「ふるさとづくり2003」掲載 |
<市町村の部>ふるさとづくり賞 主催者賞 |
東北一の酪農郷から新たな挑戦 |
岩手県 葛巻町 |
地域の概要 葛巻町は、北緯40度、岩手県北上山地の北部に位置し、標高1000m級の山々に囲まれた山間地帯であり、町の面積は434・99km2で、その86%が緑豊かな森林で占められている。標高400m以上の地帯が大部分を占め、急峻な山岳と渓谷、なだらかな高原が織りなす変化に富んだ地形である。町の中央を流れる馬淵川は、袖山高原に源を発し、青森県八戸市で太平洋に注いでいる。この馬淵川とその支流沿いに耕地が拓け、集落が形成されている。人口は、平成12年国勢調査では8725人となっている。 気候は、内陸型で寒暖の差が大きく、高原または盆地的傾向を示す地域が多い。年平均気温は7〜9度、年間降水量700〜1000mmであり、冷涼で雨が少なく、さわやかな気候が特徴である。 このような気候風土から、葛巻町では古くから酪農が営まれており、明治25年に乳牛が導入されて以来、酪農の歴史は110年を超えている。昭和50年から8年の歳月をかけた北上山系開発事業により大規模な草地造成などがおこなわれ、これを契機に大規模な酪農経営が確立され、乳牛飼養頭数約1万1000頭、牛乳生産量が日量約110tを超え、東北一の酪農郷として発展している。 葛巻町は第3セクターで地域の活性化を図っており、その中心となる社団法人葛巻町畜産開発公社は、北上山系開発事業で整備された公共牧場の管理を目的に昭和51年に設立された。 葛巻町畜産開発公社では、酪農家から子牛を預かる保育育成事業、宿泊施設「くずまき交流館プラトー」、チーズ・パン・乳製品加工販売、体験学習館、レストラン、さらに盛岡市内にアンテナショップを開設するなど葛巻ブランドの町産品のPRや観光振興に積極的に取り組んでいる。また、グリーンツーリズム、酪農教育ファームによる都市住民との交流を展開し、年間の入場者数は約25万人、このうち約1万人が搾乳体験やアイスクリームづくりなど酪農体験に訪れている。 昭和61年に地域の豊富な山林資源である山ぶどうの活用を目的として、第3セクター葛巻高原食品加工株式会社を設立した。同社で生産するワインは、山ぶどうの特徴を生かしながらフルーティーな味わいのロゼや白ワインが人気を集め、愛好者が増えている。 平成5年に宿泊研修施設の経営を目的として第3セクター株式会社グリーンテージくずまきを設立した。 三つの第3セクターで約150人の雇用を創出し、また、「ミルクとワインの町」の情報発信と地域経済の活性化に大きく貢献している。 自然と人間の共生 本町は、町づくりの基本理念として「自然と人間の共生」を原点に、牧歌的な自然環境に新たな価値観を見出しながら「魅力的なくずまき高原楽農文化の町」をテーマとした、暮らしやすさ、住みやすさを追求する「エコ・ワールドくずまき」の実現を目指した町づくりを推進している。 先人が守り育ててきた豊かな自然環境を将来に伝え、町民が森の恵みを享受しながら、健康で文化的な生活環境を創造していくため、葛巻町自然環境保護条例を制定(平成7年6月26日)し、「自然とともに豊かに生きる町」を宣言(平成7年7月7日)した。そして、自然環境講座の開設や、自然への関心を深め、自然とどのようにつきあい、共生していくのか、町民一人ひとりが考える手がかりとするために「葛巻の自然」を発刊(平成9年3月30日)するなど自然環境保護思想の高揚に努めてきた。 葛巻町新エネルギービジョン策定〜天と地と人の恵みを生かして〜 町の総合発展計画の基本戦略に「クリーンエネルギー推進の町」を盛り込み、地域資源を活用した環境負荷の小さい「クリーンエネルギー」の導入を町づくりの重要な位置付けとして、平成11年3月に「葛巻町新エネルギービジョン」を策定した。 このビジョンでは、風力・太陽光・太陽熱などの「天のめぐみ」、町の資源として位置付けた家畜ふん尿・森林・水などの「地のめぐみ」、豊かな風土・文化を守り育てた「人のめぐみ」を三つの柱に据えており、本町の地域特性や自然条件を生かして、新エネルギーの導入を町民の理解を得ながら積極的に推進することとし、これまで次のプロジェクトに取り組んできた。 新エネルギービジョンの実践 ■エコ・ワールドくずまき風力発電所 町の新エネルギー導入プロジェクトの第1弾として、平成11年6月に標高1100mの袖山高原牧場に発電出力400kWの風力発電施設3基が完成した。町と民間企業の共同出資による第3セクター「エコ・ワールドくずまき風力発電株式会社」が運営する風力発電施設で、年間発電量は約200万kWhであり、約600世帯分のクリーンな電力を供給している。山間高冷地での風力発電施設導入は珍しく、全国的にも注目され、新エネルギー推進の町、葛巻町のシンボルタワーとして、全国各地から見学者が後を絶たない施設となっている。 ■葛巻中学校太陽光発電施設 町の新エネルギー導入プロジェクト第2弾として、平成12年3月には町立葛巻中学校に発電出力50kWの太陽光発電施設が整備された。この太陽光発電施設は、学校への電力供給のほか、環境学習教材として活用されており、魅力ある学校づくり、魅力ある生徒の育成のために役立っている。 ■グリーンパワーくずまき風力発電所 現在、上外川高原牧場に発電出力1750kWの風力発電施設12基が建設されている。電源開発株式会社が100%出資する「株式会社グリーンパワーくずまき」が運営する風力発電施設で、年間の発電量は約5400万kWhであり、約1万6000世帯分の消費電力を供給する国内最大級の風力発電施設である。 平成15年12月の稼動に向けて工事が進められており、自然と人間の共生モデルウィンドファームとして、また、町の新たな観光拠点としても期待される施設である。 ■木質バイオマスエネルギー モデル木造施設森の館ウッディでは、昭和63年にペレットボイラー(25万kcal/h×1基)を設置し、施設の暖房に木質バイオマスエネルギーを利用している。この施設はくずまきワインの直売施設としても活用されており、芳醇なワインの香りとともに、木の温もりを与え、訪れる人を優しく迎えてくれる。 また、町内の医療法人が経営する介護老人保健施設アットホームくずまきでは、暖房・給湯用のペレットボイラー(50万kcal/h×2基)と出力20kWの太陽光発電施設を設置し、入所する高齢者に「心地よさ」を提供している。 町役場、宿泊施設グリーンテージではペレットストーブが利用されている。今年度は町の産業団体などに7台の木質ペレットストーブが導入される計画であり、今後は個人住宅への普及が期待される。 燃料となる木質ペレットは、葛巻町内の民間企業である葛巻林業株式会社が、製造販売しており、町の林業振興と環境保全に貢献している。 ■畜産バイオマスエネルギー 本町の基幹産業である畜産から発生する膨大な廃棄物の処理が大きな課題であり、バイオマスエネルギーとしての活用が求められている。そこで、平成12年にバイオマスエネルギー導入可能性調査をおこない、平成14年度にくずまき高原枚場にバイオガスプラントを建設した。乳牛200頭分のふん尿と各家庭等から排出される生ゴミを発酵させ、発生するメタンガスで、出力37kWの発電と熱エネルギーを回収し牧場内の施設に供給するものである。 この施設は、畜産経営から発生するふん尿をエネルギーとして有効活用すると同時に、畜産の環境問題を解決し、資源循環型農業システムを構築し、酪農に新たな魅力を見出す取り組みである。今後は酪農家への普及に期待する施設でもある。また、バイオガスの精製濃縮やボンベ貯蔵、燃料電池の開発といったバイオガスの高付加価値化の研究を産学官のコンソーシアム(共同事業体)により進めている。 森と風のがっこう 平成13年8月に環境NPO岩手子ども環境研究所(代表・吉成信夫氏)が葛巻町内の廃校を活用して「森と風のがっこう」を開設した。環境と人との共生を目的として開設したもので、野外での体験活動などを通じて環境教育を実践している。 平成13年度は「自然エネルギー寺子屋」の講座を開催し、町内外からの参加者があり、自然エネルギーについての環境講座を開設した。平成14年度は「くずまきエネルギーがっこう」の講座を開催し、町内の新エネルギーマップづくり、ペットボトル温水器の製作、牛のふん尿からメタンガス発生実験など、葛巻の身近な素材を活用した自然エネルギー講座を開設した。 このような廃校利用の活動実績が認められ、平成15年6月に文部科学省の廃校リニューアル50選に選ばれた。 新エネルギー導入支援対策 これまで、新エネルギーは公共施設を中心に導入してきたが、町民が新エネルギーの町を実感できる対策として、太陽光発電施設、太陽熱利用施設、クリーンエネルギー自動車、ペレットストーブなどの導入者に対する助成制度を設けた。 おわりに 「ミルクとワインとクリーエネルギーの町」葛巻町では、町が持っている多面的資源と機能と人材を最大限に活かし、21世紀の地球規模の課題である、「食料・環境・エネルギー」の問題に貢献しながら、町の活性化を図っていきたい。 |