「ふるさとづくり2000」掲載 |
<市町村の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞 |
エコリバーシステムによる村づくり |
岐阜県 馬瀬村 |
馬瀬(まぜ)村は、村の面積の約95%が森林に囲まれ、人口1,600人の典型的な山村で、村の中央を貫流する清流の馬瀬(まぜ)川は、全国屈指の鮎・あまごの釣り場として有名です。また、下流には東海地方の水瓶でもある「岩屋ダム」があり、村は水源の村としても重要な役割を担っています。村では森林資源を保全する「水源涵養基金」の創設(昭和48年、全国の市町村で初)、全国鮎釣り大会等のイベント開催、川沿いに公衆トイレ(15か所)を設置するなど、川の観光や森林、清流の環境保全に努めてきました。 ここ10年間は、都市との交流による村づくりに力を入れ、平成5年から村で初めての温泉開発(美輝の里)に取り組み、村の交流人口も平成8年以降、以前の釣り客主体の5万人から温泉客を中心に30万人近くに急増し、近年、村は自然保養地としての性格を強めてきました。 このような村の変化に対応するため、平成6年に村及び、県、漁協、森林組合等の関係団体が中心になって「森林山村活性化研究会」を設け、新しいふるさと(村)づくりの研究を始めました。 馬瀬川エコリバーシステムによる清流文化創造の村づくり構想 村の経済基盤は零細な農林業と夏場の鮎釣りに頼っており、温泉開発による活性化も日が浅く、住民の間には「川以外に何もない村だ」という意識が長年続いてきました。 そこで「何もない」ところに「何か」がないか、どうしたら住民が自分の村に「誇り」を持てるか、林業不振に悩む森林やいつも見慣れた清流など村の資源をもう一度原点から見直すこととしました。 研究を深めて行く中で次第に馬瀬村は川を中心に流域の「森」「川」「人の営み」が有機的に結びつき1つの自然生態系的まとまりを持っていること、また、森や川、集落などの佇まいが川を中心に独自の景観を形成し、安らぎを感じるふるさとの情景(馬瀬らしさ)の源となっている特徴に気付き、これを「馬瀬川エコリバーシステム」と名付けました。 すなわち、28キロメートルに及ぶ流域の森と川は、(1)農林業の発展、水源の涵養、渓流魚の生息、釣り民宿の繁栄など村に活力(恵み)をもたらし、(2)村民は身近すぎて気付かないが観光客は「馬瀬らしさ」に安らぎを感じる山村景観の形成など潜在的な魅力をもっていること。更には(3)村民の大部分が森林組合、農協、漁協に加入し森林や川に対する関わりが深いことなどの特徴があります。そこで平成8年に、村全体で森と川の関係をより密接にして自然の有する活力を一層高め、また、ふるさとの山村景観の保全・改善を図り住民が見過ごしていた「馬瀬らしさ」などの潜在的な魅力に磨きをかけることとし、5つのテーマをもって標記の構想(略称:川と森の村づくり)を策定しました。 構想の具体化への取り組み 〔良い自然環境が美しい景観を産む〕と考え、平成8年度から先ず「美しい景観づくり」から新しい村づくりの取り組みを開始しました。 [1]美しい景観づくり(村全体の空間の質を高める) (1)「馬瀬十景」の選定と整備 村民が自分の村の美しさに気づき、村を訪れる人々に誇れる場所として、平成8年度に10の集落の住民にアンケートで集落の中で1番美しい箇所を選びました。今後、住民に親しまれやすい十景にするため平成11年度には2か所の整備計画を策定する予定です。 (2)景観のモデル的整備 平成9年度から村道の白いガードレールや馬瀬川に架かる橋を塗り替えるとともに、村道沿線で村の風土にあった地元の花木植栽をモデル的に年1〜2か所ずつ実施しています。 (3)沿道修景事業 道路沿線のスギ、ヒノキなどの間伐や、枝打ちを行い、清流が眺望できるよう景観の改善と木陰による冬季の道路凍結の防止を図っています(昭和63年度から実施)。 (4)村のサイン計画の作成と案内標識の整備 村のイメージを高めるため、村の風土に合いデザインが優れた案内標識を整備することとし、平成10年度に村のサイン基本計画を作成しました。平成11年度は手始めに各集落の案内標識、馬瀬十景の標識を設置し、今後、企業、民宿等へも提案されたサインの使用をPRし普及していきます。 [2]川や森に親しめる拠点の整備 (1)「川遊びステーション」の整備 家族で清流の魅力に親しめ、子供達が川で遊べる「川の遊び場」を整備するため、平成11年度は10年度に行った基礎調査に基づき具体的整備計画を策定します。 (2)「花の森(森林公園)の整備」 温泉保養施設「美輝の里」の付近で、温泉浴と共に森林浴や馬瀬産の樹木の美しい花(ミツバツツジ、ガマズミ等)が観察できる森づくりを平成10年度から2年計画で進めています。 (3)親林、親水遊歩道の整備 平成10年度には、家族や子供達が村の森や川に親しむことができるよう、森を縫い川に接して歩ける遊歩道の実施設計を1か所モデル的に実施しました(今後事業化の予定)。 [3]人材の育成 (1)フランス山村へ村民調査隊の派遺 村づくりは、まず村民が自分の村の良さに気付くことが重要です。そこで、住民が地域の自然や景観保全のために自主的に住民憲章を定め、地域経済の発展を図っているフランス山村の「地方自然公園制度」を学ぶため、平成9年度より公募で3〜4名の村民調査隊を募り派遣しています。 帰国した全ての隊員が馬瀬村の自然、景観は外国に劣らないものがあり、村の良さを改めて再認識するとともに、今後、村の景観保全の仕組みを村民自らが中心となって策定していきます。 (2)川のインストラクターの育成 馬瀬川や村の自然、文化などについて観光客等と気軽に対話し環境保全の啓発ができる村民の育成を目指し、平成8年度から村民の希望者を募り「川のインストラクター」養成講座を年間五〜六回開催しています(1回15名程度)。講座で学ぶことにより、今まで漫然と見ていた川や自然についての理解が深まった人が次第に増加しています。 [4]山村情報の受発信 (1)馬瀬川ふるさと応授団との交流 馬瀬川や村を愛する都市の人約100名が平成6年に村の支援を目的に結成しました。村からは広報誌等の情報提供を行い、団員の方は馬瀬村のPRや外部から村を見た率直な意見を寄せていただき村づくりに大変参考になっています。 [5]魚付き保全林の整備 森林は清流の水源を涵養し、川面に影を落として水温の上昇を防ぎ、また、樹から川に落ちた昆虫が淡水魚の餌になり、川に沈んだ木の葉は水生昆虫の住みかになります。 このように森と川は密接な関連があり、平成11年度は馬瀬川流域の3か所の広葉樹林を選び魚付き保全林として保全するための基礎調査を実施します。 [6]山村活性化研究会の活動と今後の課題 森林山村活性化研究会は「構想」を推進する中核的な存在として、調査や研究会、講演会の開催、先進地視察、地域の団体・住民との意見交換等の各種事業の企画や実行の地道な努力を続けています。6年目を迎えた平成10年2月には住民の賛同により村のほぼ全域が岐阜県の「屋外広告物条例」の禁止区域に指定され、村一丸となって山村景観の保全に力を入れています。また、役場の若手職員が活動している「水の郷研究会」や一般住民民宿組合、観光協会、漁協等が参加する「馬瀬川を美しくする会」が結成され、馬瀬川の環境実態調査や清掃に取り組むなど、景観や自然環境を守り、ふるさと(村)づくりをしようとする動きが高まってきました。今後もこの動きが定着するよう地道な研究会活動の継続と行政と住民との一層の対話が大きな課題となっています。 |