「ふるさとづくり2003」掲載 |
<市町村の部>ふるさとづくり賞 振興奨励賞 |
「ちいじがき」で蕎麦づくり |
群馬県 甘楽町 |
地域の概況 甘楽町は群馬県の南西部にあり、人口1万5000人の自然豊かな町だ。江戸時代に織田宗家の小幡藩として栄えた町並みが現在も残されており、シーズンには多くの観光客が訪れる。この中心部から南方へ10kmほど山奥に入ったところが秋畑那須地区だ。 秋畑那須地区は、霊峰稲含山の麓にあり、標高600〜800mの山間傾斜地で、平坦な農地を持たない過酷な自然条件のなか、数々の神話や伝説に彩られた「稲含の神の民」としての誇りを持ち、生活をしている104戸の集落。この地区の歴史は古く、那須与一伝説から地名が付けられたとも言われ、古来より稲含神社の祭礼に奉納されてきた獅子舞や神楽は、親から子へ、子から孫へと引き継がれ、平成13年には県の無形民俗文化財として指定されている。 活動の発端 山間の急傾斜地で暮らす人々は、同地区の方言で「ちいじがき(小さな石垣)」と呼ばれる小さな自然石を積み上げた石垣と小石混じりの段々畑で、コンニャクや蕎麦の栽培、養蚕、炭焼き、紙漉きなどで生活の糧を得てきた。しかし、時代の大きな変化により専業農家も減少し、あわせて高齢化と過疎化が急速に進んだため、美しかった「ちいじがき」の段々畑も人手不足から遊休農地となり荒廃が目立つようになってしまった。 平成7年にこの状態を何とか打破しようと会議が持たれ、町(行政)と地元住民が協力し、草ぼうぼうに荒れてしまった「ちいじがき」の段々畑を蕎麦でよみがえらせようということになった。問題は、高齢化が進むなかでいかに経費と労働力を生み出すかであった。議論の末、他の地域でも始まっているオーナー制度を工夫し、都市住民の参加で「ちいじがき」の保全と蕎麦づくりにより地域住民との交流・発展が期待できるものにしようと決め、名称を「ちいじがき蕎麦の里づくり」とした。 経過と概要 【1】「蕎麦づくりオーナー制度」の概要 この制度の特徴は、年間1口1万円で1aの蕎麦畑のオーナーになり、種まきから収穫、蕎麦打ちまでの全てを体験してもらうところだ。一般の貸し農園のように、何を栽培しても良いというのではなく、この地域特産の蕎麦づくりにこだわっている。 また、初心者の方でも気軽に参加できるように栽培の仕方から蕎麦打ちまでを地元の人たちによって指導できるような支援システムを整備した。 【2】行攻と地元住民の役割分担の確認 (1)運営主体は地元住民であること…地元の役員と地権者は、オーナーからの会費により、蕎麦畑の借地料や蕎麦づくり名人(地元栽培指導者)の出役賃金、農耕機械の借上げ料、イベント費用などのすべてを支出するなど、主体となって運営を担当する。 (2)行政は支援に徹すること…町は、蕎麦の里づくりについての事務手続きや助成、事業の広報、オーナーの募集・取りまとめから各行事への支援(交通整理や同事業のチラシ作成や間伐材を利用したオーナー表示の看板づくり等)を担当する。 【3】取り組み事項 とくに留意したことは、地元指導者の確保と外に向けた広報、オーナーの継続確保。 (1)秋畑那須地区では、昔からどこの家でも蕎麦を栽培し、お祝いごとや来客へのもてなしとして蕎麦を食してきた。「蕎麦が打てないと嫁にいけない」と言われるほど、同地区での蕎麦づくりや蕎麦打ちは一つの食文化となっている。 平成8年、「蕎麦打ち名人」として女性5人を認定するとともに、「蕎麦づくり名人」として25人を認定し、蕎麦打ち・栽培の両面からの指導者を確保した。 (2)平成7年度は広報期間とし、遊休農地を開墾し、地元農家で種まきや手入れをおこない、希望者に見学会や試食会をおこなった。8月に種をまき、10月には白と紅の花が満開となった蕎麦畑のなかで、希望者を招き郷土料理を囲んでの花祭りを開催。そして12月には収穫した蕎麦粉で蕎麦を打ち、食し、さらにお土産つきという、究極の蕎麦づくり体験講座を計画した。 (3)平成8年、第一弾として46人の参加者を募集したところ、県内外(県内約7割・高崎、前橋など。県外約3割・東京都北区、神奈川県など)から申し込みが殺到し、1日で定員を超えてしまい、地元住民もその反響の大きさに驚いた。オーナーが継続して活動に参加できるような工夫として、1年目で年5回の作業に参加された方には「仮名人賞」、3年以上継続して参加された方には「蕎麦づくり名人賞」、継続してオーナーになっている方には、「特別賞(特産野菜などのお土産)」を差し上げることにしている。 事業の成果 【1】活動拠点の建設と運営 蕎麦づくりオーナー制度が一定の成果を上げたことで、町は秋畑那須地区を「蕎麦の里」とする構想を打ち出した。地元からは、活動拠点施設を整備して欲しいとの強い要望が出され、平成9年には県・町の助成により、蕎麦打ち実習館「那須庵」が建設された。 那須庵は、地元の婦人たちが運営を任され、(1)地場産の蕎麦粉にこだわった二八蕎麦(小麦粉2割、蕎麦粉8割の蕎麦)の提供、(2)蕎麦打ち体験の指導の二つを大きな役割とした。 営業は土・日曜、祝日の午前11時から午後3時まで(平日でも10人以上の予約があれば開店する)。料金は、ざる蕎麦700円、蕎麦打ち体験は1人1000円とした。ここで販売されている「蕎麦おやき」や「トウモロコシのかりんとう」は、婦人たちの考案で今では人気商品の一つとなっており、担当の婦人たちも次の開発へ意欲を燃やしている。 【2】活動拠点の拡充 那須庵では、「おいしい蕎麦を食べて欲しい」との思いから蕎麦を作り置きせず、注文を受けてから作り出す、「ひきたて、打ち立て、茄でたて」をモットーに提供している。これが評判を呼び、県内だけでなく関東各地からも蕎麦好きの人が訪れるようになった。このため、蕎麦打ち体験等のできる「那須庵」が手狭となり、平成14年度には蕎麦打ち体験施設が増築された。地区のなかでもこの活動へ参加する人たちも多くなり、蕎麦の里への期待も高まるばかりである。このように、秋畑那須地区特産の食文化の復興により、ちいじがきの景観保全を図りながら地域の活性化が図られている。 今後への抱負 【1】蕎麦の里づくりに関して 小さいころから長年にわたり見続けてきた「ちいじがき」と段々畑、朝な夕な見慣れてきた美しい景観は、この地区の人たちにとって、子孫に継承したい遺産だ。蕎麦づくりオーナー制度により、蕎麦の里として知名度が上がり、多くの人たちが訪れるようになった。都市住民と地元住民との交流も、那須庵の活動やさまざまなイベントを通じ自然になされるようになってきた。地区が俗化しないように配慮しながらより充実させていきたい。 【2】その他の事業に関して 甘楽町では、昭和62年から環境にやさしい農業、元気な農村をめざし、別の小幡地区において「甘楽ふるさと館」を核としたタケノコ掘り、とうもろこし狩り、リンゴ狩りなどの農業体験事業やコンニャクづくり、おきりこみづくりなどの郷土料理体験事業を実施している。また、有機栽培により農作物の生産体験ができる市民農園としての「甘楽ふるさと農園」も開設している。 一方、平成8年から進めている有機物土壌還元による土づくり事業としての「東京都北区と甘楽町の有機農業リサイクル交流事業」は、北区の学校給食で出た残飯を、甘楽町で堆肥化して畑に還元し、できた野菜を北区に届けるという試みで、これも順調に推移している。甘楽町では、自然豊な農村の多面的機能を活かし、これからも町全体が「農村体験博物館」となるよう、構想の実現に向け積極的に取り組んでいきたいと考えている。 |