「ふるさとづくり2001」掲載
<集団の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

市民提案による相模川流域での不法投棄防止活動
神奈川県 市民ネットワーキング・相模川
 相模川は、総延長113キロメートルある首都圏近郊を流れる1級河川です。この長い川の流域では、相模川を愛する人々が様々な活動を拡げています。
 私ども市民ネットワーキング・相模川(以下CNS)は、こうした人々が出会い、ともに語り、ともに活動することを応援するために、同じ思いを持つ市民や市民団体が集まり、3年間の準備期間を経て1995年7月に発足し活動を続けてまいりました。
 これまでの主な活動としては、相模川流域で活動する団体を紹介する“相模川アクションマップ”の作成、だれでも気軽に参加できる流域一斉“桂川・相模川クリーンキャンペーン”の実施やそのリーダー養成を行う“相模川カッパ大学”の開催、不法投棄の調査・監視を行う“相模川ごみ探偵団”の活動、小学校の課外授業や行政機関・他団体が実施する学習会等への講師派遣、相模川の自然や風物を紹介するCD―ROM“相模川FAN”の製作など多様な活動を行ってまいりましたが、今回は、CNSの特長的な活動となっております相模川のゴミに対する取り組みを中心に会の紹介を行います。


桂川・相模川クリーンキャンペーンの開催

 CNSでは、それぞれ独自に活動をしている市民団体が活動の趣旨を容易に理解でき、身近なところで気軽に参加でき、それぞれの活動にプラスになり、かつこれまでにない新しい取り組みとして、流域の市民団体を主体とした相模川全流域の散乱ゴミを一斉に調査するイベントを発足と同時に計画しました。
 折しも神奈川県と山梨県が相模川での県域を越えた協力事業を模索する動きがありましたので、CNSが進めてきた散乱ゴミの調査を主軸とした桂川・相模川クリーンキャンペーンを提案しましたところ、両県との共同事業として実施することとなり、CNSはその事務局として以後3年間にわたり企画、運営全般を担当しました。
 相模川における全域でのイベントはむろん初めてでありましたので、調査票やマニュアルの作成、事前研修会の開催なども流域の市民団体の方々とひとつひとつ手づくりで進めてまいりました。その結果、初年度の1995年度は、流域全体で194か所5600人、96年度は95か所1万2400人、97年度は51か所9800人の参加があり、行政区域にとらわれない流域という自然と人間のつながりを基本とした新しいふるさとの創造への一石を投ずることができました。


不法投棄ゴミに注目して

 しかし、一方でキャンペーンを行う中で、疑問に思えることもいくつか出てきました。
 1つは、クリーンキャンペーンでは不法投棄ゴミは危険が伴うことも多いことから、扱わないことを前提にしておりましたので、クリーンキャンペーンの後でも、河川敷には不法投棄ゴミが手つかずに大量に残っているという状況がありました。
 2つには、相模川では不法投棄ゴミ対策を理由に河川敷が徐々に締め切られてきました。締め切れば確かに河川敷にゴミはなくなりますが、同時に市民を川から遠ざけ川への無関心層を増やしますし、子どもたちの心からふるさとの川を奪うことにもなります。
私どもは、自然の生態系の負担にならない範囲で積極的に市民が川とつき合うことが大切だと考えています。そのためには、自治体の努力を待つだけではなく、市民自ら不法投棄の防止活動を行うことにより、締め切りのない誰もが親しめる、きれいな相模川をつくりだす必要があるとの思いを強く持ちました。


相模川ごみ探偵団の活動

 CNSでは、1997年から不法投棄防止の活動に本格的に取り組みだしましたが、この広い相模川のどこで、いつ、誰が捨てるのか分からないゴミを、本当に市民が監視できるか、当初は不安と期待の中で手探りで活動を始めました。
 そこで、不法投棄ゴミに関心がある方ならどなたでも気軽に参加できる方法はないかと模索し、一連の不法投棄防止への市民の取り組みを「相模川ごみ探偵団」とネーミングし、次の4つの目標を設定して事業化を進めました。
1.あまりにも情報が少ない相模川の不法投棄が、いつ、どこで、誰によって行われているのか、綿密な調査をして明らかにすること。
2.多くの方に参加していただくため、市民1人ひとりの負担をできる限り小さくした調査・監視システムの開発とマニュアルを作成すること。
3.市民が安全で効果的な調査・監視活動ができるよう養成講座を開催すること。
4.調査・監視活動の結果が、的確に不法投棄の減少に結びつくように、警察や行政機関と連携した調査・監視システムを構築すること。
 このような目標に沿って、相模川ごみ探偵団として最初に取り組みましたのは、相模川の不法投棄の実態調査ですが、調査の基本的な考え方は、ゴミをストックではなく、フロー(できる限りリアルタイムなゴミの変化)として捉えなければ防止対策を立てられないということです。
 そこで、まず、不法投棄ゴミが多い地点を4か所ピックアップし、週1回の実態調査を始め、1週間単位のゴミの動きを詳細に追っていきました。また、週間単位では「何時頃に誰が捨てるのか」という核心情報を得ることができないことから、どうしても不法投棄がされる現場の情報を掴みたいと考え、1か所だけですが、1998年11月から1年間365日、24時間体制で不法投棄の現場に張り込む夜間実態調査を行いました。
 その結果、1年間で不法投棄される現場を140件以上目撃することができ、不法投棄され易い時期や時間帯、犯人の行動パターンや業種など詳細なデータを集積することに成功いたしました。
 このような一連の調査により、相模川の不法投棄の実態をかなり鮮明に把握することができたと同時に対応策についてもかなり明確な方針が立てられたことから、1999年には市民の調査・監視活動を具体的にサポートする「相模川不法投棄マップ」「相模川ごみ探偵団―調査・監視マニュアル」を作成するとともに、初めての方でも安全に活動ができる「相模川ごみ探偵団養成講座」の開催、そして具体の調査・監視活動と、地域が一丸となった取り組みを行い、具体的な成果もいくつか得ることができました。


活動の成果

1.これまでの不法投棄に対する市民の地道な活動が徐々に行政機関などにも評価され、昨年からは、最もゴミの不法投棄が多い暮れの時期に、CNSと警察が協力して、CNS方式の夜間監視が行われています。
2.夜間実態調査によって把握されたデータの分析結果が、本年度から神奈川県が全県下を対象に実施する不法投棄監視事業の中で活用されることになりました。
3.CNSでは、県警との間に定期的(週1回)、随時に不法投棄の情報交換を行う機会を設けております。この機会に提供した情報を基に県警が調査し、犯人が割り出され、ゴミが撤去される成果が具体的にあがっています。
4.行政や警察の努力にも負うところが大きいと思いますが、私どもの活動が新聞各紙で取り上げられたこと、特に今年1月と2月には、TBSテレビでCNSの活動が30分のドキュメント番組として放映されたことなどもあり、相模川での不法投棄は目に見えて激減してきました。このことは、市民による監視活動でも不法投棄を抑止できることを実証できたのではないかと考えています。


今後の展望

 しかし、一方で、相模川の不法投棄の減少は、必ずしも私どものふるさと全体の不法投棄の減少にはつながらず、山林や住宅地へ移動しただけの可能性もあります。
 今後は、相模川での経験とノウハウを地域で活動をされている市民の方々に学習会等の機会を活用して普及することで、地域全体で不法投棄を撲滅していく活動を展開していきます。また、もちろん、不法投棄は相模川が抱える課題のごく一部に過ぎません。必要なことは、自然の生態系を傷つけない範囲で、市民が自由に相模川を活用しながら、すばらしい相模川の自然や文化を次の世代に引き継いでいくことです。そのためには、それぞれの市民団体が地域の一翼を担える力を養いながら、相模川の流れのように緩やかでたゆまないネットワークを通じて活動の輪を重ね合わせるように広げていくことがなによりも大切だと考えます。
 CNSは、こうした理想に向けて一歩一歩地味ではありますが、着実に地域活動を実施してまいります。