「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞

奥三河の再生―和太鼓集団「志多ら」とともに―
愛知県東栄町 特定非営利活動法人てほへ
奥三河の状況
 「奥三河」は、愛知県の最東端部静岡県境に接する地域で、新城市、設楽町、東栄町、豊根村の1市2町1村で構成されています。
 この地域は、古くは諏訪から伊勢・熊野に通じる熊野信仰の修験者の道として「霜月神楽」と呼ばれる伝統芸能「花祭」が継承されてきました。
 また、1300年もの歴史を誇る鳳来寺山薬師如来信仰、徳川時代には、三大東照宮の一つ鳳来寺山東照宮が建立され、多くの人々が詣で、太平洋側と内陸の南北を結ぶ重要な道として、人や物が盛んに行き来していました。
 しかし、昭和30年代の高度経済成長以降の過疎化の波はこの地域を大きく変えることとなりました。昭和35年の9万5000人の人口は、平成26年には、5万8000人と激減、高齢化率は35%を超え、県内でも最も高齢化率の高い地域となっています。
 2014年5月に日本創生会議が発表した「2040年に消滅可能性の高い市町村」として、愛知県内7市町村のうち、当奥三河4市町村全部が挙がっています。

NPO法人てほへの設立
 私たちNPO法人てほへは、この疲弊する奥三河をなんとか元気にしようと、2010年(平成22年)5月に設立しました。
 設立のきっかけは、1990年から東栄町東薗目地区に拠点を置いているプロの和太鼓集団「志多ら」が、20年間自分たちを育ててくれた奥三河の自然や人々に感謝したい、貢献したいという思いからでした。
 「志多ら」は、1990年に愛知県小牧市で結成され、10代から20代の若者がプロの太鼓演奏家を目指し、東栄町東薗目の廃校旧東薗目小学校に移住(Iターン)しました。以来、この廃校を本拠としながら、奥三河の自然や伝統芸能をモチーフにし数々のオリジナル曲を創作、日本全国はもとよりアメリカ、韓国、ノルウェーなど海外でもツアー公演を行ってきました。
 1994年には、国指定の重要無形民俗文化財「花祭」をモチーフに創作した「花まつり志多ら舞」が伝統の花祭りで奉納され、以来、毎年、東薗目花祭りで行われています。現在、演奏家7人、スタッフ7人、研修生1名を擁し、学校やホール公演など各地で演奏活動を行っています。
 「てほへ」は、この志多らを応援する友の会会員に呼びかけ、奥三河地域住民とともに設立しました。2015年4月現在の会員数は300人を超え、理事9人及び雇用スタッフ4人、そして志多らメンバーを中心に、様々な地域づくり活動を展開しています。

てほへが展開する活動
1 志多ら「蒼の大地」全国ツアーで奥三河をPR
 志多らは、2012年から3年間「蒼の大地~今、ひとつになりて、行かん~」全国ツアーを展開し、2015年5月まで43公演を行ってきました。
 この「蒼の大地」は、三遠南信地域に伝わる伝統芸能「花祭」をテーマに自然と人間との共生を表現した舞台作品です。
 志多らは、2012年5月に奥三河観光協議会(新城市、設楽町、東栄町、豊根村)から「奥三河ふるさと観光大使」に任命され、てほヘスタッフは、このツアーに同行し、各地のロビーで奥三河のPR活動を行ってきました。

2 廃校を利用する「のき山学校」
(1)「のき山学校の復活」
 2010年3月に廃校となった旧東栄町立東部小学校の利活用のため、都市住民との交流会「のき山市」を年1回実施しています。のき山市とは、旧東部小学校の子どもたちが、毎年地域の人たちを招いて開催していた行事で、それをなんとか復活したいという思いで、2010年9月から始めました。
 内容は、志多ら演奏、志多らとのコラボ企画(ダンス、チェーンソーアートなど)、各種ワークショップ(和太鼓体験、草木染め、花祭り体験、花祭りざぜち作り、東栄さんさ体験、自然観察会など)を行い、志多らファンと地域住民との交流会を行っています。

(2)都市と山村の住民交流拠点「のき山学校」開校
 2014年3月から1年間、愛知県より起業支援型地域雇用創造事業「遊休建物を活用した交流居住モデル事業」を受託し、旧東栄町立東部小学校を「奥三河のき山学校」として開校しました。毎月1回~2回開校し、奥三河の達人を講師に自然観察会、奥三河の自然素材を活用したワークショップなどの体験教室を行ってきました。
 2015年度からは、東栄町からの指定管理を受け「東栄町体験交流会~のき山学校」として、前年度の事業を踏襲しつつ、校内に「Cafeのっきぃ」をオープンし、自立を目指して新たなスタートを切りました。

3 志多らの曲が生まれる森~蒼の森ふるさと暮らし塾~
 愛知県東栄町東薗目地内の廃屋を借り、同敷地内に交流活動拠点小屋を建築し「蒼の森~ふるさと暮らし塾」を展開しています。
(1)蒼の森~古民家再生事業
 交流活動拠点小屋では、講師を招いて、コンポストトイレ・ロケットストーブ・石窯づくりなどのワークショップやチェーンソー取り扱い講座、森林間伐作業講座などの講座を実施しています。
 さらに、古民家再生のための知識や技術の習得のため、建築士に依頼し古民家再生マニュアルを作成、今後、古民家再生に本格的に取り組みます。

(2)蒼の森周辺整備(間伐林地残材の搬出と有効活用)
 蒼の森周辺の森林には、間伐で放置された膨大な林地残材があります。この林地残材は、災害時の流出の危険性を秘めています。これを、てほへ会員をはじめ、多くのボランティアの手で搬出し整備する事業を「あいち森と緑づくり環境活動・学習推進事業交付金(2012年度~)」と「とうえい木の駅プロジェクト(2013年度~)」を活用し実施しています。
 2014年度からは、抱き合わせ事業として、セブン―イレブン記念財団の自立支援助成を受け、間伐材の災害用仮設住宅キット化事業を開始しました。
 2015年度からは、間伐材を薪やプランター、ベンチなどに加工する新たな木工製品作りをのき山学校のワークショップに取り込み、展開します。

4 奥三河のき山放送局の放映
 毎月1本制作(2015年4月までで72本制作)。奥三河の自然や人、行事を紹介し、地域のCATV、ホームページ(tehohe.com)で放映しています。

効果と影響
 法人設立から4年、資金面など、まだまだ多くの課題があります。しかし、少しずつ次のような効果が出始めています。
(1)地域外からの移住者の受け入れ増加(人口増加)
 現在、てほヘスタッフとして3人を奥三河地域外から受け入れ、奥三河各市町村が採用した「地域おこし協力隊」(現在、奥三河で14名)と協力しながら「のき山学校」でのワークショップを展開しており、奥三河で住み続けられるための起業活動を模索し、多くの定住に結びついています。また、のき山学校カフェでは、Uターンの若者1名、Iターンの方2名の雇用も生まれている。

(2)地域外からの来訪者の増加
 のき山市、蒼の森ワークショップ等の事業により、年間1000人以上が奥三河以外から来訪し交流人口が増加しています。
 また、2014年度の愛知県からの受託事業「奥三河のき山学校」には、延べ1700人もの来訪者があり、愛知県からも高い評価を受けました。

(3)地域住民で組織する新しい地域づくり団体の結成
 東栄町旧東部小学校の住民で組織する「のき山市実行委員会」や東栄町東薗目地区で「E薗目」が新しく結成され、30代から40代の地域の若者が元気を取り戻しています。

(4)各種の地域づくり表彰受賞
 2013年度には、過疎地域自立活性化優良事例表彰で総務大臣賞を、2014年度には、ふるさとづくり大賞総務大臣賞「団体表彰」を受賞しました。