「ふるさとづくり2003」掲載
<集団の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞

アートを通してのノーマライゼーション、インクルージョン社会の実践活動
宮城県仙台市  美楽アートクラブ
 車椅子で仙台の街を歩く心身障害者の姿を、ここ5、6年の間に自然の風景として、当たり前の社会の姿として、交通・建築等の社会環境のバリアフリー化の波とともに感じられるようになってきました。
 しかしながら、知的・精神障害者と呼ばれる人々を仙台の街なかで自然の姿として出会うことはあまりないのが現実です。出会ったとしても障害者と健常者の間には、確かに不自然な距離感と差別がはっきりと見えてくるのでした。
 多くの知的・精神障害者は一般社会とは隔離され、家庭内だけを主に生活環境としている在宅、または施設、養護学校のなかだけが社会環境といった具合に、地域社会へ参加することも人々と出合う機会すら持つことさえかなわないのが“普通”のこととして、障害者自身や家族も、行政や福祉施設も、健常者と呼ばれる一般の人々も、何一つ疑問に感じもしないで、恥ずかしいことなのですが、知的・精神障害者を見てみぬふりをする…仙台における地域社会の現状でもありました。心のバリアフリー化は全く進んでいないようでもありました。
 そこで、知的・精神障害者のアートをとおしての社会参加を、地域にも開かれたオープンアトリエ事業の展開としておこなうこととなりました。しかしながら、知的・精神障害者にとってアートなど無駄で必要のないものといった認識が障害者自身や家族(保護者)をはじめとして、行政や福祉施設などにも根強くあり、理解を得て初めの一歩を踏み出すまでには1年を要してしまいました。


知的障害者入所更正施設のなかのオープンアトリエ事業

 仙台市内の社会福祉法人にある敷地のなかに、職員と入所者で手作りした簡易プレハブのアトリエを利用して、施設利用者ばかりが利用できる施設のためのアトリエとしてではなく、地域住民も参加できる、即ち障害があってもなくても関係なくアート活動を楽しみませんかといった、アートをとおしての地域社会との出会い交流の場として、地域社会に開かれたオープンアトリエ事業を施設との協働事業として開始しました。
 既存の知的・精神障害者施設の指導教育や生活訓練、余暇活動としての“お絵描き教室”といったものではなく、一人ひとりの創造性を尊重したアート活動を展開してきました。画材もクレヨンに水彩絵具といった従来のものから、油絵やアクリル画、画用紙ではなくキャンバスにしたり、さまざまな専門的アートワークショップを取り入れるなど、福祉領域のアートではなく、アート領域の造形表現活動をおこなってまいりました。本物のアートを体感でき、自由に自己実現できる空間、アトリエとして事業展開してきました。
 地域に開かれた施設の中のオープンアトリエ事業として、施設利用者以外の一般の参加者も徐々にではありますが増えてきました。表現するアトリエ空間の中では、障害者も健常者も区別されない、平等な時間が流れているのです。アートをとおしてのノーマライゼーション、インクルージョンの社会の実現を目指す意味でも、大きな意味がうまれたものと確信いたしております。しかしながら、仙台市内とはいえ山の奥にあるため参加者が限られてしまう問題があったため、次の展開として「地域社会に開かれたオープンアトリエ事業」を仙台市中心街でおこなうこととなりました。


地域社会に開かれたオープンアトリエ事業の展開

 まず初めに仙台市北山(旧市街)にある自宅を解放してのオープンアトリエをおこないました。最初は知的障害者のためのアトリエとしてスタートさせましたが、仙台市内には障害者がアートを楽しめるアトリエや施設が1か所もないために、定員はすぐに満員になってしまいお断りすることが多くなりました。また、問題として障害者(15歳以上)を対象としていたにもかかわらず、障害児や幼児のアトリエ参加要望が高まり、平成14年度には仙台駅近郊の仙台市福祉プラザを会場に、二つの会場を地域に開かれたオープンアトリエとして事業展開させました。その際、アートプラネッツ・せんだいと美楽光をつくる会という市民団体と協働事業としておこなうことになりました。
 平成15年度からは「市民の美術」として、障害があってもなくても、幼児も高齢者も、誰でもがアートをやりたければ参加できる、地域に開かれた市民誰でも(実際は市民以外でも参加自由)がアートを体感できるスペースとして、原則として毎週土、日に解放して、アート活動をオープンアトリエとして展開するようになりました。
 この活動の目的は、アートをとおしての障害者の社会参加を目的としながらも、障害者も健常者も関係なく、老若男女がアートという共通の創造活動を通じて出会い、表現しあうなかから、アートをとおしてのノーマライゼーション、インクルージョン社会の実現に向けた、即ち障害者も健常者も地域社会のなかに普通に豊かに当たり前に生活できる社会を築いていこうとする実践的活動とともに、啓蒙啓発事業としての意義が込められている事業内容となっているのです。
 「市民の美術室」は障害者だからとか、健常者だからといった区別や差別は一切おこなっていません。障害者も健常者も表現している時間の流れの中では、何も区別されるものは存在していません。この「市民の美術室」の理念で、地域社会を見つめていったとき、はじめて知的・精神障害者の人々も、障害のない健常者と呼ばれる人々も、本当の意味で地域の中で自然に豊かに“一緒”に生活できるようになれるものと信じ、現在「市民の美術室」を事業展開しています。


移動・出張オープンアトリエ事業

 重度重複障害者や精神的に外に出られない方を対象とした、オープンアトリエを施設や自宅へ移動・出張しての事業もおこなっております。同時に仙台市以外での地域展開の一環としてアートをとおしてのノーマライゼーション、インクルージョン社会の実現の啓蒙啓発事業としても活動をおこなっております。(毎月1〜2回程度)


小さな杜の美術展:仙台市芸術祭主催事業

 平成14年度、仙台市芸術祭主催事業(仙台市・仙台市文化振興課企画実施)の一つとして、障害者と健常者がアートをとおして出会う美楽アート展を開催しました。知的・精神障害者の作品、約2000点を展示した展示コーナー、オープンアトリエを再現した体感アトリエコーナー、布を使ってのアートワークショップのコーナーなど、障害も健常も関係のないノーマライゼーション、インクルージョンの美術展が「せんだいメディアテーク」を会場に、約3782名の参加来場をいただき活動することができました。障害って何なんだろう!?健常ってあるのだろうか、さまざまな問題を見つめあうアート展となりました。(仙台市のホームページで情報公開されています)


仙台市・まちづくり企画コンペ助成事業

 平成13、14年度の仙台市地域振興課の「まちづくり企画コンペ」において、『アートをとおしてのノーマライゼーション社会の実践活動』として、美楽光をつくる会との協働事業として、まちづくりのための助成金をいただいて活動しました。仙台市のホームページ等で活動報告が新たなまちづくり事業として紹介されています。


その他の活動

(1)平成12、13、14年度、仙台市知的障害者芸術文化協会主催シンポジウム&ワークショップに、パネリストとワークショップリーダーとして参加。
(2)平成14年度、アートプラネッツ・せんだい主催事業、『アートキャンプインまつしま』において事業協働参加。(宮城県・NPO企画コンペ第1位事業)
(3)平成15年度5月から、宮城県身心障害者福祉センターにおいて、オープンアトリエ(油彩画クラス)を開講、7月塩竈市におけるオープンアトリエ事業を、塩竈市生涯学習企画事業として展開決定。