「ふるさとづくり'01」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 主催者賞

若い母親による子育てサポート
茨城県つくば市 ままとーん
子育て真っ最中の母親たちによる子育てアドバイス

 私たち『ままとーん』は、茨城県南地域に住む母親たちの自主運営団体です。子育てサークルは数多くありますが、『ままとーん』の活動は子育て真っ最中の母親が同じ立場の母親をサポートすることに特徴があります。
 「育児は育自」と言われますが、初めての子育ては、誰もが不安からスタートします。子どもを産むと同時に、出かける場所、買い物、付き合う人がそれまでとは一変し、必要とする情報も大きく変わります。新米の母親は、赤ちゃんの世話だけでなく、この新しい環境に慣れ、新しい人間関係を作っていかなくてはならず、ほんの些細なことで気持ちが不安定になることもしばしばです。それに加えて、私たちメンバーの大半が住むつくば市の学園地域は、転勤族の核家族が多く、ふるさとから切り離されて、孤軍奮闘している母親も少なくありません。地域に慣れるまで、ひとりぼっちで思い悩んで、つらい育児をしている母親はたくさんいます。そんな母親に必要なもの、それは同じ年頃の子どもを持つ、同じ立場の友人の存在です。友だちとの気のおけない会話ほど、心の救いになるものはありません。また、自分の悩みを友人に聞いてもらい、大変なのは自分だけじゃないんだ、他の人はこうして乗り切っているんだ、と気付き、励まされるのです。
 つまり育児仲間を見つける「きっかけ」さえあれば、悩みの大半は解消できるのです。私たちが個人的に、直接その人に声を掛けてあげることはできないかもしれません。でも『ままとーん』が情報を発信し、楽しいイベントを企画したり一緒に育児を楽しもうとメッセージを送ることで、その友だち作りの「きっかけ」を提供することができるのではないでしょうか。母親が地域の中に豊かな人間関係を築き、安心できる空間を見つけていく過程の中で、この地が本当の子どもの「ふるさと」に変わっていく、と考えます。
 現在私たちが行っている活動は、地域にこだわった子育て情報の提供と、親子で楽しめ、母親同士の仲間づくりを支援するイベント企画の2本柱です。活動が始まって丸2年、同じ立揚だからこそわかること(共感)をベースに地域の母親たちをサポートしたい、そして参加する自分自身も成長していきたい…、そんな思いでメンバーは活動しています。


口コミ育児情報誌創刊

 活動は口コミ育児情報誌作りから始まりました。子育て真っ最中の自分たち自身が、欲しいと思う情報を入手し、ただ集めるだけではなく母親の視点を加えて編集すれば、これは大きな育児支援になると考えたのです。
 最初の運営メンバーは全部で12名。創刊号は友人ネットワークを駆使して、約100件のアンケート調査を行い、「つくば妊娠・出産情報」を特集しました。病院、助産院情報や体験者の生の声をまとめたほか、母乳、離乳食情報、託児所や育児サークル、ベビーカーで入れる地域の飲食店等の記事を盛り込んで、120ページの本を完成させました。さらに地元の本屋さんの暖かい支援を得て、本が店頭に並ぶことになりました。おかげで創刊号は実数で3000部が完売、自費出版の印刷代等の経費を支払うことができました。創刊号の反響は大きく、「こんな本を待っていた」という声をたくさん頂きました。
 発行からまもなくメンバーが活動に関心のある友人を紹介してくれたり、本を読んだ母親が参加したいと名乗り出てくれる等、新しい仲間がどんどん『ままとーん』に集まりました。気がつくとメンバーはなんと30人に増加、「次号をぜひ読みたい」という読者の要望も高く、体制を整える暇もなく、約3か月後には2号制作に着手しました。
 気心の知れた少人数で活動していた時と比べ、たくさんの人々が関わることで本当に大きな力が生まれました。しかし一方で、団体としての方向性、スタッフのまとめ方、社会的な責任問題等で意見が分かれる等、課題が次々と持ち上がり、その度に『ままとーん』は何を期待されているのか、そして何ができるのかをメンバーでとことん考え、話し合いました。自主的なただの母親たちの集まりから組織に変化を遂げるための産みの苦しみを経験したといえるでしょう。
 2号制作のため、前回をはるかに上回る約350人の母親たちや地域の幼稚園等にアンケートをとり、メンバーは、特集「わが家の幼稚園選び」ほか親子のお出掛けスポット、母親のためのリラックス情報等、母親のニーズに密着した情報の取材執筆に駆け回りました。掲載する情報エリアもつくば市中心から、土浦、牛久、守谷等を含む県南地域へと拡大。完成した第2号は200ページというボリュームで、2000年7月に発行しました。このときの反響は、前にも増して大きく「気になることが体験談で載せてあるので、非常に参考になる」「同じ子育て中の母親のパワーを感じて元気になれる」等の多数の声が寄せられました。本の販売実績も、発売後1か月で増刷、計5000部を超えました。


情報発信にとどまらず出会いの場づくりにも乗り出す


 情報を一方的に発信するだけではなく、出会いの「場」を提供したいと考え始めていた私たちは、昨年秋『ままとーん♪秋祭り』と題し、親子で気軽に参加して楽しい時間を過ごせるイベントを初めて企画しました。母親同土が横のつながりを作り、いろいろな情報を交換できるチャンスが欲しい。また市内で活動している子育てサークルの交流の場があったら…。そんな母親たちの声を実行に移した催しでした、約1か月と本当に短い準備期間でしたが、体育館を会揚に、パネルシアターや紙芝居、親子体操等親子で楽しめるプログラムを盛り込んだこのイベントは、平日の午前中のみ、しかも土砂降りの雨だったにも関わらず、200組以上の親子が参加し、楽しんでくれました。
 また情報誌の発行が1年に1度であるため、取り上げにくかった地域の子育て関連のイベント情報を中心に、もっと気軽にタイムリーな情報を届けたい、また読者の交流や育児用品のリサイクル情報等も盛り込みたい、という考えから年4回発行の季刊誌「ままとーん#しゃあぷ」を昨年11月に創刊しました。登録してくださった会員向けに郵送するほか、『ままとーん』主催のイベントで1部150円で販売。ほとんど宣伝らしい宣伝もしていませんが、口コミやイベント等を通じ、この短い期間で登録会員は約300人にまで増えました。こういった地元育児情報の必要性を多くの人が感じ、何より求められている育児支援であるとの確信をさらに強めています。


「無理せず続けよう」

 こうした実績から、今年4月、地元の筑波西武百貨店さんより『ままとーん』が企画するイベントに2週間、場所を無償で提供するとの話があり、子連れOKのケーキバイキングやベビーマッサージ講習会等の企画を実行に移しました。結果は、のべ参加スタッフ数160名、のべ入場者数460名、開催期間も11日間に及ぶ大規模なイベントとなりました。参加者は大いに楽しんでくれましたが、このイベント終了後メンバーからは様々な問題提起をされました。中でも一部のメンバーヘの負担が非常に大きくなっていることが判明し、中心メンバーは各々、何のために『ままとーん』の活動をするのかを自分で突き詰めて考えることになりました。この経験から『ままとーん』はやはり普通のお母さんたちの集まりであり、今後無理はしない方がいい、との方針が導き出されました。つい自分の限界まで頑張ってしまう真面目さも、これを機に、自分たちの家族が一番大事という基本的なことを意識し、余裕を持って活動するようになりました。とはいえ、普通の母親たちがこうした企画を発案し、やり遂げたことは本当に素晴らしいことだと思っています。
 さらに5月にはつくば市との共催で、転勤族の母親と妊婦さんを対象にしたイベント「つくばウエルカムパーティー」を実施しました。行政との共催は、「ままとーん♪秋祭り」ヘのつくば市長の来場がきっかけで実現しました。当日は子育て支援の小冊子「つくばビギナーママの為のハンドブック」を配布。(この小冊子は、つくば市に初めて来たお母さんたちに必要と思われる情報を、母親の視点から『ままとーん』が制作し、つくば市役所が印刷、発行)さらに地区別交流会のほか、つくば市育児支援センターの保母さんらによるパネルシアターや小麦粉粘土の遊びの紹介等で、毎年数100世帯が転入出のある学園地区を中心に親子約110組が参加しました。約2時間の内容でしたが、アンケートに95%の方が満足と回答してくれたこと、またつくば市と共催できたことは大きな成果でした。


今後の抱負―自立する明確な目的をもった団体として

 県内には育児支援の活動をしている個人、団体が大勢いらっしゃいます。私たちはその点と点とを結び、ネットワーキングさせることで、よりパワフルな母親支援・育児支援に発展させたいと願っています。この活動が地域の公益的な活動として市民権を得ることにより、『ままとーん』を支えるスタッフの社会的地位を確立できれば最高です。
 一方、今後の懸案事項の一つに、人件費を始めとする経費の問題があります。収入につながるから、と活動に加わる人は皆無です。しかしやはり、全くのボランティアでは有能な人材を長期に渡り確保することは難しいと感じています。そこで、情報誌販売等でもっと安定収入を確保して、仕事量に応じた経費及び謝礼をきちんと支払う方向を考えています。そのため今後はNPO法人への道も積極的に考えていきたいと思っています。
 私たちはこれからも、母親たちに必要な情報を集め、それを分け合い、様々な子育て支援団体同土のコーディネーターを務めることで、つくば周辺の母親だけでなく、茨城県の子育てを、私たちに心地良く、楽しくしていきたいと思います。ここ茨城県は私たちの子どもにとってまさしく「ふるさと」なのですから。