「ふるさとづくり'01」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

生きている美術館は第2の学校
長野県駒ヶ根市 財団法人 駒ヶ根高原美術館
 「駒ヶ根高原美術館」は平成4年に開館した。池田満寿夫・藤原新也・草間彌生など現代作家の作品が立体的に観賞できる展示室、ルノー・ゴヤ・ドーミエなど巨匠たちの版画コレクション公開、多目的ホールでのコンサートや講演会、一般希望者の結婚式を実施する等まさに「生きている美術館」としての機能を果たしている。
 近年、不況下にあって縮小や閉鎖に追い込まれる美術館も少なくない。そうした中で同館は、地域の学校や住民、ボランティアグループと積極的に交流を深め、ワークショップやコンサート、講演会の開催等を通じ、生涯学習の場を提供する活動を続けている。
 一方、来年から小中学校が完全週休2日となる。そして、文部科学省は「総合的学習の時間」を設け個性尊重の教育に着手した。それは、これまでの知識偏重の教育から授業を社会に開かれたものにする動きともいえる。したがって、社会教育施設としての博物館・美術館の役割も大幅にアップしている。
 同館は、その先駆けともいえる、青少年の「心の教育」ワークショップや「池田満寿夫と子どもたち」アートフェスティバルなどの実施で「美術館を第2の学校にしよう」という教育活動を展開している。


池田満寿夫と子どもたち「アートフェスティバル」

 同館が、教育活動に取り組むきっかけになったのが「アートフェスティバル」である。
 駒ケ根市市制40周年記念事業として、平成6年10月に駒ヶ根高原一帯で開催した。市内や松本市などから約40人の小学生が集まり、世界的な版画家池田満寿夫らが、野外で写生する子どもたちを指導し、国際的な作家と身近に接する絶好の機会となった。翌年池田氏の急逝でこのプロジェクトは中断を余儀なくされたが、子どもたちに一流の作家や作品に出会って欲しいと、同館長の願いは、次々と実現していくのである。
 平成9年、長野オリンピック文化・芸術祭参加「小鳥が教えてくれた21世紀の住環境展/宇宙デザイナーのつくったバードハウス展」が同館で開催された。子どもたちに一流のデザイナーや建築家が造った巣箱(バードハウス2500個)を見てもらい、未来の環境を考える機会とした。そして、市内全小学生が巣箱に夢や絵を描き、それを一緒に展示し、終了後庭の樹木に取り付けた。
 これら一連の事業と同館が行った観賞授業は、こどもや先生から大評価を受けた。
 これに呼応し同館は、毎週土曜日、全国の小中学生を入場無料と決定した。そして同年10月、文部大臣より―「私立博物館における青少年に対する学習機会の充実に関する基準」を満たしている―と認定を受けた。


親しむ博物館づくり青少年の「心の教育」ワークショップ

 平成11年、文部省は「親しむ博物館づくり」事業を、全国の博物館・美術館で先駆的な教育プログラムを企画し実施する事業に絞り、委嘱することになる。同館は、二つのプログラムを提出、委嘱を受けた。
 この事業は、「ハンズ・オン 芸術と自然にとびこもう」をテーマに、市内外の小中学生、保護者ら200人が参加し取り組んだ。
 その一つは、「名作に学ぶ。私も迷作家?」と題し、2日間にわたり同館が所蔵展示中の名作を学芸員と一緒に観賞後、子どもたちが自由に作品を選んで模写に挑戦、集中力旺盛で1日で完成させた。最後に、プロ作家の講評があり、個性的な仕上がりを絶賛した。
 つぎは、ワークショップで、子どもたちが楓の若木を市の公園計画地に植樹、ともに成長することを願い、記念のネームプレートを取り付けた。午後は、自然の素材を使って「ハンズオンアートボックス」を制作、講師の講評があり、参加者からは、「自然と親しみ、親子の触れ合いも図れた、素晴らしい1日であった」と大変好評であった。
 昨年の文部科学省委嘱事業は、『子どもの「心の教育」全国アクションプラン』で、同館は、関係者で「樹の成長は私の成長実行委員会」を発足させ、緑化事業と創造性を育むワークショップを開催した。
 第1回は昨年11月、同館近くに5年生木のオオヤマザクラを子どもたちの手で植樹。日付けとネームプレートを取り付け、ともに成長を願った。午後は、近くの太田川河川敷と森の中で流木や葉っぱを集め、思い思いの材料を選び「公園に飾りたいモニュメント」を制作、生き物や自分の気持ちを表現した。
 2回目は、前回同様イロハモミジを植樹。午後は、『「個性ある生き方」を育んでくれた少年少女時代』をテーマに、各方面で活躍するゲストを迎えシンポジウムを開催した。
 同館と周辺野外でのワークショップ活動は文部科学省主催のシンポジウムや県博物館協議会研修会などで紹介され、高い評価を得ている。これからも、子どもたちが美術や芸術に関心を開く活動を積極的に継続して、展開することにしている。