りの少なくなった夜の商店街アーケード下で食事会を開催。メンバー以外も参加できるので一種の異業種交流会の体を成している。この交流会から、いくつもプロジェクトが生まれ、中には事業化に結び付くものもある。
●新栄裏路地フェスティバル
 毎月第1日曜日、新栄商店街の空き店舗や、シャッター前で物販・飲食のブースを設けて誘客イベントを開催。2013年、2014年の12月は全国振興組合連合会の助成金を得て大々的に開催。ステージにて音楽やダンス、パフォーマンスも行ったほか、福井県で盛り上がりを見せる「福丼県」ブースも設け、福井駅前を中心とした店舗でその日だけの丼を提供してもらい、その店への誘客も進めた。月1回のイベントに空き店舗を利用した人が、実際の開店につなげた。
●新栄テラス
 中心市街地では、古くなった建物を取り壊し、更地にしてコインパーキングにする状態が続いている。そこで、福井市と福井大学が連携し、低未利用地である新栄商店街内のコインパーキングを街なかの憩いのスポットにしようという取り組みを行った。県の協力も得て県産材を活用し、パーキングにウッドデッキを敷き詰めて広場にした。そこに飲食ブースを設けたほか、映画やヨガ、灯りのイベントの開催も行った。社会実験であったため夏と秋の2週間ずつの開催だったが、後のアンケートでは回遊人口が増えたほか、市民や商店街の人たちから再開を希望する声も多く、2015年の秋からの再開が決定している。
 2012年の活動以降、徐々にではあるが新規店舗も開店し始め、他団体との連携でさらに新店舗も生まれている。これまで頑なに入店拒否を行っていた地主・家主も、これまでの活動を目の当たりにすることで態度を軟化させ、さらなる新規店舗の入店へとつながっている。市民の中にもこの商店街を“古き良きもの”と価値を見出し、若者向けの飲食・物飯店が次々に開店している。結果、新栄商店街の通行量も毎年上昇している傾向にある。この自然発生的なリノベーションは、大掛かりな都市再開発が進む福井駅前の中でも特筆すべきであり、これまでのスクラップアンドビルドの傾向に一石を投じているように思う。「きちづくり福井」の存在は各店舗を触発して、新しいムーブメントを起こしている。新規店舗の商店主たちがそれぞれ任意団体(新栄かざぐるま連合、ハカセ組)を立ち上げ、新栄商店街にて絶え間なくイベントを開催している。その動きをメディアに取り上げられさらに賑わいをもたらしている。新栄商店街は、まだ市民の中では「見捨てられた街」の印象はぬぐい切れていないが、「何かしら動きがある」と、ホットなゾーンとして認知度も向上している。
 「きちづくり福井会社」は、2014年に「特定非営利活動法人きちづくり福井」となり、福井駅前での活動の幅を広げている。福井市がまちづくりの一環で開設した施設“福井市まちづくりセンター「ふく+」”の企画・運営を行い、おもてなし観光の一環としてまち歩きのイベントの運営も担っている。さらには福井大学が進めるアプリ開発にも積極的に関わり、商店街と連携をしながらSNSを使ったこれまでにない商店街アプリが今秋誕生予定である。
 「きちづくり福井」は今後も地元商店街や、行政、大学、民間団体との連携を深めていきながら、古いものの価値を認め、新しいものを招き入れ、さらなる展開を進めていく。