「ふるさとづくり2004」掲載 |
<集団の部>ふるさとづくり賞 主催者賞 |
高齢者市民の能力活用によるふるさとづくり |
三重県松阪市 松阪まちづくりセンター |
21世紀日本の最大の課題は、少子・高齢化の急激な進行にどう対応するかということである。間もなく日本は、超高齢社会に突入し、史上初めて人口減少という事態に直面する。このことは、地方都市に過疎化や税収減などをもたらすことが予想される。高齢者を健康で、生きがいを持たせ、地域貢献させることが必要とされる。「松阪まちづくりセンター」は、こうした問題意識を持ち、高齢者の能力活用と生きがい活動、健康づくり活動に取り組んでいる。その発端は、松阪大学大学院の「政策過程論」の授業で、「松阪市と小田原市の比較研究」を行なったことであった。市民の参加を得て、「提言」をまとめたことから、具体化した実践へと発展できた。空き家となっていた片桐家の建物を活用して、「まちの駅」を設立し、観光客への無料休憩所、松阪市の観光案内、中心市街地の活性化、市民・観光客・学生などの交流の拠点、市民のためのギャラリーなどを目的としている。さらに、街角博物館として、大正時代をテーマとした「大正ロマン館」として発展させた。また、市民の生涯学習のための「松阪市民塾」を松阪大学の後援を得て展開している。本年4月には、高齢者による、高齢者のための、元気づくり集団「大正浪漫一座」を旗揚げし、歌を通して高齢者の健康づくりに取り組んでいる。 松阪まちづくりセンター(平成12年11月1日設立) 市民によるまちづくり、ふるさとづくりの中核組織として、「松阪まちづくりセンター」が、約半年の検討を経て、設立された。こうした名称にしたのは、あらゆるまちづくりの可能性に対応できる体制をとっておきたいということからであった。これは、先出の「提言」に打ち出された「松阪まちづくりセンター」構想案を具体化したものである。ただ、NPOへの組織化は未だなされていない。設立趣意では、「21世紀の松阪は、ばら色の未来だけが描けるものではありません。少子・高齢化が進み、人口の減少や財政事情の厳しさが予測され、中心市街地はさびれつつあります。地方分権が進むなかで、市民が積極的に活動しなければ本当の自主と地方分権は達成できません。そこで、自然が豊かで歴史と伝統ある文化に恵まれた松阪を市民の力で活性化させるための拠点として、市民による「松阪まちづくりセンター」を設立します。」と謳われた。そしてモットーとして、『やさしさ』『やすらぎ』『やわらかさ』の三つの『や』が採択された。 平成14年1月、松阪市が初めて創設した「第1回松阪まちづくり景観賞」の「まちづくり活動部門」の優秀賞を受賞した。活動してl年足らずで、応募も見送っていたのが、他薦で受賞となってしまった。これも活動を評価していただいた結果とありがたく頂戴することとした。これも励ましの声として決意を新たにした。 まちの駅松阪「寸庵」(平成12年11月26日開設) 「まちの駅松阪‐寸庵」は、片桐家のご好意で、空き家となっていた町屋に開設できた。この建物は、約100年前の建築で、大正から昭和初期まで、『亀田屋』として呉服商が営まれていた。明治の初め頃、当主が裏千家の玄々斎から「寸庵」の号を受けたことに因んで「寸庵」と名付けられた。「まちの駅」は、「地域交流センター」(田中栄治代表)が呼び掛けて展開しているもので、人と人との交流を通じ、まちを活性化させる拠点として設立させる施設で、当時はまだ10館程度であったが、その趣旨に賛同して「提言」に盛り込み、実現に至った。「寸庵」は、松阪の市街地の観光コースに位置し(三井家発祥の地に隣接)、観光客への無料休憩所として便宜を計るとともに、松阪の観光案内、お茶のサービス、トイレの使用などを提供、さらに話し相手として交流を行なっている。会員は、全員高齢者で、ボランティアとして取り組んでいる。会員は月500円の会費を負担、賛助会員は1口1000円で活動を支援している。賛助会員は、約300人で毎年40万円以上の資金を提供していただき、運営の資金的基盤となっている。 2階は「市民ギャラリー」として、できるだけ隠れた市民の作品を紹介する場にしたいと考え、毎月展示を行ない、市民にも好評をいただいている。 1階の店舗スペースでは、松阪の特産品、古布、障害者福祉施設(ペガサス・希望の園・工房やまの風)の製品などを販売し、運営資金の一部に当てている。 平成12年、インターネット博覧会(インパク)には、「地域交流センター」が中心になって出展したパビリオン「まちの総合情報交流拠点」に「まちの駅松阪‐寸庵」として出店した。平成13年8月、「地域交流センター」を事務局とするまちの駅全国組織「まちの駅連絡協議会」が創設され、全国的な関係者と交流できるようになった。 平成15年4月22日、松阪紀勢界隈まちかど博物館推進委員会から、「まちかど博物館」の認定を受け、内容の充実や個性化が課題となった。 「まちの駅‐寸庵」も3周年を迎え、全国のまちの駅も常設で約50館となり、「アートの駅」「川の駅」「海の駅」「健康の駅」など、個性化し特色のある駅の創設が続いていた。「寸庵」も、特色化として、「大正時代」をテーマとした「街角博物館」を目指すこととした。亀田屋が、主として大正時代に営業していたことと、大正時代が「大正デモクラシー」や「大正ロマン」など、日本の新しい流れを創った時代であったことなどを考慮した。また、岐阜県明智町の「大正村」以外、大正時代のテーマ館がほとんど存在しないことも、理由の一つであった。こうして平成15年11月、3周年を期して、まちかど博物館「大正ロマン館」をオープンさせた。翌平成16年は、大正ロマンの象徴竹久夢二の生誕120周年に当り、全国的に様々なイベントが展開されていた。そこで3〜5月と9、10月の2回にわたり、「竹久夢二展」を開催し、竹久夢二グッズの販売も行なった。 松阪市民塾 市民の生涯学習として、「松阪市民塾」は、開設当初から企画された。原則として毎月1回の講演会が、松阪の歴史や人物などを中心に行なわれてきたが、平成15年度に松阪大学の後援を得て、「これからの日本はどうなるか」をテーマに、5人の松阪大学教授による連続講演会を実現することができた。(無報酬での) 「寸庵だより」発行 広報紙「寸庵だより」は、年3回発行されている。「寸庵」の活動は、特に約300人の賛助会員に支えられている。その意味で「寸庵だより」の大きな役割は、これら賛助会員に「寸庵」を含む「松阪まちづくりセンター」の活動内容を知らせ、賛助会費の使い道に理解を求めることにある。このほか、賛助会員には、「松阪市民塾」をはじめ、様々なイベントについてお知らせし、参加していただいている。 「大正浪漫一座」(平成16年4月7日旗揚げ公演) 会員の中には、コーラスの指導者や団員がたくさんいる。そこで、「大正ロマン館」にちなみ、大正時代の歌を中心に、歌を通して、高齢者の元気づくり、健康づくりに貢献する、高齢者による、高齢者のための元気づくり集団「大正浪漫一座」を旗揚げした。大正時代の歌は、高齢者にとって、親や大人が歌っているのを聞いて、自然に覚えた歌がほとんどである。それを思い出しながら歌うのは、脳を活性化し、ストレス解消、ボケ防止につながり、音楽療法の一種となり、また回想法としても有効とされている。高齢者である座員自身にとっても、生きがいとなり、健康増進に繋がっている。 さらに、「教科書から消された名曲を歌い継ぐ」運動として、学校などで公演することを志向している。大正時代は、鈴木三重吉の「赤い鳥」運動の影響で「童謡の黄金時代」といわれている。それらの名曲が、教科書から次々と消えていることに、危機感をもって取り組んでいる。 |