「あしたのまち・くらしづくり2015」掲載 |
あしたのまち・くらしづくり活動賞 振興奨励賞 |
地域資源の活用で、北九州を元気なまちへ |
福岡県北九州市小倉北区 特定非営利活動法人北九州タウンツーリズム |
■団体設立の経緯と背景 北九州市は、海山に囲まれた自然豊かな地形でありながら、九州の玄関口として古くから交通の要衝として栄えてきました。明治以降は、日本三大国際貿易港として発展した門司市、官営製鐵所が創業し発展した八幡市や戸畑市、全国一の貨物取扱高を誇り石炭の積み出し港として賑わった若松市、軍都として発展した小倉市というふうに、これらの都市は日本の産業をリードし、近代化を支えてきました。そして昭和38年、この五つの都市が世界に類を見ない対等合併をして、北九州市となりました。 日本の近代化を支え、発展してきた北九州市でしたが、重化学工業を中心とした産業構造であったため、高度経済成長期には深刻な公害に悩まされ、昭和50年代には「鉄冷え」と呼ばれる構造不況により疲弊していきました。 その後北九州市は公害を克服し、その経験を活かして環境都市をめざし、明治や大正期に栄えたエリアを「門司港レトロ地区」として整備するなど、様々なまちづくりが行われました。しかしながら、私たちは「市民が自分たちのまちのよさに気付いていない」「少子高齢化によって年々まちの元気がなくなっている」と感じるようになりました。 そこで、北九州市の都心部の集客性を高め、宿泊する観光客を増やすことや、市民にもっと自分たちのまちを好きになってもらうことを目的として、平成19年に「北九州ナイトツアー実行委員会」を立ち上げ、本市が持つポテンシャルを活かした事業を開始しました。具体的には滞在時間を延長させるために、①夜に、地産地消の料理が食べられる店や特産品をお土産として買うことができる店の情報を伝えること、②文化施設などを夜間開放し、夜の楽しみ方を市民や観光客に提案するだけでなく、施設を運営する側にもその企画運営方法などを実践し提案すること、③安全・安心なまちというイメージをもってもらうため、地域の財産(たから)である施設や人にスポットをあてた体験型まち歩きを行うこと、を行っています。 また、事業の多様化に対応するため、平成23年には、実行委員会を改め、「北九州タウンツーリズム」を設立し、平成24年にNPO法人化しました。 現在は、地域資源を活用したまち歩きなどを通して、シビックプライドの醸成や交流人口の増加を図り、持続可能な活き活きとした地域社会を実現することを目的に活動をしています。 ■活動内容 (1)体験型まち歩きによるまちづくり事業 ①北九州ナイトツアー 北九州市の夜の魅力を多くの方に体感してもらうために、工業都市の発展に寄与した労働者の習慣から生まれた文化である“角打ち”や、政令市でありながら自然に恵まれたまちであることを感じるために地産地消の食事などを体験し、参加者同士や店主と参加者が交流するまち歩きガイドツアーを開催しています。また、平成22年から平成24年にまで、北九州市の公共施設と協働し、近代化遺産とその遺産が生まれたまちを感じるツアーを実施しました。現在は、旅行業者などが同様のツアーを開催するまでになっています。 ②ようこそ北九州ツアー 工業都市である北九州市では、毎年約5万人の転入者がいます。マイナスイメージを持って本市に来られた方も多く、そのような方に早くこのまちでの暮らしに慣れて日常を楽しく過ごせるように、商店街や市場でのつまみ食いや、地元の人から長く愛されている老舗店での飲食などを体験するまち歩きガイドツアーを開催しています。 参加者には、まちを盛り上げようとがんばっているお店の店主や、まちづくりに取り組まれている方との出会いを楽しんでいただき、毎年好評を得ています。 ③北九州エコツアー 北九州市の小倉都心部では、「環境(エコ)の見える化」への取り組みをまちなかで見ることができます。私たちは、自分たちのまちに誇りを持ってもらうため、積極的にガイドをしています。そこで、親子を対象とした「まちなか探検隊」を開催しています。子どもたちが感じた「エコなもの」を写真に撮ってもらい、その後まちなかのカフェでスクラップブッキングを作ったり、「まちなか探検隊」のミッションとして、地元産の野菜を市場で探して購入してもらうなど、楽しみながらエコについて、親子で考えるきっかけづくりをしています。 これ以外にも、ゴミ問題を考えるために、資源化センターの工場見学を行ったり、自然エネルギーを考えるために、風力発電や太陽光発電の施設を見学したり、私たちの身近なエコについて考えるツアーも実施しました。また、工場夜景ツアーで人気の洞海湾を昼間クルーズしながら、昔の写真と比較して公害克服の歴史を学んだり、里山ツアーを行っている方などをお招きし、地産地消の食材を使った鍋を囲みながら、「私らしいライフスタイル」について考えるツアーも実施しました。 ④サイクルガイドツアー 市内のNPO法人が運営している「レンタルサイクル」(電動アシスト付自転車)を利用して、まち歩きより広いエリアを移動することで、テーマ性のあるツアーを実施しています。 「くきのうみ(洞海湾)サイクルガイドツアー」では、洞海湾周辺の豊かな自然を感じることができる場所や、世界遺産に登録決定した「八幡製鐵所」の近代化遺産と、製鐵所とともに歩んできた古くから続く商店街などを巡り、北九州市のまちの成り立ちやまちの新たな魅力を体感してもらいました。 (2)地域資源の発掘やまちづくりの人材育成事業 北九州市は、今から約50年前に、5市が合併してできた都市のため、広いエリアに地域資源が分散しています。私たちの団体は、主に北九州市の中心市街地である小倉都心部で活動を行っていますが、それ以外のエリアで継続的に活動を行うまで至っておりません。そのため、私たちの考えるまちづくり事業に賛同してくれる個人や団体が、市内の様々なエリアで活動を行ってくれることを願っています。そこで、「まち歩きによるまちづくり」や、「着地型観光や地域資源の活用方法」、「シビックプライドの成功事例」などについて、勉強会や講演会などを積極的に行っています。 平成23年と平成24年には、これらの講座を受講した参加者に実際にまち歩きガイドツアーを作成してもらい、市内全域で「北九州まち歩き博覧会」を開催しました。 平成25年には、北九州市制50周年記念事業として、「北九州まちのナビゲーター養成講座」を開催しました。6回の講座には、北九州市観光協会で活躍するボランティアガイドも参加しており、この講座を受講したことによって、「正確な歴史の年号などアカデミックな情報を伝えることよりも、お客様の視点に立ち、おもてなしの心で接することが一番であることがわかった」といった感想や、「自分たちのガイドスタイルを見直して新コースを作った」とのメッセージをいただき、喜んでおります。 同じく平成25年は「日本まちあるきフォーラムIN北九州」を開催し、「まち歩きによるまちづくり」を行っている団体が全国各地(北海道から沖縄まで)から集まりました。ほとんどの自治体では、「まち歩きのガイドはまちの歴史を語るため、年配者にしかできない」というふうに思われています。またそのような方たちでボランティアガイドが構成されています。しかし、私たちは、まち歩きをまちづくりの手法として捉えていますので、地元で活動するアーティスト、起業したばかりの若手店主たち、学生などをまち歩きとコラボレーションさせ、様々な人をまちの主役にしたまち歩きを提案しました。 (3)大学や地域との連携事業 北九州市では、市内に10大学があり、地域課題解決に向けて様々な活動に取り組んでいます。私たちの団体では、これらの大学から依頼され、大学生が企画するツアーのアドバイスやガイド指導、フィールドワークの実習などを行い、地元出身でない学生たちに、まち歩きを通じたシビックプライドの醸成を行っています。将来、この学生たちが、北九州市が好きになり、市内で就職し、住み続けたいと思ってくれることを期待しています。 また普段より、まち歩きに協力をいただいている商店街の、様々なイベントの実行委員メンバーとして参加しています。それらのイベント時には、テーマに合わせたまち歩きツアーを実施し、まちなかのにぎわいづくりに貢献しています。 ■今後の展開 現在、行政や商店街の印刷物やフリーペーパー以外にも、住宅やマンションのチラシに、「まち歩きマップ」を掲載したり、マスコミによる「まちあるき番組」が増えており、市民の方々にも「まち歩き」が少しずつ認知されるようになりました。 また、私たちの「まち歩きガイドツアー」や「ワークショップ」に参加した人たちが企画するまち歩きツアーも開催されるようになり、まちづくりの人材育成が進んでいることに喜びを感じています。 今後は、「まちの記憶や伝統」といった「見えないもの」を伝承していくため、住民、歴史家、IT企業など他団体と連携し、「地域再発見のツアー」から、「地域の伝統を守り残すツアー」へと展開していきたいと考えています。 |