「ふるさとづくり2001」掲載
<市町村の部>ふるさとづくり奨励賞 主催者賞

住民と行政の協働作業による地域づくり―高知市コミュニティ計画の策定と実践―
高知県 高知市
 高知市では、地域に暮らす住民ならではの知恵や力を地域づくりに生かしていこうとコミュニティ計画の策定・推進事業を実施しています。
 コミュニティ計画は、おおむね小学校区をコミュニティの範囲として、市内を35地区に分け、そのうちの25地区でできあがりました。
 計画には、住民と行政との、地域づくりにおける役割分担も盛り込まれ、計画をつくったことで、住民側には「できることは自分たちでやっていこう」という意識が芽生えています。そして、計画策定25地区の中の16地区では、コミュニティ計画を実現させようと、計画の策定に携わった住民が母体となって、計画の実践組織が生まれ、高知市との協働作業で様々な地域づくり活動を展開しています。
 また、行政職員も「まちづくりパートナー」として計画づくりに参加したことで、地域のこれまで気づかなかったことが見えてきたこと、住民とのコミュニケーション力が高まったこと、また協働作業による計画づくりを通じて、例え結果が同じであっても、それまでのプロセスが重要だという認識が高まったことも大きな成果でした。
 1年から2年ほどかけた計画策定作業には、1000人を超える地区住民の皆さんに参加いただき、まちづくりパートナーとして参加した職員は106人にのぼりました。
 高知市が目指す「住民主導の地域づくり」その先駆けとなるコミュニティ計画の策定・推進事業を紹介します。


コミュニティ計画とは

 1991年3月に策定された高知市総合計画―1990―で、高知市の行政を推進する計画体系のひとつにコミュニティ計画が位置付けられました。
 その中で、コミュニティ計画とは、「高知市全体を地域の視点で区分し、それぞれの地区において、土地利用のあり方や生活環境の保全・整備の課題等を検討する計画であり、さらに各々の居住地域(コミュニティ)で、そこに住む市民の参加と創造による住民自治をベースとし、相互理解と連帯のもと、人間性豊かな心のふれあう地域社会の形成を目指し策定する計画をいう。策定にあたっては、その計画の内容は、各々の居住地域(コミュニティ)の特性に応じた多様なものとなる」とその性格が明確にされています。


まずはたたき台としての地区整備計画づくり

 総合計画で示されたあと、平成5年4月に、現在のまちづくり推進課の前身である地域計画室が誕生し、具体的なコミュニティ計画の策定作業に取り組むことになりました。全国的にもあまり例を見ない取り組みであり、当初は試行錯誤の連続だったようです。
 策定にあたっては、何かたたき台のようなものを持って、地域に入らないとうまく計画づくりができないであろうと考え、行政側で、コミュニティ計画の前段の計画として、地区整備計画をつくることにしました。
 この計画をつくるにあたっては、地区懇談会の開催や全庁的なヒアリングを行い、地区住民の要望・陳情といった地域課題の把握に努めるとともに、基礎データとして安全性や衛生面、快適性といった市民生活に密接に関わる事柄67項目を図や表に示した「地区カルテ」をまとめ、庁内でチームを編成し、総合的な検討を行いました。こうして平成6年7月に、地域づくりの全市的な考え方を示した総括版と各地区の整備目標や整備方針などを地域ごとに分冊した地域版からなる地区整備計画を作り上げました。


コミュニティ計画案の策定

 地区整備計画の完成に合わせ、平成6年度からは、地区別にコミュニティ計画案の策定作業に取りかかりました。
 各地区ごとの住民組織(市民会議)づくりは、町内会連合会の協力で、参加募集チラシの全戸配布を行った他、マスコミ、広報紙などによる公募も実施しました。この時、「地域住民であれば誰でも参加が自由で、出入りも自由」と参加者を限定しませんでした。と同時に、地域と関係の深い学校や企業、青年会議所、設計管理者協会などにも説明に伺うなど、様々な世代や立場の人たちに、市民会議への参加を呼び掛けました。
 こうして、まず、市内の約3分の2にあたる21のブロックで、約900人の地区住民が参加し、コミュニティ計画案づくりがスタートしました。
 各地区では、市職員で編成された「まちづくりパートナー」が、毎月1回のぺースで開かれる会の中で、調整や相談、グループ作業時の進行役などを受け持ち、まちづくり推進課は黒子として関わりました。
 パートナーは公募し、担当地区は、居住地をベースに、11チーム106人で編成し、計画づくりに臨む前に、半年を費やして、各種の行政計画や担当地区の現状・課題の把握などについて研修を実施し、地域づくりに必要な知識を身につけました。ちなみにパートナーは、住民と同じようにボランティアで計画づくりに参加しました。
 コミュニティ計画案の策定にあたっては、市総合計画や前述の地区整備計画を参考に、ワークショップ手法を取り入れ、各地区の課題の抽出、解決方策の検討を行いました。
 また、より多くの住民の意見を反映させるために、地区ごとに「アンケート」の実施や現状把握のための「街角ウォッチング」も実施しました。さらには「まちづくり機関紙」を発行し、計画づくりをより多くの市民に知ってもらい、参加いただけるよう取り組んできました。
 そして、1年から2年ほどの期間をかけて、策定作業が行われ、平成8年3月までには、21地区の作業が完了しました。その後4地区で、新たに計画づくりが行われ、今25地区の計画案が市長に提案されています。計画づくりに携わった市民は、4地区の200人を加え、1000人を超えるに至りました。


行政計画としてのコミュニティ計画の策定

 25地区の計画案には、合計で約1500の具体的な項目がうたわれています。それらの項目には、項目ごとに短期、中長期といった実施時期の設定や行政主体、住民主体、あるいは行政と住民の協働といった役割分担についての考え方が示されています。
 こうした地域の考え方をベースに、行政内部でそのひとつひとつについて、実現の可能性を検討しました。具体的には、まず、主管課で実現の可能性についての検討を行い、その後、地域と関連の深い課の課長で構成する「コミュニティ計画策定幹事会」で、4部会に分かれて、可能性についての検討や部局間の調整などを行いました。
 そのうえで、助役、部局長で構成する「コミュニティ計画策定委員会」で、全市的なバランスなど、最終的な可能性についての検討を加えたうえで、行政計画としての「コミュニティ計画」を作り上げました。
 なお、検討を重ねた結果、どうしても実現が難しいと判断した事業についても、あえて、計画の中に登載し、困難性の共通認識を得るための協議を行う材料としました。実施可能な行政が関係する事業は、実施計画や予算編成などで反映されるように、関連各課と連携をとっており、平成11年度のコミュニティ計画関連予算は、下水道の整備などの実施中の都市計画事業も含め約70億円にのぼりました。
 また、このコミュニティ計画は、市長が各地区に出向いて、地域住民と対話する「わがまち・ふれあいトーク」を通じて、地域にフィードバックされました。


コミュニティ計画推進市民会議によるまちづくり

 計画が策定されている25地区のうち16地区では、せっかく自分たちで作った計画を実現したいと「コミュニティ計画推進市民会議」が結成され、高知市との協働作業で、花いっぱい活動の推進や自然体験広場づくり、史跡マップ、防災マップの作成といった地域づくりの実践活動を続けています。
 これらの活動は、地域に開かれた学校づくりを目指し、コミュニティの中心ともいえる小学校や、町内会を始めとする地域の様々な団体ともいろいろな場面で協力し合っています。また、各地区の活動がもとになって、地区をまたいで2つの市民会議による合同事業が開かれていますし、各地区から若手のメンバーが集まり、交流や地域づくり学習を進め、全市的な地域づくりの課題も話し合う「まちづくり未来塾」が誕生しました。この塾では、市民会議の活動や地域づくりの楽しさを内外にPRしたまちづくりフォーラムの開催や次期総合計画への提言といったことにも取り組みました。
 今、高知市のコミュニティ計画の取り組みは、住民との協働作業で、新たな広がりを見せています。