「ふるさとづくり2003」掲載 |
<集団の部>ふるさとづくり賞 主催者賞 |
福祉にロマンを求めて |
秋田県能代市 にぐるまの会生活学校 |
平成6年7月、北国の人口4万足らずの小都市能代で私たち仲間8人はボランティア・グループ"にぐるまの会"を結成しました。 能代は、当時から高齢化率が全国平均を上回り、間近に4人に1人の超高齢社会が予見される情況でした。 そうしたなかで、あるお年寄りで車いす利用の透析患者の方が、週3回の自宅から病院への通院に大変困っておりました。その頃リフトカーは公的機関の能代市だけ保有しており、民間のタクシー会社にはなかったのです。その方は、市に自宅から病院への送迎をお願いしたのですが、市から規則により送迎はできないと断られ、万策窮し社会福祉協議会の福祉活動専門員である安部(にぐるまの会会長)に相談しました。その相談を受けた安部は見るに見かねて早速自動車整備会社の社長や自動車販売の社員や木工会社の専務に声をかけ、中古のワゴン車を手に入れて、これを車いすが乗れるように改造し、このお年寄りの送迎ボランティアを始めたのがキッカケで"にぐるまの会"を結成したのです。 真夏の炎天下に汗を流しながらの送迎、あるいは真冬の寒い積雪の日除雪しながら吐く息も白く必死に車を運転した送迎、どんな天候でも欠かさず透析患者のいのちに関わる送迎ボランティアを続けました。この人のいのちに関わる移動サービスをおこない、人のいのちのいかに大切であるかを、身をもって体験し、その後の会の運営の大きなバックボーンになっています。 "にぐるまの会"の名前は、身体の不自由な人、高齢者、子どもたちを支え、くるまの片方の車輪になって、ともに生き、ともに喜びを分かち合い、明るい地域社会づくりに少しでもお手伝いができればとの想いから名付けたものです。 次に会の主な活動状況を説明します。 送迎ボランティア 現在、介護保険制度が施行されてから、能代市や民間団体がリフトカーを保有し、一応の成果をあげ、車いす利用の人も不自由しないようですが、しかし介護保険からもれて利用できない人もまだまだ大勢おります。私たちグループはその人たちに手を差し伸ベ、大切ないのちの送迎をおこなっています。採算とか利益とかを考えずに送迎活動ができるのは私たちグループだけです。 ことに移動サービスには、車の事故による責任問題、ボランティア移送の有償問題(道路運送法第80条)など行政上の問題を抱えておりますが、現に目の前に困っている人がいるのに、その方たちに温かい手を差し伸べないではいられないのが私たちのボランティア活動なのです。そのため専門的な経験、能力をもった会員で、慎重な介助、安全な運転に気をくばり、自信をもって対処できる体制づくりをしています。 福祉機器の開発・製作・販売 平成7年に木製歩行器"ララ"を開発し、秋田県発明展で秋田県知事賞を受賞し特許を取得しました。 能代山本の病院や施設にはほとんど備え付けられ、歩行の不自由な人たちに有効に活用してもらっています。新聞や報道機関にも取り上げられ好評を得ております。この開発は、ある施設にいるお年寄りが「トイレに行くにも車いすを押して行かないと行けない。もう少し軽々と動けるものがあれば…」というつぶやきからヒントを得たものです。市販の一般的な歩行補助具は金属製のパイプで馬蹄型の枠を組んだだけで、重いうえに物も置けないのです。それで試作に2年かけ試行錯誤の末やっと完成しました。 平成10年にテレビの「ズームイン朝!」にこの木製歩行器"ララ"が全国版に放映され紹介されました。放映された直後から2か月間ばかり全国の関心のある方から電話をいただき、応対にテンテコ舞いしました。2、3か月の間はカタログの発送、注文を受けた歩行器の出荷に追われる忙しい毎日でした。 "ララは歩みの花、自分の足で歩くうれしさよ!"をキャッチフレーズに、木材の町能代だからこそ、木にこだわり木のぬくもりをアピールし、これを"まちおこし"の一環として、全国に発信しています。 また、平成14年には車いす用移動式テーブルを開発、これも秋田県発明展で秋田県知事賞を受賞しました。特許取得のうえ製作段階に入りたいと考えています。 社会福祉の啓発活動 平成8年よりお盆の1日、夕暮れ時から"にぐるま工房"で「ほとけさまってな〜に。おはなし会」を開催。参加した子どもたちや親子連れはろうそくに明かりをともし、ゆらゆら揺れる小さな灯に、命の尊さを感じました。 このおはなし会は、先祖から脈々と受け継がれて自分があるのだという存在感とともに、命の大切さや手を合わせる意味などを、送り盆の行事を通じて感じて欲しいと願ったもので、約40人の小学生や親子連れが参加しました。 広い芝生の上に500本のろうそくが並べられ「生きてきて幸せだなあと思って灯をつけて…」と呼びかけ、順次灯がともされていくなか、迎え火、送り火などお盆の行事のいわれを説明しました。暗くなるにしたがって幻想的な雰囲気にひたりながら、「みんなは食べられるのが当たり前だと思っていると思うけれど、なぜいただきますと手を合わせるのか分かりますか。自分の命を保つためにたくさんの命をもらい、生かしてもらつている。その命に手を合わせるのですよ」などの言葉に参加者全員「命」の大切さを感じとっていました。 工房を学習の場として県内各地から参加し、子どもから大人まで自然との共生についてのグループ・ワークなど、毎年新しい企画でともに学び、ともに育てています。海も川も山も近くにある環境で、この恵みを受けネイチャークラフトづくりで、心をつなぎあう絶好の場を提供しています。 ボランティア活動の企画・実践 毎年継続的に実施するボランティア活動をとおして、体の不自由な人も高齢者も子どもたちもみんな元気に、ともに生きる幸せを求めて、福祉のまちづくりを進めています。参加する活動は、能代市障害者スポーツレクリエーション、吉野学園郷まつり(22回目)、能代子どもまつり、ひまわり号を走らせる会(12回目)、24時間愛は地球を救う募金活動、のしろであいのコンサート(21回目)、能代養護学校の学園祭、大日寮の収穫祭、歳末たすけあい、ユニセフ募金活動(20数回目)などのほか、地域づくりの行事にボランティア参加しています。 にぐるま工房の運営 平成8年6月、会員待望の活動拠点として工房を建てました。会長が心の糸を紡ぎあう場として、心血を注いで建設したものです。この工房を私たちの活動の拠点として、福祉のボランティア活動を進めています。工房は会の求心的役割を果たしています。 工房を地域の人たちに学習の場として活用してもらい、活力ある地域づくりを進めています。 また会長は、もう一つのボランティアグループかいご会の会長も兼務しています。この会は、会長が講師として講義した介護講座で参加した主婦たちが結成したものです。今年で20周年を迎え、会員70人を擁し、障害者や高齢者の介護ボランティアをおこない、地域社会づくりに献身的な活動をしています。 私たちの会とは、ボランティア活動のうえで密接な連携を保ち、協力しあいながら活動を続けています。 戦後50年余、私たちは、懸命に働きつづけ「豊かな物」「便利さ」を手に入れました。しかし失ったものも数えきれないほどあります。なかでも「心の豊かさ」を失ったのは手痛いことです。真の豊かさとは何だろうと今あらためて問い直す時期がきているように思います。毎日のように新聞に人の命を粗末にした記事を見るたびに、自分たちの足元から一歩一歩着実に新しい風を起こし、ともに生きる社会づくりを目指したいと思っています。 |