「ふるさとづくり'01」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 主催者賞

「学校の灯を消すな!」を合言葉に地域おこし
徳島県由岐町 伊座利の未来を考える推進協議会
学校の灯を消すな!

 徳島県南東部に位置する由岐町。その中の最小集落「伊座利」にも、過疎高齢化の波は容赦なく押し寄せてきた。かつて陸の孤島と称された時代でも400人いた人口も、今や100人程…。新聞も採算が合わぬと配達ストップ。まさに、伊座利の持続の危機である。
 が、漁業不振にもめげず、海とともに強く生き抜いてきた住民の「伊座利魂」は不滅なり。伊座利の未来を拓き永遠の持続を願って、英知を結集し、自主的創造的な「地域おこし」に立ち上がった。そして、なんと!小さな小さな漁村に、大応接団が誕生したのである。
 それは、「学校の灯を消すな!」から始まった。人口の減少とともに激減する子ども…。迫りくる学校存続の危機に住民の不安も募る。辺地2級の小・中併設校である通称「伊座利校」。地域住民の心の灯であり、伊座利のシンボルでもある。特色ある多種多様の教育活動は、地域と学校が一体となって長年取り組んできた。来年度から始まる新教育の手本と誇れる魅力ある楽しい海の学校を、ひいては地域を守らねば…。住民は一致団結した。


おいでよ海の学校へ

 伊座利の灯と学校を絶やすまいと、最初に手がけた「おいでよ海の学校へ」という交流イベント。これは単に子どもの受け入れだけが目的でなく、最大のねらいは青少年の健全育成。子どもに未来を託して地域づくりを図っていくことである。知恵と準備の1年余り。
 平成11年1月、ついに“第1回おいでよ海の学校へ”を実行。全て手づくりの、小さな地域と小さな学校の総力を結集した初イベント。1人1人の創意工夫に住民のモラール(士気)は高まり、日増しに伊座利は活力に満ちてきて、やればできる!ことを実感。美しい海、厚い人情、豊かな体験学習ができる伊座利校に魅せられて、留学生が増えてきた。
 が、その過程で、大きな問題に直面した。一つは、受け入れ施設がないこと。空き家は盆と正月に帰郷する都会生活者ありで、活用不可能。やむを得ず行政ヘ…。粘り強い折衝で、夢の交流施設「にぎわいの館」が、続いて滞在施設「やすらぎの館」が実現。一つは、計画的継続的な地域づくりのためには、組織体制の整備が必要不可欠であること。


「伊座利の未来を考える推進協議会」結成

 平成12年4月、念願の小さな漁村の夢多き組織も立ち上げた。その名は「伊座利の未来を考える推進協議会」。8部会の一つに「海の学校留学の会」も組み入れられ、当然、全住民が組織の一員となった。2才から97才まで…105名。
 “伊座利地域おこし”の感動のドラマの幕あけであった。地域と学校はさらなる活性化追求と、ロマンの展開に一体となって燃え、町外へと羽ばたいた。ビジョンを描いて…。


海の学校「移動美術館」の開催

 「子どもは地域の宝」と、いついかなるときも学校最優先の地域社会。その期待に応え子どもたちと教職員は、“伊座利・海の学校移動美術館”を考案し、広報活動を始めた。
 心を込めて描いた人権ポスターや風景画等で、伊座利の魅力を子どもがPRする。徳島市と小松島市の量販店で、春休みに7日間開催。地域と一体となっての呼びかけに約2000人が鑑賞。由岐町や伊座利に関心を示し、応援メッセージをくださり、情報発信成功。


「関西伊座利応援団」の誕生

 続いて小・中学生のふるさとを愛する心あふれる絵画等で、もっと広く伊座利の魅力のPRをと、県外キャンペーンの場を求め6月2日関西へ。希望に胸をふくらませて…。
 が、新天地を拓くことの厳しさと、名もなき小さな組織の悲哀を味わいながら各所を訪問。すると幸運の神様が「ふるさとプラザ大阪」ヘと導き、大きな喜びに転換させてくれた。移動美術館の会場提供を快諾くださったのみならず、地元住民と在阪の伊座利出身者の「ふるさと交流会」の同時開催を提言くださり、支援の申し出もくださった。この朗報は、かねてから地域の大きな望みであった「伊座利応援団」結成要請へと、大きく展開していったのである。弱小の地域おこしグループにとって、外部からの意見や協力は不可欠。内部が気づかぬよさや可能性を自覚させ、何よりも心の支えとなってもらえる応援団。
 伊座利出身者や、伊座利をふるさとと想う方々、伊座利に想いを寄せて下さる方々を中心にした「関西伊座利応援団」という組織結成に向かって、伊座利パワーは著しくアップ!「企面は?運営は?準備物は?」と仕事の合い間を見つけては寄り合い、相談し合い、1人1人が知恵をしぼる。何から何まで自主活動で推進する試行錯誤の約3か月。
 その間、内外から参加申し込みが、増え続けた。「伊座利の取り組みを実際に見てみたい」「伊座利を応援したい」と…。うれしい悲鳴をあげながらも適材適所の役割分担で、連日連夜「にぎわいの館」の灯は遅くまで輝いた。
 平成12年8月20日、一生忘れ得ぬ「関西伊座利応援団」誕生!こちらから約80人、関西から約200人。地域の約3倍の人が集い、大阪天保山マーケットプレース内は、伊座利関係者の久方ぶりの出会い交流で感動の渦が巻く…。数々の苦労もふっとんだ。
 第1部の「ふるさと新鮮市」では、ふるさとのなつかしい味を求めて黒山の人だかり…。他府県市町村の物産店に、「すさまじい」とまで言わしめた販売活動は、相乗効果を生んでどの店も開店以来最高の売り上げと喜ばれた。(大好評につき12月も同プラザで販売)
 第2部のふるさと交流会・関西伊座利応援団の発足会は、木床会長の「学校の灯が消えることは、ふるさと伊座利の灯が消えてしまうことにつながる。断じて消してはならない!」との挨拶から始まった。20年ぶり…30年ぶり…と、手を取り合って旧交を温め合う光景続出で最高潮。次回は、ぜひ息子夫婦や孫たちも連れて来たい、次世代へ我がふるさとのよさを伝えたいと、皆、熱く語った。そして、いつの間にか輪になって、なつかしき盆踊り歌を歌い踊る。応援団長になった伊座利出身の弁護士・吉野さんは、「いとおしい いとおしい伊座利、美しい やさしいふるさとが、元気になるように、応援の輪を広げよう」と呼びかけ。実行委員長の富田さんは、「お上に頼る意識を変え、過疎地の振興は、住民自身の手で!この大応接団は誠に心強い存在で、有難い」と。最後の「がんばろうコール」は、伊座利の未来を背負って立つ若者たちに委ねた。皆、感動に酔う。
 その夜,帰郷の道中で、口々に語られた。「伊座利はほんまにすごい!しっかり見習ろうて、うちらの地域も頑張らにゃ…」「由岐町内、みんな負けんとせな…」
 新聞報道によると、一地域出身者による地域応援団の結成は、県内では初めての由。感動の余韻が残るプラザで後2日間美街展開催…。地域活性化の夢が大きく広がった。


地域と学校のパートナーシップの推進

 これら一連の地域おこし活動は、学校と地域のパートナーシップ(双方向の協力関係)の確立を一層推進。新しいタイプの公立学校(コミュニティ・スクール)の促進へも…。

●作文“伊座利の灯よ!永遠に”―子どもの「ふるさとPR」作戦
 家の事情で大阪へ行けなかった小6児童は、大好きな伊座利を、42枚の原稿用紙に綴った。切実な願いをこめた作文“伊座利の灯よ!永遠に”は、「書いても書いても書きつくせない伊座利での豊かな体験と地域の人々との心温まるふれあいの様子が、文章全体からあふれ出すようです。ともに、伊座利の灯よ!永遠に…と祈らずにはいられません」との審査評で見事県最優秀賞に。そして、県代表作として全国ヘ。結果、ついになんと全国一の「文部大臣奨励賞」に輝いた。「徳島の『伊座利の灯よ!永遠に』は、過疎地で学校を中心とした地域社会の温かさが感動的でした。」との審査評で。この作文は県内外の反響を呼び、昔と変わらぬ地域の教育力が注目され、PR作戦大成功。

●ふるさと学習「磯学習」―地域の教育力の活用
 伊座利校と地域が長年ともに築き親しんできた郷土学習「磯学習」が、県教育委員会の高い評価を得て、県下でただ一校「第45回才能開発実践教育賞」を受賞。学校と地域への教育大賞である。授賞式には多数の住民が出席し、主催者側を驚かせた。
 この磯学習は毎年1学期、地域の自然、文化、歴史等をテーマに研究。小・中学生が家々を訪ねて調べ学習。地域住民が「みな先生」。夕方から始まる漁港での発表会のBGMは波の音。住民と子どもの質疑応答が、なんともユーモラスで、漁港は笑いと感動に包まれる。地域文化の振興にもなるこの磯学習発表会は、地域に根ざした教育そのもの。地域と学校の親睦と交流も兼ね大変ユニーク。新教育課程の目玉「総合的な学習」の最先端をいく。教育の原点ここにあり!と、町関係者もうなる。開かれた学校と地域の典型なり。今年度の研究は、地域おこしにつながる「伊座利の宝物」調べ。この磯学習は、子どもには「郷土愛」と「問題解決力」と「感謝の心」を育み、住民には“おらが村のよさ”を認識させ、子どもは地域で育てるものという機運を盛り上がらせてくれる。伊座利校の磯学習よ!永遠に…。

●識字学級のおばあちゃんたちとの交流学習―学校と地域の一体化
 言われなき差別に立ち向かい、明るくたくましく生きる他町の識字学級生と、地域づくりに励む伊座利の交流学習会が2000年度より実現。「ようこそ!」と伊座利あげて大歓迎。「花つんで待っていたよおばあちゃん」(小1)に涙涙…。次に識字学級を学校・地域そろって訪問。この相互訪問は、同和教育のお手本と県教委から二つの研修会で称賛された。「海部郡同和教育の夜明けだ!」との声も届く。2001年6月30日、再び伊座利訪問。今回は漁港で地域ぐるみでおもてなし。21世紀は人権の時代。学校と地域が一心同体のこの交流は、県下初。人権の花咲かせる地域おこしと子どもの優しさにまた涙涙…。1人1人の人権尊重の精神は伊座利から町へ市へ県へと広めたい。

●地域ぐるみの“共楽運動会”―地域における世代を越えた交流
 文部科学省は2001年を教育新生元年とし、スピーディーな教育改革を果断に実行していく決意を示した。その新生プランは、すでに伊座利地域と伊座利校が実践している教育内容そのもの。伝統の伊座利共楽運動会は、その顕著な事例の一つ。老いも若きも一緒になって「網こしリレー」や「大漁旗リレー」に興じ、喜びを共有する。地域に守られ育てられる子ども、教職員、学校在りき…。2001年1月1日の読売新聞特集号「しあわせの風景」新世紀・徳島の原点に「海と山、人々に抱かれ瞳きらめく宝たち」の記事は、伊座利の大きな励みと責重な支えとなっている。


多面的な交流の推進

●農山村グループとの交流学習
志を同じくするグループに学べ!と、積極的に農山村の会と交流学習会も推進した。

●個性豊かな講師に学ぶ生涯学習
 会員の人脈を生かして、全国的な地域おこしの専門家を招き、伊座利の特性を生かす活性策の助言をいただいている。これも、住民の意識改革をもたらし、生涯学習となる。


成果

 多方面からの多数の方々の応援・支援をいただいて、学校、地域の活性化は著しく、子どもが主役、住民が主役の地域づくりが定着中…。伊座利の知名度もぐんとアップ!
 「学校の灯を消すな!」を合い言葉に、地域おこしすること3年余り…。
 ささやかながら、地域の総力を結集しての数々の実践活動は、☆後継者の若者のUターンや定住促進を促し、
☆「癒しと励まし」の地域へと発展させ、
☆自主性・自立性に富む地域・住民へと意識改革をもたらし、
☆地域と学校のパートナーシップ(双方向の協力関係)の一層の確立を促進させ、
☆全住民の団結力強化、厚い人情の一層の発揮、地域の存在感と向上心が高まり。
☆由岐町全体の活性化と発展への起爆剤としての機能を果たしつつある。
 等々、数多くの成果をあげている。「地域のために」と新聞配達を始めた中1生徒。漁業の苦楽を理解したいと、インターンシップに励む小中学生。とある会で、「フランスのニースのような所だ。」と紹介された伊座利。教育に未来を託した伊座利の感動のドラマは果てしなく展開し続けるであろう。日本の原風景を見ているようだ、と評された伊座利での人々の営みと学校の灯よ、いつまでも、いつまでも…。