「ふるさとづくり2001」掲載
<企業の部>ふるさとづくり大賞 内閣総理大臣賞

ふるさとづくりは人づくり
熊本県熊本市 トヨタカローラ熊本(株)
 九州地方のほぼ中央に位置する熊本市。人口約66万。古くから城下町として栄え、東には世界一のカルデラを持つ阿蘇、西には有明海と、素晴らしい自然に恵まれた都市である。
 トヨタカローラ熊本(株)は、このふるさと熊本市の南部にあり、「明るく元気」をモットーに県下19か所の店舗で、約450名が働いている。事業内容は、乗用車販売31年連続No.1のカローラを中心に、新車・中古車の販売、点検・整備等を行っており、幅広い年齢のお客様に支えられている。来年には創業40周年という大きな節目を迎え、21世紀への新たな展望を計画中である。


オイルショックがきっかけとなり

 昭和48年、突然襲ったオイルショックは、当時日本でも“物”の量産化が進み、何でもお金で“物”が買える時代の中で、将来の生き方や、あたりまえの豊さに不安を感じさせた。当社もそのあおりを受け、ただ車を販売し、利益を上げるばかりの企業では、地域に受け入れられないのはもちろん、企業の存続さえも危ういことを悟り、当社の社長・梅崎輝也の発案で、ボランティア活動の推進を会社の基本方針のひとつに取り入れた。主な内容は、
1.地場企業として地域密着型の企業づくりが必要である。
2.地場企業として何か個性ある企業づくりがしたい。
3.社員の人間性の成長につながる企業づくりをしたい。
4.ひいては、社風(企業体質)づくりにつなげたい。
以上の4項目で、企業・社員・地域社会の三位一体の発展を目指し、実践することにした。また、明るい職場づくり運動連絡会との出会いも大きな推進の励みとなった。
 これらの活動の資金源は、当社自慢の“善意通帳”。これは、全社員毎月の給料の100円未満を寄付して頂くようにしている。多い人でも99円。社員が気軽に、しかも苦にならない程度の少ない金額が、年間にすると約40万円にもなっている。


27年続く清掃奉仕活動など

1.新入社員研修
 当社のボランティア活動は、入社前から始まり、“県立天草青年の家”で、2泊3日の集合教育を行っている。「挨拶がきちんと、大きな声で出来たら当社の社員として80点」との号令の下、徹底的に「おはようございます」「ありがとうございます」の練習をする。
 また、その研修プログラム中に、青年の家敷地内にある“はまゆうの広場”等の清掃奉仕を行っている。この清掃奉仕は、昭和49年の開所以来、27年間続けており、草取りや、ゴミ拾いを行う。現在は、当施設のターゲットバードゴルフ場となっているが、当時はまだ雑木林で、当社の社長を筆頭に社員全員で切り開き、現在の広場となった。新入社員は、ここで初めて当社のボランティア活動の一部を垣間見ることになり、当社の姿勢を学ぶことになる。
2.献血運動
 4月1日は入社式。入社式終了後には、新入社員記念献血を行い、県下2か所で当社の社員がこれに参加し、毎回100名以上に達している。この活動も27年間続けている。
 献血には、昔、こんな出来事があった。お客様の中に従業員約800名の大きな企業に勤める方がおられ、ある日、そのご家族の方が病気になり、早急な手術をすることになった。手術のために、大量の血液が必要となったご家族は、勤める会社に献血者を求めたが、1人しか名乗り出てもらえず、途方に暮れた。偶然、その事態を知った当社は、献血名簿に基づき該当する血液型の社員に呼び掛け、その日のうちに必要な献血を行い、ご家族の方の命を救うことができた。社員の互助的な発想から始まった献血活動であったが、日頃から定期的に行っていて本当に良かったと、人の役に立つことの喜びを味わった。
3.児童福祉施設との交流
 児童福祉施設と連携をとり、4か所を訪問し、12月のクリスマス会や、もちつき大会に合わせ、当社オリジナルの劇を披露する。この行事も25年間継続している。劇の練習は10月から始め、稽古場は、本社会議室。脚本も自ら書き上げ、大道具・小道具・衣装もすべて、手づくりである。各自が、仕事をきちんとこなしたうえで、自分の判断で自主的に活動している。本番の日が次第に近づいてくると、稽古にも熱が入り、深夜にまで至ることもある。
 本番当日、練習では長く感じる劇も、いざ本番では、緊張のためかあっと言う間に終わってしまう。劇が終わると、生徒さんたちとの距離がぐっと近づき、写真を一緒に撮ったり、握手や抱っこを求められたりと、何か、人気者になったようで照れくささを感じるが、生徒さんたちから心のこもったお礼の手紙や、かわいらしい花鉢などを頂いたりすることで、「こんなに喜んでもらえるなら…」と当社のボランティア活動の使命感を再認識し、新たな意欲を感じる。
4.ボーイスカウト活動
 県下唯一、全国でも珍しい、職域ボーイスカウト活動を行っている。名称は日本ボーイスカウト連盟熊本第6団トヨタカローラ熊本ローバー隊。
 昭和51年9月1日、県下全ボーイスカウト隊の支援を受け、熊本市繁華街を大パレードのもとに発団した。現在26年目を迎え、昨年開催されたハートフルフェスタや青少年育成の各種催しのお手伝いを行い、現在に至っている。
5.明るい職場づくり運動
 心豊かな熊本を創る運動推進協議会が支援する、「熊本県明るい職場づくり運動連絡会」は、現在、異業種企業22社が参加している。当社の社長が、この会の会長を務めている。この会の目的は、推進する企業の相互連携を図り、熊本の心「助けあい、励ましあい、志高く」を基に、各企業間のネットワークづくりと相互の人間関係を深め、自己の職務に対する意識の変容を図ることを目的として、年間の活動計画を立て、実践している。
○奉仕活動では、9月に、熊本市を中心に行われる藤崎八幡宮秋季例大祭(随兵祭り)のゴミ拾い等を行っている。この祭りは、3日間行われるが、その最終日の翌朝6時に集まり、清掃奉仕を行っている。毎回各事業所から150名もの参加があり、参道に境内にと散乱している空き缶や煙草の吸殻等で、ゴミ袋46袋にもなることもある。
○研修では、「先手の明るい挨拶」と題して、接遇研修会、各異業種の職場訪問、熊本の郷土を見直す日本一探し等を行っている。
○親睦交流では、この会に所属する新入社員を一堂に集め親睦を深める、若人の集い、ボーリング大会、ゴルフコンペ等を行っている。
 また、この会の特徴は、全ての活動が始まる30分前に参加者が全員集合し、会場となる周辺を清掃するようにしている。空き缶、煙草の吸殻等のゴミを手分けし、分別収集にも配慮している。
 その他、会に所属している各企業は、それぞれ毎月1回「明職清掃デー」を設け、毎月の行事予定に入れることを義務付けており、職場周辺の歩道・生垣などの清掃作業を地域住民一体となって、活動している。


ボランティア体験から仕事の喜びも学ぶ

 会社の方針である、「社員全員が人の為に役立つことの喜びを心から理解し、職務に生かせる人材であってほしい」というオイルショック以来の考え方が、次のような効果をもたらした。
1.仕事上では得られない体験の中から、社員1人ひとりが、自発性・創造性を学び、仕事に生かすことができた。
2.社員全員が、ボランティア活動に参加することで、人間関係がスムーズになり、仕事の大切さや働く喜びを知ることができた。
3.ボランティア活動を通じて、社員が“自分のふるさとである地域社会に少しでも貢献できる”という自信が持てた。
4.交友関係が深まり、当社の抱える問題を解決するうえで、参考になった。
5.課題として、これまで社員研修・児童福祉施設との交流を中心に進めてきたが、今後、店舗周辺の地域住民との連携をさらに深めていきたい。
 当社の日頃の仕事は、実績という数字の世界で、利益を追求しているが、その仕事とは全く違ったところにボランティア活動は存在している。もちろん、自動車の販売台数が増え、会社の利益があがることは大変嬉しく、ありがたいことであるが、地域との密着性を考えると、ただ売った・買ったの関係ではあまり意義がない。多少、大げさではあるが、やはり企業としての“考え方”が評価され、“人間的”に信頼されることのほうがより重要であると考える。
 地域社会に役立つ活動は、最終的には“人づくり”。この無限の可能性を秘めた温かみのある言葉を忘れることなく、今後とも継続し、心豊かな地域づくりに貢献していきたい。