「ふるさとづくり'01」掲載 |
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞 |
チューリップ園づくりから地域おこし |
和歌山県美里町 みさとチューリップの会 |
和歌山県美里町は高齢化が進み、基幹産業の農業も低迷していた。だが、それを変えたのが住民のアイデアによる町ぐるみのチューリップ園づくりで、平成10年12月、「みさとチューリップの会」を設立。チューリップ園の成功をテコに、新たな農業の創造や明るいふるさとづくりにと意欲を燃やしている。 危機感から生まれた全町公園化構想 美里町は、中山間地を生かした農業に取り組んでいた。しかし、平成9年の高齢化率が40%を超えるという激しい高齢化のもとで農業の担い手も減少し、中心農産物の柿も暴落して農家の意気は低下するばかりだった。 こんな状況に危機感を持つ農家の間から、「このままではいけない、農家を勇気付けたい!」という思いが起こり、話し合う中から“全町公園化構想”が浮かんだ。人を惹き付ける花があれば、ほたるや温泉、天文台などの観光資源に農産物との相乗効果が期待できる、と考えたからだ。 平成9年の暮、有志の一人が、個人で費用を負担して、チューリップの球根2万個を購入、普及センターの技術指導を受けながら試作にかかった。翌年4月、一緒に植えた菜の花はあまり咲かなかったが、チューリップは見事に咲き、道行く人々から「チューリップは思ったよりきれい!」の反響に気を良くして、チューリップの会が結成された。 会のメンバーは、町内の農業、商工業者、役所や教職の退職者、高齢者と幅広い層から参加が得られた。こうして会員は、チューリップ園の造成や管理・運営、PR、入園者対応などの各事業に分担して当たった。 チューリップが人を惹き付けることに確信をえたので、会では10年暮に球根を15万球に増やした。11年春には、入園料徴収を決め、案内の看板やポスターは手作りでPRにも力を入れた。結果は、4月4日〜20日の期間中、14,000人を超える入園者を数え、会員はさらに自信を深めた。 11年冬には、さらに10万球増やして、25万球にした。これに菜の花も合わせて5ヘクタールの花園にした。プランターの定植には、老人会の他に親子クラブ、小学生、園児など多くの参加を得て町ぐるみの活動になった。こうして待った12年春の開花は気温が低く遅れ気味だったが、4月中旬から順調に開花し、最終的には期間を通して18,000人が来園した。またこの年から、車椅子を配置したバリアフリー化にも努めことが、来園者の評価を一層高めた。 波及効果は農業や安心できるまちづくりにも チューリップ園の反響が契機となって、新しい作物導入の動きも出てきた。中山間地に適した自然薯や黒豆、薬草やハーブなどの試作が始まった。また同時に「美里の地場産品づくり」の研究・検討にも取り組み、宿泊施設や各種イベント、チューリップ園での販売も好評だ。それに気を良くして、古くからある梅やサンショ、柿なども新たな付加価値を加えた商品に仕立てる研究は主婦グループが中心で当たり、町内2か所に設けられた農産加工所では、柿アイスや山椒もちが試作され、商品化されている。 町には、養鶏や乳牛を生業とする農家も多く、一部だが時代の変化をキャッチして、消費者のニーズに沿ったアイスクリームの製造販売やマスメデアを通じた地鶏卵販売なども行われている。こうした農家はチューリップ園にも参加して、直売や町内の宿泊所、観光施設などへ商品の供給を進め、インターネット販売も手掛けている。 チューリップ園で培われた人の輪は、高齢者が安心して暮らせる町づくりにも生かされている。町の全地区に高齢者介護のボランティアグループが生まれ、ふれあい活動が始まっている。70歳以上の一人暮らし老人150人に月2回、173人のボランティアが給食サービスを行っている。給食の材料は、グループ員が畑で栽培した農産物を使い、お年寄りに優しいマイルドな味付けを心がけた。また、民生委員や給食ボランティア、テレホンサービスなどで、独り暮らし老人が孤立無援に陥らないよう気を配っている。 チューリップ園はまた、元気な高齢者と女性たちに支えられている。元気な高齢者たちは、チューリップ園での植付けや栽培管理などのボランティアを生き生きと受け持ってくれる。そしてそれが、高齢者の社交場となり、明るい笑顔があふれる場ともなっている。女性のチューリップ園への参加度は73%にもなる。それだけに、園の運営や接客、PRなどに女性の参画は欠かせないのである。 チューリップは、みんなを元気付け、ふるさとづくりの夢を拡げた。美里町を、誇りを持って売り出すことができた。そして今、美里町の美しい農村景観を「オープンエリア美術館」として整備するため、景観ポイントを全町民で選考していくことにしている。 |